※お礼SSと銘打っておきながら『in place』の続きとなっております。
読んでいなくてもそれほど差し支えはありませんが、こちらを先に読まれることをお勧めします。
イラストのみで楽しみたい方は こちら からどうぞ。
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「はぁっ!!」
「っ!?・・・・・・っかはっ!」
繰り出した回し蹴りは的確に相手の腋窩を蹴り上げた。
男はその場に崩れ落ちると、蹴られた側の肩を押えながら痛みと瞬間的な呼吸困難に転げまわる。
少女が蹴り上げた其処は、決して致命傷に至るわけではないが紛れもなく人間の急所である箇所。
人体の構造上、結合の弱い肩関節への負荷は絶大。
脱臼こそしていないものの、しばらく使い物にならないだろう。
同時に隣接器官である肺への衝撃は計り知れない。
一歩、少女が近づくと「ひっ!」と喉の奥から呼吸が漏れる音とともに男の身体がビクリ跳ねた。
その身体も背後の壁に阻まれて10cmも後退することはできなかったが。
男の顔から血の気が引いていくのが目に見えてわかる。
それもそのはず。
男の視界に広がるのは数十人の部下の散々たる光景をバックに背負って立つ少女。
このアジトは呼吸一つ乱さずに凛と立つこの少女一人によって、壊滅に追いやられたのだ。
「降参してくれますよね?」
少女は静かに、けれど明瞭な透き通った声で問いかける。
「・・・っ・・・・」
言葉こそ発せられないようだが男は小さく一度頷いた。
否。
頷かざるをえなかった。
真っ向から反撃する力も気力も、とうに奪われていた。
肯定の仕草を見届けると少女は踵を返し、音もなく歩き出す。
無防備に晒した背中。
撃てと言わんばかりの格好の的。
男の手には一丁の自動小銃。
一撃で仕留めさえすれば・・・・・・
背後から、心の臓を打ち抜けば・・・・・・
少女までの距離は目算10m。
(殺れる・・・!!)
漫画のように声などあげない。
ただ静かに、少女の左肩甲骨の下に照準を定める。
下から打ち上げるこの角度なら心臓に届く。
出来うる限り音を、息を殺してトリガーを引いた。
(死ね!!)
タンッ
サイレンサーによって最小にまで押えられた発砲音。
白煙を上げる銃口。
見開かれた眼。
唖然と開くことしか出来ない口。
「・・・・・・は、はははは・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・ありえねぇ・・・・・」
頬に感じる焼け付くような痛み。
銃撃特有の火傷だ。
銃弾は背後の壁に食い込んでいる。
(モーションもなく俺より早く抜きやがった・・・)
引ききることの出来なかったトリガーから指が外れ、男の手から小銃が滑り落ちた。
「拳銃って私苦手なんです。狙いが定まらなくて。
次は、どこに当たるかわからないから気をつけてくださいね」
そう言って構えた銃口の先は、一直線に男の眉間に伸びていた。
「降参、してくれますよね・・・・?」
ゆっくりと、トリガーが引かれる。
きりり。
きりり。
かすかな金属音が死へのカウントダウン。
齢15の少女が纏うには相応しくない威圧感。
「・・・・・・わ、悪かった・・・・・・・私たちの負けだ・・・・・」
引ききるよりもわずかに早く、男が降参の声をあげた。
ゆっくりと銃口は下げられ再び無防備に背中を晒しても男は反撃することなど出来なかった。
下手に手を出せば次こそは命がないと、本能が告げる。
こんな世界に身を置いてはいるが、無為に命を粗末にするつもりはない。
黙って、息を潜めて、消え去るのを待つ以外に男に出来ることはなかった。
畏怖の念を込めて見送る少女が唐突にその歩みを止めた。
恐怖に身体が震えるのを押えるのが精一杯の男は声をあげることすらできない。
そんな男を知ってか知らずか、少女はこちらを振り返ることもせずに口を開いた。
「救急車は呼んでおきます。誰も死んでいませんから、きちんと治療してもらってください」
■■■ ■■■
(これで任務完了)
イーピンは声には出さず、心の中で唱える。
自らの上司にしてファミリーのボス、そして兄と慕う人から手渡された書面には己のすべきことが簡潔に記されていた。
反乱分子を制圧せよ
『抹殺せよ』と書かない辺りが流石我が兄と言うべきか、なんと言うか。
どんなに気に食わない相手であっても兄は殺戮を好まない。
それは自分が危機的状態にあっても、だ。
優先させるべきは『命』であり自身ではないと言って聞かない。
その一方で彼が部下に口うるさく言うのは「自分の身が最優先、やられる前にやれ」と、自らの方針と正反対。
ケガでもして帰ろうものなら待っているのは数時間にも及ぶ説教だ。
自身の扱いはぞんざいなくせして人一倍他者を気遣ってしまう。
(そんなところばかり私は似てしまったな)
先ほどの状況を説明すればきっと兄は自分のことを棚に上げて私を叱るのだろう。
帰ったら真っ先に兄のお小言が飛んでくることになるのを想像したらこのままアジトに向かうのは憚られた。
一度自宅に帰り、そこそこに時間をつぶしてから向かうことにしよう。
そう心に決めると歩みの方向を変えた。
かすり傷一つ負っていないのだ。
黙っていたところでわかりはしないのに、些細な隠し事すらできない真っ直ぐな子に育ったのはひとえに母親代わりの奈々と兄綱吉の実直さを受け継いだからだと言えよう。
馬鹿正直と評価する人もいるがそれがイーピンの最大の魅力と評価する人も少なくないとか。
知らないのは当人ばかりとはよく言ったものである。
■■■ ■■■
急ぎ足で下宿先のアパートに戻るとカンフー服を脱ぎ捨て一目散にシャワールームに飛び込んだ。
コックを捻り、熱いお湯を頭からかぶる。
「・・・・・・臭い・・・・・取れるかな・・・・・・」
右手を鼻の前に、ヒクリ鼻を鳴らす。
わからない。
いつもと変わらない己の体臭の様にも感じる。
全く違う、別の人のようにも感じる。
纏いすぎた臭いに鼻は麻痺してしまったようだ。
服に、手に、髪に、肌に。
染み付いた臭い。
拭い去れない硝煙の香り。
敏感に感じ取れたはずの悪臭が今ではもうわからない。
一般人ならば決して慣れることの無い臭いが、私には当たり前となってしまった。
そう。
結局、私はこの世界に帰ってきてしまった。
大学に通うための資金稼ぎに働いていたバイトもやめた。
学びたい気持ちがなくなったわけではないが、大学に固執しなくとも学ぶ方法などいくらでもあることを知ったからだ。
勉強なんて所詮自分のやる気次第でどうにでもなる。
それならばと、私は『やる気だけではどうにもならない道』を辿ることを選択した。
最後まで反対していた兄だったが「ボンゴレがダメなら他のファミリーを当たります」と公言したらようやく折れてくれた。
「・・・・・本当はボンゴレ以外に行くつもりなんてなかったんだけどね・・・・・」
私がこの世界に帰って来た理由は全てボンゴレにあるのだから。
『あの人』に追いつくために。
あの時の約束を果たすために。
私はここに帰って来た。
シャワールームから出るとグレーのカットソーと黒のミニスカートに着替えた。
鏡の前で豊かな黒髪を三つ編みに結い上げる。
この姿だけ見ていれば、どこからどう見ても年頃の女の子でしかない。
ファミリー一つを制圧してきたなどと誰が思うだろうか。
イーピンは手早く身支度を整えると、アジトにいる綱吉に業務報告をするために再び玄関をくぐった。
「やぁ。久しぶりだね」
「・・・・・え・・・・?」
玄関のその向こう。
居るはずの無い人の姿がそこにあった。
シンプルだが一目でその仕立ての良さがわかるダークグレーのスーツとヴァイオレットのシャツに身を包んだ男が一人立っていた。
「・・・・・・・ヒバリ・・・・さん・・・・?」
思わずその名前を呟いた。
あの日以来、顔を見るのは初めて。
影すら見ることも無く今日まで来た。
私が追いかけて、追いかけて、追いかけて。
とうとうこの世界に帰ってくることを決意させたその人。
「僕以外の誰に見えるって言うのさ」
「ヒバリさんにしか見えませんけど・・・・・なんでココに・・・・?」
「いちゃ悪い?」
「悪いとか悪くないとかじゃなくって・・・・」
相変わらず尊大な物言い。
あの日からどれだけの月日が流れてもヒバリさんは相変わらずヒバリさんだった。
「今朝、久方ぶりに日本に帰って来たんだ」
「そうなんですか」
知ろうと思えば彼の所在を知ることなどたやすいことだった。
けれど、イーピンはただの一度も雲雀を探すことはしなかった。
まだ彼の隣に立つにふさわしくないと思ったから。
そのときが来るまで、逢うべきではないと思ったから。
とにもかくにも玄関先で立ち話をさせるわけにもいかず、雲雀を部屋に招きいれた。
簡素な部屋でテーブルを挟んで向かいあう。
「日本にはお仕事で?」
「いや」
「じゃぁ、お休みですか?」
「違うよ」
イーピンは至極冷静に問いただすが正解にたどり着けない。
ならばどうして?と小首をかしげるイーピンに雲雀はゆっくりと口を開いた。
「綱吉がさ」
「ツナさん・・・?」
「綱吉から連絡があってね。ピンが『帰って来た』って」
それはつまり。
イーピンがこの世界に帰って来たことを知っているということ。
「謝られたよ。自分としては何があっても反対すべきだった、ってね。」
「兄は・・・・ツナさんは過保護ですから」
兄が気に病むことなど何一つ無いのに。
全て私の独断。
全て私の責任。
それなのにあの人ときたら、一体どこまで優しいのだろう。
「僕としても正直、ピンがこの世界に戻ってくることに賛成は出来ない」
「・・・・・・でしょうね」
もとより覚悟していたこと。
今更驚きはしない。
「力ずくでやめさせますか?」
「まさか。賛成できなくとも君自身が決めた答えであるなら反対する理由が無い」
テーブル越しに雲雀が手を差し伸べた。
「やっとココに『帰って来た』んだね」
「・・・・・っはい!!」
「お帰り」
「ただいまです・・・・ヒバリさん」
迷うことなくその手を取った私。
貴方と同じところにやっと立てたから。
離れないように、指と指をしっかりと絡める。
そのまま優しく誘われて、貴方の胸に身体を預ける。
背中に感じる貴方のぬくもりが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、私は頬を赤らめる。
そんな私を見て、ヒバリさんが優しく笑ったから。
自然と笑顔になるのを押えられなかった。
ただそこにいられるということ
「後悔してるんじゃないの?帰って来たこと」
「えぇ。してますよ。後悔することばっかりなんですもの」
「例えば?」
「私の夢は、『普通の女の子として生きること』だったんです。
そのために拳法を止めて、大学で勉強して普通の道を歩むつもりでした」
でも、あの日貴方の言葉を聴いてから。
貴方を諦めることをしたくなかった。
「どんな後悔をしたとしても、ヒバリさんの隣に行かなきゃって。
そうでもしなければ、あの時あえて私を待たずにいてくれた貴方を裏切ったみたいで、自分のことが許せなかったんです」
私はヒバリさんに反対されて嫌われることよりも
貴方を裏切って失望されることの方がよっぽど怖かった。
「私が私らしくいられる場所は『ココ』なんですから」
ぬおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!
な ん だ こ の 萌 ヒ バ ピ ン !!!
神からの施しに違いない!!
もうお前等結婚しちゃえYO!
↑イラスト初見のさかき感想。今も同じくこう思っている。
というわけで。
ヒバピン祭主催のお二方に頂いたイラストにSSをつけさせていただいたのですが・・・・・
前作「in place」の続きになってしまいました。
イラストのお礼のつもりががっつり美味しい思いをしてしまいました。
もうなんてゆーか、こんな駄文は要らなかったね!
イラストだけの方がはぁはぁどきどき胸キュンキュンできますね!
このメールを受け取ったときのさかきの気持ち悪さったらなかったよ!(上を見ればわかる)
お目汚しで大変申し訳ないです!!
お二方のイラストのみでヒバピンを堪能されたい方は⇒ こちら からどうぞ。
むしろそっち推奨。
UPするのが大変遅くなりましたが、ヒバピン祭主催の繭様、青井様
本当に有難うございました。
2009/04/09