こちらの作品は『知らぬは当人ばかり』の続編となっています。
少し特殊な設定がありますので、未読の方は前作をお読みになってからの閲覧をお勧めします。
また、ヒバピン・ツナ京・骸髑以外の絡みも多少含みますのでそれらが苦手な方もお気お付けください。
バッチ恋!という方は ↓↓ スクロール ↓↓ してどうぞ!!
二度あることは三度でも四度でも起こりうる。
―――なんてこと、頭では分かっていたって実際問題予想だにできることじゃぁ無い。
「あ」
「あ」
「・・・・・・・・」
「やぁ」
そうして人間はなぜ学習しなかったのかと、今更になって後悔する。
そう。
まさしく、今の僕のように。
共犯者二人は知っている
よし、状況を整理しよう。
・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだこれは?
なんでだ?
何でこうなった?
分からない。分かるはずもない。
何で先に帰るとのたまった貴方たちが今ここにいて鉢合わせすることになるんですか!?
貴方たちの会場は僕たちよりも早々に解散したことは確認済みなんですよ!?
なのにどうしてここに帰ってくるのが同じ時間になるんですか!?
大体貴方はこの子の家に帰るんじゃぁ無かったんですか!?
そのために鍵を受け取ったのでしょう!?
きっちり報告業務をこなすなんて頭が貴方の脳裏にあるわけがありませんからね!
だから。
どうして。
なんでまたしても雲雀・笹川ペアに鉢合わせしなければならないんですかっ!!
いくら胸中で罵ったところで、口には出せない。
否、出せるわけがなかった。
「・・・・・?あの、どうかしましたか?骸さん・・・・・?」
地雷原であるこの子をお姫様抱っこしているこの状況下においては。
何を言ってもソレは彼の耳には言い訳にしか聞こえないだろう。
今度こそ万事休す、か。
先ほどの会場ではくっついてきたのはあくまでも彼女からで、身体的接触なんてたかが知れていた。
だが今は違う。
いわゆるお姫様抱っこの形でしっかりと彼女を抱きとめているこの状況。
先ほどは不問に終わったが今度ばかりはそうも行かないだろう。
実際問題、僕の可愛いクロームが誰かにお姫様抱っこなんてされているのを目撃した日には、ついうっかり発狂してついうっかり相手を無限の幻覚地獄にはめることぐらいはしてしまいそうですからね。
ソレを考えたら30秒ほど後の自分が、見るも無残な姿で嫌がらせに香典代わりのパイナップルを添えられて打ち捨てられても文句の一つも言えないというものです。
だがしかし。
それでも物事の真実というものの断片くらいは残して逝きたい。
これは決して浮気などではなく、やむを得ない事情の下、こうなったということを知っていただきたい。
誰が他人の脳内を覗けるなどという特殊能力を有しているわけでもないのに、骸はつい1時間ほど前の出来事をまるで走馬灯のように思い返していた。
□■□
雲雀・笹川ペアと鉢合わせをするという不測の事態があったものの、その後は何とか平静を保って通常仕様で何とか接待パーティーをそれなりの態度でこなした。
それなりに外交もしたし。
それなりに目新しい不穏な情報も手に入れた。
ま、本日の収穫としては上々といったところでしょう。
後は適当なところで引き上げて沢田綱吉に報告を入れれば終わり。
隣に連れていた少女を引き寄せ、小さな声で耳打ち。
「イーピン。大体話はし終えましたからそろそろ引き上げましょうか」
「あ、はい」
もともとこのような接待パーティーは好きじゃぁ無い。
長居は無用だ。
雲雀恭弥では有りませんが、こんなところはとっとととんずらして、愛しい愛しいクロームの元に帰る―――はずだった。
人ごみにまぎれてこっそり抜け出そうとしたパーティー終盤、十数人の人間が突如として会場に乱入してきた。
正直このあたりから今日の運の無さは分かっていたんです。
今更だから言えることですが・・・・・・。
ともかく、不穏分子が乱入してきた。
どうやら相手方もここがどのような集まりの場かは分かっているようでそれなりに武装もしていた。
もっとも、そのような事態は主催側もある程度は想定済み。
即座に待機していた守備班が取り押さえにかかる。
僕はといえば、大切な預かり人であるイーピンを背中に庇ったのだが・・・・・
瞬発力では僕を遥かに上回る彼女は僕の背中に回るどころか、自分よりも危ない立ち居地にいる人を庇うため一足飛びに最前線に躍り出た。
このパーティーはマフィアの会合なのだから周囲にいるのはそれなりに自衛能力のあるものばかり。
彼女がそのような真似をせずとも自分の身くらいどうにかできるものばかりなのに、だ。
多分彼女にとって、危険とは察した瞬間に引くものではなく、叩き潰すものとして体中の神経にインプットされているのだろう。
前線に飛び出す少女の背中には一切の迷いも、思慮も見られなかった。
まったくもって末恐ろしい少女をパートナーにつけさせられたものですね。
「引きなさい!イーピン!!」
呼び止めて止まるとも思わなかったが、それでも止めないわけにはいかない。
何せ彼女に傷一つつこうものなら僕の命は無いに等しいのですから。
仕方なく僕も少女の後を追わざるを得ない状況に「面倒なことを」と胸中で舌打ちしてもそんなものは彼女に伝わるわけも無い。
武装集団の一人の男が手近な女性を人質に取ろうとするよりも早く、イーピンはその間に立ちはだかった。
相手としてはきっちりドレスアップした齢20にも満たない少女の脅威など、微塵も感じることが出来なかったのだろう。
無謀にもイーピンを人質に取ろうと手を伸ばし。
そして―――、武装集団の男は突然少女の前に倒れ伏した。
その場にいた半分以上の人間は、何が起こったのかを理解する間も無かっただろう。
目にも止まらぬ速さで繰り出した強靭な蹴りが男の側腹部を凪いだのだ。
―――が、その蹴りが崩したのは男の身体だけにとどまらなかった。
蹴りとは強力であれば強力であるほど、踏み込み足にかかる負担は大きくなる。
戦闘用でもない、ただのお洒落用のピンヒール靴が元殺し屋である少女の踏み込みに耐え切れるはずも無く。
根元から見事にポッキリ、というわけである。
敵が侵入してきた時点で、この者たちが少女の敵ではないことくらいは簡単に予想がついた。
その一方で、こうなるだろうことも簡単に予想できた。
だから僕は彼女を止めようとしたのに・・・・・。
当の本人にはまったく予想のつかないことだったようだ。
ぐらついた身体を後ろから手を伸ばして支えてやれば
「す・・・・・すみません・・・・・助かりました・・・・」
助けに入ったはずが逆に助けられた状況に羞恥を覚えたのだろう。
頬を朱に染めて素直に謝罪と感謝を述べた。
武装集団のほとんどは既に取り押さえられつつある状況を横目に確認しながら少女を抱き起こす。
「貴女に怪我が無かったからいいようなものの、何かあったらどうするつもりだったんですか?」
「・・・・・・死ぬ覚悟くらいは、いつだって出来てますよ」
「そういう問題ではなくて・・・・・・」
貴女は出来ているかもしれませんが、僕は死ぬつもりなんてさらさら無いんですよ?分かっていますか?
まったく。雲雀恭弥は一体どんな教育をしているんでしょう。
戦闘要員としては申し分ありませんが、殊女性としてはどうかと。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
そういえば、まさかとは思いますが・・・・・・・・・
僕の可愛いクロームはこんなことしてないでしょうね・・・・・・・?
根が引っ込み思案な子なので大丈夫だとは思いますが・・・・・・
意外なところで予想外に大胆なことをする子ですから少し心配ですね・・・・・・・
あれでいてクロームはなかなか頑固なところもありますし、沢田綱吉のことを慕っている節もありますからもしかしたら無茶なこともやらかしているかも・・・・・・・
これは帰ってから沢田綱吉を問いたださないとなりませんね。
「ともかく、今後あのようなことがあっても前線には出ないこと。自分が女性であることを自覚なさい。その辺の男共を盾にするくらいの気持ちでいなさい。いいですね?」
「・・・・・・はい・・・・・」
「一応沢田綱吉には報告させてもらいますよ?」
「・・・・・はい・・・・・すみません・・・・・・」
「・・・・・責めているわけではないんですけどね・・・・・」
申し訳なさそうに身を縮こませてしまっている眼下の少女に対して小さく溜め息をついた。
「後先は、考えた方が身のためですよ」
このような事態に限らず、雲雀恭弥との関係も含めて。
って、何で僕が君たちの仲を心配してやらないといけないんでしょうか?
・・・・・・・・自分でしておいてなんですが、何でしているのか甚だ疑問ですね。
「まぁ、今はこのくらいでいいでしょう。帰りますよ」
「はい」
「っと、そのままでは歩けないですね。ちょっと失礼しますよ」
「あっ!?」
拒否の声を聞くよりも早くに、骸はイーピンの身体を横抱きに抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこで。
「靴は自分で持ってってくださいね」
「何から何まで・・・・すみません・・・・・」
ついでに、雲雀・笹川ペアの安否を気にしたイーピンが同じホテルの別階で行われているはずのパーティーの様子見を願い出たので、なんだったらその場でこの子を受け渡してしまおうという目論見の元そちらに向かった。
だが目論見通りには行かず、そちらは早々に解散し既にもぬけの殻となっていた。
ここで明け渡せれば余計な説明もいらず面倒が無かったのに・・・・・。
やっぱり今日の骸には運というものがまったくといっていいほど無かった。
そうして、イーピンを抱き上げたままアジトへ戻り、―――今に至る。
□■□
走馬灯のような回想をすることわずかコンマ数秒。
例え、このような流れでもって僕が今こうしてイーピンをお姫様抱っこしているなどとは雲雀恭弥本人に知られることは無いとしても、きっと誰かの胸には伝わったと信じたい。
まったくもって不機嫌な表情の雲雀恭弥を、半ば人生をあきらめた廃人のような目で見る僕。
あぁ、殺るならどうか一思いにお願いしますよ。
物理的攻撃で殺るでも、精神的攻撃で殺るでも、もう何でもいいですから・・・・・・。
どうせなら僕の腕からイーピンを奪い取って、恥ずかしい台詞の一つや二つを平然とのたまって、砂吐くくらい甘い空気で殺してください・・・・・・。
なんか、そうしたら本望な気もします。
貴方たちカップルにはいろいろと腑に落ちないこともありましたが、これで帳消しということにしてあげますから。
だから!
お願いですから!!
まともなカップルらしい行動をお願いしますよ!!!!!
「・・・・・・ちょっと・・・・・」
よしこいっ!
さぁこいっっ!!
べたべたの、甘あまの、独占欲丸出しの、恥死量超えてるような台詞を言いなさいっ!!
実はこの時、僕は今日の自分の運の無さをすっかり忘れていました。
学習しなかったことを後悔したのはわずかに数分前だというのに、忘れていたんです。
いやはや、まさかここで―――
「あれぇ?皆もう帰ってきたの?」
「・・・・・骸様・・・・・・」
沢田綱吉と愛しのクロームまでもがバッティングするなんて一体どこの誰が想像出来るでしょうか?
というか別に今日は貴方たち二人はパーティーの予定なんて無かったはずでしょう?
一体全体どういうことでしょうか。
これは沢田綱吉をきっちり問いたださなくてはなりませんね。
「クロー・・・・・・っはっっ!?!?」
そうして思い出すのです。
今現在の、己の状態を。
つまり。
イーピンをお姫様抱っこしたままの、この状態を。
「骸様・・・・・・・イーピンちゃん・・・どうし「いえいえいえいえいえっっ!これはっ、ですねっ!?」
例え雲雀恭弥には勘違いされたままでもいいとして、僕の愛するクロームに勘違いをさせたままだなんてそんなこと死んだってさせませんよ!?
脂汗をだっらだら垂らしながら先ほどの走馬灯を説明しようとするのだけれども、どうしてだか言葉がうまく出てこなくなってしまう。
本当なら身振り手振りに有幻覚まで加えて説明してやりたいのに、人間心から動揺するとまともな行動が取れなくなるもの・・・・・というよりも、未だにイーピンをお姫様抱っこしたままだから腕が使えない!
とっさにイーピンのことを投げ出しそうになったが、雲雀恭弥の手前、加えるならば妹分を溺愛している沢田綱吉の前でそのような暴挙に移れるわけも無く。
お姫様抱っこしたままの、脂汗だらだらな僕と。
お姫様抱っこされたままの、状況が良く分かってなさそうなイーピンと。
不機嫌な様子を隠そうともしない雲雀恭弥と。
何故だかニコニコと微笑んでいる笹川京子と。
こちらも状況が読めていない様子の沢田綱吉と。
不安げな視線を投げかけてくるクロームと。
なんだかよく分からない状況で6人が鉢合わせた沢田綱吉の部屋の前。
なにがどうなってこうなった・・・・・?
分からない・・・・・・僕が何をしたって言うんですか・・・・!
ともかく、誰もが何も言えずに廊下で6人が立ち尽くすという異様な光景となった。
誰もが口を閉ざし、口を開こうとするもなんと発言すべきか分からずにまた閉口してしまう。
そんな状況だった。
「・・・・・・・あ〜、えっと・・・・とりあえず中入らない?」
沈黙を破ったのは、沢田綱吉。
切り口はともかくとしてここは素直にグッジョブ!と言ってあげましょう。
弁明するにしても、業務の報告をするにしてもまずは腰を落ち着けて、ということですね。
君にしては上出来な答えです。
「そうですね。ひとまず・・・・」
「帰る」
「へ?」
このタイミングで、場の空気を読むそぶりさえ見せない発言。
こんなことを言うのは・・・・・雲雀恭弥以外にいるわけがありません。
「報告なんて一人いれば十分だろう?」
「え・・・?あ、別にいいですけど。大体、雲雀さんがまともに報告なんてしたこと・・・・・」
「何か言った?」
「いえっ!何もっ!!」
一睨みされただけで完全にすくみあがってしまった沢田綱吉。
・・・・・・先ほど褒めてやろうかと思ったのは前言撤回しましょう。
なんて考えていると、こちらに雲雀恭弥がこちらに向き直る。
そりゃぁそうだ。
彼が彼女を置いていくはずなんて無いのだから。
不機嫌さを3割増にしたような仏頂面でゆっくりと、まるで死へのカウントダウンを読むように、一歩ずつ歩み寄り、目の前に差し掛かったところでその拳を振り上げ
――ゴン
「・・・・・なんで私が殴られるんですか?」
その拳は見事のイーピンの頭に直撃した。
ん?
なんです?
どうしたというんです?
まさか雲雀恭弥ともあろうものが目測を誤ったなどということは無いでしょうし・・・・・・
「君がどうしょうも無いへまをするからだよ」
「だって・・・・・仕方ないじゃないですか・・・・・」
「開き直らない」
「むぅぅぅ・・・・・」
「悪かったね。この子が手間掛けさせて」
「え、あ、いえ・・・・・・」
あまつさえ、彼が僕に対して詫びを入れる、だと・・・・・!?
あの!天上天下唯我独尊良くも悪くも自分のことしか考えない超自己中心人間の、あの!雲雀恭弥がっ!?
なんだ?やっぱり明日あたりに世界大戦でも起きて世界は滅びるのか?
それとも盛大なドッキリとかですか?
どこかにカメラでも仕込んであるんですか!?
そうなんでしょう?皆で僕をはめようとしているのでしょう?分かっているんです。というか、そうであってくれ!
これが現実なんて、僕は死んでも認めませんよ!?
こんな非現実的なこと、幻覚でだって起こるはずないんですからっ!!
僕が胸中でぐるぐると問答をしている間に、雲雀恭弥は僕の手からイーピンを受け取り、まるで荷物のように肩に抱えた。
「・・・・・・・なんか、扱い酷くありません・・・・?」
「少しは反省しなよ」
「してますよ・・・・・・・多分・・・・」
「その態度が反省してないって言ってるんだよ」
「そんなこと無いですもん!」
「はいはい。文句は帰ってから聞くよ」
「ぶぅぅぅ〜〜っ!」
そこには甘い空気なんてこれっぽっちも存在していない。
まるで子供を嗜める保護者のような。
・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・だからなんでこうなるんですか!?
「―――笹川妹」
「はい?」
それどころか、まさか彼の口から他の女性の名が呼ばれるのを聞くなんて。
「・・・・・・・君も、ほどほどにね」
笹川京子は一瞬驚いたように瞳を大きくさせたが、すぐにくすりと笑って雲雀恭弥の元に駆け寄った。
そして背伸びをするようにして彼の耳元に唇を寄せ、イーピンの方をちらりと確認してから
「 」
何かを耳打ちした。
悪戯っぽく笑う笹川京子の表情を受けてか、雲雀恭弥もニヤリと唇を綻ばせる。
「どうせやるなら・・・・・・」
抱えたままのイーピンを落とさないように、笹川京子に向かって手を伸ばし、頬に添え。
沢田綱吉の方に一度視線を投げかけてから、わずかに屈んで
――チュ
口付けを、一つ。
「なっ!?」
「えぇっ!?!?」
突然の暴挙ともいえる行動に流石に動揺が走った。
・・・・一体なにが・・・・・・・
何故、雲雀恭弥と笹川京子の二人が・・・・・・
「・・・・・・これくらいしてやらないとね」
「えっ!?ちょ、雲雀さ!!何で京子ちゃんに!?」
「え?え?何で京子さんと・・・・」
二人は顔を見合わせて、やっぱり悪戯っぽく笑いを零すばかりで。
「「あんまり油断してると、浮気するってことだよ」」
あまりにも場にそぐわない、楽しそうな声で、二人はそう言った。
□■□
時間を遡ること数時間。
そそくさとパーティー会場を後にした男女が二人。
なぜだか珍しく真っ直ぐに帰らなかった男に、女は道々歩きながら問い訪ねた。
「雲雀さんは、不安になったりしませんか?」
「・・・・・・・・・何が?」
「イーピンちゃんが、何の疑いも無く雲雀さんを好きだと信じきっていることが、です」
「・・・・・、不安が無ければやり返したりしてないよ」
「そうですよね」
「・・・・何なの、君?」
「いえ、雲雀さんにもそういう所があるんだなぁ、と思って」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ツナ君もそうなんですよね。あ、だからイーピンちゃんも似たのかな?」
「・・・さぁね」
「・・・・・・・・・・・ツナ君がずっと好きで居てくれることは嬉しいです。でも・・・・・、時々すごく不安になるんです。
私が一方的に好きなだけで、ツナ君の心は離れてしまっているんじゃないかって・・・・・。
私ばっかりがツナ君を好きで、ツナ君はもうそうは思っていないんじゃないかって・・・・・。
ツナ君のくれる愛情がいつも同じだから、ずっと変わらないから、そんな風に錯覚してしまう。
私のことを好きで居てくれることはわかっているつもりなのに・・・・・疑ってしまうんです・・・・」
「・・・・・・・・」
「私って贅沢な人間ですよね」
「・・・・・・君を見ているとイライラさせられる・・・・・」
「・・・すみません・・・」
「鏡でも見ているみたいだよ・・・本当」
「・・・・・それは・・・・」
苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめた雲雀は、珍しく滔々と言葉を紡ぎ続けた。
「どう考えたっておかしいのは向こうだよ。
不変なんてあるわけも無いのに、自分は勝手にそこを終着点にして。
確かにあの子は僕を好きだよ。僕もあの子を好きなようにね。
だけれどもあの子は、好きで居続けることはしても『好きで居させ続ける』ことなんてしやしない。
それははっきり言って怠慢以外の何者でもないと思うよ。
―――――君も、そう思っているんだろう?」
無言で頷いた。
「ホント、君を見ているとイライラするよ」
その心中が手に取るように分かってしまうからか。
それとも、己というものを客観的に見せ付けられるからか。
私は思い切って尋ねてみた。
「雲雀さんなら・・・・・・・『私』なら、どうしますか?」
「・・・・・そうだね・・・・・」
一度目を閉じ、ぐるりと一周思考をめぐらせた後
「報復、してやらないとね」
私が思い描いた言葉を口にした。
□■□
相応の扱いを受けたイーピンちゃんの姿を見て、これが報復だなんて生ぬるいと思った。
恋人という立場ではなく、保護者としての立ち位置での仕返しに鈍いイーピンちゃんが気づくはずが無い。
それが『私』のやり方?
ううん、私なら・・・・・もっと、徹底的にやるわ。
「―――笹川妹」
「はい?」
心の内を読まれたかのようなタイミングで呼ばれたけれど、決して驚くことなんかじゃない。
「・・・・・・・君も、ほどほどにね」
それは警告なんかじゃなくて。
多分、私が思い描いた行為を実行しろという暗黙のサイン。
くすりと笑って雲雀さんの元に駆け寄った。
そして背伸びをするようにして彼の耳元に唇を寄せ、イーピンちゃんの方をちらりと確認して
(ごめんね?)
心の中で静かに謝る。
わずかでも心が痛まない、といったら嘘になる。
それでも私たちにとっては重要な意味ある行為なのだ。
許してもらわなくては困る。
「貴方の報復というのは、こんなものなんですか?」
彼にそっと耳打つ。
私が悪戯っぽく笑えば、鏡写しの彼もニヤリと唇を綻ばせた。
「どうせやるなら・・・・・・」
抱えたままのイーピンちゃんを落とさないように、私に向かって手を伸ばし、頬に添え、口元を上手い具合に隠す。
ツナ君の方に一度視線を投げかけてから、わずかに屈んで
唇と唇が触れ合う寸前で
――チュ
まるで口付けをしたかのように、舌を打つ。
これで周りからは本当にキスをしているようにしか見えないはず。
「なっ!?」
「えぇっ!?!?」
二人の戦く声が聞こえた。
そう、それでいいの。
「・・・・・・これくらいしてやらないとね」
二人の反応を耳にして、彼は満足そうに告げた。
「えっ!?ちょ、雲雀さ!!何で京子ちゃんに!?」
「え?え?何で京子さんと・・・・」
そうよ、それくらい動揺してもらなわくちゃ困る。
私たちは顔を見合わせて、やっぱり悪戯っぽく笑いを零す。
どうやら報復は成功したらしい。
最後はダメ押し。
「「あんまり油断してると、浮気するってことだよ」」
あまりにも場にそぐわない、楽しそうな声で、私たちはそう言った。
□■□
「ね・・・・京子ちゃん、雲雀さんと何かあったの・・・・?」
「気になる?」
「そりゃぁ・・・・だって・・・・・」
あんなの見せられたら、なんて小さく零したツナ君。
「ふふ、教えてあげてもいいよ。ただし―――」
「ただし?」
「今思ってることを素直に言ってくれたら、だよ」
ツナ君の胸に走った動揺の名前を教えて?
ツナ君の胸を襲った痛みの名前を教えて?
それは、貴方が私を好きだという証拠だから。
⇒進展?新転?
□■□
「・・・・ヒバリさん・・・・・」
「なに?」
「・・・・・・いつの間にあんなに京子さんと仲良くなったんですか・・・・・?」
「・・・君って・・・・・・・」
「え?」
「いや、なんでもない」
ここまで通じないといっそすがすがしいよ。
雲雀は肩に乗せた少女の頭を一発小突いて、今日のところは許してやることにした。
⇒それでも彼女は気がつかない
□■□
「・・・・・・・・・・なんか途中から完全に存在を忘れられたような・・・・・・・・」
振り回すだけ振り回してさっさと元の鞘に収まった4人の視界には、既に自分など映っては居ないのだろう。
なんとひどい扱いだろうか。
これではまるで自分がかませ犬にでもなった気分だ。
それこそ世界大戦の一つや二つ起こしたくなるではないか。
このまま黙っているなんて真似できるわけが無い。
自分たちの世界に入っている4人に向けて怒声を上げようと口を開いたその時。
「・・・・・骸様・・・・・」
服の端をチョン、と引くのは僕の愛しい愛しいクローム。
心の中の荒んだものがパァッと洗い流されるのを感じます。
「どうしました?」
ほんの数秒前まで抱いていた怒気などどこへやら。
まるでお花畑にでも居るかのように暖かな陽だまりが胸に差し込んでくるではないですか。
「今日・・・・・ボスに美味しいお店を教えてもらったんです・・・・・・だから・・・・・・」
「今度は僕を連れて行ってくれますか?」
「・・・・・・はい・・・・・っ!」
「それは嬉しいですね。楽しみにしておきますよ」
「あと・・・・・・」
「ん?なんです?」
「・・・これ・・・・・お持ち帰りしてきた・・・・デザート・・・・・」
「はい」
「一緒に・・・・・食べてもらえますか・・・・・?」
「えぇ。喜んで」
「・・・・・・よかった・・・・」
「その代わり、クロームが食べさせてくださいね?」
「え・・・・・・・・あ・・・・・・」
ハイ・・・・・・、と頬を朱に染めたクロームの可愛さときたらもう!
今日は運が無い?
くふふ、僕としたことが世迷言を言ってしまいましたね。
愛しのクロームが傍らに居る人生そのものが幸運だというのに!
⇒ある意味勝者(頭の中はお花畑)
サイト2周年リクエストで頂いた『知らぬは当人ばかり』のその後のお話でした。
リクエスト内容としまして
「3カップル鉢合わせでそれぞれの反応と心中とその後、本来CPに戻った時の様子を」
とのことでいろいろ盛り込んだら長くなりましたとさ。
視点がぐるぐるするので結構読みにくい話になってしまったやも・・・・・
個人的に付加したサブテーマは「雲雀と京子は似たもの同士」というくだりと、骸をギャグ要員にすること(笑
そんなこんなで、リクエストありがとうございました!!
こちらの作品はリクエストしてくれたせいら様のみ本文お持ち帰り自由とさせていただきます。
2010/06/04
※こちらの背景は
clef/ななかまど 様
よりお借りしています。