優しいのは誰?






年の瀬も年の瀬、今年最後の太陽が沈もうとしている並盛町を一人歩くのは沢田綱吉14歳。
両手にははちきれんばかりに膨らんだ買い物袋が多数ぶら下がっている。
母親である奈々に頼まれて正月用品の買い出しを済ませた帰り道。

「ったくなんで俺一人でこんなに買い出ししなくちゃならないんだよ・・・・・」

一人愚痴をこぼせば誰に届くでもなく、白い呼気となって宙に舞った。
肩からずれそうになるマフラーを何とか身をよじって直そうとするが上手くいかない。
もがけばもがくほど、余計に首もとに寒気を誘い込んでくる。
ああ、もう!と仕方なく荷物を下ろして巻き直す。
ついでに崩れないように後ろ首で軽く結わえてやる。


防寒を整えたものの、暖かな自宅までの道程を頭に思い浮かべるとどうにも一息に帰れるとは思えなかった。
夕暮れの薄暗い道の先に煌々と輝く自動販売機に心惹かれ、自然と足がそちらに向かってしまう。
幸いにもポケットにはお釣りの小銭が幾ばくか入っている。

(お駄賃としてこれくらいは許されるはずだ)

何の迷いもなくそいつを数枚取り出し投入すると、ホットココアを選択。
ガコっと音を立てて缶が落ちるのと同時に背後から唐突に声を掛けられた。

「・・・・・ボス・・・・」
「え?・・・・・クローム・・・・・?」

振り返れば一人佇む少女の姿。
深緑色の制服に身を包み、独特の髪型。
大きな黒目がちの瞳と右目の眼帯。
季節感を無視したミニスカートに丈の短い上着。
そんな格好の知り合いは綱吉には一人しかいない。

もう一人の霧の守護者、クローム髑髏である。

「こんなところで珍しいね。・・・・・・俺になんか用?」

少女は無言のまま一つ頷く。
愛用の黒いバックから取り出すのは白い一通の封筒。
綱吉の前に差し出した。

「これ、ボスに」
「え!?俺に?」

女の子からの手紙。
まさかクロームが俺のことを・・・・・・・?
いや、でも俺には京子ちゃんっていう心に決めた人が・・・・・・
可愛い女の子に告白されるのは悪い気はしないけど・・・・・・
けどやっぱりこういうことはケジメが大切と言うか、男として浮気みたいなこと・・・
いやいや、浮気って!別に俺達付き合ってるわけでもないし!
ただその辺は気持ちの問題であってだ、身辺はきれいにしておいたほうがいい気もするし

「骸様から」
「・・・・・あ、そう・・・・・」

告げられた事実は予想以上に青少年の心にダメージを与えた。
それも自分の一方的な勘違いなものだから彼女を攻めることなんてできるはずもなく。

傷ついてない。
傷ついてなんかない。
自分がモテないことなんか自分が一番よく知っている。
泣かないぞ。
・・・・・・ぐす。

どうか純情な男の子の心中をどうか察してやってほしい。傷つきやすい年頃なのである。

「大体骸が俺に何の用なんだよ」
「わからない。ボスに渡すように頼まれただけだから」

仕方なく受け取った封筒は表には何も書かれていない。ひっくり返してもまっさらなものだった。
いぶかしんで封を開けると中には一枚のメッセージカードが。それ以外には何もなく、明確に用件が書かれていた。

カードに刻まれたのはたった一行の言葉。

(・・・・・骸・・・・・お前・・・・・)

それはあまりにも端的で。
でもあまりにも漠然としすぎていて。
俺様然とした骸らしからぬもののように思えた。


「・・・・・骸、何か言ってた?」
綱吉が静かに問えば、クロームは無言で首を横に振る。

「ボスに渡せば万事上手くいく。決して手紙は見ないようにって」
「そっか・・・・・・」

骸らしいと言えばそうなのかもしれない。
己の本心を綺麗に包んで悟らせない。
それが骸が霧足る所以でもある。

今この瞬間ですら、あの冷たく光り届かぬ地下水牢に拘束されているというのに。
人の心配する前に自分の心配したらどうなんだよ。

お前は俺に「甘い男だ」と言った。
その言葉、そっくりそのまま返してやりたい。
お前だって十分に甘いじゃないか。

・・・・・・だから、お前は俺を見てはいらいらさせられたのか?
歯がゆい自分を見ているようで、たまらない気持ちになったのか?

・・・・俺たちは意外と似たもの同士なのかもしれないな・・・・・

「それじゃぁ、私は帰るから・・・・・・・っ、くしゅん!」
「クローム!大丈夫!?こんな冬空に薄着してるからだよ」
「・・・・・・・大丈夫・・・・・・」

そういったクロームだが露出した肌は明らかに寒げで。
色の抜けた白い肌はより一層白さを増していた。

「大丈夫じゃないだろ!?あぁもうっ!」

寒くなるのは百も承知。
それでもクロームをこのまま放っておくこともできない。
綱吉はいてもたってもいられずに自分が着ているジャケットを脱いだ。
綱吉にしては珍しく強引な態度で、困惑するクロームの肩にジャケットを引っかける。
中学生男子の平均的な体格から見ればかなり細身の綱吉だが、それよりも一回りも線の細いクロームの体を覆うには十分すぎるサイズだったようだ。

「コレ、貸してあげるから体冷やさないようにね」
「・・・・・・・・でも・・・・・・ボスが・・・・・・」
「俺は家近いから大丈夫」
「・・・・・・でも・・・・・」
「ボス命令!おとなしく着ること!」
「・・・・・・・・」

リボーンあたりに聞かれたら「ようやく腹くくったか」なんて言われそうだ。
絶対に言えないし、言うことなんてないと思ってたのに、こんな時ばかり口が先行してしまう。
しかし一度口に出したものは取り消せない。


「それから、今晩何か用事ある?」

控えめに小さく首を横に振った。
なぜそのようなことを聞かれるのかわからないといった風に目をぱちくりさせる。

「なら、今晩は家においでよ。って!?べ!べ!別に変な意味じゃないからね!
城島さんと柿本さんももちろん一緒に、ね?」

自分の口走った言葉の意味に両手を振って弁解。
我ながらかっこ悪い・・・。
でも格好悪さを嘆いたって仕方がない。
俺はダメツナで、今まで格好良かったことなんてなかったんだ。
今更そんなことを気にしたって遅い。
どんなに格好悪くったって、這い蹲ったって俺は踏ん張らなきゃいけないって知った。

だって
だって


「三人で居ることが悪いとは言わないよ。
けど、こーゆー祝い事はみんなでやった方が絶対楽しいと思うんだ。
年越しそば食べて、除夜の鐘聞いて、明けましておめでとうって言って、
初詣行って、みんなで楽しむことも楽しいと思うんだ。

 だって俺たちファミリーだろ?」

守りたいと想う人が増えた。
強くなりたいと想うようになった。

家族を、ファミリーをすごくすごく好きになった。
だから皆で分かち合いたい。

つらいことも
楽しいことも
みんなみんな

本当は“4人”で来て欲しかった。
お前にも、来て欲しかった。
でもそれが叶わないなら
せめてお前の望みくらい叶えてやろうと思った。
そしたらお前は笑ってくれるか?


「だから今晩は絶対俺の家に来ること!わかった?」
「・・・・・・・・・・・」
「てゆーかそのジャケットを返しに来ること!いいね!?」
「・・・・・はい・・・・・」
「じゃ、またあとでね」


大きな荷物を抱えてよたよた歩き出した綱吉。
その姿が通りの角に消えたところで「ぶぇっくしょんっっ!」と盛大なくしゃみがあがった。



一方的に押し切られる形で話をまとめられてしまった。
ボスが気にしてくれたことは嬉しいけど、犬や千種にどう説明したらいいのだろう。
犬なんて「あんな奴のところぜってーいかねービョン」て言いそう。
クロームは嬉しい反面、少しだけ憂鬱な気持ちになった。
そういえば、と見やれば先ほどボスが購入したホットココアが手つかずのまま受け口に残されたままになっていた。
いくらか時間が経過しているためちょうど人肌の温もりに近い。
頬にあてがえばそれこそまるで触れられているかのような気持ちになる。
まるであの人に触れているような。

「あったかい・・・」

このぬくもりがなくなる前に二人に話しにいこう。
あの人のぬくもりが宿っているようで小さな勇気が湧いてきた。
ボスに貸してもらったジャケットを落とさないように襟元をしっかりと押えてクロームは小走りに駆け出した。




   ***   ***

(ばーか・・・・お前らしくないんだよ、こんな手紙)

『三人をお願いします』

だから余計気になるだろ。
心配させんな。









大晦日にUPしようとして不注意で消してしまった産物。

骸髑かツナ髑を意識して書いてたつもりなんだけど

ふたを開ければ骸ツナっぽいかも。

いや、あえてこれはノーマルCPだと公言する!!

腐要素はきっと、ないよ!うん。



自分は一緒に居てあげる事ができないから、どうか3人に

『この世は捨てたモンじゃないよ』って知ってほしい骸の親心。

でも子供にそんな一面を見せることが出来ない強がりな骸。



子供の見えないところで頑張ってるのが親ってもんです。



ところで髑髏ちゃん。

無口ゆえに書きにくいよ。(←これが感想!?

2009/01/12





※こちらの背景は Harmny/ゆきえ 様 よりお借りしています。




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