「私は反対です」
「・・・・・・え、っと。イーピン?」
自分の妹分とも言える少女に詰め寄られて一歩引いてしまった姿は、さぞ皆の目には滑稽に映ったことだろう。
でもさ、迫力あるんだよこの子。
本当に15歳?って聞きたくなる。
流石は俺の妹だ。
あ、ちょっとシスコンとか言わないでよ。
そんなんじゃないから。
普通にこの子がすごいだけなんだって。
俺はごく普通のお兄ちゃんだってば。
「だから!」
語調も強く、これ以上近寄れないと言うところまで顔を寄せてきた。
顔を反らせようとしても、椅子が邪魔して離れられない。
「この任務にヒバリさんをつかせるのは反対だって言ってるんです」
「いや、そうは言っても・・・・・・他に手の空いている人なんていないし、雲雀さんなら問題なく遂行してくれるでしょ?」
「そういう問題じゃないです!!」
ツナさんは何もわかってない!
出来るとか、簡単だとか、そういう問題じゃない!
しちゃいけないんです!
ほとんどヒステリーのように叫ぶ妹を抱き寄せて、背中を撫でる。
皆が見ていたって構うもんか。
・・・・・・一人、とんでもなく睨みつけて来る人がいるんだけど・・・・・・今は無視だ。
「イーピン?どうしたんだよ?」
この子は意味のないわがままを言うような子ではない。
もっとずっと聡明な子だ。
きっと何らかの意味がある。
そうでなければ不自然だ。
「雲雀さんを任務につかせることが嫌なの?」
「・・・・・・違います・・・・・・」
「じゃぁさ、スケジュールは厳しいけど、代わりに山本に・・・・・・」
「それもだめですっ!」
「・・・・・・誰ならイーピンは首を縦に振ってくれるの?」
「・・・・・・私か、ランボ」
「え?」
それこそ俺が大反対だ。
何だってチビ二人に行かせなきゃならないんだ。
確かに二人は大分成長したけれど、俺の中では昔のちっちゃくって周りをうろちょろしていたチビ助のままだ。
手の掛かることもあったけれど、大切な妹分に弟分。
何だってその二人を危険な任務につけなくちゃいけないんだよ。
「後の人はだめです。こんな胸くそ悪い仕事、他の人がしちゃだめ」
「逆だよ。お前達にこそさせるわけにはいかないよ」
「私達はいいんです!私たちじゃなきゃ・・・・・・だめなんです・・・・・・」
「イーピン・・・・・・」
「その理由を言いなよ?」
「雲雀さん」
至極面白くなさそうな表情で腰掛けていた雲雀が口を開いた。
「僕が君たちに劣るとでも?」
言葉の端々に刺々しいものがあった。
殺気立っている証拠だ。
ただでさえ群れることを嫌うこの人を我慢させて、守護者全員に集まって貰っているんだ。
苛ついていないはずがない。
「雲雀氏。イーピンは別にそういう意味で言ってるんじゃないですよ」
ちょっと離れたところから声を上げたのはこの場の最年少、ランボ。
「雲雀氏の実力を疑う者なんて誰一人いません。でも、それとこれとは次元の違う話なんです」
「・・・・・・君はどういうことか知っているんだ?」
「察しがつくだけですよ。俺もこういう仕事をみんながするのは反対ですし」
「?」
「アホ牛。わかるように話せ!」
これまで俺の右腕として私情を挟むまいとしてきた獄寺君ですら若干語調がきつくなっている。
「・・・・・・だからですね?年下の俺が言うのもなんですけど、みんなは一般人じゃないですか」
『一般人』
久しく聞かなかった言葉に、理解が遅れる。
どんな意味だったか。
解りきっているはずなのに、なぜだか脳が働かない。
「一般人に『殺し』はさせたくないんですよ」
そういう汚れた仕事は、俺やイーピンに任せておいてくれた方が気が楽なんです。
「すまんが極限意味が分からんぞ!?」
「わりぃけど、俺もよくわからんのな」
「簡単な話です」
イーピンが俺の胸に顔を埋めたまま言う。
「私は生粋の『殺し屋』、ランボもマフィア生まれのマフィア育ち。生まれたときから手を汚してきてるんです。みなさんとは、生きてきた世界が違うんです」
「なら、僕でいいじゃないですか。僕はすでに浴びるほどの血を被ってきた人間です」
「六道氏。それはちょっと違いますよ」
「あなたは確かに血を被った、私たちと同じ側の人間かもしれない。けど、あなたが使っているその身体は、クロームさんの身体なんですよ?」
「・・・・・・」
「あなたのエゴで、クロームさんまでもを血の海に沈めるおつもりですか?」
だというのなら、私はあなたを殺してでもクロームさんを守りますよ?
いつの間にかイーピンは俺の胸から抜け出して、臨戦態勢を取ろうとしていた。
「あぁ!」
「ふぅん」
崩したのは、二つの感嘆。
「『一般人』って、そうか、俺らのことか」
「僕のことをそんな風に言う人間がいるなんて思いもしなかったよ」
「・・・・・・は?」
「いや、そうだよね。そうなんだよね。なんか、リボーンに感化されてすっかり忘れてた。俺たちって超一般人じゃん!」
「十代目?」
「あ〜、なんか急にバカらしくなっちゃった。殺し殺されの世界とか俺の性には合わないんだよ」
「おいおい、ツナ?どうしたんだよ」
「やめやめ。こんな物騒な話なしっ!殺し禁止!」
「沢田!何を言っておるのだ!?」
「だって、こんなチビにさせるわけにもいかないし、させたくないじゃないですか」
「そうはいっても・・・・・・沢田綱吉。現状として奴らを野放しにしておく訳にもいかないでしょう?」
「誠心誠意頭下げたらよくない?」
「あなたって人は・・・・・・・・・」
目の前で展開される会話についていけない者が一人。
「え?え?これってどういうことなんかな?」
「・・・・・・イーピンの主張が伝わったってことじゃない?」
「そう・・・・・・なんかな?・・・・・・っひゃぁっ!?」
イーピンの身体が抱き上げられる。
犯人は、もちろんというかなんというか、雲雀さん。
「仕事がないならもう帰っていいでしょ?」
「それはいいですけど・・・・・・イーピンは置いていってくださいよ」
「やだ」
「俺だってイーピンと遊んだりお風呂はいったりしたいのに!」
「・・・・・・君っていつもそんなことしてるの?」
「してません!ツナさん、適当なこと言わないでくださいぃぃ!!」
「・・・・・・雲雀さんに奪われるくらいならいっそ俺が・・・・・・」
「わぉ。君って真性の変態シスコン?」
「ロリコンに言われたくないです。年端もいかないうちの子をたぶらかして・・・・・・」
「近親相姦よりはよっぽどましだと思うけどね」
「どっちもいやですぅぅぅ!!!!ていうか、ヒバリさんおろしてくださいよぉぉぉ!?」
響く絶叫。
意味のない言い争い。
「平和なのな〜」
「極限平和だ!」
「平和ですね」
今日もボンゴレは平和です!
年明け一発目がこれか。
頭腐ってるんじゃないか?
特に何かしらの主張がある訳でもなく、チビ二人にみんなを『一般人』と言って貰いたかっただけのお話。
あれだけ濃いメンバーを一般人とくくれるのは二人しかいないと思う。
2011/01/13
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。