ひとつ、またひとつ
星が流れ、そして消えていく。





星屑ひとつ






「あ、またひとつ!!」
「・・・・・・そう」

二人並んで空を見上げる。
頭上には数えることの出来ないくらい沢山の星が煌いていた。
流星群が新月と重なったため、星明りは強い。
流石に都会のど真ん中にいては良くは見えないが、ほんの少し車を走らせ郊外に出た頃には既にこの光景が広がっていた。
予定していた半分ほどの道程で二人は車を降りることにした。
適当な草原を見つけ寝転がる。
長時間星空を観察するならば多少服は汚れることになるが寝てしまったほうが見やすいのだ。
首が痛くないというのは些細なようでなかなか重要な項目でもある。

そうして、夜空を見上げる。
まさに『降ってきそうな星空』がそこには広がっていた。
一分間に一個くらいは流れ星が肉眼で確認できるのだからこの一晩で一体どれだけの星が流れるのだろうか?
なんて考えているうちに

「今度はこっちに。向こうのは尾が長いですね!」

今度は2つ連続で流れていった。
うちひとつは一際明かりが強く、それこそ三度願い事を唱えることが出来そうなくらいだ。
何を願ったわけでもないがこんなにもの流れ星を見たことなんてなかったからそれだけでイーピンの気持ちは高揚していた。

しかし一方で。

「・・・・・そうだね」

よく言えば特にこれといった感情も含めず、悪く言えば無関心な声で雲雀が答える。

「ヒバリさん・・・・・・」
「何?」
「・・・・・・・・流星群、興味ない・・・・・ですよね」

質問しておいて自己完結した。
この人が興味あるのは並盛町と咬み殺し甲斐のある相手だけなのだ。
質問すること事体が愚問だった。
なのに律儀に付き合ってくれるのはこの人なりの優しさであると理解したのはつい最近だったりする。

「すみません。忙しいのに付き合わせてしまって・・・・・」
「別にいいよ。忙しくなるのは綱吉だけだし」
「っ!ツナさんに仕事押し付けてきたんですか!?」

そんなの聞いていない!
ツナさんに迷惑のかかることだけはしたくなかったのに。

イーピンは心の中で叫びにならない声を上げた。
兄代わりであるツナはそれはそれは大層過保護で、イーピンのためなら喜んで残業だってしてくれるだろうけど、だからこそイーピンは迷惑にならないように注意してきた。
それなのにまさかこんなところに落とし穴があったなんて・・・・・・。

「押し付けただなんて人聞きの悪いこと言わないでよ。
 ついうっかり綱吉の部屋の前に今日付けで上げないといけない未処理の書類を落としてきただけ」
「ヒバリさんっ!!」
「・・・・冗談だよ。ちゃんと終わらせてきた」
「・・・・・本当でしょうね・・・・?」
「わぉ。僕ってそんなに信用無かったんだ」
「仕事に関しては。特にツナさんで遊ぶことに命をかけている節がありますから」
「本当に終わらせてきたよ。ついでにおまけもつけてきた」
「おまけ・・・・?」
「先三日分まで終わらせてきたんだよ。これで綱吉も笹川妹と星でも見に行けてるんじゃない?」

ゴロっと体の向きを変える。
物憂げな仕草はさながら睡眠中の猫の様。

「・・・・・僕には星なんて、何がいいのかわからないけどね」
「奇麗じゃないですか。流れ星」
「君が奇麗だというその星はただの残骸。朽ち逝く姿だ」
「・・・・そうですけど・・・・」
「勝手なんだよ。星の死んでいく姿を見ては騒ぎ立て、あまつさえ喜び勇んで身勝手な願いを唱える」
「・・・・・・・・・」
「人が死ぬこととなんの変わりがある?」
「・・・・・・・・・」
「ひとつの命が終わることに変わりはないのに、何故軽んじる」
「・・・・・・・・・」
「畏れるべきなんだよ。星なんて・・・・」
「・・・・・・・・・」
「だから嫌いだよ」

星も、それを見て喜ぶものも。
理解できない。

そう言ったきり、雲雀は口を閉ざした。

頭上を飛び交うは無数の星。
どれだけ雲雀が星を嫌おうが、降り注ぐ星を止めることはできない。
イーピンは黙って空を見上げ続けた。

今見上げる空は、今の空じゃない。
過去の空だ。
何光年もの時間をかけて届いた光の欠片。
ずっとずっと昔に死んでしまった星の残像。
私は今を生きているのに、この瞳に映るのは過去。
宇宙の今を私は見ることは出来ない。
それはつまり逆にも言えることで。
私が今の空を見えないように、宇宙も今の私を見ることは出来ない。

なんだろう、この足元が崩れさってしまったような不安定な気持ちは。
今と言う時間と。
過去と言う時間。
それらは絶対的なものではなく相対的で流動的な存在だ。
確固たるものなどなく、己で定めていかなければいけない。

では今とはなんだろうか?
過去とは何か?
未来とは、一体なんなのか?

考えれば考えるだけ、答えから遠ざかっていくような錯覚に陥る。
答えなどないのだからこの表現は間違っているのかもしれないけれど、そんな気分だ。

空を見上げた。
一瞬
チカリ、強い明かりを星が放った。
その星は尾を引くこともなく、そのまま光を失った。
つまり、死んだのだ。

あの星は、一体いつ死んだのだろう。
きっと私が生まれるよりもずっとずっと前なのだろう。
不思議で、不可思議。

ただそこにひとつの答えを見た気がした。

「ねぇ・・・・・ヒバリさん・・・・・」
「・・・・・・なに・・・・?」
「ヒバリさんは星を畏れるべきだと言いましたけど、本当にそうでしょうか?」
「・・・ピン・・・?」
「私は違うと思うんです。
どんな形であれ、自分の最後を誰かに看取ってもらえることはとても嬉しいことだと思います」

自分が死んで、何百年何万年という膨大な時間を越えてなお私のことを見ていてくれる人がいることは嬉しいことではないでしょうか?
私を忘れないでいてくれる、私を覚えていてくれる。
ほんの一瞬、最後の力を振り絞って光るのは一人でも多くの人に覚えていて欲しいから。
そして、一人でも多くの人に『私を見てくれてありがとう』と伝えたいから。
そんな想いがあればこそ、願いのひとつも叶えてあげたいと思う。
果たして私にそんな力はないかも知れない。
けれど祈ることだけは出来る。
私を看取ってくれた人達が幸せでありますように、と。
見守ることは出来なくても。
行く末を知ることは出来なくても。
ただただ祈ることだけは出来る。

「だから畏れる必要なんてないんです。
私達はただ、あの星々が生きていたことを覚えていればいいんです」
「・・・・・・・・・・・・ひどい自論だね・・・・・・・」

でも

「悪くはない」

横たえたままだった身体を起こす。
そのまま、イーピンに覆いかぶさるように顔の横に手をついた。

「君の最後は僕が看取ってあげる」
「・・・・・ずるいです。私だってヒバリさんの最後を看取りたいのに」
「そういうことを言うのは僕に勝てるようになってからにしなよ」

頭上には星空。
けれど視界を埋め尽くすのはヒバリさんの顔で。


星屑のかわりに、キスが一つ降ってきた。


私に『今』を教えてくれるのは、紛れもなくヒバリさんの唇だった。









流星群関係ないやん!と言う声が聞こえてきそう・・・・

でもしかしあくまでも流星群からインスピレーションは受けたんだ。

うん。ほんと。

どこがどうなのかはわからないけど。

星について語る雲雀がなんかきもくて嫌だ・・・・・。

こんなの雲雀さんじゃない・・・・・・orz

2009/10/25





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




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