大きなカートを転がして、とうとう空港に降り立った。
入国審査では少し物怖じしたモノの、怪しまれることもなく(そもそも私はもうあの世界から足を洗っているのだから気にする必要もないのだけれど)通過できた。
頑張って勉強したイタリア語がなんとか役に立った。
それだけでほんの少し嬉しくなってしまう。
しかし、本当に心躍らせるのはこれから。

(ヒバリさんに逢える・・・・・・っ!)

実に一年ぶりだ。
世界中を忙しく飛び回っているヒバリさんに、日夜バイトと勉強に追われる苦学生の私。
結局、そんな時間が積もりに積もって一年もの時間が経過してしまっていた。
お互いに忙しくしていることは知っているから相手を責めるつもりもない。
お互いが自分のことを優先した結果、自業自得だ。
そしてようやく、私はこの春大学進学を決めることが出来た。長かった受験勉強から解放された。
もちろん、大学で勉強するために進学するのだから本質的な意味では勉強から解放されるわけではないのだけれど、つかの間の休息を自分へのご褒美に与えることにしたのだ。
ご褒美というのがつまり、単身イタリアまでヒバリさんに逢いに行くこと。
初めて伝えた時、ヒバリさんは「待ってるよ」と素っ気ない返事を返した。
素っ気ないながらも何処となく喜んでくれていた気がするのは私の気のせいではないはずだ。
日本を発つときもドキドキが止まらなかったが、実際にヒバリさんがいるイタリアの地を踏んでから胸が高鳴りっぱなしだ。
メールや電話でのやりとりはそこそこしていたけれど、こうして直に逢えるということが嬉しい。

(やだ・・・・・・私、ヒバリさんとちゃんと話せるかしら?)

嬉しいの感情を通り越して、緊張してきた。
久しぶり過ぎて何を話したらいいかわからない。
一年前は、どんな話をしただろう?
思いだそうとするけれど記憶の回路を辿れなかった。

(なるように・・・・・・なるよね?いつものヒバリさんを見たらきっと感覚が戻るわよ!・・・・・・きっと)

やや確信に欠ける自信を自分に言い聞かせた。

「えっと・・・・・・入国ゲートから少し出たところで待ってるって言ってたけど・・・・・・この辺、だよね?」

今まさに自分がくぐったゲートを見上げる。
多分これが入国ゲートで間違っていないはず。
辺りを見回すがそれらしい人は見あたらない。
もう少し先に行ったところなのだろうか?
そういえば向こうの方で沢山の人が出会いのハグをしている。
まさか群れることを嫌うヒバリさんがあんな人だかりにいるとは思わないけれど、あの近辺が一般的に待ち合わせとして設定された場所なのだろう。
重たいカートを引きずりながら、一歩ずつ着実にヒバリさんがいるであろうところに向かう。
あちこちで聞こえる歓喜の声を右から左に聞き流しつつ、視線を巡らせる。
ふと、壁際に縫いつけられたように微動だにしない黒髪が目に入る。
きっとあれだ。
そんな気がする。
声を掛けたら気がつくだろうか?
距離にして40メートルほどだが、周囲のうるささを考えるとぎりぎり届かないかもしれない。
見つけた位置を見失わないようにしながら、私は足を早めた。
あと35メートル。
30メートル。
25メートル。
この位置ならばきっと届く。
声を上げようとしたその一瞬前。
ヒバリさんが顔を上げた。
ばちり、目が合う。
なんだか無性に恥ずかしくて、そして嬉しかった。
たまらなくなって荷物を放り出して駆け出す。

「ヒバリさ「イーピンちゃんっ!!!」

・・・・・・駆け出そうとした。
そうしたら、予想だにしない方向からの猛烈なタックルをまともに受けた。

「へ?えっ??」
「イーピンちゃん・・・・・・久しぶり・・・・・・っ!」
「クローム・・・・・・さん・・・・・・?」

私にタックル・・・・・・もとい、熱烈な抱擁をしてきたのは昔なじみの顔。
なじみの面々はクロームさん一人ではなかった。

「やぁイーピン。イタリアにようこそ!」
「ツナさん!?」
「イタリア来るのに黙っているなんてひどいなぁ。言ってくれたら迎えに行ったのに」
「そうだよ。イーピンはイタリア初めてだろ?迷子にでもなったらどうするんだい」
「ランボ・・・・・・」
「先月俺が帰った時には一言も言っておらんではないか!俺は極限寂しいぞぉっ!!」
「さ、笹川のにーさんまで・・・・・・」

ていうか、なんで皆さんここにお揃いで?
今回は日程的に時間があんまり取れないので、ヒバリさんとの時間を優先出来るように皆さんには悪いけどオフレコで来たのだ。
ヒバリさん以外の誰も私がイタリアに来ることを知らないはずなのだ。
まさかヒバリさんがわざわざみんなに伝えるわけもないし・・・・・・。

「母さんから昨日連絡があってさ、イーピンがこっちに旅行で来るって聞いてそりゃぁ大慌てで予定繰り上げて大変だったんだから」

(ななさーん!!!!)

心の中で綱吉の母であり、そして自分の母親代わりとも言える存在の奈々さんを責めた。
確かに奈々さんにはイタリア行きを伝えた。
流石に伝えなければ心配されると思ったからだ。
奈々さん的には気を回してくれたのかもしれないけれど、今回ばかりは余計なお世話だとしか言いようがない。

「あ・・・・・・いや、これは・・・・・・その・・・・・・ですね?」
「もっと早く教えてくれりゃー観光案内とかいろいろ調べてやれたのな〜」
「とりあえず主要所を押さえた一般的な観光地ガイドブックは買っておいてやったからな」
「山本さん・・・・・・獄寺さん・・・・・・」
「ケーキの美味しいお店・・・・・・一緒にいこうね?」
「あ〜!俺も一緒に行きたーい!!」
「俺もお供しますよ」
「俺は久しぶりに極限手合わせをしたいぞ!」
「えっと・・・・・・あの・・・・・・」

何がどうなってこうなっちゃったのかな?
あぁ、こんなことしてる間にヒバリさん呆れてどこかに行っちゃったかもしれないわ!?
だって群れることが嫌いだもの。

「あのっ!今回はわた「この子は僕に逢うためにイタリアに来たんだよ」

またしても、阻まれた。

「・・・・・・ヒバ・・・・・・リ、さん・・・・・・?」
「君たちの出る幕なんてないから、さっさと消えてくれない?」

気がつけば腰を抱かれていた。
手が塞がるのが嫌だと言って、まともに手を繋いだことすらないのに。
久方ぶりに間近で見るヒバリさんは、記憶の中よりも少し痩せていた。

(仕事、やっぱり忙しいんだよね・・・・・・?)

「何?」

心配気に見上げた視線に気づいたのか、つと目線を下げた。

「あ、いや・・・・・・ヒバリさん、痩せたなぁって・・・・・・」
「そう?久しく計っていないから知らないけど。君は・・・・・・綺麗になったね」
「ふぇっ!?」
「大人っぽくなった。相応の色気が出てきたのかな?」
「そ・・・・・・そうですかね?」

やだな。なんか照れる。
ちょっとでもヒバリさんに釣り合うようにって頑張った甲斐があったかな?

「でもさ・・・・・・」

ごく自然な動作で、私の首元に顔を埋めた。

「・・・・・・へ?」
「この香水は、あんまり似合ってないよ」

首筋を舌先がぺろりと這い、そして吸われた。

「っ!?qあwせdrftgyふじこl!?!?」
「君には汗の香りの方が似合っているよ」
「ヒバッ!ひばっ!?ヒバリさん!?!?」
「あぁ、どうせすぐにシャワー浴びて汗掻くんだから関係ないか」
「っ!?」

頭の中が真っ白で何も思考できない。

「っちょっ!!雲雀さん!?あんた人の妹に何堂々と手ぇ出してるんですか!?」
「何?10年にも渡る馴れ初めを説明しろと?」
「そうじゃなくて!!人様ん家の子に卑猥なことするなって言ってるんですよ!」
「雲の人・・・・・・イーピンちゃんを離して・・・・・・」
「へぇ。君たち、随分大層な口利くようになったね?咬み殺されたいの?」

愛用のトンファーを構える代わりに殊更私の体を強く引き寄せた。
その辺りで私は恥ずかしさのあまり気絶してしまったので、その後何がどうなったのか知らない。





刺激的なイタリアの香り




気づいたときには、私は雲雀さんが運転する車の中にいた。

「気がついた?」
「・・・・・・あ、はい・・・・・・」
「もうすぐ家に着くから」
「・・・・・・」

素っ気ない、ちょっとだけ面倒くさそうな喋り方。
いつものヒバリさんだ。

「何?」
「いえ。いつものヒバリさんに戻ったな〜って」
「まるで僕が僕じゃなかったみたいな言い方だね?」
「だって、ヒバリさんあんなこといつもはしないのに」

腰抱いたり、人前でキスしたりなんてしなかった人だもの。

「たまにはそういうことをしてみようかなんて気にもなる時もあるんだよ」
「本当に?それだけ?」

意地悪く、私は笑う。

「・・・・・・たまには、牽制しておかないとね」
「はい!」

こんなにも嫉妬心を露わにしたヒバリさんを見れただけでも、私がイタリアに来た価値は有るに違いない。









3周年御礼リクで頂いた「人前で平気でいちゃつくヒバリ」でしたー。

え?これいちゃついてるの?いちゃつかせてるつもりなの?

割と残念ないちゃつきでサーセン;;

私の中のヒバピンではこれが精一杯ですっ!

熟年カップルにいちゃついてもらうのは死ぬほど難しいと言うことを認識しました。

玉砕です。

リクエストありがとうございました!!

2011/05/20




※こちらの背景は Sweety/Honey 様 よりお借りしています。




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