駆け込みのシンデレラ






人間、何よりも大事で何よりも守りたい約束があるときほど上手く事が運ばない。
誰かが作為的に意地悪をしているようにしか思えないほどだ。

それは彼女にとってもまた、等しく当てはまることであった。

(何もこんなときに限ってっ!!)

胸中で一人ごちるも時間が戻って来るわけではない。
自身の身体能力の全てを駆使してイタリアの街を駆け抜ける。
通りの二つ先のブロックを左に曲がれば目的の建物が姿を現す。

イーピンのイタリアにおける居住地兼、ボンゴレファミリーイタリア本部

(いや、正確には逆よね。本部兼、部下の居住地って方がしっくりくるわ)

スピードは落とさぬまま、自宅と呼ぶには荘厳すぎる正門を目指す。
距離が近づくに従い、ますますもって自宅などと呼べない造りが見て取れる。
更に輪をかけて、門の前には守衛と思しき男が左右に二人。
イタリア最強の名を冠するボンゴレだからこそ、何人たりとも守衛のチェック無しに中に入ることは許されない。
彼女のような上層部の人間は若干のチェック控除があるのだが指紋・声紋認識はしなくてはならない。
ボスであってもIDカードおの提示を徹底しているくらいだ。
事情があろうと流石にここをスルーするわけにもいかない。

(今日ほどこのチェックが煩わしいと思ったことはないわ)

守衛に頼んで見逃してもらおうかとも思ったのだが、そんな説明をするよりも正規の手続きを踏んだ方が早いと概算すると手早く認証を済ませ、 今度こそ一目散に建物までの距離を詰め、自分の部屋に駆け込む。
簡素な造りの彼女の部屋はベットと物書き机しかないような、文字通りこざっぱりしたものだった。
その机の上にぽつんと置かれた携帯電話に手を伸ばすと同時に壁にかけた時計に目をやる。

16時10分

リダイヤルから呼び出そうとした番号を押そうとして一瞬躊躇した。

(・・・・・・間に合わなかった・・・・・・)

今更電話をすべきか迷う。
もう時間は過ぎてしまったのに。
第一、向こうは既に深夜。
間に合わなかったもののために呼び出すには憚られる時間だ。

(でも・・・・)

大切なのは気持ちのはず!
イーピンは勇気を出してボタンを押した。
トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル ――――――

無機質な呼び出し音が耳にいたい。
何コール目まで粘ろうか。
10?20?
国際電話だからもっと待ったほうがいい?
もう寝ている?
出たくないから取ってもらえない?
あぁ、どうしよう!!

既に何度目かわからないコール音がぷつりと途切れた。
しかし何も声が聞こえない。

「・・・・・もしもし・・・・?」
  『・・・・・・・・・・・』

返事はない
切られてしまったのだろうか。
諦めて通話を終了しようとした時。

  『もしもし?ピン?』
「っ!!ヒバリさんですか!?」

ほんの少しの間が空いて

  『そりゃぁ僕の携帯だからね』

呆れたようなヒバリさんの声が聞こえた。
着信を拒否されなくて良かったという安堵と同時に、初めの沈黙が時差によるものだと理解する。
これが国際電話のつらいところだ。

「こんな時間に電話してしまってすみません」
  『・・・・・・・・・・・・別に構わないよ。どうしたの?』
「あの・・・・・もう日付も変わってしまって遅いんですけど、今日・・・というか日本時間の昨日はヒバリさんの誕生日だから・・・・・」
  『・・・・・・・・・・・・それで電話してくれたわけ?』
「結局、間に合わなかったんですけどね・・・・」

イタリアと日本の時差は8時間。
日本の方が8時間先になるので、イタリアで現在5月5日の16時なら、日本は日付変わって6日の0時という計算になる。
時計の針はもう既に16時を過ぎているから、あちらは6日を迎えてしまったのだ。

  『・・・・・・・・・・・・別にそんなこと気にしなくても良かったのに』
「気にしますよ!」
  『・・・・・・・・・・・・忙しかったんでしょ?電話も出来ないくらい』
「そう・・・・ですけど、それはただの言い訳にしかなりませんし」

確かに忙しかったのは事実だ。
3日前からとある任務のために昼夜問わず張り込んでドンパチをかましてきた。
任務中は最悪の事態を想定して私的なメモリーの入った携帯電話は持てない。
ボンゴレに直通しない、最低限必要な連絡先のみが入力されたファミリー支給のものを持つのが規則だ。
本当なら丸一日もあればけりがつく予定とのことだったので請けた仕事だったのだが、予定外のハプニングが重なり3日間も要す事体に。
おかげで今日という日に間に合わなかったわけなのだ。

「ヒバリさんは毎年どんなに忙しくても逢いに来ててくれましたもん」
  『・・・・・・・・・・・・君はどんどん強情になっていくよね』

電話の向こうから、彼の笑う声が聞こえる。

「とにかく!間に合わなかったんですけど、せめてお祝いだけでもと思って」
  『・・・・・・・・・・・・なら、電話越しなんかじゃなく直接言いに来てよ』
「直接・・・・ですか?」
『そう。君の目の前にある窓を押し開いて、僕のところまで飛んでおいで』
「飛んでって、どんなに早くても14時間くらいは掛かっちゃいますよ」
『ピンなら一瞬だよ』
「比喩にしたって言いすぎですよ」
『いいから。窓を開けて飛んでおいで』

と、そこで。
イーピンは違和感を覚えた。
何だろう。
さっきと何かが違う。
けれど部屋の中に何か変化があったわけではない。
それは電話越しに感じた何か。

「ヒバリさん?」
『何?早くおいで』
「っ!?」

変わったのはこのレスポンスの速さ。
国際電話とは思えないスムーズさ。

(まさか!?)

携帯電話を耳に当てたまま、慌ててこの部屋唯一の窓を押し開く。

『「ピンなら飛んでこれるでしょ?」』

右耳は電話越しに。
左耳は直接。
彼の言葉を聴いた。

「っはい!!」

何の迷いもなく。
私は窓枠に足をかけた。
ココは三階。
普通の人なら無理だけど、私になら飛べる高さ。

文字通り、ヒバリさんの下に『飛んでいった』。

「おめでとうございます!ヒバリさん!!」



■■■   ■■■


イタリアから連絡があったのは日本時間の5月4日の早朝。
開口一番の謝罪。
それだけでそちらの状況を把握できた。
もとより、彼が僕に連絡してくる内容など仕事についてか彼女に関することのどちらかしかない。
(それ以外の連絡は彼の中でなかったことにされている。)

正直、この年になって自分の誕生日にこだわりなどなかった。
祝おうが祝うまいが年は勝手に積み重なっていくもの。
仕事で潰れても、一日暇をもてあましても、どちらでも良かった。

ただ、

「ヒバリさん今年は日本にいるんですか?じゃぁそれにあわせて私日本に行きますね!」

まるで自分のことのように、いや、それ以上に喜ぶ彼女の声が愛おしくて。
彼女のために、自分の誕生日を祝ってもいいかなと思った。

だからこの日のためにかなり無理に仕事をこなした。
そんな折に彼から伝えられた現状。
込み入った案件を片付けるため不眠不休で働いていた僕の逆鱗に触れるには十分すぎた。
もちろんそれは誕生日を彼女と過ごせないからとかそういった類のものではなくて、彼女が待ち望んでいた日を潰したことに対して、だ。

まぁ、その点に関しては僕のイタリア一時帰国(+1週間の休暇)で許してあげたけどね。

さぁ。
僕がイタリアに居ると知ったら彼女はどんな反応を示すだろう。



■■■   ■■■


「間に合ったね」
「え?・・・・・あ、確かにイタリアはまだ5月5日ですからね」
「日本時間でも間に合ってるよ」
「だってもう16時過ぎているんですよ?」
「馬鹿だね。今はサマータイムでしょ。だから日本との時差は7時間になるんだよ」
「それじゃぁ今は23時過ぎ?」
「そういうこと」

0時の鐘はまだ鳴っていないんだ。









尻切れトンボな感じが否めない・・・・。

だがしかし、



ヒバリさんおたおめ!!

1週間遅れとか気にしないよ(主にさかきが/死)

あくまでもピンのために誕生日を祝うヒバがコンセプトなので

祝われている感が大変薄いですが。

まぁピンが嬉しけりゃヒバも嬉しかろうってゆー独りよがりなお話でした。



時差を使ったネタは実は正月から温めていたとか内緒です。

サマータイムとか計算こんがらがってマジイラねって何度も叫びましたよ。

日付変更線とかなんだよこのやろー。



ちなみに。

国際電話でドンだけ時差が生じるのか、さかきは全く知りません(笑)

2009/05/11






※こちらの背景は 空に咲く花/なつる 様 よりお借りしています。




※ウィンドウを閉じる※