あいにくの天気に見舞われた今年の節分。
外は冷たい雨が降る。
カーテンの裾を持ち上げ空を見るが相変わらず厚い雲が雫を零すばかりだ。

「残念でしたね」

多分言ってもろくな返事は返ってこないことは知っているけれど、それでもイーピンは一人で喋る。

「楽しみにしてくれる子いっぱいいたのに室内しか使えないからこじんまりしちゃって」

手に持った鬼のお面は自分で作ったお手製のもの。
お世辞にも上手いとはいえないし、鬼の迫力にも欠ける。
でも手作りならではの愛嬌とぬくもりがあって仲間内では好評だったので密かなお気に入りでもある。

「だけど楽しかったなぁ。ちっちゃい子なんてこんなお面でも『こわいー』って言って泣き出しちゃったんですよ」

思わずお面を外して大丈夫よ、怖くないよって言ってしまった。
怖がらせるのが私の役目だったのに。
ツナさんは「イーピンは仕方ないなぁ」って笑って
京子さんは「イーピンちゃんらしいね」って言った。
ランボは本当に子供みたいにはしゃぎ回って全力で豆をぶつけてきたから痛かった。
その後は山本さんが作ってくれた恵方巻を食べて皆で食べた。
今年の方位は西南西。
皆で押し黙って黙々と巻き寿司を咥えている絵はちょっとシュールで
思わず噴き出してしまったら、ソレを合図にするかのように皆で笑ってしまった。
皆おんなじことを思ってたのかも。
結局最後まで黙って食べることなんて出来なくて、最終的にはわいわい宴会みたくなってしまった。
これじゃぁご利益も何もあったもんじゃぁないって思うけれど

『楽しければそれでいいんじゃない?』

ツナさんは申し訳なさそうに笑った。
俺たちはお世辞にも信心深いわけじゃない。
ただイベントにかこつけて皆で遊びたいだけなんだよ。
だから形式なんて本当はどうでもいいんだ。
鬼が可愛くたって、子供が怖がらなくたって、楽しければ福来る、ってね。

まるで子供みたいに笑っていた。

「ヒバリさんも来たらよかったのに」
「群れるのは嫌いだって、忘れた?」
「たまにはいいじゃないですか」
「興味ないよ。節分なんて」

僕には引き寄せたい福も無ければ追い払いたい鬼もいない。
だから関係ない。

「意地っ張り」
「どこが」
「部屋に節分用の豆が置いてあるの私知ってるんですよ」
「・・・・・・・あぁ、あれね」

一瞬怪訝そうな顔をして、それから思い出したように話す。

「草壁が勝手に置いていったんだよ。君がしたがるだろうからどうぞ、って」
「なんだ。そうなんですか?」
「僕が自分で用意したとでも思った?」
「珍しいこともあるんだなぁって思ったのに。ちょっと残念」
「綱吉たちとしてきたんだろう。まだしたいの?」
「ヒバリさんとしたかったんですよ」
「ふぅん・・・・・・・」

少しだけ
ほんの少しだけ
ヒバリさんが笑った。
多分他の人にはわからないくらいの微細な変化だったけれども、それに気がつけるくらいイーピンは雲雀と時間を共有していた。

「じゃ、してあげる」
「え、・・・・きゃぁっ!!」

突然引き寄せられて、抱きとめられる。
抵抗する間もなく膝の上に座らされ、逃げられないように腰に手を回された。

「その代わり、君が食べさせてよ」
「だって、豆はヒバリさんの部屋に・・・・」
「君のポケットに入ってるでしょ?」
「え?」

指し示されたポケットには確かに質量があって。
でも私はこんなところに入れた覚えなんて無くって。
となれば犯人は目の前にいるこの人しかありえなくて。

「・・・・・・はじめっからこうするつもりだったでしょう・・・・・」
「さぁ?何のこと?」

素知らぬ顔で笑う。

「やっぱり素直じゃない」
「君に対しては実直なつもりだけどね」
「ならはじめっから節分したいって言えばいいのに」
「別に豆撒きがしたいわけじゃない」
「じゃぁなんで」
「ただの口実」

恥ずかしがることも無く、平然と言ってのける。

「・・・・・・反則です・・・・そういうこと言うの」
「君に対しては実直って言っただろう」
「もう・・・・・・」

恥ずかしくなってそそくさと豆の入った袋を開けた。
抱かれっぱなしというのも冷静になるとかなりの赤面ものだ。
抵抗したところで離してくれるとも思えないし、ならばさっさと要求を完遂するしかない。
一粒つまみ上げて口元に運ぶ。

「はい。福は内」
「ん」

炒り大豆が砕けてカリッと音を立てる。
続けて二粒目を差し出す。

「鬼は外」
「外じゃなくていいよ」
「?」
「だって、『鬼』は君だろう?出て行かれたら困る」
「・・・・・・・ヒバリさんのバカ・・・・・・」

そういうこと言うの反則って、今言ったばかりなのに。




福は内 鬼も内
(だから節分なんて僕には必要ないって言ったんだ)








現代人にとってイベントごとなんてただの形式だよねって話。

今となっては物事の本質なんてわからなくなってる。

ならば目の前にあることを素直に楽しんだらいいじゃない。

ソレが企業の策略だとしても、なんだっていいじゃない。

幸せならソレでいいじゃない!

今回はヒバリさんが甘あまですな。

まるで別人ww(←ソレ言ったらあかん!

2010/02/03





※こちらの背景は 空に咲く花/なつる 様 よりお借りしています。




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