ファーストキスはレモン味。
そんな話を聞いたことがある。
本当かどうかなんてわからない。
だって
それは突然で一瞬で
味なんて感じることが出来ないくらいに、俺の頭は真っ白になっていたから。
Second Flavor
「・・・・えっと・・・・・」
「う・・・・・うん・・・・」
二人で膝を突き合わせるように座ってから、一体どれだけの時間が経過しただろうか。
10分?1時間?
時間の感覚もわからない。
ずっとこうしているようでもあるし、つい今しがたのようにも感じる。
互いに顔はうつ向け気味で、僅かに頬が紅潮しているようだ。
そもそも、ことの発端はなんだったか。
あぁそうだ。例によってあのお子様家庭教師だ。
あいつが「なんだお前等、まだキスの一つもしてねーのか」なんていうから。
今まで気にも留めなかった『キス』という行為を意識してしまって、どぎまぎしながらどちらともなく
「キス・・・・・してみよっか・・・・・」
とか言ってみて。
そんな具合に話は進み。
しかし手を繋いで歩くなんていうたったそれだけのことにかなりの時間を要したこの二人。
話はとんとん拍子に進んでも、事はそう上手くは運べない。
いざ改めて面と向かえばまともに顔も見れないし、基本が受身体質な二人なものだから、どちらかが切り出すことも出来ない。
何かきっかけになるようなことでもあればよかったのだろうが、あいにく現在所在地である沢田家には家人は居らず。
時計のコチコチ音がやたら大きく聞こえるくらいに静かなものだった。
当の本人たちは飛び出しそうな心臓を抑えることに必死でそれどころではないのだが。
とはいっても、そろそろ二人とも緊張の限界が近い。
綱吉はある考えを言うべきかどうか迷っていた。
正直男としてどうなんだ?と言われかねない案であり、出来ることならばこんなかっこ悪いことはしたくないけれど、
いつ終わるとも知れないこの状況を続けるよりは幾分生産的かと思う。
格好悪いことには慣れてるさ。
そう開き直り、それでもわずかな躊躇を覗かせる声で切り出した。
「・・・・・あの・・・・さ、京子ちゃん」
「うん・・・・・・」
「俺たち、・・・・その・・・・キス・・・・とか、まだしたことないけどさ」
「・・・・・うん」
『キス』という単語を耳にしただけで、赤かった京子の頬が更に赤みを増した。
「でもさ・・・・・・俺、そんなことしなくても、えっと・・・・京子ちゃんのこと大好きだし・・・・・」
「私も・・・・・・ツナ君と一緒に居られるだけで・・・・うん、幸せ・・・・だよ///」
「あ!でも別にキスしたくないとかそういうんじゃなくて!!」
「わかってるよ」
ばたばた手を振るツナを見て、京子が笑う。
「私も同じだから・・・・・」
「うん。だからね、リボーンに言われたからとかじゃなくてさ、
もっとちゃんと二人で照れずに向かい合えるようになった時にしたらいいんじゃないかな・・・・・って思ったんだ。
誰かと比べられるものじゃないし、俺たちのペースでやってこう?」
「・・・うん」
「ごめんね。俺が意気地なしだから」
「いいの。本当のこと言うと・・・・・私もちょっと怖かったから」
強気で押してくれるツナを見たいと思わなかったわけではないが、やはりこの優しさがツナであり、
周りから歯がゆく見られるくらいの関係が自分達の性に合っているように思う。
二人で「これでいい」と決めたのだから、他人になんと言われようが気にならない。
他人にそれぞれやり方があるように、これが私たちのやり方。
今までずっとどきどきしていたのが嘘みたいに二人の心は軽くなった。
「俺、飲み物もって来るね。ちょっと待ってて」
「ありがとう」
普段通りに接することが出来るようになった二人の表情は明るい。
勢いよく立ち上がったツナは階下のキッチンに向かった。
慣れない手つきでグラスを用意し、冷蔵庫を開ければ今日のおやつにと取り置かれたシュークリームを見つける。
ランボやイーピンの分を差し引いても数は十分に入っていたのでそれも一緒にお盆に載せた。
カチャカチャ危なっかしい音を立てながら急いで階段を上り、自室の扉を開けた。
「あ、ツッ君」
「・・・・・・え?」
間抜けな声をあげ、思わずお盆を落としかけた。
「え?・・・・え?えぇ!?!?!?」
ほんの数分前まで京子がいたはずの場所にちょこんと座っていたのは、亜麻色のロングヘアーの女性。
もちろんツナは逢った事もなければ見たこともない女性だった。
ただ、どことなく面影があって・・・・
「きょうこ・・・・ちゃん・・・・?」
「・・・・・そっか、ここツッ君の部屋だね」
当たり前のことを当たり前に返された。
キョロキョロと部屋を見回す仕草は、確かに京子そのものだった。
「あ、並中の制服だぁ。なつかしー。私が23だから今は中二かな?」
壁に掛かった俺のブレザーを見つけ、ロングヘアーの女性はきゃっきゃと笑う。
この無邪気さ。
屈託のないこの笑顔。
間違いない。
この人は笹川京子だ。
ツナの直感が正しければ、おそらく10年後の。
一体どんな経緯で京子とこの女性が入れ替わったのかはわからないけれど。
「あの、貴女は京子ちゃん・・・・・笹川京子、ですよね?」
「そうだよ。ツッ君まだ身長このくらいしかなかったんだね。なんかへんな感じ」
ぽかんと間抜けな顔を曝して突っ立ったままのツナを見かねて、京子はお盆を受け取りテーブルの上に置いた。
そしてツナのことを頭のてっぺんからつま先までじっと見つめると、くすっと小さく笑う。
確かに、向かい合って立ってみれば彼女の方が頭半分くらい背が高い。
これが10年の時間。
身長だけではない。
長く伸びた髪も
大人っぽくなった顔立ちも
可愛らしさだけでなく女性を感じさせる雰囲気も
総てツナの知らない京子だった。
10年という年月を嫌でも感じさせる。
10年という年月の後も、自分はこの人と一緒に居られているのか不安になる。
どうしようもない不安からツナは彼女に問おうと口を開こうとした。
しかしそれよりも早く、彼女が話し始める。
ツナの正面に立ち、臆面も見せずに真っ直ぐに瞳を覗き込んで。
今までこんな風に向かい合ったことなんてなかったからものすごく恥ずかしいのだが、あまりにも真っ直ぐすぎて目が離せない。
「不思議だね。いつだって私の前に立ってたツッ君は私よりも大きかった。
あの頃も、今もそう。大きな手で引っ張ってくれた。
私の方が大きいことなんてないと思ってた。
中学生の頃の私なんて、何にも出来なかった。何も知らなかった。
ただただ、私を守ってくれるツッ君の背中は大きいな、って思ってた。
でも、それは違ってたんだね。
こんなに小さな背中で、一生懸命私を守ってくれたんだね。
ありがとう、ツッ君」
女性は、10年後の京子はふわりとツナの体を抱きしめた。
揺れた髪から花の香りがした。
今の京子とは違う香り。
どこか懐かしいようで、優しい香り。
「ねぇツッ君。今日が何の日か知ってる?」
耳元で京子の声がした。
「今日はね、私とツッ君が初めてキスした日なんだよ」
そういって、京子は唇を落とす。
合わせるだけの口付けを。
「!??!?!??」
「やっともらえた。ツッ君のファーストキス」
えへへ、と照れくさそうに笑う。
ツナは何が起こったのかもわからず頭が真っ白でパニック状態。
言いたいことがあるはずなのに口はパクパクするだけで肝心の言葉は何一つ出てこない。
すると突然
ボンッ!
低い音の爆発音が響いたかと思うと、今度は10年前の京子が居た場所に紛れもなく現代の京子が姿を現した。
その顔は明らかに紅潮しており、唇に手を添えたまま上の空になっている。
「きょ、京子ちゃん!!大丈夫だった!?ケガとかしてない!?」
「っ!!・・・・ツナ君」
両肩に手を添えて揺さぶると、一度ビクっと身体が揺れた。
ツナの顔を見るなり、かぁっと効果音が聞こえるのではないかと思うほど顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「・・・・・あ・・・・・あのね・・・・・ツナ君・・・・・」
もじもじとしながら、歯切れ悪そうに言葉を紡ごうとする京子。
一体何があったのかとツナは気が気でない。
「ツナ君にね・・・・・・今よりもずっと大人になったツナ君が目の前に居てね、・・・・・・キス・・・・・されたの・・・・」
「・・・・・え?」
「ごめんね!!なんか、わけわからなくなっちゃって、あぁツナ君なんだなって思ったら抵抗しようとも思わなくって」
何してんの10年後の俺っ!!!
ツナの叫びはもはや声にもならなかった。
京子は京子で、ごめんねと何度も何度も繰り返す。
「いや・・・俺こそ、10年後の俺がごめん・・・・・」
なんと言って声を掛けたらいいのかもわからない。
加害者であり被害者だなんて、やり場のないこの怒りを一体どこに向けたらいいのか。
「それに・・・・・俺も・・・・・10年後の京子ちゃんにキス・・・・されたんだ」
「・・・・私が?」
「・・・うん。気がついたらされてた・・・・って感じだけど」
二人して奪われたファーストキス。
その相手が未来の自分だというのだからそれは奪われたことになるのかどうなのか。
気分的には他人に奪われるよりもタチが悪いと思う。
「あの、さ。京子ちゃん」
「?」
「さっき、俺たちのペースでしていったらいいって言ったばっかりだけど・・・・・その、・・キス・・・してもいい・・・?」
ツナとしては今までに出したことがないくらいの勇気を振り絞って言葉を続ける。
「ファーストキス・・・・じゃなくなっちゃったけど、こんな形で奪われたままなんて嫌なんだ」
「ツナ君・・・・」
「わけのわからないままじゃなくてさ、ちゃんと・・・・したいんだ。・・・だめ・・・・かな・・・・?」
「・・・・・いいよ。私もちゃんとツナ君としたい」
そういって京子はそっと目を瞑った。
二人とも先ほどと同じくらい心臓がバクバクしていたけれど、今度は途中でやめようなんて思わない。
先ほどされたのを思い出しながら、静かにお互いの唇を合わせた。
ファーストキスはレモン味。
そんな話を聞いたことがある。
本当かどうかなんてわからない。
だって、それは突然で一瞬で、味なんて感じることが出来ないくらいに、俺の頭は真っ白になっていたから。
だけど、セカンドキスは確かに甘酸っぱかった。
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「ふふ。10年越しのファーストキスだね」
「俺はなんか犯罪犯してるみたいで気が引けたけど」
「でも、ツッ君もしたんでしょ?」
「ま、ね。やっぱり彼女のファーストキスは貰っておきたいから」
でもね
「俺はやっぱり、京子ちゃんとするのが一番好きだな」
「私も。ツッ君とがいい」
「・・・・・過去の自分には悪いことしたと思うけど、まぁこれで仲が進展したと思えばかな」
「初めて二人でしたとき、ツナ君すっごく震えてたね」
「・・・・・思い出したくないな」
「私は嬉しかったよ。ツッ君がしようって言ってくれて。私も震えてたけど、でも嬉しかった」
「じゃぁもう一度しようか」
「うん!」
何度でも君に捧げよう。
この気持ちが余すところなく君に伝わるように。
100度目のファーストキスを君に
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「あ、でもなんで京子ちゃん10年後に・・・・・」
「・・・・・ベットの下にランボ君のがあって・・・・・・」
答えにくそうに京子が訳を話す。
「それをいじっているうちにあんなことに・・・・・」
「ランボのやつちゃんと片付けしろって言ってるのに!!・・・・・でも、ベットの下・・・?」
普通であればそんなところに置いている物になど気付かないだろう。
そこを探そうとでもしない限り。
「・・・・・・・花にね・・・・・男の子はベットの下にエッチな本隠してるって聞いたから。ツナ君はどうなのかな・・・・と思って・・・・」
「・・・はははははは・・・・・・・」
まさかそんなチェックがファーストキスのきっかけになるなんて、世の中何がどう転ぶかわかったもんじゃない。
なんだこれ・・・・ほのぼのじゃない。
ただの甘甘だ・・・・・げふげふ。
当サイト、ツナ京の初キスを【天つ風】の綸さんに捧げます!
いらないって言ったって押し付けるんだから!!(なんて迷惑)
相互リンク、ありがとうございました!!
今後とも宜しく御願いします!
2009/09/06
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。