「ツナ」
彼の声はいつでも優しい
「ツナ」
俺は今までそんな彼に甘え続けてきた
「ツナ」
でも
終わりにしよう
とても優しい彼だから
とても大好きな彼だから
俺は
さよなら大好きな人
「山本…」
ん?
彼はあどけない表情を浮かべる
彼の気持ちは知っている
俺は彼の気持ちに付け込んで今まで誤魔化してきた
彼は優しいから
彼はとても優しいから
俺は彼を傷つけ続けてきた
それも今日で終わり
今
開放してあげる
ごめんね
ごめんね
ごめんね
君の苦しみはここで終わるよ
今までごめんね
本当にごめんね
「山本…俺のこと好き…?」
彼は驚いた顔をする
けれどすぐに俺の頭をくしゃり撫でて笑ってくれた
本当に優しいね
山本は
何でこうなっちゃったのかな
何で俺を選んだのかな
「好きだよ」
何の臆面もなく彼は告げる
真っ直ぐに俺を見て答えをくれる
優しすぎる
俺には
重すぎる…
「俺もね」
いすに座る彼の前に立ち
そっと彼の頬を両の手で包む
「山本のこと…好きだよ」
そっと合わせる
「山本が大好きだよ」
山本のと俺のが重なる
「本当に本当に大好きだよ」
重ねられた額がこつんと音を立てる
「ツナ」
彼の大きな手が俺の頬に添えられる
「泣くな」
ちょっとかさついた彼の手が俺の目元を拭う
あぁ
なんで
俺はこんな時にまで彼の優しさに触れてしまうのだろう
ごめんなさい
ごめんなさい
謝って許されることじゃないけど
きっと彼は許してしまうだろうけど
それでも
ごめんなさい
「山本…」
「何だ?」
「俺、山本が山本で本当によかったと思ってる」
「俺も、ツナがツナでよかったよ」
合わさる額だけがいやに熱い
涙が溢れてしまいそうだ
でも
ダメだ
俺はいつまでも甘えていてはいけないんだ
決めたのだ
誰でもない
自分の為に
「山本、ありがとう」
ごめんなさいは言わない
「俺を好きになってくれて」
この場にふさわしくないと思うから
「俺、すごく嬉しい」
俺が言うべきは謝罪ではなく感謝
「一生の誇りに思う」
言い尽くせないほどの想いがここにある
「ありがとう」
こんな言葉じゃ足りない
「ありがとう」
俺が抱く彼への想い
「ありがとう」
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
「ツナ」
彼が俺を呼ぶ
「笑って」
あの優しい声で
「笑ってるツナの顔が好きなんだ」
唇の端を持ち上げる
上手く笑えただろうか
俺は彼に何も返せない
沢山のものを貰ったのに何一つ返せやしない
せめて
彼が望むものを
俺の笑顔を望むのなら
「ん。やっぱこっちの方がいい」
ずっと笑っててくれな?
彼は穏やかに笑う
優しく
俺の罪すら包み込んで
優しく
本心を偽って
笑う
結局
俺は最後まで彼の優しさに甘えてしまったのだ
情けない
不甲斐無い
やるせない
本当にこんな俺でごめん
ごめんね
「好きだよ、ツナ」
「うん」
大好きだよ
ずっとずっと大好きだよ
ごめんね
山本
「「好きだよ」」
重なる声
重なる額
重なるぬくもり
けれど
重ならない想い
俺は彼の気持ちを知っている
彼は俺の気持ちを知っている
二人の想いは重ならない
どこまで行っても平行線
それでも
彼を繋ぎ止めたいと思う俺は残酷だった
酷く彼を傷つけてきた
終わりだよ
もう君は自由だ
俺は君を束縛しない
さようなら
俺の大好きな人
俺の親友
きっと君のような優しい人はもう現れない
だから君をいつまでも好きでいられる
俺はいつまでも君を好きでいるから
どうか
どうか
泣かないで
優しい笑顔を俺に向けて
君に涙は似合わない
俺がそうさせたのだけれど
やっぱり
泣いてほしくないんだ
わがままでごめん
力がなくてごめん
気持ちに応えられなくてごめん
「帰ろう」
俺には君を抱きとめることしか出来ない
けれど
抱きとめることは出来るから
もしまた君が立ち止るような時には
俺を思い出して
背中を押してあげる
守られてばかりの俺だけど
君のことを守るから
「もう遅いもんな」
帰るか
立ち上がる彼はやっぱり逞しい
頭一つ分違う身長
なのにどうしてだろう
とてもとても
小さく見える
脆く
儚く
崩れ去ってしまいそうな
彼の背中を
俺は守りたい
たった一人の親友だから
大好きな
優しい
山本を
俺は守りたい
君の気持ちに応えられない分まで
俺は山本を守りたい
「ツナ」
何?
「俺たち親友だよな?」
あぁ
あぁ
俺はまた酷い言葉を言わせるのか
彼の気持ちを踏みつけてしまうのか
本当に
彼は優しい
とても
彼は優しい
だからまた
俺は彼の優しさに甘えてしまう
俺を親友と呼んでくれるの?
君の気持ちを受け取らなかったこの俺を
まだそばに居させてくれるの?
ごめんね
ありがとう
大好き
いつあって山本のことが大好きだよ
「親友だよ」
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
いつまでも君の幸せを切に願う
親友として君に幸せが訪れんことを
ただ
ひたすらに
願う
なんですかコレは。
お互い好き好き言い合いやがって、打つ方の身が持ちません。
てか、こんだけ言ってるくせに両思いじゃないんです。
まぁとりあえず解説てか補足行きます。
ハイ。
皆様お察しの通りでございます。
山ツナでもツナ山でもありません。
コレは山本からツナへの一方的な愛です。
山本はツナが恋愛対象として好きなのに対し
ツナは親友として山本のことが好きなのです。
だから言葉にしてしまうとお互いに「好き」を言い合っているわけです。
同じ言葉なのに使う人によって「好き」のニュアンスが異なる。
言葉って不思議です。
ツナは山本が恋愛対象として自分を見ている事を知っています。
もちろんツナにはその気はありません。
突き放してしまえばそれでよかった。
拒絶してしまえばこんなことにはならなかった。
けれどツナにはそれが出来なかった。
たった一人の親友を失うことが怖かった。
初めて出来た親友を傷つけたくなかった。
だからツナは山本の気持ちに気付かない振りをするしかなかった。
結果として山本を生殺しの状態でそばに置くことに。
返事を無理強いしないのをいいことに親友という囲いに彼を縛り付けてきた。
山本も山本で、ツナが親友以上の感情を持ってないと知っている。
それでもそばに居られれば、と。
ツナの隣に立てるなら、と。
自分の気持ちを押さえつけてきた。
自分を偽る自信もあった。
どこかでツナの拒絶を期待しながら。
せめてはっきり振ってくれたら諦めもつくのに、と。
先に耐えられなくなったのはツナ。
自分が山本の立場ならとそうぞうして行動の残酷さに気付く。
親友を失うことになっても山本を救いたい。
今まで傷つけた分を償いたい。
とうとう決心する。
真正面から向き合って告げる自分の気持ち。
「好き」
こんな言葉で逃げる自分は汚いと思いながらもツナにはこれが精一杯で。
山本もこの言葉に恋愛感情がないことはわかっていて。
同じ言葉でツナへ想いを告げる。
愛しているの想いを乗せて。
同じ言葉。
されど言葉に課せられる意味は異なり。
いつまでも想いは平行のまま。
やっぱり誰も救われない。
山本、相当無理してるんだろうな。
還元されない想い。
それでもそばに居たいと思える人がここに居る。
ねぇ
山本はそれで幸せ?
いつか幸せになってほしい。
さかきも山本の幸福を切に願います。
ハッピーエンドがまだ見えない。
ごめん、山本…。
2005/某日
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。