私の両親は、いわゆるマフィアのボスだった。
だった、というのは実に正確な表現で。
今まさに、両親の死を聞かされた。
私はまだ『死』というモノがどういうモノかわからないけれど。
義兄は『二度と逢えなくなることだよ』と教えてくれた。
二度と逢えないということも、実のところ私には上手く想像出来なかったけれど。
義兄がとても悲しい顔をしていたから、きっととても悲しいことなんだと思う。
それから、義兄はこれからについて話した。
私は両親の後継としてマフィアのボスにならなければいけないのだという。
ボスというのは、ひっくるめれば、みんながお仕事に困らないように取りまとめる偉い人のことらしい。
とはいえ、子供の私にいきなりそんなことが出来る訳もない。
なので、私が高校を卒業する頃、つまりは18歳までは義兄が代わりにその仕事をしてくれるのだという。
それまでに私はボスとしての生き方などを学ぶらしいのだが、ならいっそ義兄がボスになればいいのにと思った。
進言すると、義兄は苦笑いをする。
「側室の子である俺が、正室の子である君を差し置いてボスにはなれないよ」
血の繋がりがそんなにも大事なことなのだろうか?
私にはよく分からなかった。
小首を傾げていると、義兄は「もう一つ」と話し出す。
私にボディーガードをつけるというのだ。
ボディーガードというのが、いろいろな危険から守ってくれる人のことだとは知っていた。
けれど、どうして私にそんなモノが必要なのだろう。
「これから先、君はとても多くの人から命を狙われることになる。
元より敵対するマフィアはウチを潰す恰好の機会だと思うだろうし、両親が残した多額の遺産や後継の座を巡って内々からも狙われるだろう。
第二後継者である俺が代行を務めることで多少の牽制は出来ると思うけど、それでも第一後継者である君が一番危険に晒される。
血で血を洗うような、醜い争いが続くことになる。
それは君が悪いとか、そういうことじゃなくて、君を取り巻く環境がそうさせてしまったんだ。諦めて受け入れろとは言わない。けど、事実なんだ」
義兄の話は難しかった。
半分も理解できなかった。
それでも、いろいろな人から命を狙われるからボディーガードが必要なのだと言うことは理解できた。
一つ理解できた代わりに、一つ浮かんだ疑問を義兄に投げかけた。
「義兄さんも、私を殺すんですか?」
義兄は困った顔をした。
私が死ぬことで手に入る権力や財に最も近いのは義兄だ。
義兄も、私の死を望んでいるのではないだろうか。
「こんな話をした後じゃ、何を言っても嘘臭く聞こえるだろうけど・・・・・・」
まっすぐに私の目を見て、義兄は言う。
「義妹を手に掛けてまで欲しいとは思わないよ」
けれど、と続ける。
「この言葉を、君は信じなくていい。
俺ですらいつかは裏切るかもしれないと疑っていていい。
むしろその方が安全だ。
君がこれから先信じていいのはただ一人。
俺が選出した一人のボディーガードだけでいい。
彼だけは、君を裏切らない。
彼は彼の意志のもと、結果として君のそばで君を守り続ける。
全ての危険は彼が遠ざける。
必要なことは彼から学べばいい。
この世界で生き抜くための知恵を、彼はイヤと言うほど知っている」
私が唯一信じていい相手・・・・・・
「誰なんですか、その人は」
義兄は私の手を引いて奥の部屋へと導いた。
扉を開けると、ソファーには黒髪の人が我が物顔で寝転がっていた。
「起きてください」と義兄が言うと、至極面倒くさそうに体を起こす。
緩慢な物腰とは打って変わり、ギラリと光る目が私を見た。
思わず体が竦み、義兄の後ろに隠れた。
「・・・・・・ふぅん、ソレがそうなの?」
「はい」
「君、名前は?」
私から目線を外さずに聞くので、義兄の後ろから少し体を外し名乗りを上げる。
「・・・・・・イーピン・・・・・・」
「ふぅん、そう」
人の名前を聞いておいて、その人は名乗るそぶりもなかった。
代わりに義兄を仰ぎ見る。
義兄はしゃがんで私の目線にあわせて目の前の人物を紹介した。
「雲雀恭弥。最強の殺し屋と謳われる男。これから、君が信じていい唯一の相手だよ」
「ヒバリ・・・・・・さん・・・・・・」
たった今聞いた名前を反芻する。
もう一度その人を見やる。
その人は、これからとても面白いゲームを始めるかのような目をし、私にこう告げた。
「互いの利潤のため、君を守ってあげるよ」
それが、私とヒバリさんの出会い。
私が9歳、ヒバリさんが20歳の時のことだった。
マイ・ボディーガード
#0 始まり
というわけで唐突に始まるヒバピンボディーガードパロ。
どうしてこうなったかの経緯やら
義兄が誰なのかとかは次回に書けるかな?
妄想満載な設定のもとにお送りするお話ですが
よかったらおつき合いください。
2012/01/10
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。