この話はヒバピン年齢逆転パロになります。
雲雀17歳(高2)、イーピン27歳(院1)のころのお話。
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窓辺から身を乗り出して夜空を見上げる。
先ほどまで確かにそこで輝いていた月が、光を失った。
その実体はあるのに、煌々と輝かない月というのは広大な空における違和感のようにも思えた。
窓辺から体を離し、振り返る。
「月蝕、見ないの?」
「うん」
「次見られるの三年後らしいよ」
「へぇ」
「興味ないんだ」
「・・・・・・無いわけじゃないけど」
手にしていた分厚い図書をパタリと閉じる。
開け放たれた窓から入り込む外気に耐えるため、胸元まで引き上げていた布団をことさら引き上げ、口元まで覆い隠した。
「なんか・・・・・・怖いもん・・・・・・」
震えたように見えたのは、目の錯覚だろうか。
「あるはずのものが見えないのは怖い。
見えているのに見えていなのは怖い。
確かだと思っていたものが崩れてなくなるみたいで、怖いよ」
布団の中で手が動いた。
両の手で自分の体を抱きしめたらしい。
そこでようやく未だ開け放したままだと思い出し、窓を閉めた。
優に20分近く開け放たれた窓は、室内の暖かな温度を完全に夜空に吸い上げられていた。
「見えなくなった訳じゃないし、なくなったわけでも無い。ただ、陰に隠れただけでしょ?」
怖がる必要がどこにあるだろう。
「月だから、怖いのよ」
壁の向こうの月を見ているのだろうか。
つ、と。
視線を持ち上げた。
「月は、唯一の光源だった。街頭も何も無い中で、そこが暗闇ではないと教えてくれる光。それが隠されるって事は、きっとすごく怖いこと」
今日のような満月ならなおさら、と彼女は続けた。
「照らし出してくれていた全てのものが突如として闇に還る。誰もが震え上がったに違いないわ」
君のように?
そう問いかけかけた口を噤んだ。
代わりに、一切の明かりを奪われた姿を想像しようとしてみたが、いまいちわからなかった。
「こうして『綺麗』とか『神秘的』とか言えることはきっと幸せなことなんだわ。
月というものがどういうものかわかっていて、隠されたものがいづれ戻ってくるとわかっているからこそ、楽観できる証拠だもの」
今度はとうとう、頭まで布団を被ってしまった。
「けど、もし戻ってこなかったら?ずっと隠されたままだったら?
唯一を奪われたら、どうすればいい?朝が来なかったら?
このまま、夜しかなかったら?
もう二度と、光など差し込まないかもしれないとよぎったら・・・・・・畏れるしかない」
そんな不安をばかばかしいと一蹴できなかった時代は確かにあって。
今だって、確約など出来ないだろう。
有って当然だと思っていたものが一瞬にして奪われる。
事実、そういうことは起こりうる。
いくつもの現象を目の当たりにしてきただろう。
科学などという客観ではなく。
経験と体感で、身をもって味わってきたはずだ。
だから、畏れた。
きっと、畏れとは、事実に対するものではないのだ。
『起こるかもしれないこと』という、想像が引き起こす怖さだ。
不確かだから怖い。
怖いから、予兆を畏れる。
事実などはどうでもいい。
ホンの僅かでも不吉をもたらす可能性を排除したいと思うことはきっと、生物としての本能に近い。
(あぁ、だから・・・・・・)
電気を消す。
カーテンは開けたままだったが、陰に蝕まれた月の明るさなどどこにもなく、室内を闇に満たした。
彼女を覆おう布団を剥ぎ、手探りで彼女を探す。
指先に触れたのは腕だった。
そこから辿って冷えた体を、寄せた。
「・・・・・・ヒバリ君・・・・・・?」
(触れたいと、思うんだ)
見えないから、触れて確かめたい。
自分の感覚だけを信じて、そこに有るのだと言い聞かせたい。
「夜に・・・・・・人肌恋しくなるのがわかった気がする・・・・・・」
ささやくようにつぶやくと、彼女が笑った。
「どうしたの?急に」
例えば。
朝起きて。
隣にいるはずの君が、突然居なくなったとしたら。
「・・・・・・んっ、ヒバリ君、ちょっと痛いよ」
当たり前に居てくれた君が、居なくなったとしたら。
「月が・・・・・・戻るまで・・・・・・」
こうさせて欲しい。
その姿を、目で見て確かめられるようになるまで。
体温に、輪郭に、触れさせていて欲しい。
たぶんそれは。
僕が生まれて初めて感じた、畏れだった。
触れる理由
年齢逆転パロのヒバピンでした。
皆既月食、ギリギリだったけど何とか見れた。
すぐに厚い雲に覆われてしまった上雨まで降り出したので
見れなくなっちゃったけど。
月を見ながら思ったことを書き連ねてみた。
日付変わる前に書きあげたかったけど思いのほか時間掛かったぜ。
それにしてもこんなテーマで書くの何回目だろうね!
「月(夜)と畏れ」というテーマは好きなんだ。
2011/12/11
※こちらの背景は
clef/ななかまど 様
よりお借りしています。