先に言っておく。
別に僕はバレンタインなんてものに浮き足立つような人間ではない。
そもそもバレンタインなんて日本人の大半に縁も所縁も無い行事だ。
チョコレートメーカーの参謀によって形骸化したものに何の意味があると言うのか。
本質を有しているならまだしも、何のための祭りであったかも忘れたものに意味など無い。

だから、別にチョコが貰えなかった事とかはどうだっていい。
負け惜しみとか、強がりとかではなく、本当にどうでもいい。

どうでもよくないのは。

ピンが全力で僕のことを避けていると言う事実だ。


おかしいと思ったのは2月10日くらいから。
話しをしていてもどこか上の空だった。
11日になるとおかしさは更に増していた。
声を掛けると驚いて飛び上がった。
12日にはそれがより顕著になる。
明らかに僕のことを避けている様子が見て取れた。
声を掛けても最低限の返事しかしてこなかった。
13日は100mも先にいる僕を目ざとく見つけては逃げ回っていた。
追いかけてやろうかとも思ったが、いたちごっこにしかならなかったので諦めた。

14日には、とうとう姿を見かけることも無かった。

さて、何かピンの気に障るようなことでもしたかと心当たりを探ってみるが、もちろんそんなものなど無く。
仕方がないから綱吉を締め上げて理由を問いただすと

「15日、いや16日になればわかりますから!だから俺に八つ当たりするのはやめてくださいっ!!」

半泣きになってそんなことを口走った。
僕が知らないのになんで綱吉がピンの行動の理由を知っているのかと言うことにイライラしてたこ殴りにしてやった。
よく考えたらピンは今沢田家に居候しているのだった。
知っているのは当然だ。


さて、そんな経緯で迎えた2月15日。

いい加減避けられ続けることに辟易していたので今日こそはピンを捕まえて理由を吐かせてやろうと思う。
先日の教訓を生かし、家から出てくるところを捕まえることにする。
早朝、新聞を取りに出て来た綱吉と目が合う。
人並みの礼節は持ち合わせている僕だったから、「やぁ」と声を掛けた。
まるで見たくないものを見てしまったかのように、ものすごい勢いで目をそらされた。

「・・・・・・・・・・おはようございます・・・・・それじゃぁ・・・・・」
「・・・ちょっと」
「言いません!イーピンには何も言いません!俺は何も見ていません!!」
「・・・・・・・・・」

目を合わせることも無く家の中に飛び込んでしまった。
どうせなら家に招き入れてくれればいいものを。
本当に使えない。
後で咬み殺してやろうと心に留める。
2月の早朝の空気は身に染みる。


朝日もすっかり昇りきり、ようやく街に活気が出てきた頃。
沢田家の玄関が開いた。

「いってきまーす」

明るい、はつらつとした声が聞こえる。
目を向ければ、一人の少女がこちらを背に家人に声を掛けているところだった。
少女越しに、手を合わせる綱吉の姿が見えた。
しきりに「ごめんな、イーピン。俺にはどうすることも出来なかったんだ」と言っている。
まるで妹を鬼にでも差し出すかのようだ。
誰が鬼だ。

「ピン」

声を掛ける。
とたんにビクリと体を震わせる。
おそるおそる。
まさにその言葉がふさわしい動きで、おそるおそる振り返る。

「・・・・・・・・・ヒバリ・・・・・さん」
「それ以外の何に見える?」
「あ・・・いや・・・・・その・・・・・」

恨めしそうに綱吉を振り返るが、振り返るよりも早く玄関の扉は天岩戸の如く堅く閉ざされた。

「ツナさんの裏切り者っ!!」
「俺は何も言ってないよ!ただ黙ってただけだ!」
「それを裏切りって言うんです!」
「俺が雲雀さんに逆らえると思うのかよ!」
「思いませんけど、思いませんけどそれでも兄ですか!?」
「兄である事よりも俺は命の方が大事なんだ!許して!!」
「うらぎりものぉぉぉっっっ!!!」

などと言うやり取りを聞いたところで。
逃げられ続けた少女の首根っこを捕まえた。

「ひゃぁぅあっ!?」

色気もへったくれもない声が上がる。
酷いもんだ。

「・・・・ヒ・・・・・ヒバリさん・・・・」
「何してるの。バイト、遅れるよ」
「あ・・・・・・・・はい・・・・・・・」

腕時計を確認して、本当に時間が押し迫っていることを知ると、逃げようとすることも無かった。
この点だけに関しては逃げなかった彼女を褒めてやりたい。


■■■


ピンのバイト先である楽々軒まで、肩を並べて歩く。
正確には、ピンが僕の半歩後を申し訳なさそうに俯いて。

「それで?」
「・・・・・・・」
「なんで避けてたわけ?」
「・・・・・・・」
「なんでだんまりなのさ」
「・・・・・・・」
「ピン」
「・・・・・・・はい・・・・・」

おずおずと、やっぱり申し訳なさそうに口を開くがどうにも上手く回らないようでもごもごと言いよどむ。
何をそこまで言いにくいことがあるのか。
僕はただ、僕のことを避けている理由を聞いているだけだ。
嫌いになったならそう言えばいい。
別れたいのならそれでもいいだろう。
もちろん僕自身にはそんな後ろ暗いことも、誤解をさせるようなこともしているつもりは無い。
しかし、そんな風に思わせるこちらにも非はあるのだから遠慮することは無い。
隠れて不徳なことをされる方がよっぽど酷いことだ。

「避けていた理由。端的に答えてくれるね?」
「・・・・・・・・楽々軒はですね・・・・・10日締めなんです・・・・・・」
「は?」

何の話だ。
何故ココで楽々軒なのだ。

「それで、15日払いなんです・・・・・・」
「えっと・・・・・ピン?」
「あの!今日お給料が入ってから急いで準備しますから!」
「・・・・・・・何を?」
「だから・・・・・バレンタインの、チョコ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

今度は僕が閉口する番だった。
ホントに、何も言えない。

「一月は何かと物入りで、今月ジリ貧なんです・・・・・」
「はあ・・・・・」
「本当は昨日渡したかったんですよ!?でもホント、チョコ買う余裕なんて無くて」
「あぁ、うん・・・・・」
「なんならジャンプしましょうか!?今十二円しか持ってないからいい音なんてしませんよ!」
「しなくていいよ・・・・・」

つまり何か。
バレンタインにチョコが渡せないというくだらない理由で僕は避けられていたのか。
何もかもがくだらなすぎる。

「言ってくれればよかったのに」
「・・・・・・女の子のプライドです・・・・・」
「プライドで避けられるこっちの身にもなってよ・・・・・」
「プライドには換えられません」

きっぱりと言い切ったピンは男前だ。
そんな子に育てた覚えはないんだけどな。

「・・・・チョコなんていらないから」
「甘いの嫌いでしたっけ?」
「そういう問題じゃなくて」
「他のものがいいですか?なんでもいいですよ。なんてったて今日はお給料日なんで!」

そんなこと言って、来月またジリ貧になったらどうするつもりだ。

「・・・・・・・・ラーメン・・・・」
「え?」
「寒いからラーメンがいい。もちろん君の奢りね」
「はい!サービスでナルトをハート型にしてあげますね」

・・・・・うん。そんなサービスいらない。




恋心は豚骨スープに溶かして








バレンタインなのに甘くなーいww

世間一般とはどうにもずれているほのぼのカップルでした。

しかしタイトルが最強にセンス無いことに笑ってしまうww

2010/02/15





※こちらの背景は iz/iku 様 よりお借りしています。




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