ペタペタと。
足音を隠す素振りなど微塵も感じさせない足取りがこの部屋に向かっている。
時々ケラケラとした笑い声すら聞こえるのだが、別に怪奇現象でも何でもない。
そういうことをしそうな人間に心当たりがある。
本に落としていた視線を上げ、後10数秒で開かれるだろう襖の方に目をやった。
直感して、ろくなことが待ってないことは容易に想像が付く。
そもそもにして、こんな時間の来訪者があること自体がどうかしている。
今何時だと思っている?
―――深夜、3時だよ?
常識的に考えて良識のある人間が訪ねる時間じゃない。
この僕相手にこんなことができるのは、よほどの馬鹿か、命知らずか、あるいはただ一人の少女か。
足音は襖の前でぴたりと止んだ。
いっそこのまま通り過ぎてくれてもよかったのに、と思うのは薄情すぎるだろうか?
いや、決してそんなことはない。
常日頃の僕の苦労を理解すれば、誰だって僕の味方をするだろう。
つまり、それくらい、この・・・・
「ひっばりさぁん〜!呑んでますかぁ〜?」
酔っぱらいを相手することは、至極苦痛なのだ。
ノッキング・ダウン・ナイト
「・・・・・・・・・君、今何時か解ってる?」
「え〜〜っとぉ・・・・・・、さぁ?」
呻くように尋ねたその真意に彼女は気づくこともなく、ケラケラ笑って返す。
「深夜三時なんだけど」
「へぇ〜」
「普通こんな時間に訪ねるなんて、常識じゃ考えられないんだけど?」
言外に「帰れ」とのニュアンスを含めて、半眼で睨みを利かせる。
それなのにイーピンは怖じ気付くどころかプッ!と吹き出した。
「常識のかけらもないヒバリさんがぁ、常識を語るなんてちゃんちゃらおかしーですよぉ」
その常識知らずに常識を諭される皮肉は、酔っぱらい相手には気づいて貰えなかった。
「だいたい〜、ヒバリさん起きてるしぃ、なぁんにも問題無いじゃないですかぁ」
「・・・・・・寝てても叩き起こすくせによく言うね?」
「寝た振りしてる時だけですぅ〜」
「その寝た振りをしている人間の口に問答無用で一升瓶つっこんでくれたのはどこの誰?」
「しりませ〜ん!」
「この・・・・・っ」
「私がつっこんだのは四合瓶ですもーん」
あっけらかんと言ってくれるが、似たようなものだろうが。
しかも、しかも、だ。
「そもそも僕が下戸だって何度言ったら覚えてくれるわけ?」
急性アルコール中毒で緊急搬送されたことは僕の記憶に新しい。
だが残念なことに、彼女のアルコールに犯された脳はきっちり綺麗に忘れてくれているらしい。
全く持って質が悪い。
「だめですよぉ!苦手だ、出来ないって逃げてたら克服できるものも出来なくなっちゃうんですよぉ」
「別にお酒なんて呑めなくってもいいよ」
「だめですぅ!どこかの偉い人だっていってましたよぉ〜?『アルコールを楽しめない人は人生の八割損をしている』って」
「どこの呑んだくれの言葉?」
「だからぁ〜イーピンさんは、ヒバリさんがお酒を飲めるようになるためにぃ、こうして日夜がんばっているのでありますっ!」
僕の言葉を華麗にスルーして取り出したのは、例の四合瓶。
それも中身のほとんど減っていない真新しいものだ。
そんなもの自分が酒を呑みたいだけの口実だろう、と訴えたところで彼女の耳には届かないことは火を見るよりも明らか。
「ヒバリさんのためにぃ、私の秘蔵コレクション持ってきて上げたんですよぉ〜?もっと感謝してくださいよぉ〜」
「はいはいありがと」
「ぜんぜん感謝の意が伝わりませ〜ん!」
「じゃぁどうすればいいのさ」
「もっと〜、こぉ・・・・・・全身から溢れ出す感じで?センキューベリーマッチ!とか叫んでくれたら嬉しいかも〜」
「・・・・・・見たいの?そんなものが」
言われて想像してみた。
・・・・・・いや、あり得ないでしょ。
そんなことをしたら、それこそ救急搬送で精神科にでもぶち込まれるのがオチだ。
酔っぱらいの戯言をいちいち真に受けるのがそもそもの間違い。
適当に受け流すに限る。
「ん〜・・・、なんかヒバリさんっぽくないから見たくないかなぁ?」
「自分で言っておいて・・・・・」
「じゃぁ〜、キスしてくださぁい」
「は?」
「お姫様みたいな奴がいーですぅ」
うっとりと顔を朱に染めて、もっとも半分以上はアルコールのせいだろうけど、夢見がちな様子で頬に手を添えた。
恋に夢見る乙女、とでも言えばいいのだろうか?
まぁ、そんな感じの表情だ。
・・・・・・手に四合瓶なんぞ持っていなければ、の話だが。
「そんなことでいいの?」
「ん〜?」
「君にキスすればいいの?」
「してほしぃですぅ」
ほわほわ〜、と笑う彼女の手を引く。
もともと足下がしっかりしているのかふらついているのか解らないような状態だったから、何の抵抗もなく胸の中にポスリと収まった。
彼女の一方の手を顔の高さに掲げ、そっと、唇を寄せる。
「んっ・・・・・・」
ちょうど中指の付け根辺りをチュ、と軽く音が立つ程度に吸ってやった。
彼女の体が腕の中で震えたのを感じる。
ニヤリ心の中でほくそ笑み、唇を離さないまま彼女に問う。
「これで満足?お姫様?」
「や・・・・・・・・、もっとぉ・・いっぱいしてほしいです・・・」
珍しく素直に求めてきた彼女に、少なからず驚かされた。
普段であればそういうことは口に出来ない種類の人間なのだが、アルコールというのはどうにも人の欲をあけっぴろげにしてしまうらしい。
「ん」
いつもコレくらい積極的だったら、なんて思いながら。
手の甲から手首へ。
次いで、首筋に舌を這わせる。
赤く染まった肌に、更なる朱を散らす。
「やだぁ・・・・・・ヒバリさん、痕残さないでくださいよぉ」
「なんで?キスして欲しいんでしょ?」
「だって・・・・・・そこじゃ服で隠れないし・・・・・・」
「じゃ、隠れるところならいいよね」
「・・・ヒバリさんのえっち・・・」
「先に誘ったのは君だろ?」
「わたしは、そんなつもりじゃなかったですもん」
「じゃぁどういうつもりだったの?」
「それは・・・」
言葉が出るが早いか、上着の裾から手を侵入させた。
既に火照った彼女の体は汗ばんでいる。
唇で鎖骨を愛撫する一方で、侵入させた手を胸に伸ばす。
下着をずらし、敏感な部分を両方一緒に親指の腹で擦った。
「や・・・んっ・・・」
「嫌、じゃないでしょ?」
「ん・・・」
小さく首を縦に振ったのを確認。
じわじわ身体に馴染ませるように繰り返すぬるい愛撫。
彼女が身を捩り始めた頃合いを見計らって、徐々に刺激を強くしていく。
「は・・・・・・ぁっ!・・・・・・っっ」
漏れ出そうになる喘ぎに、彼女は口元を覆う。
覆ったところで完全には防げない。
熱に浮かされ汗ばんだ身体も、芯から溢れ出る震えも、何一つ隠せてやいない。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・汗?・・・・・・震え?
ふと。
頭をよぎった嫌な感覚。
まさか、と思いつつ。
そんなことは、と思いつつ。
顔を、上げた。
「・・・・・・ピン・・・・・・?」
眼前にあるのは、快楽から朱に染まった頬ではなく。
血の気の失せた青白い。
それでいて、リスのように頬を最大限にまで膨らませた彼女の顔だった。
「え、ちょ、ま・・・・っ!?」
「qあwせdrftgyふじこぉぉぉ・・・・・・・・・」
もっとも。
ソコから出てきたものは、ドングリなんてかわいい代物ではなかったけれど。
□■□
翌朝。
お決まりのように飲酒中の出来事を覚えていない彼女。
極めて紳士的な理由で脱がせた洋服を言及され。
説明する間も与えられずに罵られ。
挙げ句の果てに問答無用で殴られた。
これって、どう考えたってフェアじゃない。
「ピン。・・・・・・しばらく飲酒禁止・・・・・・」
だから、嫌だったんだ。
酔っぱらいの相手をするのは。
22222打オーバー御礼リク、『酔っぱらいピンに攻められ、たじろぐヒバリで微エロ』でした。
た・・・たじろいでいるのか?コレ?疑問だ・・・
酔っ払いピン(のゲロ)に攻められ、(精神的に)たじろぐヒバリって感じでお願いします!(言い逃れにもほどがある!)
てゆーかこれは微エロ?やりすぎ?物足りない?わからーん!!
微エロって基準がむずい!
吐きオチは以前別ジャンルで書いたけど、まぁいいよね!?(誰に聞いている)
とにもかくにも、飲酒は20歳になってから!
よいこのみんなはきちんとまもろうね! (ニコ)
こちらの作品はリクエストをくださった桜桃様のみお持ち帰り自由とさせていただきます。
リク、ありがとうございました!
2010/10/10
※こちらの背景は
November Queen/槇冬虫 様
よりお借りしています。