主が不在の執務机を何の気なしに眺める。
眺めたところで何があるわけでもない。
あるのは煩雑に散らかった書類と唯一枚守護者で撮った写真。
僕はあいかわらずの不機嫌な顔で。
彼は、綺麗に笑っていた。









過去に託したのは 僕等の未来







コンコン

控えめに扉がノックされた。
返事は何も返さない。
この部屋の主は僕ではないのだ。
返事をするのは道理ではないし、教育の行き届いているボンゴレ内で返事も聞かずに部屋に侵入する不躾な部下はいない。
少ししたら立ち去るだろう。
再び視線を執務机に戻す。

カチャ

不意に扉が開けられた。

「?」

返事も聞かずに扉を開ける部下はいない。
それにも関わらずドアノブが回る音がした。
まさか侵入者か?こんな深部にまで?
戦闘本能が仕込みトンファーに手をのばさせる。

「俺ですよ。雲雀さん」
「・・・君か・・・」

力のこもった手を脱力させる。
部屋の主が返事を待たずに扉を開けるのもまた道理というわけだ。
そもそも自分の部屋なのだからノックなど必要もないだろうに。
ゆっくりと扉を押し開いて姿を現したのはこの部屋の主。
十代目ボンゴレ・沢田綱吉その人だった。

「やっぱりここに居たんですね」
「お帰り。綱吉」
「ただいまです」

写真の中の君と同じように、綱吉は綺麗に笑った。







「綱吉、皆に黙ってどこにいっていたの?」
「・・・・・入江正一と接触してきました」
「入江?ミルフィオーレの?」
「はい」

ミルフィオーレといえば今まさにボンゴレが敵対している強大なファミリーだ。
現在力は拮抗状態。双方のファミリーに甚大な被害をもたらしている。
なんということもなく言ってのけた彼に声を荒げて詰め寄った。

「君は馬鹿か!何故一人で行ったの!?何かあったらどうするつもりだったんだ!?」
「入江は信用に足る人物です。現に今俺はここに居るじゃないですか」
「そんな結果論を言っているんじゃないよ!」
「・・・・・すみません・・・」

とたんにシュンっと縮こまってしまった。
その姿はまさに小動物。
僕が虐めたみたいじゃないか。
僕のほうが居心地が悪くなってしまう。

「けど」

うつむいた顔を上げられないまま、綱吉は言葉を続けようとする。

「雲雀さんも入江を信用してください。彼の事は俺が保障します」
「何故」
「彼はボンゴレの味方です」
「は?」
「正確に言えば、彼はボンゴレファミリーの一員です」

頭がおかしくなってしまったのではないかとすら思った。
マインドコントロールを受けたとか、そんな可能性すら頭をよぎる。
しかしそれもほんの一瞬。

「俺を信じてください」

真っ直ぐな瞳。
透き通ったブラウンの奥に宿る澄んだオレンジ。
彼の意思をしっかりと宿す瞳がマインドコントロールされているはずがない。

「・・・・・・・わかった。綱吉を信じるよ」
「有難うございます」

それから綱吉は入江のことを包み隠さず教えてくれた。
彼が影のボンゴレファミリーであること。
ミルフィオーレとの抗争が始まる前に今の現状を予期した綱吉と九代目が内部調査員、つまりはスパイとして送り込んだ人物だということ。
この事実を知るのは入江を含め3人だけの秘密、完全なトップシークレットであること。
入江は現在厳重な監視下に置かれており、特殊な連絡経路を通じてのみ接触可能であること。
彼がミルフィオーレ下で研究開発しているのは10年バズーカに関するものということ。

「そしてつい先日、その装置が完成しました」
「10年バズーカって、あの牛柄の子のアレでしょ?それが今更なんだって言うの」
「雲雀さんは白蘭の目的を知っていますか?」
「いや」
「白蘭はトゥリニセッテを完成させようとしています。
そのためにはボンゴレリングが必要不可欠なんです」
「あぁ。なるほどね。君がリングを破棄したことでこの時代ではそれが不可能になってしまったと」

完成させるためにはまだリングが存在していた時代から奪い取るしかないということか。
敵ながら利に適っている。
強欲に権力を求めるその姿勢にはある種敬服すらしてしまう。

「それで?まさか装置の完成の報告だけで君は危険を冒してまで
 入江に接触したわけじゃないだろう?」

綱吉は一つ頷いた。

「白蘭を討ちます」
「わぉ。君にしては思い切った決断だね」
「・・・・えぇ・・・・」
「?」

自分で報告した割にはなんとも煮え切らない返事。
やむなく、といった空気が彼を取り巻いている。

「不本意ですが、もうこの方法しか俺たちには残されていないんです」
「闘うのは10年前の僕たちってこと?」
「・・・・相変わらず察しがいいですね」
「君が単純すぎるんだよ」

リングが必要なのは何も白蘭ばかりではない。
僕たち自身にも必要なものなのだ。
けれど僕たちは肉体的にも精神的にも完成されつつある。
短期間で望むだけの成長は難しいだろう。
望みの種は10年前の不完全な僕等、ということなのだろう。

「詳しくは入江に聞いてください。連絡の取り方は後で教えます」
「君がしてよ。そういう面倒くさいことは」

今までだってそうして来たじゃないか。
僕の立場は限りなくボンゴレから遠い。
並盛風紀財団委員長として立ち回ってきた。
綱吉からの要請があればこそボンゴレに助力することもあったが、僕自ら働きかけたことなど一度もない。
それを容認してきたのは他でもない綱吉本人。
今更どうして。

「・・・・俺は、行かなきゃならない場所があるんです」
「どこ?」

この切迫した状況下の中で一体どこに行こうというのか。
馬鹿らしいと思う反面。
いい知れぬ不穏な空気を肌が感じ取る。
思いつめた表情の綱吉。
けれど決して状況を悲観などしていない。
僕は経験的に知っている。
こんな表情を浮かべる時はいつだってそうだった。

綱吉は自身に関わる大きな決断を下したのだと。
それは何があっても覆ることのない決定事項であるのだと。

僕は本能的に悟る。

「ミルフィオーレファミリーのアジトです」
「何だって!?」
「先日、白蘭から和解交渉の申し出がありました。
 もしこれが本当なら全てに決着が着きます」
「今更和解も何もないだろ!?白蘭の思うツボだ!!」

解かっている。
今更こんなことを言っても何にもならないと。
君の意思はひどく強固なもので、どうにもならないと。
けれど言わずには居られない。

「犠牲者がこれ以上でないなら、俺は何だってします」
「綱吉!考え直しなよ!!奴等の狙いは略奪だ!!」
「わかってます」

綱吉。
君は解かっていないよ。
犠牲者を出したくないんだろう?
なのに

どうして君が犠牲になるんだ。

どうして君は、自分の犠牲を犠牲と思わないんだ。
間違っている。
間違ってるよ。

「殺されるのがオチだよ!?同盟ファミリーでも何でも使って抵抗すれば時間稼ぎくらいできるはずだ。
 綱吉が犠牲になる必要なんてっ!」
「わかってます。でも、それじゃぁ時間が足りないんです」

過去の俺たちが成長するだけの時間が確保できない。
それにいらぬ犠牲が出てしまう。
俺には確実な犠牲の伴う決断なんて出来ません。

「白蘭には強い力を感じます。俺が行けば少なからず牽制になるはずです」
「!」
「俺にしか、止められない」

俺がボスとしてやらなくっちゃいけないことなんです。
だから
俺は行きます。

「俺の目を見てください。雲雀さん」
「目?」
「無謀に見えますか?」

ニコッ

この場に不釣合いなくらい無邪気に、綱吉は笑った。

「いってきます」

ふわり優しく、僕の首に腕を回して抱きしめる。
耳元に唇を寄せ、小さく、小さくささやいた。

「ありがとう、雲雀さん。俺、あなたのこと 大好きです」
「綱吉・・・・」

ただただ君が愛おしい。
狂おしいくらいに。
きつく抱きしめる。
綱吉が壊れてしまうほど強く。

「綱吉、綱吉、つなよし・・・・」
「雲雀さん・・・・雲雀さんっ!」
「僕も好きだよ。君が何よりも好き。なのに・・・・・」
「あなただから、俺は決断できたんです。俺を救えるのはあなただけです」
「綱吉・・・・」
「きっとこの時代で、また逢いましょうね」



そういって綱吉はこの部屋を立ち去った。
僕の元からも。
この世からも。






主が不在の執務机を何の気なしに眺める。
眺めたところで何があるわけでもない。
あるのは煩雑に散らかった書類と唯一枚守護者で撮った写真。
僕はあいかわらずの不機嫌な顔で。
彼は、綺麗に笑っていた。


「!!アレは!」
「遅すぎるよ君達」

本当に遅いよ。
一体どれだけ僕を待たせるつもりなんだい。

「何してたんだい?『沢田綱吉』」

早く帰っておいでよ。
綱吉。
そんなところは君には似合わない。
君がいるべきなのはこの世界だ。
溢れるばかりの光が降り注ぐこの世界に、早く戻っておいで。









ジャンプ本誌で発覚した新事実を受けて発作的に書いたもの。

日記SSとして上げたのですがわけのわからない誤変換が起こりもはや羞恥プレイと化す。

ので改めて本文訂正してUPしました。



10年後のツナの遺志が存在しているってだけでなんか萌えるよ。

今まではツナは一方的に殺されただけだと思っていたのだけれど、

明確な意思を持って殺されに行ったんじゃないかなって思ったんだ。

その遺志を受け継いだのが雲雀。

た・ま・ら・ん!!

ついでだからユニとγのやり取りをパロってみた。

大空同士、考えることは一緒なんだろうなってゆー妄想の元アレンジしてみました。

2008/11/5





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




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