ここから先は『織姫牽牛伝説』を軸にしたパロディになります。
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櫂の雫〜中編〜
■■ツナside■■
それから、幾月が過ぎただろう。
とても長い時間そうしていたようでもあり、ほんの一瞬の出来事のようにも思う。
雲雀さんと過ごす日々は1日1日が愛おしく、夢のような時間。
俺は今までこんな時間があるなんてことを知らなかった。
朝いつも先に起きるのは俺の方。
一つの質素なベットに俺と雲雀さんの二人で寝るとちょっと狭い。
でもお互いそのことに文句を言ったことなんて無かった。
・・・・・俺としては・・・・・・・雲雀さんにいっぱいくっつけるからこっちの方が好きだったりする。
のろけていると思う。
でも、今俺は幸せです。
こうやって鳥のさえずりと共に起き、隣で眠る雲雀さんの漆黒の髪をゆっくり手で梳くのが俺の日課。
触ってみれば意外なほどに柔らかい。
俺は雲雀さんに惹かれていた。
この髪も、すべすべした肌も、ちょっと冷たい長い指も、全てが俺の心を捉えて離さない。
しばらく髪を梳いていると雲雀さんが「ん〜」と身じろぎする。
「・・・・あ・・・起こしちゃいました?・・・・」
「・・・・・・・・・・・おはよう・・・・・・綱吉・・・・・・」
まだ開ききらない目をこちらに向ける。
可愛い、なんて思っていると、突然強い力で拘束される。
「ふぇ!?ちょ!雲雀さぁん!!」
「・・・・・もうちょっとだけ・・・・・寝させて・・・・・」
「わかりましたから!!寝てていいから離して下さいーー!!」
ふわぁぁぁ
大きな欠伸を一つすると雲雀は早速寝息を立て始めた。
欠伸とは裏腹に俺を抱く腕は全く力が緩まない。
抵抗するのは無駄だってわかってるから仕方なく俺ももう一眠りするとしよう。
雲雀さんの胸に頭を擦り付けるようにして服をきゅっと握る。
それに答えるように雲雀さんがさらにぎゅっと俺を抱きしめる。
二人が起きるのはまだもう少し先になったから。
これも毎日の日課。
■■雲雀side■■
それから、幾月が過ぎただろう。
とても長い時間そうしていたようでもあり、ほんの一瞬の出来事のようにも思う。
綱吉と過ごす日々は1日1日が愛おしく、夢のような時間。
僕は今までこんな時間があるなんてことを知らなかった。
朝いつも先に起きるのは僕の方。
綱吉を起こさないように気をつけながら体の向きを変える。
一つの質素なベットに僕と綱吉の二人で寝ると少し狭い。
でもお互いそのことに文句を言ったことなんて無かった。
・・・・・まぁ僕としては、綱吉に抱きつきやすいからこの方が都合いいんだけどね。
のろけていると思う。
でも、今僕はえも言われぬ感情に満たされている。
そんなことを考えていると綱吉が目を覚ましたらしい。
もぞもぞと動き出した。
気づかれないように僕は寝たふりをする。
しばらくすると綱吉の手が僕の髪をゆっくり手で梳く。
これが彼の日課。
綱吉の柔らかい手は心地いい。ほんのりと暖かくて陽だまりの中にいるような幸せ。
僕は綱吉に惹かれていた。
この手だけじゃない。綱吉の表情も行動も、全てが僕の心を捉えて離さない。
さて、このままでもいいけれどやっぱりもっと綱吉にくっつきたい。
髪を梳いたことで覚醒したように見せて「ん〜」と身じろぎする。
「・・・・あ・・・起こしちゃいました?・・・・」
「・・・・・・・・・・・おはよう・・・・・・綱吉・・・・・・」
はじめっから起きてたって知ったら、綱吉はなんていうだろう?
それを知りたいと思いつつもやっぱりこのまま無防備な綱吉の顔を見ていたいとも思う。
この事実を教えてあげるのはもうちょっと後になったからでもいいだろう。
今まさに目を覚ましたかのように目をしぱしぱさせ、寝ぼけ眼を装って綱吉を見る。
起こしてごめんなさい
そんな表情を僕に向けている。
可愛い。
疑うことを知らない無垢な綱吉。なんて愛おしいのだろう。
たまらなくなって綱吉をぎゅっと抱き寄せる。
「ふぇ!?ちょ!雲雀さぁん!!」
「・・・・・もうちょっとだけ・・・・・寝させて・・・・・」
「わかりましたから!!寝てていいから離して下さいーー!!」
ふわぁぁぁ
これ見よがしに大きな欠伸を一つして寝息まで立てる念の入れよう。
わざわざこんな小細工をしている自分自身に苦笑いしてしまう。
綱吉はばたばたと身を捩っているが開放してあげるつもりなんてさらさら無い。
僕に力で勝とうだなんて10年早いよ。
抵抗するのは無駄だと認識するととたんにおとなしくなった。
どうやら綱吉ももう一眠りすることにしたらしい。
僕の胸に頭を擦り付けるようにして服をきゅっと握る。
綱吉の何気ない行動が、さらに僕の感情を高ぶらせる。
愛しい。
こんな感情、僕は知らなかった。
やっと見つけた幸せを手放さないように僕は綱吉を抱きしめる手にさらに力を込めた。
二人が起きるのはまだもう少し先になったから。
これも毎日の日課。
■■ツナside■■
「雲雀さん。天気も良いし川辺行きませんか?」
太陽の位置もだいぶ高くなった頃、ゆるゆると起き出して二人で朝食の準備をする。
今日は野菜たっぷりのサンドウィッチに燻製肉を使ったスープ、摘みたての果物もある。
俺も雲雀さんも大して料理は得意じゃないけど、二人での作業は気に入っている。
時たまとんでもないものが出来上がってしまうこともあるけどそれはご愛嬌。
それはそれでなかなか面白かったりもするしね。
一昨日なんか雲雀さんがさじ加減を誤って激辛スープを作ったっけ。
あれはひどかった。本当に口から火を吹けると思ったくらいだもん。
そう思うと今日のスープは絶品!なんてね。
雲雀さんが作ってくれたものは何でも美味しい。
激辛スープだって辛すぎただけで不味くはなかったしね。
サンドウィッチをかじりながら雲雀さんに問いかける。
川辺の単語を聞いて予想通りくすりと笑った。
俺自身笑われる理由を知ってるからあえて何も言わない。
どんな風に思われたって俺はあの川辺が好きなのだ。
だったら気にしないもの勝ち。
いつまでも気にしてたらそれこそ雲雀さんの思う壺。
俺だってたまには強気に出なきゃね。
「川辺って一昨日も行ったよ?また行くの?」
「行きたいです!」
「綱吉も好きだね」
「はい!だって雲雀さんと出会った場所ですから!」
川辺とは二人の邂逅の場所。
始まりの場所。
俺と雲雀さんをつなぐ場所。
思い入れは人一倍ある。
何より自然は日々姿を変えていく。
毎日見ていたって飽きることなんてない。
それは雲雀さんと過ごす時間も同じ。
どれだけ時間を共有しても飽きることなんてない。
新しい雲雀さんに出会う日々。
それはとても素敵で、とても幸福な毎日。
「わかったよ。ごはん食べ終わったらいこうか」
「はい!雲雀さん」
満面の笑顔で答える。
すると雲雀さんもふんわり笑い返してくれた。
ほらまた。
こうして俺はまた一つ新しい貴方を知る。
今日は一体どんな発見があるだろう。
考えただけでも胸がドキドキする。
「ほら雲雀さん。早くしないと置いて行っちゃいますよ」
「そんなに急がなくっても逃げやしないよ」
「どうせゆっくりするなら向こうでゆっくりしたら良いんです。ね?」
待ちきれずに俺は先に玄関の扉をくぐった。
今日もいい天気。
日向ぼっこしたら気持ちよさそう。
「今日もいい天気ですよー!早く行きま・・・・・あれ・・・?」
不意に、胸がざわめいた。
不穏な空気を超直感が感じ取る。
急に言葉の切れた俺を不振に思った雲雀さんが続いて扉をくぐり
俺と同じものを感じ取ったのか眉をひそめた。
「・・・・・・森がざわついてるね・・・・・・・」
「何かあったんでしょうか?」
「わからないけど、とにかく行ってみようか。綱吉も用心して」
「わかってます」
雲雀さんが前、その後を俺が続いて森を駆け抜ける。
森の様子を伺えば、動物たちも怪しい気配を感じてか警戒心が強い。
次第にざわめきは大きくなり、同時に鼻につく鉄さびの香りを感知する。
「・・・・血のにおい・・・・・ですか・・・・」
「だいぶ匂い強いね・・・綱吉、大丈夫?」
「・・・・大丈夫です・・・・」
気持ち悪い。
ホントは血臭を感じただけで吐きそうになった。
でも事実を確認もせずに帰れない。
こみ上げるものを無理やり飲み下し、足を速める。
1分も走ると匂いはさらに濃度を増し鼻腔を侵食していく。
さらに数十秒の後、視界が開けた。
「!?・・・・これは・・・・」
「っ!・・・・・・・・・そんな・・・・・・・」
思わず目を背けてしまいたくなる光景が広がっていた。
視界の先は川縁。雲雀さんと出会った場所よりも更に上流に当たる。
本来ならば水面に反射する光がきらきらしてより一層森の緑を際立たせているはず。
しかし今はその面影もない。
岸辺に横たわる無数の動物。
どれも首をメッタ刺しにされ、流れ出す血が川に流れていく。
澄んだ綺麗な清水を絶えず流してきた川にはぬらぬらと赤が混じり
次第にその色が薄くなり流されていく。
「一体誰が・・・・こんなひどいことを・・・・」
「この模様、カルカッサのやつらか・・・」
血臭にあてられ嗚咽を繰り返している間、雲雀さんは遺体を調べていた。
数本突き刺さったまま残されたナイフに刻まれたマークを見つけると
苦虫を噛み潰したかのように顔をゆがめた。
「知って・・・るんですか・・・・・?」
「1年位前にやりあったことがある。あの時の残党か・・・」
「・・・それって・・・」
「小動物の分際でいきがったまねをしてくれるね。全員咬み殺しておけばよかったよ」
小さな声で悪態をつく。
きっとこのようなことは今までなかったのだろう。
盗賊団がこれほどの粗暴を働く前に雲雀さんは潰してきた。
このような事態を招いたのは俺の存在だ。
雲雀さんは俺と暮らすようになってから盗賊いびりをほとんどしなくなった。
口に出して頼んだわけではないが、あからさまに嫌悪の表情を浮かべる俺に気を使っていたのだと思う。
争うことは嫌いだ。
傷つくのも、傷つけるのもどちらも嫌い。
そんな自分に気兼ねした結果がこれだ。
俺の存在がこの周辺の力の均衡を崩してしまった。
どうすることも出来ず、俺はただ血に染められた景色を眺めるしかなかった。
関係ない命に終焉をもたらせてしまったことを悔いるように。
犯した間違いを焼き付けるように。
自らを責め立てるように。
ただただ、見つめることしか出来なかった。
■■雲雀side■■
しばらくして綱吉が無言で動き始め、それが埋葬のための穴掘りであるとわかると
僕も無言でそれを手伝った。
適当な道具もなかったから長い時間かかった。
1匹、2匹と埋めていくうちに綱吉の瞳には涙が溜まっていく。
6匹を超えたあたりでとうとう堪え切れずにほろほろと頬を涙が伝う。
それでも声を上げることはただの一度もなかった。
綱吉は本能的に悟っているのだろう。
この現状を呼び込んでしまったのが自分であると。
自分が崩した均衡がこの事態を生んだのだと。
彼は今流しているのは殺された動物たちへの哀れみのためではない。
それは自身のふがいなさに対する自責の涙。
だからこそ声を上げることを許さない。
自身の罪を許さないために。
綱吉は自分のために泣くことをしない。
誰からも許されないために。
他人のために涙を流せるのに、自分のことで泣くことを許さない。
僕は何も言わない。
何も言えない。
均衡を崩す契機が確かに綱吉にあっても、実行したのはこの僕。
綱吉は本来なんら責められることはないのだ。
そんなもの明白だ。
こんな考えが綱吉の論理には通用しないことも、また。
僕には責任なんてわからない。
そんなのを感じる相手もいなかったのだから。
だから。
僕は何も言わない。
何も言えない。
最後の1匹を埋め終わるとようやく綱吉が口を開いた。
「山裾の村にこのことを知らせにいきましょう」
ここが荒らされたということは村に被害が及ぶのも時間の問題だろう。
僕自身村がどうなろうが知ったことじゃない。
群れることなんて弱いやつがすること。
以前の僕ならそう言っただろう。
今でもその考えは変わらない。
けれど寛容になったと思う。
綱吉には人が必要だと知った。
群れるのは弱いからだけでないと知った。
綱吉は積極的に村人と交流を求めた。
人を惹きつける魅力を持つ彼が打ち解けるのにそう長い時間はかからなかった。
口をきくだけの関係から村に通う仲に。
通う知人から村の一員に。
綱吉の存在がなければこれほどまでに彼らと交流を持つこともなかっただろう。
相変わらず群れることは嫌いだけど、村には僕の強さに憧れを抱く人もいて
その彼が唯一の僕と会話する村人となった。
「草壁はどこ?」
村の入り口付近で農作業していた人に尋ねれば、自警団の詰め所にいるとのこと。
自警団のリーダーである草壁が僕の聞き役だ。
村のほぼ中心にある詰め所に足を速めた。
詰め所の入り口をくぐると中は神妙な空気だった。
「草壁。話があるんだけど」
「雲雀さん!こちらにいらっしゃるとは珍しいですね。どうしましたか?」
「草壁さん・・・・あの・・・・」
「これは、沢田さんもいらっしゃい。お二人で今日は一体?」
「それより・・・こっちでも何かあったんですか?雰囲気がいつもと違いますよ」
無理な作り笑いで対応してきた草壁を不振に思った綱吉は何事かと表情を暗くする。
一言「草壁・・・」と問い詰めると観念したように話す。
「実は昨日山向こうの村から伝令がありまして、この周囲で盗賊が暴れ始めたと。
更に先の村では既に襲われ被害も出ているとか」
「っ!?村の人は大丈夫だったんですか?」
「えぇ。幸い怪我人はいないそうですが食料が奪われ家屋も多く破壊されたと」
「そうですか・・・・」
人が傷ついていないことに安堵しつつも被害の大きさに動揺を隠しきれていない。
先ほどの件もあるし余計に心配になっているのだろう。
綱吉の表情を見て取った草壁が一旦口にするのをためらったが
黙っていてどうなるものでもないことを悟り、襲われるのは時間の問題だとつないだ。
「どこのやつらかわかってるの?」
「最近急激に仲間を増やしたカルカッサのやつらだと踏んでいます」
「・・・・・やっぱりか・・・・」
「やつらに関して何か知っているのですか?」
「実は・・・・」
先ほどの川辺での顛末を綱吉がかいつまんで話した。
上流の川辺が荒らされたこと。
動物が無残に殺されていたこと。
残っていたナイフのマークから犯人がカルカッサと呼ばれるやつらだと推測したこと。
「・・・・そうだったのですか・・・・・・」
「やつらの尻尾は掴めているの?」
「はい。しかし私たちだけで敵うかどうか・・・・
雲雀さん、討伐隊に加わって我々の力になってくれませんか」
「・・・・・・・・・・・・・」
綱吉の瞳が動揺に大きく揺れたのを僕は見逃さなかった。
綱吉が嫌がることはしたくない。
ここに危険が迫っていると知らせたのだ。
それ以上手を貸す義理もない。
「断る」
「雲雀さん・・・?」
「綱吉、帰るよ」
不安げな瞳を浮かべたままの綱吉の手を引いて詰め所を後にしようとする
僕の行動を阻んだのは綱吉本人だった。
「雲雀さん!」
「これ以上は関係ないよ。行くよ」
「待ってください雲雀さん!協力してあげましょうよ。
そうじゃなかったらこの村が・・・この村の幸せがあそこみたいに壊されてしまう・・・・」
声が、震えている。
僕が掴む、その細い腕も。
顔だって血色が悪い。
そんな君がどうしてここまでこいつらに肩入れするのか僕にはわからない。
こんなやつらより、こんな村より、僕は君の方が心配だよ。
僕の胸中の想いにも気づかず綱吉は続ける。
「俺、嫌です。この村があんな風に壊されるなんて。そんなの嫌です。
黙ってそれを見ているなんて俺には出来ない」
雲雀さんがやらなくても俺、やります。
俺が皆の幸せを守って見せます。
これが初めて見せる綱吉の統一者の顔。
自らを省みず他者の幸せを願う者。
誰からもあがめられる統治者。
彼の強さはその優しさ。
弱さもまた、優しさ。
優しさゆえに彼は己を押し込めて拳を振るう。
祈るように。
願うように。
その先にあるはずの平穏のために彼は望まぬ戦地に立ってきたのだろう。
涙を流しながら。
それでも泣くことを許さず。
己に罪をかぶせながら。
許されることを許さず。
業に苛まれながら生きてきたのだろう。
そんな間違い、僕が繰り返させない。
「綱吉、君を行かせないよ」
「嫌です!何もしないなんて俺には出来ない」
「僕が行く。それでいいだろう」
「雲雀さん!」
抗議の声に耳を傾けない。
「草壁。やつらの居場所は」
「いくつかのアジトを転々としているらしく特定には至ってませんが」
「なら全部潰すまでだよ」
「お供いたします」
「いい。足でまといだ。僕一人で行く」
「俺一緒に行きます。俺だって戦え・・・・むぐっ!」
綱吉が詰め寄ってくるのを手で口をふさいでさえぎった。
彼に戦わせてはいけない。
彼には似合わない。
汚れるのは僕一人で十分だ。
「嫌なんだよ。
君が傷つくのも、君が誰かを傷つけるのも、そんなところは見たくない。
君のこの手は争いのためにあるんじゃない。
幸せを抱くためにあるんだ。
この手を血で汚したくないんだ」
この手を守るのは僕の役目。
だから綱吉は戦わないで。
君の涙は見たくないんだ。
だから、お願い。
黙ったまま返事は返ってこない。
しばらくの後、ゆっくり、こくりと頭を縦に振った。
「俺、待ってます。あの家で雲雀さんが帰ってくるの待ってます」
「一人であの家にいるの?こっちにいてもいいんだよ。
その方が安全だし、寂しくないでしょう?」
ふるふる首を横に振る。
「いつ帰ってきてもいいようにあの家で待っていたいんです。
雲雀さんとのあの場所を守っていたいんです」
「・・・本当に大丈夫?・・・」
「俺を誰だと思っているんですか」
「寂しがり屋の泣き虫」
「それだけですか?」
自嘲気味に綱吉は笑う。
思ったままの言葉を僕は紡いだ。
「僕の愛しい人」
「俺も同じです。だから大丈夫です。
雲雀さんが帰ってくるまであの場所は誰にも譲りません」
待ってます。俺の雲雀さん。
無事に帰ってきてください。
そしてまた、俺をそばにおいてください。
心配しなくても、何があっても僕は君のところに戻るよ。
1分でも1秒でも早く君の元に帰るから。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
待ってて。
■■ツナside■■
雲雀さんがカルカッサ討伐に出かけて早3日。
まだ3日しかたっていない。
それなのにもう何年も逢っていないように感じる。
毎日を一緒に過ごしてきた人がいなくなるってこういうことなんだと改めて思う。
でも決して寂しいなんていわない。
雲雀さんに約束したんだ。
帰ってくるまでここで待つって。自分で決めたんだ。
一人でここに残ることを決めてから、これまで以上に人が訪れるようになった。
きっと草壁さんが俺に気を使って人をよこしてくれているのだろう。
寂しがることのないようにと、食材を運んでくる者、話し相手になってくれる者、
村のちびっ子が遊びに来てくれたときもある。
毎日ひっきりなしの来客のおかげで要らぬ不安に苛まれることはないのだが
ふとした折、雲雀さんのことを考えうわの空になる。
今、どうしているのだろうか。
「あららのら〜。ツナぁ!ランボさんのおそろちさにビビって声も上げられないのかぁ〜」
「ランボ!何してるの!」
「くぴゃ!!イーピンお化けがきたじょ〜。にげろー!!がはははは」
「ランボ向こう行って!!沢田さん大丈夫?」
そうだ、俺今まで村のちびっ子二人組と鬼ごっこしてたんだっけ。
ついボーっとしてしまった。
心優しいイーピンは俺の顔を覗き込んで心配そうな顔でこちらを見る。
「大丈夫だよイーピン。さ、続きやろ?」
「泣きそうな顔、してる」
「そんなことないよ。大丈夫。
ランボー!そんなに走ったら転ぶぞ〜って、あ〜言わんこっちゃない」
「・・・・・う・・・・・・ぅわあぁぁぁんん」
「・・・沢田さん・・・」
ランボに駆け寄ろうとした俺のズボンをイーピンの手が引く。
「本当に泣きたいのは沢田さんじゃないんですか?」
「・・・・イーピン・・・・」
「ぅわあぁぁぁん!つなぁー、つなぁぁ!!」
泣きじゃくってランボが俺にしがみついてきた。
じっと俺を見つめるイーピン。
いたたまれない空気に、俺は二人を抱き上げる。
「もう、帰ろっか。」
あやすように優しく微笑みかける。
俺の家前には二人を迎えに来た草壁の姿。
また明日、と手をふって見送る。
イーピンは悲しそうに俺を見たままずっとこっちを見ていた。
俺はあの時上手く笑えていたのだろうか。
村のものがすべて帰ってしまうととたんに静寂が訪れる。
昼間のにぎやかさがより一層助長する。
一人で過ごす夜なんて嫌いだ。
昼間のことを思い出す。
何度も何度もイーピンの言葉が繰り返される。
(本当に泣きたいのは沢田さんじゃないんですか?)
そうなのかもしれない。
そうじゃないのかもしれない。
俺には、俺が何に泣きたいのかわからないんだ。
こんな時、雲雀さんならどうしてくれるのだろう。
どんな言葉をかけてくれるのだろう。
逢いたい。
今すぐにでも雲雀さんに逢いたい。
雲雀さん。
雲雀さん。
早く帰ってきて・・・。
コンコン。
ふいに、扉をノックする音が部屋に響く。
誰だろうこんな時間に。
村の人には危ないから夜は山に近づかないように言ってある。
ガチャガチャ!・・・・・コンコン
鍵が閉まっていることがわかるとしつこくノックは続く。
村人じゃなければ一体誰が・・・・・
!もしかして・・・・・雲雀さん!?
そう思うと俺は一目散に扉に駆け寄って錠をはずし勢いよく扉を開いた。
「雲雀さん!お帰りなさ・・・・・・・・・っ!・・・・・リボーン・・・・」
「迎えに来てやったぞダメツナ」
扉の向こうにいたのは俺の補佐役、最強の殺し屋リボーン。
天上界にいるはずのお前が何でここに・・・・
「帰るぞ」
一言そういうと有無を言わせぬ力で俺を引っ張った。
握りつぶそうとしているのではと思うほどの握力で俺の手首を掴む。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ。いきなり何するんだよ」
「帰るんだ。天上界にな」
「勝手なこと言うなよ。俺、ここで雲雀さんを待ってなきゃ。約束したんだ!」
「知るか。いいから帰るぞ」
「嫌だ」
「ツナ」
「っ嫌だ!!」
バキッ
反動で尻餅をつく。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
頬のうずく痛みに手を添えると、だんだんと腫れあがってくるのを感じる。
殴られたと理解するまでかなりの時間を要した。
「なにすんだよ!」
「それはこっちの台詞だ。ツナ、お前自分が何してるのかわかってんのか」
「どういうことだよ」
「お前がいなくなって天上界がどうなったか知ってるのかって聞いてるんだ!」
「・・・・え・・・・?」
「やっぱり知らねーんだな」
「何かあったの・・・・?」
「お前がいない間の業務を9代目が代行してたんだ。それすら知らねーだろ?」
俺は素直にうなずく。
体調の悪かった9代目がその体をおして働いていたなんて・・・・
その間俺は何をしていた。
「体調も芳しくない中でのオーバーワークがたたって先月とうとう倒れた。
1週間前から危篤状態が続いている。」
「・・・・うそ・・・・・・」
「嘘じゃねぇ。9代目の死が近いと知ったやつらがここぞとばかりに
抗争を仕掛けてきやがった。今でこそ持ちこたえているがこのまま本当に
9代目が命を落としでもしたらもっと多くのやつらが敵に回る。
そうなったら成す術がねぇ」
「そんな・・・・」
「この抗争を止められるのは10代目であるお前しかいないんだ。
わかったらさっさと帰るぞ」
リボーンが再び俺の手を引く。
わかってる。
帰らなきゃ。
俺がどうにかしなきゃ。
だって、それが俺の役目なんだから。
でも
だけど
「・・・・ツナ。お前どういうつもりだ・・・」
掴まれた腕を俺は力ずくで振り払った。
「ごめんリボーン。今は、今はまだ帰れないんだ。
雲雀さんが帰ってくるまでここを俺が守るって、約束したんだ!だから!」
「・・・・約束・・・か。なら俺との約束も守れよツナ」
「お前との・・・・約束・・・?」
「『すぐに戻る』そういったのはお前だ」
「それは・・・・」
「なぁ、ツナ」
「・・・・・・・」
「どんな想いで俺がお前を待っていたか知っているか」
「・・・・リボーン・・・・」
「帰って来い。ツナ」
いつもの不敵な笑みを浮かべるリボーンはそこにはいない。
悲しげな笑みで俺に手を伸ばす。
この手をとらなかったらリボーンは死んでしまうのではないかとさえ思う。
哀しみに殺されてしまうのではないだろうか。
けれど、雲雀さんを裏切ることなんて俺には・・・・
考えて
考えて
考え抜いて
出した一つの答え。
「ごめん・・・・・」
「ツナ」
「帰ろう。天上に。」
ごめん。
リボーン。
今まで待たせて。
ごめんなさい。
雲雀さん。
裏切って。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ながかたー。
第三話お送りしました。
ホントごめんなさいって感じ。
こんなに長くなるとはさかきも思っていなかったorz
前半はなんとなく甘甘な感じにしてみたんですが・・・
最早そんなシーンがあったことすら忘れる勢いでながかた。
ヒバツナと銘打って最後リボに寝返るツナ。
ツナにだっていろいろあるんだよ(きっと)
カルカッサファミリーを敵にしたのは特に理由はなく。
コミックス読み返してたら目にとまっただけだったりする。
2008/07/10
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。