ここから先は『織姫牽牛伝説』を軸にしたパロディになります。
忠実なパロでないことをここに宣言します!(おい)
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櫂の雫〜前編〜
気が重い。
結婚なんてしたくない。
俺は今の生活に満足している。
それを何故壊さなくてはならないのか。
リボーンには『結婚するかどうかは自分で決める』なんていったけど
話を受けるつもりなんて毛頭無かった。
初めから断るつもりでツナは地上に降り立った。
9代目の話によれば、その人はこの山間に住んでいるという。
「こんな人里離れたところで暮らしてるなんて、寂しくないのかな?」
生い茂る草木をかき分け道なき道を進んでいく。
結婚なんてするつもりは無いけど、この自然はいたく気に入った。
濃く色ついた緑、たわわに実る果実。
姿こそ見えないがそこかしこに息づく生物の気配を感じる。
すぐ近くから聞こえる川のせせらぎも、その透明度をたやすく想像させるほどに澄んだものだった。
水音を聞いたとたん、急にのどの渇きに襲われる。
せせらぎに耳を澄まし、方向を見極めると再び草木をかき分け進みだす。
しばらく進むと視界が開け、小川にたどり着いた。
想像通り、濁りの無い清水がそこにあった。
かがんで手をつければ冷たさに背筋が震えるほどだ。
掬い上げて一口、ごくりとのどを鳴らせば体中に染み渡る。
もう一口、口に含もうとしたその時。
突然背後から声が上がった。
「君、ここで何してるの」
振り返れば、この自然の美しさにも引けをとらない整った顔立ちの青年が立っていた。
不意に現われたこの人を人だと認識するのにはしばらく時間を要した。
その位彼の容姿は綺麗で、人間ばなれしていた。
「・・・えっと・・・俺、人を探してて・・・」
「人?この辺には僕以外誰もいないはずだけど?」
「じゃぁ貴方が・・・」
胸ポケットにしまいこんだ写真を取り出す。
確かにそこに写っているのは今目の前にいる青年だった。
実物の方が数倍綺麗だとツナは思ったが声に出すようなことはしない。
彼の人物だとわかるとツナは居住まいを正した。
「あの、始めまして。俺、沢田綱吉って言います」
ペコリ頭を下げる。
「あぁ、君が天上界を取り仕切ってるって言う・・・。
噂は聞いてるよ。僕は雲雀」
「雲雀さんですか。いい名前ですね!」
ぴったりの名前だとツナはそう思った。
それ以外の名前はふさわしくないとさえ思う。
「で?天上界の人間がわざわざこんなところに何の用なの?」
「・・・何も、聞いてないんですか?」
「聞くって何をさ」
怪訝そうな表情でこちらを覗いてくる。
どうやら本当に何も知らないらしい。
そんな人にいきなり結婚の話をするのも気が引ける。
そもそも自分は断るためにここに来たのだ。
わざわざいらぬ話をすることも無いのではないか。
「何も知らないならいいんです。俺、帰ります」
この自然と、それからこの人ともうお別れと思うと少し寂しい気もするが
面倒なことにならないうちに離れた方がいいだろう。
9代目には悪いがこのまま天上に帰ろう。
「待ちなよ」
「え?」
「君、気に入った。僕のうちにおいで」
「え?え?ええっ!?ちょ、ちょっと雲雀さん!?」
抗議するまもなくツナの体をらくらくと持ち上げる。
抱きかかえてそのまま歩き出した。
ばたばた手足を動かしてみるが、雲雀の手が緩む気配も無く。
「あんまり動くと落ちるよ。じっとしててよ」
「自分で歩けますって!降ろしてくださいよ」
「降ろしたら君はいなくなるだろ」
「・・・・それは・・・」
「だから降ろしてあげない」
君の事を気に入った。
だから君はこれから僕と一緒に暮らすんだ。
勝手なことを言う雲雀に半分呆れながらも。
やっぱり綺麗だと思ったツナは知らずのうちに抵抗をやめていた。
雲雀の家は10分ほど歩いたところにあった。
外観はログハウスのような木造で、それほど広くないこぢんまりとした家だった。
「ここ、雲雀さん一人で住んでるんですか?」
「そうだよ。もともと他のやつらと群れるのは嫌いなんだ」
じゃぁなんで俺をここに連れてきたんだろう。
一人でいるのが好きなら俺がここにいることと矛盾する。
雲雀の意図がわからず往生していると家の中に入れと催促された。
「そんなとこに突っ立ってないで入りなよ。眺めてても面白い家じゃないし」
「あ、はい」
促されるまま、玄関の戸をくぐる。
室内は外観以上に質素なつくりだった。
キッチンがあって、テーブルと椅子、そしてベッドが部屋の隅っこにあって
それで大きな家具はおしまい。
必要最小限しかない印象を受けた。
それに引き換え必要以上に積み上げられているのは食料。
雲雀のような細身の体のどこに入るのかと疑問に思うほど
様々な食材がキッチンの横に転がっている。
「これ・・・雲雀さん一人で食べるんですか?」
「君・・・頭悪いの?こんな量、僕のどこに入るって言うのさ」
呆れた声をあげながらも、転がっていた果物を二つ取り上げ
布できゅきゅっと拭き一つをこちらに放ってきた。
食べろとの合図らしい。
「これは山裾の連中が持って来るんだよ。
それぞれ勝手に持ってくるからいつもこんな量になるんだよ」
「山裾の人たちが・・・・?雲雀さん何かしてるんですか?」
「趣味で盗賊いびりやってる。このあたりは山が多くてそーゆーやつが多いんだ。僕がそうして潰してるせいかこのあたりの山裾の村は盗賊被害が少ないらしいよ」
「それで感謝の印として、こんなに持ってきてくれるんですね」
じゃぁ雲雀さんは正義の味方ですね!
俺そんな人に憧れてたんですよ。
ツナは笑った。
雲雀に対して一切の恐れもなく、ただ純粋に憧れを抱いて。
羨望の眼差しをこちらに向けて。
雲雀にはそれがくすぐったいような
彼の純粋さが胸を刺すように痛くもあった。
「僕のことをそんな風に呼ぶ人はいないよ。群れてる連中が嫌いだから潰してるだけだし」
「それでも、人から感謝されることってすごいことだと思いますよ」
「・・・・君、変わってるって言われるでしょ」
「え!?なんでわかるんですか!?」
「なんとなくそんな気がしたんだよ」
俺ってそんなに顔に出やすいのかな?
壁に掛かっていた鏡を覗き込み、困った表情を浮かべるツナ。
コロコロ変わる表情が一時だって雲雀を退屈させない。
こんな感情を覚えたのは初めてだった。
「俺ね、いつも上では怒られてばっかりなんですよ。『仮にも統率者がそんななさけない顔するな』って。
でもしょうがないですよね。俺ってこんな人間なんだし」
「・・・・・・・あぁ。そういえば君、上のトップなんだっけ。あんまりにもらしくないから忘れてたよ」
「いいですけどね・・・。慣れてますし。そもそもマフィアなんて肩書き好き好んで
背負ってるわけじゃないし。半分くらいは仕方なしって感じで」
「ならやめたら?」
「そう簡単にもいきませんよ。それに俺もね、感謝されたらうれしいんですよね。
こんな俺でも出来ることがあるんだって思える」
「やっぱり君って変わってるね。面白い」
くすりと。
雲雀が笑う。
綺麗な顔だと、思わずツナは見とれてしまった。
「何?僕の顔に何かついてる?」
「いえ、そうじゃなくて・・・・綺麗だなって・・・思ったから・・・」
「君の方がよっぽど綺麗だと思うけど」
そんなことを臆面もなく言ってくるからツナの顔は真っ赤に高潮した。
「は!恥ずかしいこと言わないでくださいよ!!」
「君が先に言ったんでしょ?」
「そ・・・それはそうだけど・・・・そ、そだ!雲雀さんは一人でいるのが好きなのに
なんで俺をここに連れてきたんですか?」
「君を連れてきた理由?」
ちょっと無理やりな感じもするけど、何とか話をそらすことに成功した。
「だって俺たち初対面で、雲雀さんは一人が好きなんでしょう?
それなのになんで俺を・・・・」
「気に入ったんだよ」
「・・・・え・・・?」
「その表情とか、仕草とか、いろんなものに興味がある。
もっと君を知りたいと思った。それが理由だよ」
それだけじゃ不満?
「君みたいな人は今まで僕の周りにはいなかった。
群れるのは嫌いだけど、君のそばは心地よさそうだと思ったんだよ」
「それって・・・まるで・・・・」
まるで恋のようだ。
一目ぼれ。運命の出逢い。必然。
どんな言葉で表現しても薄っぺらいのもにしか聞こえないけど
きっと恋なんて概してそんなものなのだと思う。
周りから見たら滑稽で。
本人たちだけが真剣で。
それが恋なんじゃないかと思う。
「君は?」
「俺・・・」
「君は何で僕の前に現われたの?」
「俺は・・・9代目に結婚を勧められて・・・・っ!」
何の考えもなしに地上に来た理由を話してしまった。
何も語らずに帰るつもりだったのに。
雲雀が、まるで自分に恋をしているかのように話すからつい口を滑らせてしまった。
突然こんなことを言い出した自分を雲雀は気持ち悪く思うのではないか。
ツナは不安に駆られて顔を上げられないでいた。
雲雀は黙ったまま何も言おうとしない。
「あ、あの!今言ったのは変な意味じゃなくて、そろそろいい年なんだから
恋人の一人や二人いてもおかしくないだろうって9代目に言われてですね、
跡継ぎのこともあるんだから子供とかも考えないといけないし
それでとにかく一度逢って来たらって無理やり・・・・」
「それで君は僕のところに来たのかい?」
「はい・・・でも!お、俺すぐに帰りますから気にしないでくださいね」
口を開けば開くほど余計なことを言ってしまう。
あまつさえ自分の意思で来たというのに9代目に責任転嫁してみたり
俺・・・最低だ・・・。
「・・・・・わぉ・・・・・こんなことってあるんだね」
雲雀は感嘆の声を上げた。
「雲雀・・・・・さん・・・・・?」
「つまり君は僕と結婚するためにここに来たんだろ」
「あ・・・・・いや・・・・そんなつもりは無いから安心してください!!」
「何それ。僕じゃ不満だって言うの?」
「いえ、そんなことは・・・・・」
「じゃぁ決まり、結婚しよう」
「・・・・・・へ・・・・・?えぇぇぇぇぇぇっっ!!!??」
やっと登場ヒバリさんのターン。
いきなり結婚することになりました(笑)
ヒバリさんはどこでもgoing my way だと信じてる。
ところでだんだんヒバリさんの口調がわからなくなってきてパニックを起こしかけた。
大丈夫かな?間違えてないかな?(がたぶる)
予想外に長くなっているのでこの辺で区切りました。
次回は結婚生活か!?
もうしばらく続きそうな予感です。
タイトルの櫂(かい)の雫も七夕関連用語。
七夕の日、夜が更けてゆくにつれ衣を濡らす天の川を渡るときに振ってくる雫のことだそうで。
ラストあたりでこのタイトルの意味がわかるかと。
2008/07/08
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。