(・・・・・どうしよう・・・・・迷っちゃった・・・・・)
それはある日の午後のこと。
いつもどおりに、何の変わりもなく過ぎるはずだった1日の話。
邂逅記念日
全ての根源はランボにあるといっても過言ではない。
ツナさんが学校に行っている間、ランボとイーピンはいつも一緒に遊んでいた。
その日だってそのはずだったのに。
ことの起こりはランボがイーピンにちょっかいを掛けたこと。
いつも通りといえばいつも通り。
でもイーピンはそのときばかりは怒った。
がんばって伸ばしている弁髪をランボがバカにしたから。
とても大切なものだった。
実力ではまだまだ追いつかないお師匠様に少しでも近づきたくて真似をした。
お師匠様は『そんなことをしなくてもすぐに強くなりますよ』って言ってくれたけど
でもやっぱり自分の目標はお師匠様。
形から入るのって基本でしょ?
それなのにランボは馬鹿にした。
お師匠様を馬鹿にされたみたいですごく悲しくて。
でも自分はそれを伝えるだけの言葉を持ち合わせておらず。
つい
手を挙げてしまった。
悪いことをしたと思う。
(ごめんね?ランボ)
いくら心で思っても、感情の高ぶった彼には通じない。
言葉が、気持ちが通じない。
「・・・ランボさん・・・泣かないもんね・・・・ぐすっ・・・・」
言葉とは裏腹に。
眼にはどんどん涙があふれ出てくる。
「・・・・・ぅっ・・・・うっ・・・・・・つなぁぁぁ!!!」
涙と鼻水を垂れ流しながらランボは一目散に駆け出した。
彼の保育係りであるツナさんの元に。
(ランボ!だめっ!!)
学校に行くことはツナさんに固く禁じられていた。
もちろん騒ぎの元凶になることが明白だからもある。
でもそれ以上に問題なのは10年バズーカ。
何の関係もない人にでも当たったらそれこそ一大事。
なんとしてでもランボを連れ戻さなきゃ!
あとを追ってイーピンも学校に向かって駆け出した。
そんな経緯でツナさんの通う並盛中学校に着いたのが10分ほど前。
一刻も早くランボを連れ戻さなきゃと気持ちが焦り校舎内に
足を踏み入れてしまったのが間違いだった。
同じ景色が続く廊下はさながら無限回廊。
どこまで行っても抜け出せない錯覚に陥らせる。
(・・・・・どうしよう・・・・迷っちゃった・・・・)
昔もお師匠様に注意されたっけ。
何も考えずに無鉄砲に突っ込むんじゃないって。
あの時の教訓は生かされていないようだ。
でも入ってしまったものは仕方がない。
とにかくランボを見つけることが先決。
それからのことは、またそのあと考えたらいい。
しかし手がかりがなさ過ぎる。
人がいれば、言葉は通じなくとも身振り手振りで聞くことが出来るのに。
人の気配はするけど人影はない。
それもそのはず。
今は午後の授業の真っ最中。
多くの学生が昼下がりの陽気に目をこすりながら机に向かっている時間だ。
教室の中を覗けば一目瞭然ではあるが、
不幸なことに背の小さなイーピンでは覗き見ることはかなわない。
(とにかくなんとかしなきゃ!)
決意も新たに再び無限回廊に挑む。
すると右手に階段が見えた。
(そういえば・・・・)
いつだったかお師匠様と山篭りをしたときに教えてもらった。
『いいかい?イーピン。道に迷ったときはまず上に上りなさい。
てっぺんに行けば自分が今どこにいるのか、どこを目指せばいいかがわかりますよ』
こんなところでもお師匠様の教えが役に立つなんて。
イーピンはお師匠様の言葉に従い迷わず階段を駆け上がった。
何段も続く階段に心折れそうになっても一歩づつ歩みを進めていく。
常に体を鍛えているイーピンだからこの程度で疲労することもない。
80段ほど上ったところで目の前に一枚の扉が現われた。
ドアノブに手は届かないが幸いなことに少し隙間が開いていたので
軽く押してやればキィっと音を立てて外の眩しい光が差し込んでくる。
(・・・・ここは屋上・・・?)
抜けるような青い空の下には並盛の町並みが広がっている。
(・・・・綺麗・・・・)
ランボを探しに来たことも忘れてイーピンはその景色に魅入った。
普段は見上げるしか出来ない街が、今はこんなに小さく足元に広がっている。
ちょっとだけ不思議で、ちょっとだけ優越感を感じた。
「君、誰?」
(!?)
突然背後から声を掛けられた。
ランボではない。ましてやツナさんでも。
何より驚かせたのはその気配の無さ。
こんなに小さくてもイーピンは殺し屋。
無意識のうちに人の気配を読む癖がある。
それはなにをしてても行っていて。
もちろん今景色に見とれていたこの瞬間も周囲への警戒は解いていなかった。
それなのに、何も感じなかった。
つまり相手は意図的に気配を消していたということ。
思わぬ手誰に出会ってしまったと、振り返り様に構えを取る。
(誰!?)
しかし振り返った先に人影は無い。
隙を見せないように視線だけであたりを探る。
右、左、上・・・・いた!
「生徒じゃないよね、関係者以外の立ち入りは禁止だよ」
ちょうど先ほどイーピンがくぐってきた扉の上の方。
黒髪の男の人がこちらを見下ろしていた。
(・・・え?・・・・)
お師匠様が日本にいるのかと思った。
それくらい、面影が似ていた。
でもその人はお師匠様じゃない。
だって。
だって。
おそろいの髪が無いもの・・・。
一生懸命伸ばした髪が彼には無かった。
でも、とてもよく似ていた。
(・・・お師匠様・・・・)
「?君日本語喋れないの?何語かな。中国・・・いやちょっとちがうかな?」
ま、いいか。
彼はそういって軽い身のこなしで2mは高さのあるそこから
椅子から立ち上がるがごとく飛び降りた。
足音すらほとんど立てず、すたっと降り立つ。
いつの間にか、どこから取り出したのかもわからないうちに
彼の手にはトンファーが握られていた。
「僕にかみ殺されることには変わりないんだからね」
ぞわり。
むき出しの殺気が背筋を舐めた。
日本に来てからこんな殺気を感じたことなど無かった。
それは実践の空気。
びりびりとした空気に負けないよう、先ほどよりも構えを低くした。
「風紀を乱すものは子供だろうと容赦しないよ」
正直、勝算は無かった。
かといってこのまま逃げ出せるとも思えなかった。
とにかく隙を突いてチャンスを作るしかない。
お師匠様にとてもよく似た人と争うことは心苦しい。
でも
(やらなきゃやられる・・・!)
こぶしに力を込め、自らを奮い立たせる。
ごくりとつばを飲み込み、仕掛けのタイミングを計る。
(今だっ!!)
思いっきり地面を蹴って一直線に彼に突っ込んだ。
その緊迫感を打ち砕くかのごとく。
いや、実際に打ち砕いたのだけれども。
ドアの奥からランボが飛び出してきた。
「がはははははは!ランボさんも一緒に遊ぶもんねっ!・・・くぴゃっっ!」
いきなり飛び出して、いきなりけ躓いて。
最悪のタイミングだった。
転んだ拍子に10年バズーカを落とすのはランボらしいというかなんと言うか。
どぉん!
そのついでに誤射するのも彼らしいというか。
避ける暇も無く10年バズーカはイーピンに当たった。
こうなっては自分に出来ることは何も無い。
どうかせめて、ランボが泣かずにあの場を去れることを祈ろう。
あまりにも唐突だったためか彼も動きを止めた。
「なにこれ?」
突然もじゃもじゃ頭の子供が乱入してきたかと思うと
これまた突然転んで。
転んだ拍子に誤射されたバズーカに弁髪の子供が当たって。
その子供を中心に煙が立ちこめ視界がさえぎられる。
よく目を凝らすともくもくと立ち込める煙の中に人影が見えた。
自分の戦いに横槍が入ったことに気分を害された雲雀は
その人影に向かってトンファーを振り下ろした。
脳天を狙った一撃は何の手ごたえも無く空を切る。
「危ないなぁ。あたったらどうするんですか?」
「当てるつもりだったんだよ。避けるなんて生意気」
煙が風に流されて人影がはっきりとその姿を現す。
先ほどの子供とは待ったく違う容姿。
黒髪におさげの女子。
「君、何者?そこそこ出来るんでしょ?」
「え〜〜〜と・・・・話すと長くなるんですけど・・・・」
「じゃあいい。さっきの子はどこ行ったの?」
「ん〜〜〜〜・・・・もうしばらくしたら帰ってきますよ」
「そ。じゃぁその間君が相手してよね」
言い終わるのが早いか、間合いを詰めるように一足飛びに踏み込む。
今度はあごをえぐるようにしたから打ち上げる。
確実に捕らえた。
はずだった。
またしてもトンファーは空を切る。
あご先を掠めるほどのぎりぎりのところで避けると
そのままバク転の要領で身を後退させる。
ついでに打ち込んできた方の手を下から蹴り上げてきた。
不意打ちを食らったものの何とかこらえトンファーをはじかれることだけは避けた。
「あ、流石ヒバリさんですね。さっきので武器落とさない人少ないんですよ」
「・・・・僕のこと知ってるの・・・・?」
「えぇ。まぁ」
「・・・・気に入らない・・・・」
「そんなとこも、やっぱりヒバリさんですね」
彼女はけらけら愉快そうに笑った。
一方的に素性が割れているというのはいい気がしない。
より一層気分が悪い。
なにが何でも咬み殺してやりたくなった。
「君、名前は?」
「・・・イーピンです」
少しためらうようにしてから彼女、イーピンは名乗った。
「イーピン・・・・一つの、片側ってところかな」
「名前の意味なんて考えたこと無かった」
ちょっと感心したようにイーピンは声を上げる。
僕にしたって名前の意味なんて別に興味ない。
個人が識別できればそれでかまわないだろう。
「君の名前、覚えておいてあげるよ」
もしもぼくを満足させることが出来ればね。
「ただでは帰してくれなさそうですね」
覚悟を決めたように構えを取る。
先ほどの子供と同じ構えを。
その顔はどこかうれしそうで。
まるで戦えることが最上のよろこびであるかのように。
「では、こちらからっ!」
低い姿勢のままこちらに向かってくる。
胸の前で構えた僕のトンファーを左腕で刷り上げるようにしていなすと
フリーになった腹部めがけて右手で掌底を放つ。
「はっ!」
「っ!」
間一髪直撃だけはさけ一歩後退。
イーピンはさらに追撃をかける。
掌底と同時に踏み込んだ右足を軸に回転し雲雀の右わき腹にけりを叩き込む。
しかしこれは軌道が甘く逆に足を取られてしまう。
軸の右足を払われバランスを崩す。
その場に倒れこむところに容赦なくトンファーが振り下ろされる。
これで決まりだ。雲雀はそう確信した。
(!?)
地面に倒れこむ直前。
猫のようなしなやかさで横に半回転してそのまま飛び上がり僕の頭上を越えた。
「わぉ。君面白いね」
「ヒバリさんにそういってもらえると恐縮です」
「気に入ったよ。明日またここにおいで」
「ごめんなさい。それはちょっと・・・・・」
「君に拒否権なんか無いよ。僕が気に入ったんだから君はもう・・・」
「ヒバリさんのものですよ」
にこりと
穏やかに微笑んで
「私はもう、ヒバリさんのものですよ」
彼女はそういった。
だけどここに来ることは私の意志ではどうにもならないんです。
ごめんなさい。
そろそろ時間です。
また、逢える日を楽しみにしてますね。
ヒバリさん。
すると彼女が現われた時と同じように煙が立ちこめどぅん!と
大きな音がしたかと思うと同じ場所に先ほどの子供が立っていた。
なにがなんだかわからないけど。
彼女は子のこと何か関係があるのだろうか。
見ればその子はこちらを見て不思議そうな顔をしている。
「・・・・イーピン・・・・」
なんの気なしも無くその名を口にした。
すると目の前の子供がびくっ!と反応するではないか。
「君・・・イーピンて言うの?」
言葉が通じるかどうかも怪しいところだが僕の問いかけにその子は大きく頷いた。
やっぱり彼女とこの子は何かしら関係があるみたいだ。
そういえば
この子はさっき並森の町並みをえらく熱心に眺めていたな。
「君、この景色気に入ったの?」
一瞬の躊躇もなく笑顔で頷いた。
その笑顔は先ほどの彼女をどこか彷彿とさせた。
「なら、来たいときに来たらいいよ。その代わり一人で来るんだよ。
僕は群れている人間がきらいだからね」
謝謝!
そう、言ったように聞こえた。
感謝なんてされる人間ではないけれど。
あの子に感謝されるのは存外悪くない。
「イーピン!大丈夫!?・・・って雲雀さん!!」
息を切らして走りこんできたのは見知った顔だった。
明らかにおびえた表情を浮かべている。
「沢田綱吉か。君、あの子の知り合い?」
「知り合いというか、うちに居候している子なんです」
「そぅ。今日は気分がいいから見逃してあげるよ。早く行ったら?」
「あ、ありがとうございます!!」
そう。
あの子は沢田綱吉の関係者か。
面白くなりそうな予感がするな。
またしばらくは退屈しないですみそうだな。
そんなわけで。
ヒバピンの第一弾!!ぱんぱかぱーん!
完全に導入な感じの展開で甘い感じとか全然無いですけどね。
ここから甘あまのベタベタになって幸せになったらいい。
あくまでもさかきの願望。
しかし予想以上に長くなってしまった。
てかランボ超放置プレイにしてしまった!!わぉ!
あとで10年バズーカで未来に行ってしまった子イーピンと
未来に戻った10年後イーピンの小話書こうかなと思っています。
よかったらしばらくお付き合いくださいな。
ちなみに時間軸としては黒曜編よりももっと前を意識してます。
さかきの中ではその頃の雲雀と10年後イーピンは戦闘能力が同じくらいと踏んでいます。
将来有望ですからね。イーピン。
戦闘場面・・・・もっと精進します。
どうやったら臨場感が出せるのだろうか・・・・
2008/06/23
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。