ビアンキに騙されて、アジトを飛び出しがむしゃらに走った。
今更になって、自分たちがどれだけ身勝手だったか思い知らされる。
彼女はどんな気持ちだっただろう。
何も無いわけが無い状況に巻き込んでおいて、それでも『なんでもない』と言い張る俺たちをどんな目で見ていたのだろう。
思い出そうとしても思い出せない。
それこそがつまり、俺の行動が一方的で、押し付けがましいものだったということ。
彼女の身を案じている風を装って、ただただ自分のことしか考えていなかったということ。
謝ってすむ問題じゃないかもしれない。
でも、俺は走らずにはいられなかった。
聴いて欲しかった。
拒絶をされても、理解されなくても、何でもいいから。
ただ、君に聴いてほしくて。
俺は走った。
がむしゃらに。
どこまでも。
どこまでも。
「京子ちゃん!!」
「あ、ツナ君!」
Instead of the Goodbye
総ての話を、彼女は黙って聴いてくれた。
何を言うわけでもなく、ただ頷いて。
それが肯定なのか、否定なのか今の俺には判断できない。
それでも俺は話した。
俺が納得できるまで。
包み隠さず、総てのことを彼女に話した。
「そんな・・・・感じなんだ・・・・・」
「うん・・・」
「おどろいた・・・・・?」
「うん・・・」
単調に彼女は答える。
他になんて答えたらよいのか分からない、というように。
(・・・・・本当にこれでよかったのかな・・・・・)
今更に不安が頭をよぎる。
知らないでいて欲しかった世界を知らせてしまった。
これまで話さなかったことが男のプライドなら、今こうして話したことは俺のエゴだ。
結局のところ自分の都合で彼女を振り回していることに変わりはない。
自分自身の不甲斐無さを改めて突きつけられて、俺は顔をうつむけた。
「・・・・・ぇ・・・・・・?」
そんな俺に。
彼女が手を差し伸べる。
優しく、俺のそれに重ねる。
「話してくれてありがとう。ツナ君」
「・・・・・京子ちゃん・・・・」
「ふふふ!ツナ君たらどうしてそんな泣きそうな顔しているの?」
「え!?あっ・・・・!いや!これは・・・・・!!!」
言われて慌てて目元を拭ってみれば、確かに湿り気を帯びていて。
京子ちゃんに嫌われるかもしれない
そんな動揺が、自分で思っているよりも大きかったことに気付かされた。
「ご・・・ごめんね!なんでもないから・・・・!」
「いいよ。私の方こそごめんね?言いたくなかった事を無理強いさせちゃって」
「ううん。今まで黙ってた俺が悪いんだ。それよりも・・・・」
「?」
「俺のこと・・・・・怖くない・・・・・?」
これから先、間違いなく血にまみれることになる俺のこと、気持ち悪くない?
人を殺してしまうかもしれない俺が、怖くは無い?
言った俺の言葉は震えていたのかもしれない。
答えるように、彼女は重ねた手をきゅっと握った。
「ツナ君はツナ君だもの」
「・・・・・・・京子・・・ちゃん・・・・・」
「・・・・・・・なんてね、ホントは少しだけ、・・・・怖い・・・かな・・・・?」
「・・・ぁ・・・・」
ぶるっ、と。
僅かに声が揺れたのを俺は聞き逃さなかった。
動揺は俺に伝わり、ふいに漏らしてしまった音がその色を含んでいると彼女が敏感に感じ取る。
「あ!違うの!!ツナ君が怖いんじゃなくて」
顔の前でブンブンと手を振る。
必死で訂正しようとする彼女。
「これから先、ツナ君はずっとこんな戦いの中で生きていかなきゃならないって思ったら・・・・・」
「・・・・・・・」
「今だって毎日傷だらけで・・・・・、それがずっと続くんでしょ・・・・?」
「・・・・多分・・・・・」
俺個人の願望としては御免被りたいところだけれど。
一個人の意見など、あのお子様家庭教師に一蹴されることは目に見えている。
「いつかツナ君が私たちの前から居なくなっちゃうような気がして・・・・・・それが怖いの」
ツナ君は優しいから。
私たちに危害が加わらないようにって、ふっと居なくなる日が来るんじゃないかって。
どんなに頑張っても、手の届かない、声の届かないところに行ってしまう気がして。
それが怖いの。
彼女は言った。
夕日の射す川べりで、不安の色を携えて。
不安を隠すかのようにぎゅっと握りこまれた手。
瞳からは今にも雫が零れ落ちそうになっている。
瞳を潤ませた彼女を見て、俺は不謹慎にも『愛おしい』と思っていた。
俺を優しいという君のほうが、何倍も優しいと思う。
その優しさがたまらなく愛おしかった。
同時に、彼女を今まさに泣かせようとしているのは他ならぬ俺自身なのだと痛感させられた。
俺のために泣いてくれる彼女に対して、俺は一体何で返すことが出来るだろうか。
この場限りの気休めでなく、彼女のために出来ること。
それは
「・・・・・・京子ちゃん。俺約束する。
正直なところ、秘密を作らないで全部を話すことは出来ないと思う。
この手を離して、どこかにいかなきゃいけない時が来るかも知れない。
でも。
絶対に黙っていなくなったりしないから。必ず言うから。
他の誰に伝えられなくても、京子ちゃんにだけは、どんなことをしてもさよならを言うから」
「・・・・・ツナ君・・・・・」
「それじゃ、ダメかな・・・・?」
顔を覗き込めば、一瞬の間をおいてクスッと彼女が笑う。
「ツナ君て・・・・本当に正直だね」
「え!?な、なんで?」
「だって、普通こういうときなら『絶対に居なくならない』『必ず帰ってくるから』って言うでしょ?」
「・・・・あ・・・・・・そう・・・だね。あははっはは・・・・」
「ツナ君はわかってるんだよ。そういう時が来たらいかなくっちゃいけないってことも。二度と戻れない可能性があるってことも」
そうなのかもしれない。
なんとなく、感じ取っているのかもしれない。
だから俺は、彼女に僅かでも期待を持たせるようなことを言えなかった。
本当のことしか、言えなかった。
そんな俺を、彼女は『ツナ君らしいね』と言った。
彼女は手の甲で軽く目元を拭って、俺の大好きな笑顔で笑いかける。
「だから、そんな正直なツナ君だから、約束を守ってくれるって信じてる」
「うん」
守るよ。絶対に。
他の誰に何も言えなくなっても、必ずキミにだけは言うよ。
だけど
「帰ろうっ!京子ちゃん!」
「うん!!」
今はまだ、さよならのことなんか考えない。
この手を取って、行ける所までキミと走りぬけよう。
そうすれば、いつかの別れすら、キミと走り抜けられるかもしれないから。
俺たちは走る。
がむしゃらに。
どこまでも。
どこまでも。
繋いだ手を決して離さずに。
明日へ。
未来へ。
さよならを飛び越えて。
俺たちは、走る。
■■■ ■■■
「ねぇツナ君」
「?何?」
「私ね、怖かったのもあるけど納得もしたの」
「なっとく?」
「そう。私がずっと前に言ったこと覚えてる?」
なんだろう?皆目検討もつかない。
「『ただ者じゃないって感じ!』
やっぱりツナ君には何かあるって思ってたの!」
リクエストのほのぼのを目指していたはずが・・・・・
なんか・・・・・これ・・・・シリアス、だよね・・・・?
あれか。
意識すると書けなくなるっていうあれ。
残念なので当サイトにUPします。
もしお気に召しましたら、【天つ風】の綸さんのみ本文お持ち帰りOKです。
2009/08/31
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。