今更、といわれるかもしれない。
私自身、今更と思う。
でも、やっぱり気になってしまう。

「あの・・・・・ヒバリさん・・・・」
「なに?」

思い切って当人に尋ねてみた。
明確な答えなど帰ってくるとも思わないが、もしかしたらという淡い期待がないわけではない。
この人だって思い直しをするかもしれないではないか。

「すっごい今更だとは思うんですけど・・・・・」
「うん?」
「誕生日プレゼントに欲しいものってないんですか?」




If you are



「・・・・・・今更だね」
「だからそう言ったじゃないですか」

そりゃぁヒバリさんの誕生日はもう3週間くらい前の話なのは分かってる。
だからこそ前置きしたのに・・・・・。
嘆息気味に答える男の姿に無意識に頬を膨らせてしまったらしい。

「むくれないでよ」
「むくれてなんか」
「そ、じゃぁ君は普段からそんな膨らんだ河豚みたいな顔してるんだ?」
「ひどいっ!」
「事実だから仕方ないだろう?」
「ヒバリさんのばーか!」
「・・・・・僕に向かってそんな口を利くのはどの口だい?」
「うぅっ!はにゃひへくらはいよっ!!」

おもむろにほっぺたを両方から引っ張られる。
本気じゃないことは力のかけ具合で分かるけれど、ばかにされているようで面白くない。

「君が余計な口を叩かなければね」

頬に伸びていた腕をぽかぽか叩いてやったら意外にもすんなり離してくれた。
珍しいこともあるものだ。

「で?突然何なの?」
「だから、誕生日に欲しいものを・・・・・」
「要らないって言ったでしょ」
「でも・・・・もしかしたら欲しいものできたかな・・・・って」
「無いよ」

きっぱり
はっきり
たった一言でそう言いきった。

「・・・・・・ヒバリさんはずるいです・・・・・」
「何とでも」
「私のときはいっぱい買うくせに・・・・・」

ヒバリさんはずるい。
私が誕生日の時はたくさんのものを贈ってくれるのに、自分の時ときたら「欲しいものなんてない」の一点張り。
それも私が強請って買ってくれるんじゃない。
ふとした折に見かけて「あれいいなぁ・・・・」とか「かわいい!」と漏らしたものを逐一覚えているのだ。
だから私だってそういった呟きを聞き漏らさないように聞き耳を立てていたのに・・・・・・。
結局、ただの一度もそのような言葉を聴く日は無かった。
・・・・・・・・正確に言うならば、私の手が届く範囲の代物では、ということになるのだが。

「・・・・・・あれはゼロが二つくらい多いし・・・・・」
「君に買ってもらおうとか思ってないよ」

何のことか思い出したのだろう。
即座に拒否の声が入った。

「でもっ!」

食い下がろうとしたものの、それでゼロが消えてくれるわけでもなく・・・・・・。
学生身分の自分がどう頑張ったところで手が届く額ではないのだ。

「・・・・・やっぱりヒバリさんはずるいです・・・・・・・」

違う。
そうじゃない。
ヒバリさんがずるいんじゃない。
私が、子供なんだ・・・・・。

「・・・・・君、また『自分が年下だから』とか考えたでしょ?」
「・・・・・だって・・・・・」
「悪いけど、僕は買い与えられたものなんかに興味は無いから」
「・・・・・・・・・・・」

そんなことを言われたら、私はこの先ヒバリさんに何も贈れなくなってしまう。
一方的に貰うだけなんて、そんなのは嫌。
確かに年齢こそ10の違いはあるけれど、対等で居たいと思っている。
なのに。
どうして。
そんな些細なことすらさせてくれないの?

「・・・・・・・・・・私がヒバリさんにしてあげられることなんて何も無いってことですか・・・・・・・?」
「別に、そうは言っていないよ」
「そう言ってるじゃないですか!?」
「僕は『君に買って貰いたいものなんて無い』って言ったんだよ」

些細ながらも、ヒバリさんは強調して私の発言を訂正する。
ヒバリさんは買って貰いたいものは無い、といった。
じゃあ、他には何か欲しいものがあるということ?

「私に出来ることって何ですか・・・・?」
「分からない?」
「えぇ」
「本当に?」
「ほんとに」
「・・・・・僕はちゃんと君に言ったつもりなんだけどな」
「なんて?いつ?」
「前に君が同じ質問をして来た時」
「え・・・・・・・?」

必死に思考の回路をめぐらせる。
だがそのような言葉に思い当たる節は無かった。

「なんて・・・・言ってましたっけ、ヒバリさん?」
「・・・君にとって僕の言葉ってそんなもんなんだ?」
「や、そういうことではなくて・・・・・その・・・・・」

言い繕おうとしても、言葉を覚えていないことは事実で。
となればやっぱりヒバリさん言葉を否定しきれない自分がいた。
傍目にも困りきっていることが見て取れる私の表情に、ヒバリさんはほんの少し口角を上げた。

「まぁいいや。何度でも言ってあげる」

そう言って、隣に座っていた私の腰に、頬に手を伸ばしぐいっと引き寄せる。

「へ、ひゃぁぁっ!」
「・・・・・・もうちょっと色気のある声だしなよ・・・・」
「そ・・・・んなこと言われてもっ!」

引き寄せられ、語弊無く目の前にある顔に動揺するなというほうが無茶な話だ。

「ヒバリさんっ!か、顔近いですっっ!!」
「うるさいよ」

ぎゅっと、力が込められる。
だけれどもそれは壊れ物を扱うかのようにやさしくて。
だけれどもそれは離すまいとするかのように強固で。
そっと耳元に唇が寄せられた。

「僕はね、君がいれば他には何もいらないんだよ」

ぞくり、甘い囁きが背中を撫ぜた。

「ヒバ・・リ・・・さん・・・・?」
「僕は君がくれたものを愛したいんじゃない。君を愛したいんだ。だから君以外要らない」
「・・・・・・・」
「わかった?」
「・・・・・・わかりません・・・・・」

だって、そうでしょう?
貴方が私自身を愛したいといってくれるように、
私だって・・・・・

「私だって、ヒバリさんを愛したい。なのにどうして私にはプレゼントなんかくれるんですか?」
「ただの独占欲だよ。この子は僕のものっていうマーキング」
「そんなもの無くたって、私はヒバリさんの・・・・」
「違うな。君に僕という痕跡を刻み付けたいから、かな?」
「・・・・それはどういう・・・?」
「四六時中君の傍にいることは出来ないからね。せめて僕の痕跡を残しておきたいんだよ」

僕がいない間も、君の傍に居たいという浅はかな思い込み。
それ以上の意味はないし、それ以下の意味も無いよ。
すべてはただの自己満足。
自分自身にかけている安っぽい保険なんだよ。
独り言のような小さな声でそう言って自嘲気味に笑った。

「保険なんて、要りません・・・・・」
「・・・・ピン・・・?」
「私はヒバリさんのものだし、ヒバリさんは私のものです。この場所は誰にも譲るつもりなんて無いんです」

目の前の首筋に唇を寄せた。
ちゅ、と少しだけ力を入れて吸うと小さな小さな赤い花が咲いた。

「私の代わりだと思ってください」
「一つだけ?」
「私は一人しかいませんから」
「・・・そうだね。じゃぁぼくも」
「・・・・んっ・・・・」

お返しとばかりに、自分はつけたのとほとんど同じ位置を狙って唇で花を咲かせた。

プレゼントとしては、なんて安上がりなのだろうか。
首筋に頭をうずめる男の後頭部を眺めながらイーピンは思った。

それでも当人が望んでいるならば、やっぱりこれが一番なのかもしれないな、とも。

「大好き、です。ヒバリさん・・・・」
「ありがと」

僕も、ピンが好きだよ。
甘い甘い声でそっと囁いてくれた。

あぁ!これじゃぁどっちがプレゼントを渡しているのかわからない。
やっぱり、やっぱり・・・・・

「ヒバリさんはずるいです・・・・」

私ばっかり嬉しがっているみたい。
こんなはずじゃぁ無かったのに。




君さえいれば





サイト2周年リクエストで頂いたヒバピンでいちゃいちゃべたべたなお話でした。

これがいちゃベタだと・・・・!?お前なめとんのか!とお叱りの声が聞こえてきそうです;;;;

(精神が)いちゃベタなお話と思っていただければ・・・・・(言い逃れにもほどがある)

熟年カップルにいちゃベタは難しい!!惨敗です!!

甘めの台詞とか恥ずかしい台詞を言わせて見たけどなんか違う・・・・・

ジャンピング土下座で許してください;;

そんなこんなで、リクエストありがとうございました!!

2010/05/24




※こちらの背景は Sweety/Honey 様 よりお借りしています。




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