「ちょっと位いいでしょ」
「いーやーでーすーっっ」

キスをしようとしようとしたら全力で断られた。
顔には出さないけど結構ショックだ。
今もイーピンはこれ以上近づけないようにと腕を突っ張って僕を遠ざけようとしている。

「断る理由がわからないよ」
「断らない理由のほうがわかりません!今日日誰もやってませんよ!」
「他の人なんか持ち出さないでよ」

僕たちの関係に他人なんて関係ないでしょ。
僕たちのことは僕たちで決めればいい。

「キスされるのそんなに嫌?」
「嫌・・・・・じゃないですけど・・・・」
「なら」

ぐっと、力を込めてイーピンの腕を押し返す。
そもそも純粋に力比べをしたら僕のほうが圧倒的に強い。
身長も体格も違うのだから当然といえば当然。
その体格差でごり押しして嫌がる彼女に無理やり・・・・というのは趣味じゃない。
だから力は彼女に合わせて本気を出さないようにセーブしているのだ。
少しだけ縮まった距離。
危機感を感じた彼女は更に強い力で僕の胸を押し返すが今度ばかりはびくともしない。
唇まであと15cmに迫ったところで僕はもう一度問う。

「いってらっしゃいのキスくらいさせてよ」
「絶対に嫌です!!!そんな恥ずかしいことできせん!」
「恥ずかしくなんかないよ。恋人同士の朝の嗜み」
「その発想が嫌なんです!!!あぁっ!学校に遅刻しちゃう!!」

肩越しに見た時計の針は7時40分。
もう家をでなければ電車に間に合わない。

「なら観念しなよ」

じゃないと遅刻だよ?

イーピン以外は決して見た事がないであろう雲雀の笑顔。
この顔に弱いことは知っている。
案の定、うぅ・・・・と言葉を詰まらせた。

人のいい笑みで脅すのは反則です・・・。

訴える彼女の手からわずかに力が抜けた。
OKのサインと取っていいのだろう。
彼女の気が変わらないうちに・・・・・・・・・・

ぼぅんっ!!

唐突に煙が彼女を取り巻く。
この現象。10年バズーカに違いない。

っち!どうしてこんなタイミングで・・・・折角こぎつけたのに・・・・
しかし過去から来る10年前の彼女に罪はないからこの怒りをぶつける先なんてない。
仕方ないと思うしかないだろう。
そんなことを考えているうちに腕に重みが加わる。
まだ小さな彼女の重みなんてたかが知れていて、片手でも差支えがないほどだった。
最も、僕が彼女に対して(それが今であれ、過去の彼女であれ)粗暴な扱いをすることなんてないから両の手でしっかりと抱えてやる。

煙が霧散し視界が晴れるとそこに現れた幼いイーピンはぐったりしていた。
何かあったのかと慌てて胸に抱きかかえてみると、かすかに聞こえてくるすやすやと規則正しく漏れ出る寝息。小さなこの子にとってはまだ一日が始まりを告げる時間ではなかったのだ。
よかった。思わずホッと息をつく。
ついさっきまでキスするさせないで争っていたことがどうでもよくなるくらい、心穏やかだ。どうしてこんなにも君は僕の心を揺り動かすのだろう。
本当に君は不思議な子だよ。今も、昔も。
さて、わずか5分しかこちらに居られないとしても、僕が胸に抱くよりはソファにでも寝かせて上げたほうが寝心地がいいだろう。
出来るだけ揺らさないように注意しながらゆっくりとソファまで移動。
細心の注意を払いながらクッションの上に横たえる。

「ん・・・・・」
「ごめんね。起こしちゃったかい?」

まだ寝てていいんだよ。
小さな彼女の頭を優しく撫でる。
寝ぼけ眼の彼女が小さな手でくしくし目元を擦る姿が愛らしい。
自分が今どこに居るのかもわかってはいないのだろう。
キョロキョロあたりを見回している。
首をすっ、と頭上に傾けた直後。
瞬間。
目が合う。
そして僕に向かって手を差し出した。
何かを求めるように手を伸ばすものだから、ついその手を取ってしまう。
人肌が恋しいのだろうか、その手にすりすり頬を擦り付ける仕草はまるで猫の様。
寝起きの、それも子供特有の高体温が指先から伝わる。
すっかり目を覚ましてしまったらしいイーピンを先ほどのように両手で抱えて顔の高さまで持ち上げれば、嬉しそうな声をあげた。
遊んで貰っているといるのだろうか。
彼女の無垢な笑顔を見ていると知らずに顔がほころぶ。
君といるときはいつもそうだ。
いつだって知らない僕を君は見つけ出してしまうんだ。
そして、存外僕も新しい自分を知ることが嫌いではなくなっていた。
君に出会う前なら決して考えもしなかっただろう、『愛おしい』と思う気持ちを知った。
守ってあげたいと思う気持ちを君が教えてくれてんだ。

「ヒバリサン、ヒバリサン」
「ん?」

パタパタ手を振る彼女を顔のすぐ目の前に持ってくると、一瞬躊躇してから

「イーピン、ヒバリサン、スキ///」

ちゅ。

「っ!?」


突然のことに驚く。
小さな彼女が落とした口付け。
その箇所に指をやればほんのり熱くなっているのがわかる。
どうして?と問えば彼女は頬を紅く染めて恥ずかしそうに答えた。

「イーピン、ヒバリサン、スキ。・・・・・ダカラ、オハヨウ、キス・・・・」

本当に
本当に、君は不思議な子だ。
どうして僕が喜ぶことばかりしてくれるのだろう。
ありがとうと返そうとしたところで

ぼぅん!!

再び彼女は煙に包まれる。
5分が経過してしまったのだ。
今の彼女がこの世界に返ってくる。

もちろん、小さな彼女と入れ替わりなわけだから。
僕の腕の中に。

「・・・・・きゃぁぁぁあぁぁっっ!?!?え?なんで!?わたし・・・えっ!?」
「そこまで叫ばなくてもいいと思うんだけど・・・」

いくら図太い僕でも傷が蓄積すれば致命傷になりかねないよ。
たぶん僕は君が思っているよりも、僕自身が思っているよりも繊細なんだ。

「ごめんなさい・・・・」
「まぁいいや。学校まで送るよ。もう電車間に合わないでしょ?」
「あ・・・・・・」

時計を見やれば7時45分。
健脚のイーピンがどんなに頑張っても間に合わない時間だ。
サイドボードから車のキーを取り出し、いくよと促す。
彼女の横を通り過ぎて部屋を出る直前。

「ありがとうございます、ヒバリさん」

照れくさそうに笑う彼女の姿。
それは先ほどの小さな彼女を彷彿とさせて。

まだ、“彼女”にお礼を述べていないことを思い出す。
こんなことをしたら彼女は怒るだろうか?
そもそもは彼女がやったことなのだし、いいかな?

二歩で彼女の目の前に立ち、少しだけ身をかがめる。

「?」
「こちらこそ」

彼女がしたのと同じように、鼻のてっぺんに触れるだけのキスを降らせる。

「ふぇっ・・・!?!?!?」
「・・・・・ボーっとしてるとおいていくよ」
「え・・・あ・・・ちょっと!まってくださいよー!!」

ショートしかけた頭を無理やり覚醒させると踵を返した雲雀が早足で部屋を抜け出るところだった。
慌てて鞄をつかんで後を追いかける。
彼が触れた鼻先に手をあてがうだけでまたドキドキが再発。
きっと今時分の顔は真っ赤になっているに違いない。
あぁ!!もう!!






    鼻先に挨拶のキス





((・・・・・こっちの方がよっぽど恥ずかしい・・・・))

子供は純真で、誠実で、時にたまらなく恥ずかしいことをやってのける。









と言うわけでヒバピン祭の方に提出させていただいた作品です。

実は何気に10ヒバと子ピンの組み合わせが一番いちゃいちゃしそうなイメージが。

イーピンはいろんなことを恥ずかしがってさせてくれなさそう。

雲雀はツンツンしてる思春期なんでいちゃいちゃしたいけど素直になれなくて出来ないの。

無邪気な子ピンは恥らいながらもチューとかしちゃうんだぜ。

10ヒバは自分の心(オブラートに包んでみた/笑)に素直すぎて

周りの人がドン引くくらいにベタなことが大好きだといい。

でも、やってから我に返ると恥ずかしくてたまらなくなって悶えていればいいよ。



そんなこんなで。

ヒバピン祭お疲れ様です。

参加させていただき光栄でした!!

2008/12/09




※こちらの背景は ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。




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