「・・・・・・アルコールは・・・・・」
本当は、こんな話をしたかったわけじゃない。
でも、せずにはいられない。
そうさせたのは、君。
だから、悪いのは僕じゃない。
・・・・・・はずだ。
炭化水素の水素を水酸基で置き換えた化合物
「アルコールは、いいと思うよ・・・・・」
目の前の少女が、はぁ、と感嘆なのか溜息なのかわからない声を上げた。
自分でも何を言っているのかと思う。
しかし一度喋りだした口は、エンジンがかかった車と一緒ですぐに止まることはできない。
「適度な酩酊感は嫌なことも忘れさせてくれる。
限度さえ知っておけば二日酔いに悩まされることもない。
アルコールそのものを楽しむでもいい。
アルコールを楽しむために料理を楽しんでもいい。
例えば景色を楽しみながら、なんて飲み方も出来る。
千差万別の飲み方が出来る」
早口にココまで言うと、手元のグラスをくい、と傾ける。
口内で液体を少しばかり転がしてから、嚥下。
残った香りを鼻から抜けば、舌先で感じる旨味とはまた違ったものが広がる。
「種類が豊富なのもいい。
一口にアルコールといってもその種類は数知れない。
日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキー、カクテル。
組み合わせ、飲み合わせでその世界は無限とも言える広がりがある」
アルコールは全般的に好きだ。
アジト内で着物なんか着ているせいか、日本酒しか飲まないと思われているらしいがそれは違う。
はっきり言って雑食。
ビールだって飲むしワインだって嗜む。
自分でカクテルを作ることだってある。
「・・・・アルコールはいいよ」
言ってから先ほどと同じことを口走っていると気づく。
あぁ、違う。
本来僕が言いたかったのはこんなことではなくて。
「だから、君が呑み始めようと別段異論はないんだ」
例え未成年だとしても、二十歳からと定めているのはあくまでも日本だけであってこと外国に関してはそれは一様ではない。
このイタリアにおいては16から認められているのだから、こうしてわざわざ忠告することもないのだ。
年齢的にはクリアしている。
「君と呑み交わす、というのもきっと美味しく呑めると思う」
ただ、
どうしてなんだろう。
何で君は、
「・・・・・泡盛なんか愛飲してるかな・・・・?」
「・・・・美味しいですよ?これ」
飲みます?なんて、当たり前のように酒瓶を掲げてくる。
・・・・・気がついたらグラスを空け、彼女の前に差し出していた。
氷はなく、どうやらストレートの飲み方にこだわっているらしい。
黒い重厚感のある瓶から注がれる液体。
トクトク、とそれだけで広がる香りが味の美味さを保障してくれる。
口に含めばやはり想像した、いやそれ以上の味だ。
なのに何故なのだろう、このやるせなさ。
「・・・・度数は?」
「・・・・・・・・」
問うと、ピンは少しだけ顔を俯けた。
「ピン?」
「・・・・・・35度・・・・・・」
「なるほど・・・・・・」
聞いてからもう一度口に含み、そして飲み下す。
少しばかり喉に焼け付くようなこの感じ。
35度、確かにそれくらいあっておかしくないものだ。
「君は、度数を言うのが憚られるようなものをグイグイ空けているわけだ」
「・・・・・・・・・・・」
「それも手酌で」
「・・・・・・・・・・・」
「なおかつ酒のあては酒かすの網焼きときたもんだ」
「・・・・・・・・・・・」
「どれだけのんべぇなの?」
そんな呑み方、僕は教えてない。
「・・・・だって・・・・・」
美味しいんですもん。
少女は幸せそうに杯を傾けた。
この子はきっと、将来すごい酒豪になるだろうな、と思わせるそんな笑顔。
共に呑めることは大変芳しいことのはずなのに、雲雀は素直に喜ぶことが出来なかった。
この後ヒバリがまず初めにしたことは手酌を辞めさせること。
ピンは酒豪だといい。
それか全くダメかの両極端、どちらかだと思ってます。
雲雀は呑みつぶれるってことがなさそう。
きちんと限度を知っているし、回りから無理に勧められることもないから
綺麗な酒飲みって感じ。
タイトルはそのまま『アルコール』の化学式。
2010/02/11
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。