嘘の中にも真実あり -ツナside-






「というわけで、ハイ生徒手帳」

不気味としか言いようのないほどにこやかな顔をして。
早くといわんばかりに手を差し出してきた雲雀さん。

一応付け加えておくが『笑顔』ではない。
語弊があると後で何が起こるか分からないからね。
あくまでも雲雀さんの通常を比較対象とした“いい顔”なので間違いのないように。

・・・つまりは俺をいじめられて楽しんでるって事なんだけど・・・。

俺は殴られる前にと、特に反論することもなく手帳を取り出す。

「あの・・・何が『というわけ』なんですか?まぁいいですけど。今朝遅刻だったし・・・」

とたんに雲雀さんは表情を曇らせる。

「なにそれ。僕が朝、遅刻取らないであげたのに」
「今来たじゃないですか」
「うん。綱吉の落胆する顔を見ようと思って」
「・・・そんな気がしてたんですよ・・・」

そりゃ分かりますよ。
今日に限って風紀委員が一人もいないなんてさ。
これまでにそんな日は一日だってなかったんだから。
バレンタインもホワイトデーも容赦なく取り締まるくせに今日だけいないとか怪しすぎ。
この雲雀恭弥という人物の性格を考えれば何をしそうか、検討くらいはつく。

「これいらない」
「え?」

自分から要求してきた生徒手帳を雲雀さんは押し返してきた。

「遅刻カウントしないんですか?」
「何?してほしいの?」
「・・・いえ。・・・でもなんで・・・」
「つまらないから」
「は?」

またこの人のなんだかよく分からない自論が出てきた。

「僕は綱吉の落胆した顔が見たくて来たのに。何なのさ」

それはこっちに台詞です。だから何なのさ。
口が滑っても声には出さないけどさ。

「考え先読みして僕の楽しみを邪魔するとか、そんなことして楽しいわけ?」

あんたこそ常日頃から俺をいじめて楽しいのか。
命が惜しいから間違っても声には出さないけど。

「今日がエイプリールフールだって、いくら馬鹿な綱吉だって分かってるんでしょ」

知ってますとも。まさかあんたが仕掛けてくるとは思わなかったけど。
何かもう、とりあえず声には出さないけど。

「人としてそーゆー時は引っかかってあげるもんでしょ」

人道も糞もないあんたが言いますか、そういうこと。
・・・声には出さないけど。

「ちょっと空気読むってこと知らないわけ?」

あんたが今までに空気を読むどころか他人の動向を気にかけたことがあるのか。
・・・声には・・・だ・・出さないけど・・・。

「大体、僕がわざわざ出向いてあげてるのに感謝の一言もないし」

どこの世界に勝手に遅刻を取り締まりに来た人に感謝する奴がいる。
・・・・・・・・・・出さないけど・・・・・・・。

「綱吉の社会性がここまで欠如しているなんてさすがの僕も気づかなかったよ」

・・・社会性のない人に言われると地味にむかつく・・・。

「綱吉、ちょっとおかしいんじゃない?」

・・・・・・・・・・・・・・・・。

結論
おかしいのはお前の頭だ。

「じゃぁ・・・」
「何?」
「頭がよろしくて、空気の読める、社会性たっぷりの雲雀さんは、俺が嘘ついたら引っかかってくれるんですよね?」
「うん」
「ホントにホントですか?」
「うん」
「どんな見え透いた嘘にだって引っかからないとだめなんですよ!?」
「うん。わかってるって」
「絶対引っかかるんですよね」
「だからそういってるじゃない」
「絶対の絶対ですからね」
「しつこいってば」
「『そんなのは駄目』とか聞いてあげませんからね」

この人がぎゃふんというような嘘をついてやるっ!!
ものっすごく古典的な嘘がいい。
分かりきった嘘にこの人がどんなリアクションをするのかとくと見てやろうじゃないか。
何がいいかな。
俺実は女です!とか。・・・いや、貞操に関わりそうなのはやめておこう・・・。
あ、スイカの種を食べると臍から芽が出るとか?
いやいや、やっぱりツチノコを飼っているって話のほうが・・・
それなら徳川埋蔵金を掘り当てたって方が面白いかも・・・

「ねぇ綱吉」
「なんですか。今嘘を考えてるんですから」



「・・・・・・・そこまでして嘘ついて、楽しい?」



「・・・・・」

「・・・・綱吉?」

「・・・雲雀さんのばか!!だいっ嫌いっ!!」

なにさなにさなにさっ!
デリカシーがないのはどっちだよっ!!

鞄を乱暴につかんで俺はその場から走り出す。
一秒だってこんなところには居たくない。

「ちょ!待ちなよ、綱吉」

雲雀さんなんて知るもんか!

しかし悲しいかな雲雀さんの方が脚が早い。
捕まるのも時間の問題。
昇降口まであと少しのところで手首を掴まれてしまった。

「・・・綱吉・・・さっきの・・・」

・・・やっぱり雲雀さん相手に「ばか」はまずかったかな・・・?

「あ、あれはですね。言葉のあやというか・・・その・・・」

「さっきのが、綱吉の嘘・・・?」

「・・・・・へ?」

「つまり、僕のことそう思っててくれたってこと・・・?」

なんだなんだ何を言っているんだこの人は。
春の陽気に頭をやられたのか?
いやいや、まずはこの場を整理するんだ。
俺何か言ったか?言ってないよな?ばかって言っただけだよな?
まさかこの人が

「ばか」って言われた
     ↓
    その逆
     ↓
「天才」って言われた

なんて安直なことで喜ぶとも思えないし・・・・
・・・ん?
俺あの時なんて叫んだっけ・・・?
たしか『雲雀さんのばか!!だいっ嫌いっ!!』って・・・・・

・・・・・・・まさか・・・・・

「・・・雲雀さん・・・?まさかとは思いますけど・・・・・大嫌いっていったやつのことですか・・・?」

「当たり前でしょ」

大嫌い
 ↓
その逆
 ↓
大好き

・・・安直っ!!

「あれはそーゆー意味じゃなくって、第一嘘に引っかかってないじゃないですか」

「人には引っかかるべき時とそうじゃ無い時があるの」

「なんて勝手な・・・。とにかく、さっきのは嘘でも何でもないんです!」

「なんだ。綱吉からの告白かと思ったのに・・・」

「あんなので思わないでくださいよ」

「・・・つまらないから帰る」

「どこまで自由人なんですか。あんたは」

「じゃぁね綱吉。明日は遅刻しちゃだめだよ」

雲雀さんは俺の台詞なんて聞こえてもいないとばかりにすたすたと応接室に足を向ける。
俺、結局いいように遊ばれただけじゃん・・・。
このままなのはなんとなく面白くない。
どうにかして雲雀さんに一矢報いる方法はないだろうか。
・・・!そうだ。

「雲雀さん!」

「ん?どうかした?」




「雲雀さん。大好きv」




「・・・・・綱吉・・・」

「なんですか?」

「それホント?」

「どうでしょう?今日はエイプリールフールですから」

「それとも嘘?」

「さぁ?今日はエイプリールフールですから」

「その嘘に、引っかかってもいいのかな?」

「いいですよ。


だって、今日はエイプリールフールですから」









予想以上に長くなってしまった。

もっと短くまとめるつもりだったのですが・・・



それ以上に



何の前振りもなくヒバツナを書いたことに

一番驚いているのはさかき本人です。

いやまじで。

相手誰にしようか悩んでたら雲雀さんが出張ってきました。

正直誰でもいいかなって思ってたけど、

わりとこれでまとまったからよしとする。



ネタとしては定番過ぎるほど定番ですが。

一回くらいはやっときたいなと。

テーマは『優しい嘘』

騙されてもそうでなくても誰も傷つかない。

嘘がそういうものであってほしいとゆー願いもこめて。



最後のツナの「大好き」ですが

嘘なのか本心なのかの審議は皆さんのおまかせでどうぞ。

2008/04/01





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




※ウィンドウを閉じる※