風紀委員と生徒会長




さぁ放課後だ。
今日は今まで延ばし延ばしになっていたことを決める日だ。
気合を入れるため、ぺチン!と自分の両頬を叩いて奮い立たせる。
大丈夫。
皆私の味方よ。
恐れることなんてないわ。
だって、間違っているのは向こうなんだから。
大丈夫。大丈夫。
まるで暗示をかけるように何度も何度も繰り返す。
ちらりと時計を見やる。
開始時間まで後10分。
威厳を見せるために私が先に行くわけには行かない。
開始時間丁度に扉を開けるくらいでいいわ。
邪魔が入らないうちに一気に可決までを畳み込む。
初めから終わりまでを頭の中でトレース。
大丈夫。上手くいく。
今日のためにいろいろと手を打ってきたんだもの。
失敗はないわ。
だいじょうぶ。
今日こそ。
今日こそ学校を恐怖政治に追い込んでいる元凶、風紀委員会委員長・雲雀恭弥を委員長の座から引き摺り下ろすのよ!
それこそが生徒会長である私がするべき一番の案件だわ。
もう一度時計を見る。
開始まで後5分。
もう一度ぺちぺち頬を叩いてからイーピンは勢いよく立ち上がり、決戦の場である会議室へと足を向けた。


□■□


扉の前に立つ。
第一声は決めてある。
『皆さんおそろいですね?あら、風紀委員会だけはまだのようですが生徒会規約に則り、過半数以上の参加を確認したため会議を始めさせて貰います』
脳内で言葉をリフレインさせ、そこに一切の破綻も矛盾もないことを確認する。
大丈夫。大丈夫よ。
今日何度目になるかもわからない言葉を自分自身にかける。
さぁ、これであの人の悪行もココまでよ!
カチリと時計が予定の時刻になったことを告げたのを見届けて扉に手を掛けた。
あくまでも冷静に、あくまでも自然に。
この部屋の中に入っていく。

「皆さんおそろいです・・・・・・・ね・・・・・?」
「やぁイーピン。流石に生徒会長様は時間に正確なようだね」
「なっ!?な!?」

部屋の中に居たのは20の委員会委員長の姿ではなく。
まさしく自分が除籍を画策していた男の姿。
なんであんたがここにいるのよ!
叫びたい衝動がこみ上げるがどうにか理性で押し込める。

「・・・・他の皆さんはどうされたんですか・・・・?」

極めて冷静に、感情を押し殺して目の前の男に問う。

「あぁ、あいつらなら僕の顔を見るなり皆逃げ出してしまってね。ひどい話だよ」

人の顔を見て悲鳴を上げて逃げるなんて、まるで僕が化け物見たいじゃないか。
なんてよくもまぁぬけぬけとそんなことが言えるものね!
化け物みたくこの学校にのさばっているのは一体誰よ!?

「ひどい、といえば・・・・・・」

行儀悪く座っていた机から降りるとツカツカとわざと足音を立てて歩み寄る。

「今日の集会、風紀委員には連絡がなかったみたいなんだけど、どうしてかな?」
「・・・・・さぁ・・・・連絡係のほうで不備があったのかもしれません。確認しておきます」
「まさかとは思うけど・・・・・君がわざと、何てことないよね?」

まずい・・・・見抜かれてる・・・・・・
私が画策していたこと全て・・・・・・

「まさか・・・・・そこに私のメリットがあるとでも?」

声は、震えていなかっただろうか。
目に、動揺は走らなかっただろうか。
確認する術などはない。
ただ、己の精神を信じるより他にない。

「メリット?メリットしかないだろう?」
「・・・・何のことでしょう・・・・?」

一歩一歩、近づいてくる。
逃げることも出来ない。
逃げれば、それは自分の不正を認めているようなもの。
対峙するしかない。
ソレが負け戦でしかないとわかっていても。

「僕が居なけりゃ生徒会会議は君の独壇場だろうし」
「・・・・・・・・・・・・」
「僕のことを引きずり下そうとしてたみたいだけど、爪が甘かったね」
「・・・・・・・・・・・・」
「伊達にこの学校に君臨してはいないんだよ」
「・・・・・・それは失礼しました・・・・・」

目の前に、パーソナルゾーンに遠慮なく踏み込む不躾さ。
吐息すら感じることが出来るくらいに近づけてくる顔。
真正面から覗き込む瞳。

「君がどんなに情報網を張りめくらせようとも、僕を上回ることは出来ないっていい加減認めなよ」
「私は絶対にあなたに屈しません」
「この学校で僕にそんな言葉を吐けるのは君くらいだよね」
「生徒会長として、あなたの横暴な態度に目をつぶるわけにはいきません!」
「僕は校内の風紀を守っているだけなんだけど?」
「制裁と称して行われている暴力行為、応接室の私物化行為、その他数々の脅迫行為!見に覚えがないとは言わせませんっ!!」
「うん。そうだね」
「自覚があるならっ・・・!?ちょっ!?なにするんで・・・・!?」

ふいに感じる大腿部への接触。
反射的に身体を離そうとするが、突き飛ばすよりも早く男の腕が腰に回されてそれも敵わない。
スカートをすり上げるように、膝元から侵入してくる。

「やっ!やめてくださいっっ!」
「そんなこと君が言えると思ってるわけ?」
「何を・・・・っ!」

大腿部の中ほどまでめくりあがる。
男の目的のものがそこから顔を出した。

「僕の前で校則違反とはいい度胸、とココは褒めるべきところなのかな?」
「校則違反なんて私は・・・!」

押し返しても男の体はびくともしない。
いくら身体能力の高いイーピンといえども、純粋な力比べとなったら年頃の男に敵うはずもなかった。
男のなすがままにされてしまうのではないかという純粋な恐怖が背筋を駆け抜け、ビクリ震え上がる。
反応が興味をそそったのか、男は意地の悪い笑みをひとつ零し、耳元で吐息を吹きかけるように、囁くように。

「誰がスパッツなんて穿いて良いって言った?」
「そっ・・・・・・んなこと私の自由じゃないですかっ!!」

校則で禁止されているわけでもない。
あんたに言われる筋合いなんてない。
心の声を嘲笑うかのように男は言葉を続ける。

「この学校じゃぁ、僕の言葉こそが校則だって、そんなことも忘れたの?」
「私は!あなたの横暴なやり方を是正するために生徒会長になったんです!」
「それはご愁傷様。短い任期の間に一体何が出来るのかせいぜい楽しませてもらうよ。まぁでも今はともかく僕に従ってさっさとそのスパッツを脱ぐんだね。僕に脱がせて欲しいというならそれも一向に構わないけど」

先ほどよりも上へと手が登っていこうとする。
侵入する手を食い止めようと身体を捩り、抵抗するがすり上る手を止めることができない。

「だいたいっ!なんで穿いてちゃいけないんですかっ!?」
「僕が楽しくないからだよ」
「なっ!」

なんでそんな理由であんたにスカートの中まで管理されなくちゃならないわけ!?
理不尽だわっ!
不条理だわっ!

「そんな要求を飲む道理はないと思いますっ!」
「口答えするとは生意気だね」
「ひゃっっ!?!?」

腰に回していた手が、セーラー服の裾から入り込む。
無駄をそぎ落とし、引き締まった身体を男の手が這う。
突然の感覚に抵抗していた力が瞬間的に抜ける。
その一瞬を男が見逃すはずはなかった。
勢いで上り詰めた上辺に指を掛け、そして引き下そうとする。

「そこまでです委員長!!!!」

もうだめだ、と心の中で諦めかけたその時。
ガラッ!と盛大な音を立てて会議室の扉が開く。
その声に雲雀の手がピタリと止まる。

「・・・・・・草壁・・・・・」

扉の向こうにいたのは風紀委員会副委員長・草壁だった。
委員長の雲雀の右腕と称される一方で、雲雀とは違い常識というものを解する男。

「差し出がましいようですが、流石にこれ以上の行為に目をつぶるわけにはいきません」

きっぱりとした物言いで、抱きかかえていた雲雀の手からイーピンを解放させる。

「委員長が失礼いたしました。お怪我などはありませんね?」
「あ、はい・・・・」
「委員長・・・・・・やりすぎです」
「なんだ。折角人払いまでしたのに」
「そういう問題じゃありません。ココは学校なんですよ」
「別に最後までしようだなんて思ってないよ」
「・・・・ともかく、校内での過度の接触は校則違反です」
「そ」

何か思いついたように、またにやりと笑った。

「校内じゃなけりゃいいわけだ」
「委員長っ!」

当事者のイーピンそっちのけで会話は展開していく様子を眺めていたところで突然声を掛けられた。

「イーピン。帰るよ」
「ま、まだ今日の会議が・・・・・!」

なんとか至極最もな返事を返せたはいいが、無意味な返事だったと後で理解。

「そんなものないよ。頭数が集まらないんじゃぁ会議なんてしたって意味ないだろ」
「今からだって校内放送掛ければ・・・・・」
「僕がいるとわかっていて風紀委員長除籍決議に参加するバカはこの学校に一人、君だけだよ」

そうだ。
だからこの人を参加させないように手を回していたのに!
この男がどこからともなく情報を仕入れて顔を出すものだから全てが白紙に戻ってしまった。
普段の会議になんて絶対に参加しないくせに、こういうときだけは顔を出すから嫌になる!

「さ、学校だと草壁がうるさいから家に帰るとしよう」
「か、会議以外にもやることが・・・・」
「目安箱に入っていた要望書の書類制作なら僕が終わらせておいて上げたよ。ホラ」

どこからともなく取り出した紙面にざっと目を通す。
正に自分が作ろうとしていたものそのもの。

「なんで・・・!」
「昨日君が部屋で漏らしていたんじゃないか。『明日中に書類作り終えなきゃなぁ』って」
「あれはただの独り言で!」

大体部屋で一人でいるときに零したものであって、この人に向けていったわけじゃない!

「君のことで判らないことなんてないんだから」
「!また勝手に私の部屋に盗聴器仕掛けたんでしょう!?」
「さぁ?」

ニヤニヤと楽しそうに笑った。
こんな風に笑うときの大半はよからぬことを考えている時とよからぬことをした後。
つまり、問いに対しての肯定ということだ。

「先月外したばかりなのにっ!」
「はいはい。文句は家でゆっくり聞いてあげるから」

文句を並べ立てるイーピンを、雲雀は五月蝿そうに聞き流し、抱きかかえてしまう。
ばたばたと手足を振り回しても雲雀の手は緩まない。

「じゃ、草壁」
「はい。下校時間になったら校内の見回りをして帰らせていただきます」
「うん。後は宜しく」
「やだ!降ろして!離してっ!」
「はいはい」
「降ろして!降ろしてよ義兄さん!」
「『お兄ちゃん』って呼んでくれたら考えて上げるよ」

悲鳴とも取れる声を上げて生徒会長と風紀委員長の二人が会議室を後にする。
好き勝手に暴れるだけ暴れて退散していく二人の背中を見送りながら、草壁は一言漏らす。

「・・・・・・兄妹喧嘩も程ほどに・・・」




義兄と義妹







サイト2周年リクエストで頂いたヒバピンで学パロでした。

勢い余ってまさかの兄弟パロも勝手に追加してしまったww

自分が『義兄さん』って呼ばせたかっただけですごめんなさい。

腹違いの兄妹とか、雲雀家に居候とか、兄妹の理由は考えてないけどwww

反省はしているが後悔はしていないんだぜ!

妹の部屋に勝手に侵入して盗聴器仕掛けるとかどんだけの変態やねん!?とか言う抗議も聞こえないよ!

作中では書いてないけど二人とも並中生です。同い年です。

リクエストありがとうございました!

こちらの作品はリクエストを下さった大福様のみ本文お持ち帰り自由とさせていただきます。

2010/03/28





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




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