これより作戦を実行する。
解っているとは思うが他言無用。
いかなる失敗も許されない。
皆、心して取り掛かるように。

らじゃ!!


こうして来るべき日に備え作戦は動き出した。





  〜前夜祭〜







「ねえツナ君!」
「?京子ちゃん?ど、どうしたの」

憧れの京子に声を掛けられ若干動揺しているらしい。
・・・もっとも、これでも最近はましになったほうなのだが。
ついこの前までは一緒に喋るなんて夢のまた夢。
『見られるだけで幸せ〜〜』なんて言っていた頃に比べれば、親しく話せるようになったのは大きな進歩だ。ついでにこの先何か進展などないだろうかと思案されていることは当人たちの知る由ではない。
しかしこの件に関しては今は置いておくとしよう。
まずは作戦実行の第一段階を進めるのが先というものだ。

京子はキョロキョロとあたりを見回してからこっそりとツナに耳打ちした。
そんな些細な動向にツナがどぎまぎしているなど露ほども知らず。

「あのね。明日山本君のおうちでリボーン君のお誕生日会をすることになったの」
「リボーンの?」

そうか・・・もうそんな時期になったんだな・・・・
月日の流れの速さに驚くあまりつい疑問符が浮かぶ。
いろいろなことがありすぎていまいちリアリティが掛けているように感じる。

「それでね、内緒で準備してリボーン君を驚かせようって皆で話していたの」
「あ、だからさっきからきょろきょろしてるの?」
「うん。絶対にばれないようにって」
「今日はリボーンは学校に来てないから大丈夫だと思うけど・・・」
「ハルちゃんが念には念を入れた方がいいって言ってたから」

思い込みの激しいハルのことだ。
過剰の妄想を織り込んで、例えば探偵の格好なんかしながら
『京子ちゃん!!この話が周囲に漏れてしまったとしたら一大事です!!
 こんな時の鉄則は影から影に、闇から闇に、こっそりひっそりですよ!!』
とか言ったのだろう。
光景が手に取るように脳裏に浮かぶ。
そして純粋無垢の京子のことだ。
何の疑いもなく実行に移した結果が現在の行動なのだろう。
ノリノリで話すハルの話を真剣に頷いて聴く姿も、先ほどと同様に容易に想像できた。
ツナは心の中で小さく笑った。
いつでも真剣な彼女等を手放しに可愛いと思ったからだ。
やっぱり、京子とこんな風に話せるようになったのは夢のようであり面と向かって『可愛い』と思えるようになったのは奇跡のように感じる。
リボーンが年を一つ重ねるのと同じように、自分も重ねた月日の数だけ成長していることを自覚した。

「で、俺は何すればいい?」
「ツナ君の分担はリボーン君を山本君の家まで連れてくること。
 あ、もちろんリボーン君にお誕生日会やるって言っちゃダメだよ」
「・・・・・それはまたシビアな役だね・・・・」

あの唯我独尊のお子様を感づかせないように誘導するなんて・・・。
俺に出来るだろうか・・・?
どんな手で最強の殺し屋を誘い出せばいいのかうーん、と眉間に皺を寄せて考える。

「・・・・大丈夫かな?」

はっと前を見ると京子が心配そうにツナの顔を覗き込んでいた。
その瞳には不安の色がありありと浮かんでいる。
ツナはとっさに口走る。

「大丈夫!!任せといて!」

ドンと胸を叩いて公言する。
口からでまかせを。
京子にそんな顔をさせたくないばかりに言ったものの、心中では自分自身を呪っていた。
出来るかどうかもわからないことを約束してしまうなんて・・・・。
己のダメさにほとほと呆れて、呆れすぎて落胆。

「そっか。よかった!!」

にっこり。
京子が笑う。
つられてツナも笑顔をほころばせる。
この笑顔を守るためなら嘘も冗談もホントにしてあげたくなる。
一瞬前まで落ち込んでいたのが嘘みたいに二人で笑いあう。
それともう一つ、そういって京子が控えめに口の前で手を合わせる。

「それとね、今日これから私のうちでケーキを焼くんだけど、
 ツナ君にも手伝ってもらえないかな?」
「俺が?」

お菓子作りなんて経験皆無な俺にどうしてそんなお願いを?
と思ったのが伝わったのか続けて話し出す。

「本当はね、ハルちゃんと作るはずだったんだけど
 委員会の集まりが長引いてみたいで来れないかも知れないの。
 私も一人で作ったことないから不安で・・・」

差し出された携帯電話に目を落とすとハルからのメールが表示されていた。
 『京子ちゃんごめんなさい〜〜(涙
  委員会が長引いてもしかしたら行けないかもですぅ〜(T△T;)
  ホントにホントにごめなさい(´人`)』
この様子からすると委員会が終わって急いできたとしても遅い時間になってしまいそうだ。
しかし大きな問題が・・・。

「お菓子どころか料理すらまともに出来ないけど・・・
 本当に俺でいいの?」
「うん!」
「逆に迷惑になるんじゃ・・・」
「私、ツナ君とならきっと上手くいくと思うの」

再び笑顔になる。
ダメだ。
こんな笑顔を見せられたら断ることなんて出来るわけがなかった。



そして訪れる京子の家。
初めて踏み入れる家はどこか新鮮で、また少し京子に近づけた様に感じて嬉しくなる。

「キッチンはこっちだよ」

促されるままに通されたダイニングに荷物を置き、手渡されたエプロンを身につけキッチンに立つ。
ケーキ作り開始!!
とはいってもツナにとっては未知の領域。
京子が本を片手に指示を出し、出来うる限りをツナが手伝った。

「はい。ツナ君これで小麦粉とベーキングパウダーをあわせてふるってね」
「・・・こう?・・・っ、はっ・・・・・・はっくしょん!!」

せっかく計量した粉がくしゃみによって宙に舞う。

「ご、ごめんっ!」
「・・・っぷ、・・・っあはははは!ツナ君真っ白!」
「・・・そんなに笑わなくても・・・・」
「ごめんね?・・・でも・・・・ぁはははっツナ君おかしー」

屈託なく笑う京子と一緒に

「あ!?京子ちゃん!!オーブンから煙が!!」
「え?やだ!どうしよう!?」

試行錯誤しながら

「何で膨らまないのかなぁ・・・・」
「何か入れ忘れたのかも・・・とにかくもう一回作って見ようよ!」
「・・・・うんv」

何度も何度も失敗して

「今度こそ!」
「やったねツナ君!」

やっと完成した一台のバニラスポンジケーキ。
嬉しさのあまり二人で手を取り合って喜んだ。
後はこれにデコレーションをしたら完成だ。
そこで初めて京子の手を握っていることに気付いたツナ。
我に返った瞬間、急に恥ずかしくなって慌てて手を離す。

「じゃぁ俺、生クリーム泡立てるねっ!」
「?うん?じゃあ私はフルーツ準備しておくね」

突然そっぽを向いたツナを不思議に思いながらも自分の作業に入った。
気を悪くさせたかも、と内心申し訳なく思いつつ自らの大胆な行動を思い出すと顔から火が噴けそうだった。
生クリームを泡立てるためにボールに張った氷がカラリ音を立てて融けていく。


結局、ハルの到着を待たずにデコレーションは終盤を迎えた。
とはいっても表面の均しは上手くいかずにところどころぼこぼこと大きくえぐれてしまっている。絞り出しもお世辞にも綺麗とはいえない仕上がりではあったが、二人で作り上げたたった一つのケーキには間違いはなかった。
最後に美的センスゼロのツナがチョコプレートにデコペンで書いたリボーンの似顔絵と、もう一枚京子が『Happy BirthDay☆リボーン君』と書いたメッセージプレートを中央に添えて、ようやく完成した。

「っ・・・・・できたぁ!」
「完成できてよかったぁ。ツナ君、本当にありがとう」
「いや、俺失敗ばっかりで逆に邪魔しちゃったんじゃないかな?」
「邪魔だなんて・・・ツナ君とだから最後までがんばれたんだよ」
「そんな・・・」

照れくさいような、甘酸っぱいような、言いようのない気持ちに満たされる。
今日ここに来てよかった。
いろんな表情の京子ちゃんも見れたし、今までよりもずっと仲良くなれたように思う。
常温で生クリームが融けないようにと、化粧箱に詰め冷蔵庫にケーキを入れたところで俺は帰り支度を始めた。
何度もスポンジ台を作るのを失敗してしまったので既に時刻は夜8時を回ってしまっている。

「それじゃ、俺そろそろ帰るね」
「こんな遅い時間まで付き合わせちゃってごめんねツナ君」
「ぜんぜん大丈夫だよ」
「ケーキは明日私が持っていくね」
「うん。よろしくね」

玄関まで見送ってもらった後も京子はツナが角を曲がって見えなくなるまで手を振って見送った。

京子の家からの帰り道。
一つのことをやり遂げた充実感に包まれながらの帰途。

「・・・そういえば・・・・」

(俺、リボーンにプレゼント用意してないな・・・)

今更ながらに恐ろしい事実に気付いた。
ケーキを作ったとはいえ、誰よりもリボーンに迷惑掛けている自分は別にプレゼントを用意するべきなのではないだろうか。
しかし時間も時間。
お店に行くにもほとんどがしまってしまっているだろうし、手持ちのお金もそんなにない。

「仕方ないか・・・第一リボーンが欲しがりそうな物も思いつかないし・・・」

家に帰ってから考えることにしよう。
そう心に決めると、ひんやりと冷え込みを見せ始めた秋の夜空を駆け抜けた。









ツナ京!書いててなんて楽しいんだろう!

お互いに背伸びしないで精一杯走ってる感じ。

もうYOU達付き合っちゃいなよぅ!(オヤジか

微笑ましい二人万歳!!

そんなこんなで誕生日企画10月12日編でした。





※こちらの背景は 空に咲く花/なつる 様 よりお借りしています。




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