「私、ランボのこと好きよ?」

彼女がそういったのは、いつだっただろう。

「ランボが好き。大好き」

彼女は何度も何度も繰り返す。
俺が何も言わなくても、何度も繰り返す。

「私、ランボが居てくれればそれで良い」

すがりついてはそう言った。

「ランボが好き。ランボのことが好きなの」

俺はいつだって「うん」としか答えなかった。
俺も彼女が好きだったから。
それでもいいかなと、思ってた。
幸せなら、それでいいかなと思ってた。

でも気づく。

それじゃぁ、誰も幸せになれないんだって。






恋する君に






「ねぇ、イーピン。そろそろ・・・・・・やめない?」
「何言ってるの?期末テスト、来週なんだよ?」

ノートに走らせるペンを止めぬまま、彼女は窘める。
大方、俺がいつものさぼり癖を出したとでも思ったのだろう。
けれど俺が今彼女に言いたいのはそんなことじゃない。

「はぐらかさないでよ。本当はわかってるんだろ?」
「何よ。ランボの言うことは唐突すぎて良く解らない」
「そう言う口は、せめて俺の目を見てから利きなよ」
「うるさい。ちゃんと勉強する。中間テスト赤点ギリギリだったのちゃんと知ってるんだから」
「テストなんてどうでも良いよ。どうせ、俺は大学目指している訳じゃないし」

彼女は真っ当になりたくて勉強しているが、俺は完全に惰性だ。
学生というモラトリアムを楽しんだいるだけ。
留年しようがしまいが、高校生活は3年間で終わらせるつもり。
彼女のいない学校に通い続ける意味なんてないから。
足を洗おうとしている彼女と違って、俺はあちらの世界に両足つっこんだままの人間。
そもそも学校に通おうだなんて考えそのものが間違っているのだろう。
俺は彼女に向かって切り出す。

「今朝、ボンゴレから連絡があった」
「へぇ、なんて?」

彼女は、知っている。
俺がボンゴレから伝えられたのと同じ情報を有している。
それでもなお、しらばっくれるつもりなの?

「雲雀氏、日本に帰っているらしいよ」

一瞬、ペンを走らせる彼女の手が止まり、また何事もなかったかのように動き出す。

「ふぅん」

まるで気の無い返事。
気の無いように振る舞った返事。

「それだけ?」
「それ以外になんて言えばいいの?私があの人を最後に見たのはもう5年以上も前だし、話したことなんて数えるほどしかないわ」
「でも、君は雲雀氏が好きなんだろう?」
「──っ、違うっ!!」

両の手をテーブルに叩きつける。
その拍子に握っていたペンが折れ、頬を掠めて飛んでいった。

「私はっ!ランボが好きなの!何度も言ったじゃない!私はランボがいればそれでいいの!」
「・・・・・・何ムキになってるの?イーピン」
「ランボが変なことばっかり言うからじゃない!」
「全然変じゃないよ。みんな思ってる。みんな知ってる。知らないのは、君だけだよ」

いい加減、認めなよ。


「君は俺を好きじゃない」


仮に好きだったとても、それは男女のそれじゃないんだ。

「本当に誰かを好きになった人は、何度も何度も、まるで自分に言い聞かせるようには言わないよ」

嘘だから、塗り固めたんだろう?
まやかしだから、言い続けないと保てなかったんだろう?

「違う?」
「・・・・・・ランボは、私に好きでいられるのが嫌なの?」
「まさか。俺はイーピンのこと好きだもん。もちろん、女としてね」
「だったらっ!」
「だから、だよ」

好きだから、耐えられない。
愛しているから、許容出来ない。
他の男を想った頭で吐かれる上辺だけの言葉を、受け入れることなんて出来ない。

「どんな理由で君が雲雀氏を諦めようとしているのかは知らないよ。でもさ、君は諦め切れてない。いつだって雲雀氏の影を追っている」

気づかなけりゃ良かったと、後悔したこともあったけど。
やっぱり、俺は君が好きだから。
遅かれ早かれ、気づいてしまう運命だったのだろう。

そして。
彼女の背中を押す役目を、俺は自ら選ぶんだ。

「諦めるのを、諦めなよ」

そうじゃなけりゃ、君は一生雲雀氏の影に縛られる。

「君が見事玉砕した時には、慰めてあげるからさ」

とっておきのブドウの飴あげる。
誰にもあげたことのない、特別な奴。
ちょっとくらいなら、泣いてもいいよ。
鼻水つけないって約束するなら胸も貸してあげる。

「だから、行きなよ。雲雀氏のところ」

彼女に紙片を差し出す。
ボンゴレから聞いた今日の雲雀氏のスケジュールだ。
なかなか受け取らないから彼女の手の中に無理矢理押しつける。
後をどうするかは彼女次第。
どうするかは、本当にどうだっていいと思う。
ただ。
前でも後ろでもいいから、進まなくちゃ。
立ち止まって、うずくまるのだけはしちゃいけない。
君も、俺も。

「ほら」

俺は彼女の気持ちを後押しする。

「大丈夫」

けれど、決して自分の気持ちを抑えている訳じゃないよ?

「雲雀氏を想っているイーピンは、世界中の誰よりも可愛いよ」

俺は、心の底から。
彼女に幸せになって欲しいと想っている。
彼女の想いが沿い遂げられることを、祈っている。


そうだよ。
解ってる。
俺も、そうなんだ。
君を好きになったんじゃない。
これはきっと、真っ当な恋じゃない。
気障なことを言うつもりはないけれど、結局。

恋する君に、恋をした。

そう言うことなんだ。









ランボさん視点のヒバリ←イーピン話でした。

カップルを支援してくれる、報われないポジションの人がすごい好き。

このランボさんは、いわゆる「恋に恋した乙女」みたいな感じで

雲雀を想うイーピンが可愛くて好きになり

ダメもとで告白したらどう言うわけかOKされ

実際に恋する目を自分に向けられた時

コレジャナイ感を感じてしまった。

あれ?じゃぁ自分は一体何を可愛いと想ったのかと考えた時、

イーピンが雲雀さんを見ていたから可愛かったのだと気づいてしまった、というそういう話。

わかりにくくてさーせん。

イーピンがどうして雲雀を諦めようとしていたかは考えてないので割愛。

なんかいろいろ乙女の葛藤があったのだと思ってください。



ランボさんは誰と幸せになるのかな?

みんなみんな幸せになーれ!

2012/03/02





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




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