最近、ヒバリさんが変だ。
なにがどうかと言われると、言葉にするのが難しいのだけれど、とにかく変だ。
見た目がおかしいわけじゃない。
そして、ごく一般的な観点からすればそれはそうおかしいことではないのかもしれない。
ただ。

相手があのヒバリさんだからこそ、おかしいのだ。

ヒバリさんはそういうことを嫌う人だと思っていた。
先入観そのものが間違っていたのかもしれない。
現実問題としていままでそのようなことはなかったのだから、やっぱりこれはおかしいことなんだと思う。




いきなり抱き寄せられて、甘い言葉を囁かれ、優しい口づけを落とされる。
それだけなら、まぁ今までになかったとは言わない。
二人っきりの時はされている。
しかし。
しかしだ。

「・・・・・・あの・・・・・・ヒバリ、さん?」
「なに?」
「あ、いえ・・・・・・『何?』ではなくてですね・・・・・・?」

問いたいのはこちらの方だ。

「こうされるの好きだって、前に言っていたでしょ?」
「そりゃぁ嫌いじゃないですけど・・・・・・って、そうじゃなくて!!」
「じゃぁなにが不満なの」
「不満も何も!ここをどこだと思っているんですか!?」
「綱吉の執務室」

そうだ!わかっているんじゃない!
私はちょっとした相談ごとがあって、忙しいのを承知でツナさんに話を聞いて貰っている真っ最中だったのだ。
それを突然ノックもなしに部屋に入ってきたかと思えば、いきなりキスされたのだ。

「いきなり何するんですか!?それもツナさんの目の前でっ!!」

ツナさんなんて突然の出来事に完全に固まってしまった。
私だって遅れて顔が真っ赤になっていくのを自覚している。
何度もされた行為だって、二人っきりの時ならまだしも人前でされるとなれば別問題だ。
そのくせ、当の本人はしれっとした顔で言ってのける。

「キスしたかったからした。それだけだよ」
「それだけって!・・・・・・っ、ヒバリさん!!」

何事もなかったかのように、ヒバリさんは踵を返して部屋を出ていってしまった。
後に残された私と、それから固まったままのツナさん。
一時の迷い。
常人には理解できない、戯れ。
そんなモノに不運にもぶち当たっただけ。
私たち二人は思いこむことにした。

が、残念ながらヒバリさんのおかしな行為は一度きりでは終わらなかった。


二度目は了平と約束をした時。
定期的に身体を動かしたくなるのは、幼い頃から仕込まれた習慣のせいなのだと思う。
特に勉強漬けになっていたテスト明けなどはその傾向が顕著になる。
そんな時の相手は大体決まっている。
近距離戦闘スタイルの笹川了平が一番の適役なのだ。

「笹川のにーさーん!」
「お?でこっぱち娘ではないか。どうしたのだ」
「今時間有ります?できたらちょっと手合わせの相手して欲しいんですけど・・・・・・」
「構わんぞ!俺も身体を動かしたいと思っていたところだ」
「わー!丁度良かった。そしたら地下二階の訓練室でいいですか?」
「うむ。了解した。こいつの報告をしたら向かうから先に行っておいてくれ」

了平は手にしていた紙束をひらひら振って見せた。

「はいっ!待ってますね!」

私も訓練室に向かって走り出した。
了平相手なら一切の手加減抜きに、そして余計なことを考えずに存分にやり合える。
早く手合わせしたくって身体が疼く。
身体を温めておこうとストレッチと軽い運動をこなしていると、訓練室の扉が開いた。

「笹川のにーさん遅いです・・・・・・よ・・・・・・?」

扉の向こうから姿を現したのは予想していた相手ではなかった。

「やぁ」
「れ?ヒバリさん・・・・・・?」
「身体が鈍ってるんだって?言ってくれれば僕が直々に相手してあげたのに」
「いや、鈍っているから笹川のにーさんに頼んだんですけど・・・・・・。って、なんでそんな不機嫌そうな顔してるんですかヒバリさん・・・・・・」

鈍った身体でヒバリさんとやり合うなんてただの命知らず。
だからこそ私は了平に頼んだのだ。
ヒバリさんが試行するのは訓練なんて生っちょろいものじゃない。
どちらかが半死状態になるまでノンストップの疑似殺し合い。
どう考えたってリハビリがてらにするような運動量を軽く越えている。
それも、こんな機嫌最悪そうなヒバリさんを相手にしようだなんて常人なら絶対に考えないことだ。

「じゃぁ早速始めようか」
「やっ!?ちょ、ヒバリさん!!人の話を聞いてくださーい!!!!」
「問答無用」

こちらの言葉になんか耳を貸す素振りも見せず、鈍色に輝くヒバリさん愛用のトンファーが空間を一文字に凪ぐ。
結局、唐突に始められた疑似殺し合いは私の悲鳴を聞きつけたツナさんと了平に発見され、二人がかりでヒバリさんを取り押さえるまで続けられた。

機嫌が悪かった理由も教えてくれなかったし、いよいよもってヒバリさんはおかしかった。


三度目はランボとお昼を食べに行った時。
みんなも誘いたかったのだけれど、タイミング悪く人が集まらなかったので私たち二人だけで遅めのランチを取ることになった。
少しだけ奮発しようと提案され、私が行ったことのないお店をランボがチョイスしてくれた。
さすがに小さい頃から一緒に暮らしていただけのことはある。
ランボは私の趣味を的確に押さえた、素朴でどこか暖かみのあるレストランを選んだ。
ここ数年で女性とのお付き合いが増えた様子があり、エスコートも手慣れたもの。
メニューはランボに任せた。
知らないお店では、知っている人の意見の方が美味しい食べ物に遭遇しやすかったりするのだ。
料理が運ばれてくるまで、私たちはたわいもない話をする。
途中、カラン、と入り口の扉が開く音がした。
お昼時は過ぎていて私たち以外の客はいなかったが、このような雰囲気のお店ならば三時のお茶を飲みにくるお客もいるのだろう。
気にせず話を続ける。

「相席、いいかな?」

相席?こんなに沢山席が空いているのに?
疑問に思って顔を上げる。
相手の顔を私が確認するよりも早く、ランボが上擦った声を上げた。

「ひっ・・・・・・雲雀氏・・・・・・っ!?」
「・・・・・・ヒバリさん?」
「で?どうなの?相席していいわけ?」

聞きながらも、ヒバリさんは私の隣の椅子を勝手に引いていた。
答えを聞くつもりがないなら聞かなければいいのに。
言葉を掛けるのもバカらしくなって、代わりに「もう」とこれ見よがしにちょっと怒り気味の溜め息を吐いて見せた。
もっとも、ヒバリさん相手にこんな態度を取るのは私くらいなもので。
向かいの席に座っていたランボは血の気の失せた顔で冷や汗をだらだら垂らしながら大慌てでその場に立ち上がった。

「あっ!?あのっ!俺ちょっと急用思い出したのですぐ帰らないとっ!!良かったら雲雀氏、イーピンと注文したランチ食べて貰えませんか!!! 会計はもちろん俺が済ませておきますからっっ!!じゃぁイーピンそういうことだから!!!!!!」

ランボもランボで人の答えを聞くこともなく早口にまくし立て、私が「待って」と声を掛けようとしたその時には既に扉の向こう側に姿を消していた。

「・・・・・・あ〜ぁ、行っちゃった」
「そう」

心底どうでも良さそうにヒバリさんが答える。
運ばれてきた料理を勝手に摘み始めた。

「・・・・・・ホント、君が好きそうな味だね・・・・・・」
「何か言いました?」
「別に」

肘で皿ごとこちらに押しやった。

「行儀悪いですよ」
「知らないよ」
「もう・・・・・・」

寄せられた料理を一口放り込む。
料理はすこぶる私の好みを付いていた。
流石はランボ。よくわかっている。
それに引き替え・・・・・・

「ヒバリさん、最近なんか変ですよ?」
「どこが」
「どこがっていうか・・・・・・全体的に。普段ならやりそうもないことをぽんぽんしている感じで、なんかこっちの調子が狂います」
「あぁ、君にはそういう風にしか映っていないんだね。そんな気はしてたけど」
「どういうことですか?」

プイ、と反らされた顔を覗き込む。
心底面白くなさそうな仏頂面をしたヒバリさんは、覗き込んだ私の顔をじっと見つめ。

「っいたぁっ!?」

問答無用のデコピンを食らわせた。

「どういうことかわかるようになったら、教えてあげるよ」
「意味が分かりません。分かるようになったら教えて貰う必要なんてないじゃないですか!」
「そう思いたいなら思っておきなよ」
「う〜〜っ!ヒバリさんやっぱり変っ!絶対変っ!!」
「はいはい。なんとでもどうぞ」

掻き回すように、半ば投げやりに、ヒバリさんが頭を撫でた。

「ま、とりあえず」
「・・・・・・とりあえず?」
「僕の目の届く所であんまり群れないでよね・・・・・・」

やっぱり不機嫌そうな顔で、ヒバリさんはぽつりと漏らした。





不器用なキミ






3周年御礼リクで頂いた「ヒバピンでイーピンが誰かと仲良くしているのが面白くないヒバリ」でしたー!

イーピンはヤキモチ妬かれていることなんか分からないくらいニブチンがデフォです。きっと。

ヒバリはヒバリで自分の中のもやもやした感情をどう処理したらいいのか分からないままイーピンに突っかかっていいいと思います。

これではイーピンがダメダメなのか、ヒバリがダメダメなのか分かったもんじゃないですね。

恋愛に関しては二人ともダメダメなんです。そこが美味しいんですけどね!

こちらの作品はリクエストしてくださったコックローチさんのみお持ち帰り自由とさせて頂きます。

リクエストありがとうございました!!

2011/05/20





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




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