ぐちゃ
ぼきぼき
ずちゃ


また一人、僕の前から邪魔者が消えた。
これでいい。

邪魔者は全て僕が消してあげます。
君は何も気に病まなくていい。

ただ、輝いてさえいてくれれば。





暗黒星雲







握りつぶした心臓がまだ拍動を続けている。
ドクントクン、トクン・・・・・トクン・・・・
次第に弱くなる脈打ちが生命の終わりが近いことを物語る。
相手の胸部に差し込んだ手を引き抜くとゴポッと血が噴きだした。
手が鮮血に染め上げられる。

「・・・・っ・・・くそがっ・・!!」

足元に転がる死体が声を上げた。
死体は声など出さない。
ただ単にまだ生きていたというだけ。
死に底ないが僕に拳銃を向けてくる。
もっとも最早虫の息。
これ以上僕が手を下さずとも数分のうちに事切れるだろう。

「まだそんな元気があったんですか?何を死に急いでいるのです?」
「うるせぇっ!・・・・っはっ・・・・・死にされせっっ!」
「あなたがね」

ズガン

死に底ないのトリガーが引ききられるよりも先に骸の銃口が火を噴いた。

カチ、カチ

ちっ、舌を打ち鳴らして自動小銃を投げ捨てる。
弾切れだ。
もともと自分の所有のものでないから弾の充填もできない。
投げ捨てた銃の代わりに愛用の三叉槍を構える。
銃は嫌いだ。
殺した感覚がこの手に残らないから。
トリガーを引く。その人差し指一本の動作だけで人があっけなく死んでいく。
なんてつまらない。
なんて面白味のない。
皮膚を貫く感覚も、肉を裂く抵抗も、噴出す血潮も何もない。
残るのは硝煙の香りと死体だけ。
だからこそ骸は銃を嫌う。
己の身体に宿された格闘スキルを持って戦うことを好む。

「さぁ、まだ抵抗する人はいますか?」
「・・・・・う・・・・・・ぁ・・・・・」
「おや、まだ喋れる元気があるようですね。くふふ。もう少し遊んであげましょうか」

つかつか歩み寄る。
そのわずかの間に、少しでも距離を開けようと床をはいずる。

ずりっずりっ
かつかつ
ずり

「僕から逃げれるとでも?」
「・・!!・・・っっつ!!!・・・・っかはっ・・・」

腹ばいで逃げる相手のわき腹に三叉が食い込む。
あまりの激痛に声も上がらない。
こちらに振り返ろうとした頭をかかとで踏みつける。

「どうしました?さっきまであんなに威勢が良かったのに。
 僕を殺すんでしょう?どうしたんです?
 そんなところに寝転んだままでは僕は殺せませんよ」

踵でグリグリ踏みにじる。
ついでにわき腹に刺した三叉も時計回りに回転させる。

「・・・ぅぅがぁぁあっ!!」
「くふふ。まだ叫ぶだけの元気があるようですね」

では。
これで終わりにしましょうか。

わざと反動をつけて三叉を引き抜く。
切っ先を喉元にあてがいゆっくりと差し込んでいく。

「・・・っつ・・・・ぁ・・・・・ぁ・・・・がはっ・・・」
「Addio」

差し込んだままの三叉を横に引く。
びくっと一度大きく体を揺らすと頚動脈から血が噴き出した。
噴水のように噴き出す血液は骸の体を紅に染めていく。

他のものが戦意を喪失し、その空間は死んだような静寂が訪れる。
紅に染まる僕。
洗い流せぬ罪の色。
重ねた罰の証。
それでいい。
僕の存在は、それでいい。


そのうち外が騒がしくなる。
ばたばたとうるさく足音を立てて走りこんでくる十数人。
その最後尾から現われた一人の男。

「・・・・遅かったですね。もう片付いてしまいましたよ」
「どういうことだ」
「何がですか?」
「この現状のことだ。骸」

自分よりも頭一つ分は小さい男。
否。少年といっても通じるほどのか細い体の人物。
しかし身体に帯びるオーラは他を圧巻している。
額と手の甲に宿る鮮やかなオレンジの炎がゆらゆらとたなびく。

「僕は君の命令に従っただけですよ」
「制圧しろと言っただけだ。殺戮しろと言った覚えはない」
「くは。似たようなものじゃないですか」
「・・・・・治療班、まだ息のあるのを早く搬送しろ」
「はい!了解しました」

ボンゴレは僕に背を向ける。
それでいい。
君は僕なんかに振り返らなくていい。
こんな汚い僕を振り返らないで。
血に汚れた僕は君のような人の目に映らなくていいんだ。

「・・・骸」
「・・・・・なんですか。ボンゴレ?」

ぱしん

「!?」

ボンゴレの平手が僕の頬をたたく。

「何で殺した・・・」
「・・・・」
「殺す必要はなかったはずだ。何故殺した!」
「・・・・・」
「骸」
「・・・・・」
「骸っ!!」
「・・・・いずれ君の敵になるからですよ」
「それでも、殺す必要なんてないはずだ」
「だから君は甘いんですよ」

三叉についた血をその辺に転がっている奴の服で拭き取る。
手にも顔にも血はこびりついているがそれは拭き取って落ちる量ではない。
アジトに戻って洗い流すとしましょう。

「帰りますよ。こんなところに長居は無用です」
「・・・あぁ・・・」

すっ、とボンゴレの額から鮮やかな炎が姿を消した。
オレンジに染まった瞳も薄茶色へと変化する。
炎が消えると彼を取り巻いている威圧的なオーラも消えた。
片がついた以上、血臭取り巻く部屋に居続ける意味は何もない。
部屋の後片付けは部下に任せ二人で一足先にアジトに戻ることにする。
ボンゴレは倒れ臥した敵に後ろ髪引かれつつも踵を返した。
すると

「死ねぇ!ボンゴレ!!」

唐突に。
折り重なるように倒れていた敵の中から一人がナイフを構えて飛び出してきた。
ボンゴレ警備班が反応した時にはもう間に合わない。
死ぬ気の炎を解いたボンゴレも反応が遅れる。
ナイフがボンゴレの腹部を抉る直前。

「・・・なにっ!?」

骸の手が敵の頭部を捉えた。
ギシギシと嫌な音を響かせる。

「君は一体、誰に刃を向けている?」
「ぐ・・・・はっ・・・・・」
「誰にと、聞いているんですよ」

ミシッ
骸の手に更に力が込められる。

「・・・・やめ・・・・・やめ・・・ろぉ・・・」
「君には言葉が通じないようですね。もう用はありません。さようなら」

ずちゃっ

骸の手刀が心の臓を抉り取った。

かはっ

敵が吐き出した血がまた僕の身体を血に染めた。
数度痙攣を起こして絶命する。

「さ、ボンゴレ。帰りますよ」
「・・・・・骸・・・・・」


■■  ■■

帰り道の間、ボンゴレは無言で僕の2歩後ろをついてくる。
街は静かなものだった。
今夜は新月。
僕のような血塗られた存在すらもその闇に隠してくれる。
この街の者は知らない。
今夜20名を越える者の命が失われたことを。
彼らの命など世界の構成に何の関わりもないかのように
穏やかな風が吹き抜けていく。

「ねぇボンゴレ。・・・星・・・・見に行きませんか・・・」
「星?」
「えぇ。今夜は新月ですから、きっとよく見えますよ」

そう。
君のように輝く星が空を埋め尽くしているはず。
その星空を君と見に行こう。
輝きがより一層僕の罪を重くしてくれる。




「予想以上に星明りが強いですね」

砂浜に寝そべると頭上にさんざめく星に眼を奪われる。
星は一条の川となり空を南から北へと縦断していた。
隣に腰を下ろすボンゴレ。
まばゆいのは空だけではない。
僕にとっては君の存在が一番眩しい。

「骸・・・・なんであの人たちを殺したんだ」
「・・・無粋ですよ。こんなに綺麗な星空の下でする話じゃない」
「何でお前は・・・こんなに血に染まって平気でいられる・・・?」
「・・・・・ボンゴレ・・・・」

ボンゴレは僕の血に汚れた顔に手を添えた。

「まるで・・・泣いているみたいだ・・・・」

目尻から顎先にかけてボンゴレの指が一筋なでる。
これはただの返り血。
泣いているだなんてただのたわごと。
君の方がよっぽど泣きそうじゃないか。

「やめてください。汚れますよ」
「骸。何でお前は自分をそうやって隠そうとするんだ。
 お前一人、傷つこうとするんだ・・・・」
「・・・ボンゴレ・・・・」
「・・・?」
「・・・幸せを得ることはなんて難しいんでしょう・・・・」
「・・・幸せ・・・」
「えぇ。幸せです」

星を掴むように。
一条の星々を掬い取るように。
僕は空に手をかざす。

「僕はね、君や凪が輝くためならどんな闇も恐れない。」

それが例え、この身を血に染めることになっても。
どんな罪を背負おうとも。
どんな罰を受けようとも。
なんと罵られようとも、君たちの悲しむ顔を見るよりもましだと割り切れる。
それなのに。
なのに。

「君は笑ってくれないんですね」
「・・・・骸・・・・」

星が掴めない。
どれだけの犠牲を払っても。
本当に欲しい物が手に入らない。

はらはらと。
ボンゴレの瞳から雫が零れ落ちる。
星屑が空から落ちるかのごとく。
きらきらと。
僕の上に降り注ぐ。

「泣かないでください」

僕にはどうすることも出来ないのだから。
汚れたこの僕の手ではその涙を拭うことすら出来ない。
震える身体を抱きしめることも出来ない。
僕には、殺すことしか出来ない。
だから。
だから。
お願いだから、泣かないでください。

僕はただ、君に笑って欲しいだけなんです。

ただ、幸せになって欲しいだけなんです。

そのために、君の害になる者は僕が殺してあげます。

だから

笑ってください。

笑ってください。

僕の分まで。

全ての罪は僕が被ってあげますから。

幸せになってください・・・









骸が変態じゃない!!(そこ!?)

七夕ってなんとなく悲愴なイメージの方が強くって・・・。

なんでシリアス調。

てゆか暗い。

骸は感情表現が上手くないと思うんだ。

だからこんなひねくれた感じか、変態チックになるんだろうな。



タイトルについて。

『暗黒星雲』とは星々の光を消してしまう物質のこと。

天の川があんなにも綺麗に見えるのは周りに暗黒星雲があって

周囲の星の光が弱められているからなんです。

天の川(ツナや凪)が輝くために必要な存在。

骸はそんな存在になりたがってるんじゃないかなって妄想してみた。

2008/07/13




※こちらの背景は 空に咲く花/なつる 様 よりお借りしています。




※ウィンドウを閉じる※