五月五日。
ヒバリさんの誕生日。
プレゼントを用意して、ご飯も作った。
けど、そこにヒバリさんは居なかった。
「まぁ、しゃーないな」
ヒバリさんは忙しい。
あちらこちらに飛び回って仕事をしている。
逢えないことは寂しいけれど、だからといってわがままを言って困らせることもしたくない。
誕生日だからといって仕事がなくなる訳じゃない。
忙しいさに暦など関係ない。
理解した上で、私はヒバリさんに一報入れた。
『もしも時間が取れるようなら私の家に寄って下さい』
留守番電話に入れたメッセージ。
それをヒバリさんが聞いてくれたかどうかすら、私には確認する術がない。
「お祝いとか、ヒバリさんあんまり好きじゃなもの」
納得する。
納得させる。
作った料理の半分はラップを掛けて冷蔵庫に。
明日のご飯にしたらいい。
残りの半分は、今から私のお腹に収まるだけだ。
「いただきます」
うん。
美味しい。
自分で言うのも何だけれど、会心の出来だと思う。
食べさせて上げられないのはもったいない。
「なんて、ヒバリさんは普段もっと良いもの食べてるわよ」
私の手料理なんかの数倍美味しくて、栄養のバランスも取れたものを食べている。
はじめこそ美味しいと思った料理も、二口目三口目となる度に味がしなくなっていく。
私は残りのご飯を黙々と口に運び詰め込んだ。
「ちょっと・・・・・・歩いてこようかな」
すべてを詰め込み終わると私は玄関に向かった。
いつもよりも数時間遅くに食べたご飯のせいで少しもたれた感じがする。
もう幾ばくもしないうちに日付が代わってしまう時間。
普通の女子なら一人歩きがはばかられるが、残念ながら私は普通の女子じゃない。
拳法の心得も殺しの心得もある。
現役を去って久しいとはいえ、大抵の危険は自分一人でどうにかできる。
(公園のところまで行って、そこで少し涼んで帰ろう)
行き先を決め、そちらに足を進める。
住宅街を歩く。
連休休みも終盤に入って疲れが出たのか、連日大騒ぎをしていた声も少し小さくなった。
静かな夜だ。
けれど、何でか少し胸のあたりがざわざわする。
それに、いつもと何かが違う気がする。
「───あ」
不意に見上げた空に浮かぶ満月。
闇夜を照らす、大きな光源。
それが一回り程大きく見える。
「そういえば、ニュースでやってたっけ・・・・・・」
スーパー・ムーンという、月が大きく見える現象なのだそうだ。
詳しい原理までは覚えていない。
ただ、綺麗だと言うことだけは分かる。
「綺麗・・・・・・」
思ったままを呟く。
ヒバリさんも、この月を見ているだろうか?
一緒に見られたら良かったな、なんて思う。
大きな月を見上げたまま、私は公園までゆっくりと歩みを進める。
時折、私と同じように空を見上げる人とすれ違う。
感嘆の息を漏らしながら、食い入るように見ていた。
それくらい、月明かりは綺麗に闇夜に映えていた。
願い事を叶えてくれる訳じゃない。
何か御利益があるわけでもない。
それでも、見上げずには居られない。
そんな月だった。
公園に着く。
人影が見えた。
「遅いよ」
なんだかなぁ。
私は苦笑する。
「私は『私の家に来て下さい』って言ったはずなんですけどね」
よく聞き慣れた声に返事を返す。
「君がここに来たなら良いじゃない」
「私が来なかったら?」
「起きなかった事象の可能性について考察するのは時間の無駄でしかないと思うけど」
「そうですか」
この人が──ヒバリさんがそう言うのだから仕方がない。
「それじゃぁ、遅くなってすみません」
「うん、大遅刻。罰ゲームものだね」
「約束の時間は決まっていなかったはずです。それに、まだ五日ですからどちらかというとセーフです」
時計で時間を確認してみる。
まだ、五月五日は十分ほど残っている。
「へぇ。僕に何かしてくれるの?」
「残念ながら、身一つで出てきたのでプレゼントは家です。後払いと言うことでここは一つ」
「却下」
「お誕生日おめでとうございます」
「祝われたい歳でもない」
「他にどうしろと」
「何もないなら、やっぱり罰ゲーム」
「えー、困ったなぁ」
後払いもダメで、言葉でもダメで。
そうしたらどうしたらいいのだろう。
今私がヒバリさんに渡せるものなんて、本当に何もない。
私に出来ることといったら・・・・・・。
「ヒバリさん」
「うん?」
すぅ、と視線を空へと持ち上げる。
「月が、綺麗ですね」
貴方と並んで、こうやって月を眺めることくらい。
「・・・・・・及第点ということにしといてあげる」
ヒバリさんは満足そうに私の頭をクシャリと撫でた。
月夜に
2012年5月5日がスーパー・ムーンだったので。
ヒバリ誕と合わせてみたらこうなった。
甘いヒバピン書こうとしていたのに失敗したくさい。
甘いってなんですか私にはわからない。
2012/05/05
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。