───ボンッ!
低く鈍い破裂音にも似た衝撃とともに、世界は一変し視界は歪み。
そして私は一瞬前とは別の場所に放り出される。
あ〜〜〜〜っ!もう!!

「ランボっ!?」
「ら・・・ランボさんは知らないんだもんね!」

視界を覆う煙が晴れた時には既に、もじゃもじゃ頭の牛柄の服に身をまとった子供は校庭の向こうに走り去っていた。
こういう時ばっかり逃げ足が早いんだから!

「もうっ!毎回毎回私を巻き込んで!!」

私だって暇で10年後から来ている訳じゃない。
やることだって沢山あるし、こうして5分間入れ替わるこてでいろいろと損害を被ったりもしているのだ。
諸悪の根源であるランボを、今日こそは弾劾してやろうと脚を踏み出そうとしたその時。

「ねぇ」

頭上から、声が降り注ぐ。
振り返って、仰ぎ見た。

「部外者は立ち入り禁止、ってこの間教えたよね?」

窓枠に腰掛け、こちらを見下ろすその人──並盛中学風紀委員委員長・ヒバリさんは嘆息混じりにそういった。

「ヒバリさんっ!」
「・・・・・・何?」
「あ、いや、その・・・・・・」

今のは突然の登場に驚いたあまり、意識せずに名前を口にしてしまっただけのアレでして。
別に呼びかける為のそれではなくて。

「え・・・・・・え〜っと・・・・・・、おひさし、ぶりです」

結果、どうでもいいことを口にした。

「今日は何しに来たの?」
「え?」

多分これは、今の私が何をしにここに来たのかということではない。
小さい方の私が、何をしに学校に来たのかということだろう。
・・・・・・・・・そんなこと分かりません!!
いや、確かに自分のことではあるけれど10年も前のことなんて事細かに記憶なんてしてないし!

「ねぇ、なんで?」
「え・・・・・・えぇ〜〜っっとぉ・・・・・・」

幼い私がわざわざ並盛中を訪れる理由なんて、それほど多くない。
いくら幼くても、中学校は私たちの遊び場じゃないことは重々承知している。
となれば。
1、ツナさんに忘れ物を届けに来るか。
2、ツナさんのところに逃げ込もうとするランボを追って来るか。
3、こっそりひっそり、想いを寄せていたヒバリさんの姿を見に来たか(それも、至極遠目に)。
くらいのものだ。
確率的には、どれも似たり寄ったりドングリの背比べ。

「1から3まで、どれがいいですか?」
「何それ」
「小さい私が並中に来る三大理由を考えてみたので」
「・・・・・・その中に、僕に逢いに来るという選択肢は?」
「近いのはあるけど・・・・・・それはないです」

だって、間近で見たら恥ずかしくて文字通り爆発しちゃうもの。
今でこそ、話をしたり出来るようになったけどそれでもやっぱり恥ずかしい気持ちは皆無ではないのだ。

「そう。じゃ、これ君が貰っといてよ」
「えっ!?あっ!」

何かを、投げて寄越す。
それは小さな、綺麗な色をした包装紙に包まれた箱だった。

「な、なんですか?これっ!?」
「お返し」

何の?と問いかけて、あっ!と気がつく。
今日は、3月14日・ホワイトデーではないか!

「小さい君がくれたからね。でも、近寄ると逃げるから渡せやしない」
「そっ!それはっ!!」
「・・・・・・それは?」
「・・・・・・ヒバリさん見ると、ドキドキし過ぎて爆発しそうになるから・・・・・・」

バレンタインだって、小さい私がどれだけ勇気を振り絞ったことか!
思い出しただけで顔が熱くなる。

「知ってる」
「え?」
「君が僕を大好きなことくらい、知ってるよ」

ヒバリさんは口角を少し持ち上げた。

「10年先も、君は──」

───ボンっ!

破裂音に声がかき消され、再び視界が煙に包まれる。
もう5分経過してしまったのだ!
視界が晴れると、見慣れた自分の部屋に戻っていた。

「おかえり」

それから、聴き慣れた人の声。

「あ、ただいま、です」
「・・・・・・何、それ?」

過去に呼ばれる前には持っていなかった小さな箱を目敏く見つける。

「貰いものです。ヒバリさんからの」
「僕?・・・・・・・・・・・・あぁ、そんなのを昔あげたっけ」
「ねぇヒバリさん。あの時、なんて言ったんですか?」
「あの時っていつのこと?」
「さっきです!ついさっき!」
「・・・・・・君のさっきは10年も前の話でしょ。覚えてないよ。そんな前のこと」

嘘だ。
ヒバリさんは「覚えてる」って顔してる。

「・・・・・・覚えてますよね、その顔」
「覚えてはいないよ。思い出しただけ」
「だったら教えて下さいよ!」
「いいよ気にしなくて」

大したことじゃないから、とヒバリさん。
気にするなと言われると気にしてしまうのが人情というもの!
それに、大したことかそうじゃないかは私が決めることだ。
なおも私は食い下がる。
それならば、と。

「どうしても知りたいなら、甘いの頂戴」
「え?だってヒバリさん甘いの好きじゃないって・・・・・・」
「だから、食べ物以外で甘い奴」
「えっと・・・・・・それって・・・・・・」

つまり、誘われてる?

「ダメ?」

優しくささやくヒバリさんの声にゾクリとした。
恥ずかしいけど、嫌いな訳じゃない。

「・・・・・・ダメ・・・・・・じゃ、無いです・・・・・・」

答えて、気づく。

あ。
そうか。
あの時、ヒバリさんが言ったのは。

「そういうこと。わかった?」
「・・・・・・十分すぎるほどに・・・・・・」
「じゃ、情報提供代として」
「・・・・・・ん、っ」

口づけ一つはきっちり回収されてしまった。
あ、嘘です。
キスだけじゃ、終わりませんでした。





愛 No? I know!

『10年先も、君は──僕が大好きなんだろう?
ちゃんと僕を見れるようになるくらい。
ちゃんと話が出来るようになるくらい。
もしかしたらそれ以上のことが出来るくらい。

君は僕が大好きでたまらないんだろう?』








ホワイトデーなヒバピン。

珍しく糖度のあるヒバピン。

珍しすぎて、自分でも「どうしちゃったの自分!?」ってつっこんだ。

2012/03/14





※こちらの背景は MAPPY/miu 様 よりお借りしています。




※ウィンドウを閉じる※