十二月三十一日。
世間で言う大晦日。
例年であればこの日は楽々軒のバイトで大忙しなのだが、今年ばかりは事情が違う。

大将たちは今、南国ハワイに旅行中なのだ。

娘さんが労をねぎらって大将夫婦に旅行をプレゼント。
はじめはお店を休む、それも大晦日のかきいれ時に休むことに難色を示してた大将だったけれど、実際にはやっぱり嬉しかったのだろう。
「年末年始は店を休業するかもしれんが・・・・・・」と話す大将の顔が緩んでいたのを私は知っている。

今頃は久しぶりの家族水入らずを楽しんでいるはず。

そんなわけで、店は臨時休業中。
別の短期バイトを探しても良かったのだけれど、何となくしなかった。
日本に帰って来て初めて、年末年始をゆっくりと過ごすことに決めた。
部屋の隅々まで掃除して、お店で買った正月飾りを供えてみたりもした。
やることもひとしきり終わり、夕飯は何を食べようかなんて考えながらまったりこたつに足を入れていたその時。

──ピンポーン

チャイムが鳴った。
さて、こんな年の瀬迫った時期に誰だろうか?
よもや大晦日に新聞の勧誘もあるまいし・・・・・・。
などと思いながら玄関を開けてみれば、そこにいたのはヒバリ君だった。

「ん」

突き出されたビニール袋の中を覗くと入っているのはミカンだ。

「あ、ありがと・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・どうしたの?」
「別に。お店行ったら臨時休業になってたから一人で寂しくしているんだろうなって思って」
「余計なお世話よ!」

ことごとく人を寂しい女扱いしてくれちゃって何なのこの子!?

「というわけでお邪魔するよ」
「え、あ、ちょっ・・・・・・!?」
「ほら、寒いんだからさっさと中に入る。受験生に風邪引かせるつもり?」

急かされて押し込まれる。
勝手知ったる何とやら──とは言っても、ヒバリ君がこの部屋に来たことがあるのは私の誕生日のあの夜一度だけなのに、さっさと奥まで入って腰を下ろしてしまった。
それどころかクッションを引き寄せてゴロリ横になる始末だ。
これではどちらが家主かわからない。

「受験生がのうのうとこたつでゴロゴロしてていいわけ?」

いきなり寝転がった受験生の頭を見下ろしながらため息混じりに問いかける。
もっとやるべきことがあるんじゃないかしら?
勉強とか勉強とか勉強とか、主にそういうこと。

「受験生にも等しく正月は来るからね」
「それはそうだけど・・・・・・」

だったら家でゆっくり過ごせばいいんじゃないかしら、と思うのは私だけだろうか?
仕方なく私もこたつに足を入れる。
うーん。やっぱり暖かくて気持ちいい。

「バイト休みならさ、暫く暇なんでしょ?」
「・・・・・・人を暇人扱いするのやめてくれないかしら」
「実際暇なんでしょ?」
「ゆっくりしていただけです!」

この子はどれだけ私を暇人扱いすれば気が済むのだろう。
私はバイトしかする事がない訳じゃないのに!

「たまにはゆっくりしたっていいじゃない・・・・・・」

そんな気分の時だってある。
今の今まで、日本に帰って来てからと言うもの勉強と生活費に学費を稼ぐバイトで精一杯だった。
ゆっくり過ごすことなんて本当に数える程度しかなかったように思う。
次にこんな機会がいつ来るのかわからない。
たまの空白を堪能しても罰は当たらない・・・・・・と思う。
ぷぅ、と頬を膨らませたらヒバリ君が小さく笑った。

「じゃ、ゆっくりしようよ」
「ひゃっ!?」

こたつの角を挟んでヒバリ君が抱き付き、そのまま床に倒れ込む。

「ちょっと何するの!?」
「ゆっくりするんでしょ?ならいいじゃない」

いやいや。
この姿勢でゆっくりとかちょっと・・・・・・。
・・・・・・あ、でも。

(あったかいかも・・・・・・)

子供体温、といったら怒るだろうか。
ヒバリ君が触れているところがじんわりと温かい。

「・・・・・・ヒバリ君って体温高いのね・・・・・・なんか気持ちいい」
「・・・・・・それはどうも」

少しだけ。
ほんの少しだけ、むっとした声に聞こえた。
オブラートに包んだつもりだったけれど、言わんとすることは伝わってしまったのかもしれない。

「イーピンさんはあんまり温かくないデスね。もーちょっと肉付けた方がいいんじゃない。その辺とかも」

私の寂しい胸元辺りを目線が嘗める。

「余計なお世話っ!」

小さいことくらい知ってるもん!

「・・・・・・0時になったらさ、初詣行こうよ」
「何それ当てつけ?」

胸が大きくなるようにお願いしろとでも!?
そんなことで大きくなるんだったら苦労ないわよ!

「そういうんじゃなくてさ」

私の薄っぺらい胸に頭を押しつけて、言う。

「今年の終わりも、来年の始まりも一緒にいようって、そう言ってんの」





いっしょに







今年の締めくくりはヒバピン年齢逆転パロだぜ!

煮え切らんけどとりあえずここまで!

現在12月31日21時50分!

もう一本いける・・・・・・・・・か!?



執筆 2011/12/31

サイトUP 2012/01/10




※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




※ウィンドウを閉じる※