空回り
いつだって、どんな時代だって。
好きな人のために何かしたいと思うのが女の子だ。
形は小さくてもイーピンは立派な女の子。
大好きな雲雀さんのために何かできることはないかといつも考えている。
いつもいつも、気がついたら私は雲雀さんにしてもらってばかりだ。
今日こそは私が雲雀さんに何かしてあげる!
そんな強い決意を胸に、イーピンは学校に向かって歩いていた。
本当は沢田さんに『昼間に学校に来ちゃダメだよ』って言われているけど、昼間でないと雲雀さんには逢えない。
心の中でごめんなさいと謝りながらイーピンの足は雲雀の元に向かう。
初めこそ迷ったりもしたが、今では通いなれた道。
迷いのない足取りで一目散に雲雀がいる応接室に向かった。
コンコン
小さな手でドアをノックする。
背の低いイーピンではドアノブに手が届かないのだ。
少し待つと「やぁ」と言う声と共に雲雀が顔を覗かせる。
トクン、と胸が高鳴るのがわかった。
嬉しいのと、恥ずかしいのと、そのほかいっぱいの感情が溢れてくる。
あぁ、何だっけ?
私は何をしに此処に来たんだっけ?
突然の感情の高まりにすっかりのぼせてしまった。
自分が此処に来た理由すら忘れてしまうくらいに。
一人思考をぐるぐるさせていると雲雀の方から口を開く。
「いらっしゃい、待ってたよ。イーピン」
そんな一言で私は嬉しくなってしまう。
雲雀さんも逢いたいと思ってくれた。
それだけで天にも昇る気持ちになる。
「今日はケーキがあるんだ。食べるかい?」
ケーキ!
美味しそうな単語の響きに反応する自分は食い意地がはっていると思われてしまっただろうか?
でも仕方のない話。
だって、イーピンはまだ5歳の女の子なのだから。
「今準備するから。座って待ってて」
促されるまま、いつものソファーにお行儀よくちょこんと座る。
あぁ、ほんと。
私は何のために此処の来たんだっけ?
今日こそは!って心に決めていたことがあったはずなのに。
うーん、なんだったかな?
思い出せない。
どんなに頭をひねっても、答えは出てこない。
自分のために紅茶をサーブする雲雀の後姿を見ながら、次第に頭の中はケーキのことでいっぱいになっていった。
子ピンをすっごく久しぶりに書いた。
こどもって一つのことでいつも頭がいっぱいな気がする。
んで、そこに一つドン!って新しいことが入ってくると
今までのこととか全部忘れて新しいことに夢中になっちゃう。
うーん。子供ってかわいい。
2010/02/21
※こちらの背景はミントblue/あおい 様よりお借りしています。
聞こえない
そっと、胸に耳をあてがった。
響いてくるはずの鼓動が、聞こえない。
ドクン、ドクン脈打つはずの音が聞こえない。
なんで?なんで?
そんな、おかしいじゃない。
今さっきまで悪態をついてて。
今さっきまで私の頭を撫でていて。
今さっきまで私に笑いかけてくれたのに。
心臓だけが勝手に仕事をやめてしまった。
ひどい。
ずるい。
私に断りも無く独りで逝くだなんて。
私を独り置いていくなんて。
どうせなら私も連れて行ってくれればよかったのに。
傍若無人に私の行くべき道を決めてくれたらよかったのに。
「・・・ヒバリさん・・・・・」
答えてくれる人はもういない。
「ヒバリ・・・・・さん・・・・・」
ただ、この手を赤く濡らすばかり。
「・・・・ヒ・・・リ・・・・ん・・・っ!」
ぬくもりが、どんどんと失われていく。
まるで命が抜け落ちていくように。
一秒一秒、かき抱く腕からほろほろと零れ落ちてしまう。
「独りに・・・・しないで・・・・・。私を、置いていかないで・・・・・・」
貴方無しで生きられるほど、私は強くない。
貴方がいないこの世界は、息苦しい。
私に生きろというのなら、貴方が生きていてくれなきゃそれも敵わない。
「ヒバリさん、ヒバリさん、ヒバリさん・・・っっ!!」
「バカだね。君は・・・・・・・・・・」
「・・・・ヒ、バリ・・・・さん・・・・・?」
血の気の失せた手が、私の頬を撫でた。
生き・・・・てた?
でも、心臓は止まってって。
鼓動はもうとっくに無くなってって。
でも、間違いなく目の前で動くのはヒバリさんで。
弱弱しくも不敵な笑みは、確かにヒバリさんのもので。
「僕の心臓は右胸寄りにあるって知らなかった?」
だからいくら左胸に耳を這わせたって心音なんて聞こえるわけが無いんだ。
だってそこには脈打つ臓器がないんだもの。
「君を独り残して死んだりしないよ。死ぬ時は、君も連れて行くから」
「・・・・はい・・・・!」
触れた右胸から、確かに命の音が聞こえた。
捏造捏造。そして雰囲気の何か。
本当はピンが心臓の位置を左右逆に間違える、という予定だったのですが
仮にも将来有望な殺し屋が急所器官を間違えるわけにもいくまい・・・
ってことでヒバリさんを内臓錯位に仕立てました。
・・・・ほら、連載初期病院に入院してたりしたし!(アレは風邪だ
2010/02/24
※こちらの背景はミントblue/あおい 様よりお借りしています。
訓練
「そういえば、私なんでか昔から『ヒバリさん』ってきちんと発音できてましたよね」
「そうだね」
「何でだろ?日本に来たばかりの時は日本語の聞き取りすら上手く出来なかったはずなのに」
「どっかの誰かがマンツーマンで教えてくれたんじゃないの?」
「・・・・そんな気もするんですけど、でも思い出せないんですよね」
「ふうん」
「身近な人のような、でも別の人のような・・・・・・うーん・・・・・」
「別に誰でもいいんじゃない?そんな昔のこと」
「なんか気になるんですよぉ。・・・うぅぅ・・・誰だったかなぁ・・・・・
ツナさんじゃないし、あの頃で私の言葉がわかった人なんてリボーンくらいだけど、リボーンじゃないし。
でもそれ以外であの頃私の知り合いなんて殆どいないし・・・・・」
「『あの頃』とは限らないかもね」
「え?」
「君があの頃を過ごしたのは、あの時代だけじゃ無かったってことさ」
「・・・・・どういう意味ですか?」
「さあね」
確信犯のように雲雀はニヤっと笑った。
『ひばり』
『・・・・・云雀?』
『そう。それが僕の名前。覚えておいて』
『???』
『いいよ。何度でも教えて上げる。その代わり、過去に帰ってもちゃんとその名前を覚えておいてね』
『?』
『如果??了我和象的人那个人的事也叫来《云雀》』「僕と似た人を見つけたら雲雀って呼んであげて」
『明白了!』
過去の君への根気強い言語指導が、今の君の言葉の流暢さを生んでいることを彼女は気がついていない。
不意打ちの5分間で自分情報を叩き込もうとするヒバリさん。
何コレ?雲雀必死すぎるw
その努力が実ってヒバ子ピンが成立するのだと思ってます。
しかしおっきくなったイーピンはすっかり忘れてるけどな!
惚れさせたらもうこっちのもんさね。
2010/02/25
※こちらの背景はミントblue/あおい 様よりお借りしています。
消したい過去
こんな世界に身を置いている自分が酷く汚い者のようで、私は私が嫌いだった。
私が纏うのはいつだって赤いきらきらしたドレスなんかじゃなかった。
時間と共に黒へと変色していく血染めの衣だった。
月夜に映えるグラスを掲げたことなんて無かった。
手に握るのはギラギラと厭らしい光を放つ大振りのナイフだった。
夜毎に開かれる仮面舞踏会になんていけるはずが無い。
そもそも私という野蛮な獣を隠せる仮面なんて無いのだから。
うらやましいなんて思わない。
と言ったら嘘になる。
自分だって女の子。
魔法にでもかかったように、ひらりひらりドレスの裾を翻したいと思う。
でも、それは思うだけ。
思うだけでも、私には大それたこと。
今日も私は闇に紛れて人を殺す。
人殺しが、まるで人のように望むなんておこがましい。
私はただの畜生。
ただただ、生きるために殺すだけ。
こんな私を綺麗と言ってくれたのは、後にも先にもあの人だけ。
ただの一度だけ邂逅した人。
月夜の晩。
切れた雲間から覗く月をバックに、貴方は私を見た。
満月に照らされた貴方の顔を私は知らない。
『へぇ。コレ全部君がやったの?』
『・・・・・・・・・』
『・・・・・いいね。その表情、嫌いじゃない』
『・・・・・・・・』
『僕は強い奴が好きなんだ』
『・・・・・・・・・・』
『君、強いよね。その姿を見ればわかる《血まみれ狂戦士》』
『・・・・・・・・・・』
『僕も闘いたいところだけど、どうも時間が無いみたいでね。次に逢った時は遊んであげるよ』
『・・・・・・・・・・』
『それまで、誰にも殺されちゃダメだよ?君は僕が殺してあげるから』
『・・・・・・・・・・』
『君は赤が良く似合う』
『・・・・・・・・・・』
『綺麗だ。僕はその赤、好きだよ』
『・・・・っ!!』
こんな、こんな淡い想いが無ければ私は今すぐにでも死ねるのに。
あの人にもう一度逢いたい。
ただその想いだけが、私を生かし続ける。
汚い、醜い、と自分を罵りながらも、
『最高の赤に染め上げて殺してあげる』
貴方の魔法の言葉が私を生かし続ける。
今日も、貴方が綺麗と言ってくれた赤を纏って、闇夜に舞う。
雰囲気パラレル。
死にたい殺し屋のイーピンと、実は貴族のイカレお坊ちゃまの(つもりで書いていた)雲雀。
死にたいけど恋心が邪魔して死ねないの。
ソレがタイトルの意味。『貴方に逢わなければ私は好きなように死ねたのに』という。
雲雀さんは逢ったら殺してしまうから逢わないように自制してるという裏設定。
結果としてソレがピンを生きながらえさせているという。
そんなお話なんですが、あれ?これ一本話書けそうかも・・・・。
2010/02/25
※こちらの背景はミントblue/あおい 様よりお借りしています。
恋人
「・・・・・へぇ、もう一回言ってみてよ」
「・・・・なんでですか・・・」
「そんなことも言われないとわからないの?聞こえなかったからだよ」
嘘だ。
心の中で反射的に答える。
聞こえなかった?そんなわけがあるもんですか。
だったら貴方のそのニヤニヤした笑いは何なの?
『面白いモノを見つけた』
そういう目をしてるわ。
貴方は私をからかって遊んでいるだけなんだわ。
「・・・・いやです・・・・」
「ふぅん。僕に楯突くとはいい度胸だね」
「・・・・・・・・・」
その点に関してだけは少しだけ恐怖のようなものを感じる。
だってこの学校において雲雀恭弥に逆らうと言うことは、そのまま学校への批判として捉えられるのだから。
これからの学校生活が送りにくくなる。
それだけは確かだろう。
少しだけ、後悔が顔を出す。
意地を張るべきではなかったのではないか、そう思う。
だけどそれをどこかに蹴り飛ばしてしまうくらい大きな後悔もある。
「・・・・・ま、そうでもなけりゃ僕にそんな口を聞く奴もいないだろうけど」
「バカにしてるんですか?」
「褒めてるのさ」
「そうは聞こえませんけど」
小ばかにしているようにしか聞こえない。
バカな女もいるものだ、と嘲ているようにしか見えない。
・・・・私だって、なんであんなこと言っちゃったかわからないわよ!
でも身体が勝手に動いて行っちゃったんだから仕方ないでしょ!?
「・・・・・それでは、私は失礼します。お手間取らせて済みませんでした」
目の前の男への憤りと、自分自身への憤りをどうにかこうにか押さえ込んで踵を返した。
手を握りこみすぎて爪が掌に食い込みそうだ。
そうでもしなければ自分の感情を制御できなかった。
一刻も早く此処を離れて一人になりたい。
そんな気分だ。
「待ちなよ」
それをさえぎったのは、他でもない、雲雀恭弥だ。
踏み出そうとした足をぎりぎり地面につけたまま、動きを止める。
でも振り返らない。振り返りたくない。
「・・・・・なんですか・・・?」
「君は人に言いたいことを一方的にまくし立てておいて、それに対する返事も聞かないのかい」
「・・・・・・聞こえなかったのでしょう?」
「ん?あぁ、じゃぁ聞こえていたということにしといてあげる」
舌の根も乾かぬうちに良くもまぁそんなんしゃぁしゃぁといえるものね!感心するわ!
「それで・・・・?貴方には何か返す言葉があるんですか?」
「『いいよ。それじゃぁ付き合おうか』」
「・・・・・・は?」
思わず間抜けな声を上げて、ついでに振り返ってしまった。
「付き合おうか、って言ったんだよ。何その間抜け面は。君が『好きだ』って告白してきたんじゃないか」
「いや・・・・だって、私・・・・・・」
「流石の僕も飛び蹴り食らわせながら告白されたのは初めてだけどね」
ただの女じゃつまらないと思ってたんだ。
これからも僕のことを楽しませてよね?
学園パラレルだと思ってくれ。
お互い15歳くらいのヒバピンってとこか?
同い年ですよ同い年。学園ライフを満喫してくだせぇ。
そのくせとび蹴り告白させるってどうよ?(笑
イーピンさん男前過ぎますww
2010/02/28
※こちらの背景はミントblue/あおい 様よりお借りしています。