元より、人にとやかく言われて動く質の人間ではなかった。
自分自身そう認識しているし、他人にもそう認識されるように我を貫いてきた。
自分の思うままに生きるということは須く自身の責任を負うということ。
その程度は理解しているし、相応分は働いている。

だから、誰も文句は言わない。
やりたいことはやらせてもらう。
やりたくないことは引き受けない。
きっちりとしたライン分け。
極限に単純化した一本の境界。
その上で生きる。
それが自分のスタンスだった。

誰にも邪魔させないし、別段だれかの邪魔をしようと思う訳でもない。
自分が抱くルールに乗っ取った上でのみ力を行使する。

「ヒバリさんっ!!」

はずだった。

貪っていた惰眠を邪魔される。
この僕相手にそんな行為を取れるのはこの世に三人といない。
寝転がったままの身体を起こすのも面倒くさく、肩越しに相手を仰ぎ見た。
視線の先には予想通りの人間がいた。

「・・・・・・何」
「何?、じゃないです。ヒバリさんも手伝ってください。正式に依頼されているはずですよ」
「つまらなそうだから断ったよ」
「この際ヒバリさんが楽しいか楽しくないかなんて知ったことですか!いいからっ!早くっ!行きますよっ!!」

僕の方が頭二つ分は高いことなど彼女も重々承知しているだろに、横たえたまま起きようとしない身体を是が非でも起きあがらせようとする。
まったく、健気なものだ。

「イヤだよ、面倒くさい」

彼女の頑張りを一蹴。
しかしそれしきのことで音を上げる彼女ではない。

「面倒くさい思いをしているのは私の方です!!ヒバリさんがはじめっから自分で行ってくれば私はこんな手間を取らなくて済んでるんですよ!」
「放っておけばいいじゃない」
「そうできないから私がここにいるんですよっ!」
「・・・・・・じゃぁさ」


君がキスしてくれたら、行ってもいいよ。


なんて、嘯く。
特に期待はしていない。
呆れて帰ってくれるならそれで良かったし、よしんば彼女からしてくれるなら棚からぼた餅と言うものだ。

「・・・・・・キス、したらいいんですね?」

起きあがらせようと懸命に引いていた腕を離し、頭の後ろあたりにストン、と腰を下ろした。
身体を覆い被らせるようにして、彼女が目の前に現れる。
体格的に辛い姿勢なのか、ほとんど上半身が乗せられているに近い。
そして合わさる、唇。

「・・・・・・ん、───っ!?」

甘い雰囲気など元より期待などしていないが、コレは流石に・・・・・・あんまりだ。
彼女は身体を起きあがらせ、口元の血を拭った。

「コレで、いいんですよね?さぁ、行きますよ」
「・・・・・・まったく」

君には適う気がしない。

仕方ないから起きあがる。
ついでに、ひりひり痛む下唇をさすった。

「噛みついて、とは言ってないんだけどね」




届かない距離




甘めヒバピンと見せかけて、その実ぜんぜん甘くないっていう。

ピンはいつだってヒバリの想像の上を行くのです。

まぁ、そういうお話でした。

2011/07/25


お題はヒバピンお題配布サイトよりお借りしています。





※こちらの背景は RAINBOW/椿 春吉 様 よりお借りしています。




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