流れるかのように滑らかに動く四肢。
淀み無い力の流れ。
均一に分散される重心。
短い呼気の後の一瞬の爆発力。
そして、静寂。
彼女の所作はどれを取っても、美しかった。
我知らずに感嘆の声が漏れ出た。
小さな音を拾い上げ、彼女が大慌てでこちらに振り返った。
「やっ!?ヒバリさん、見てたんですか!?」
「見られたらまずかった?」
「ぁ〜・・・・・・そぅいぅわけではないんですけど・・・・・・」
もにょもにょと後込みする語尾。
「皆さんに申し訳ないというか、なんというか・・・・・・」
「別に、誰も気にしないと思うけどね」
「そうで・・・・・・しょうか・・・・・・?」
私情で自分一人が裏社会から足を洗ったことを気にしているのだろう。
こんな風に鍛錬に勤しんでいる自分が足を洗ったなどということが、彼女にとってはあまり口外したくないことなのだ。
「なんか、体動かしてないと落ち着かなくて・・・・・・」
聞きもしないことを口走る始末。
「呼吸の仕方すら忘れてしまいそうになるんです。今までどんな風に空気を吸っていたのか、どんな風に手足を動かしていたか、わからなくなるんです」
「それは・・・・・・」
彼女にとっては、生きることと闘うことがイコールで結ばれたものだということではないのか?
彼女はそれを自分から排除しようとしている。
本当に、それは正しいことなのか?
「・・・・・・もう終わりなの?」
「え?」
「鍛錬はあれだけで終わりなの?」
「あ、いや、もう少しやろうかな、と・・・・・・」
「なら、僕に構わず続けなよ」
「は、はい!」
なんだかやりずらいなぁ・・・・・・と零しながらも、彼女は腰を落として構えを取った。
ふぅぅぅ───
長い長い呼気で、腹の中の空気を押し出す。
ぴたり。
空気が静止した。
一瞬のち、前後に大きく開いたスタンスを徐々に狭め、ゆっくりと、だが一分の隙も垣間見せることなく前後の足を入れ替えた。
続いて手を上下に入れ替えつつ、身体の向きを90度旋回させる。
彼女の背中で隠されていた横顔が露わになる。
つい今し方に「やりにくい」などとぼやいた面影は微塵もない。
まっすぐに前だけを見据える視線。
やはり、美しいと思った。
その眼差しをこちらに向けさせたいと、思った。
意識した時には、手の中の物を彼女に向けて投擲していた。
「──っ!」
眼前と己のみに意識を集中していたと思っていた彼女は、こともなげにソレを受け止める。
「わぉ」
僕は、ソレを見逃さなかった。
「・・・・・・危ないじゃないですか」
言葉を発する直前の、鋭い眼光。
「手が、滑ったんだよ」
あの瞬間、僕は間違いなく彼女に魅せられた。
その瞳に囚われたのは
ヒバリさんはピンの女らしさとかには目もくれないと思うんだ。
それよりも戦闘者としての一つ一つの所作がヒバリさんを引きつけてやまないんだと信じてるんだぜ。
・・・・・・・・・いかんともしがたいほど甘さがねぇな。
2011/07/22
お題はヒバピンお題配布サイトよりお借りしています。
※こちらの背景は
RAINBOW/椿 春吉 様
よりお借りしています。