たとえば私が道を踏み外したら。
貴方に殺されたいと思った。
「・・・・・・なんて言ったら、ヒバリさんはどうしてくれます?」
まるで他人事のように。
どこか遠いところで起きていることのように。
現実味を帯びない、あっけらかんとした物言い。
貴方はほんの僅か、顔をしかめた。
「自分の尻拭いくらい自分でやりなよ。僕に押しつけないで」
「あはは。そう言うと思った」
投げ出した足をプラプラ揺らしながら、私はカラカラ笑い声を上げる。
貴方は決して優しい言葉を掛けたりしない。
(それこそが貴方の優しさなのだと、私は知っている)
私という存在をそのままに繋ぎ止めてくれる。
変質していく私を、無理に引き留めることなく。
どんな時でも変わらずに居てくれることで、私自身に変質をしらしめる。
それが自分の役目なのだと、認識している。
手八丁口八丁なのは別の者の役目だ。
「・・・・・・何かあった?」
問いかけと言うほどのものではない。
私を心配したものでも、無いのだろう。
それはただの事実確認に近しいものだ。
「今は、まだ何も」
より正確に。
より精密に。
自己を分析し、回答する。
「ただ」
「ただ?」
「近いうちに、もしかしたら・・・・・・」
私は、闇に食われるかもしれない。
ほんの一歩先にソレが大口を開けて待っているかのような錯覚に陥る時がある。
前線に立ち続け、研ぎ澄まされた第六感が訴える。
その時は近い、と。
自分の中に眠る感情を制御できない。
血に濡れた時の言いしれぬ渇望に抗がえない。
地に伏せた者を見た時に沸き上がる歓喜が治まらない。
狂い始めた貴女を、私は自覚し始めている。
貴女が私を乗っ取ろうとしているのを、知っている。
もしかしたら、もう遅いのかもしれない。
私はすでに道を踏み外していて。
とうの昔に、取り返しのつかない状態になっていたのかもしれない。
「だから、その時は」
せめて貴方の手に掛かりたい。
貴方の手で、私を終わらせて欲しい。
そんな、ささやかな願い。
「まっぴらごめんだね、そんな面倒くさいこと」
貴方は背を向けて歩きだしてしまった。
掛ける言葉も見つからないまま、私はその背中を眺める。
不意に、足が止まる。
「──僕以外の奴に負けるだなんて、許さないよ」
例えそれが、君自身だったとしても。
吐き捨てるかのようにこぼれた言葉は、私の耳の中にこだました。
私が死ぬか。
貴女が死ぬか。
いや。
貴方が私を殺してくれないならば。
私が貴女を殺すしかない。
(──それが、結論だわ)
勝負しましょう
自分の中の狂気に目覚め掛けるイーピンと
優しくない言葉でそれを拒むヒバリ。
殺伐カップルだな、おい!
2011/07/21
お題はヒバピンお題配布サイトよりお借りしています。
※こちらの背景は
RAINBOW/椿 春吉 様
よりお借りしています。