自分よりも頭一つ分は小さい身体に
「危ないから私の後ろに」
何の迷いもなく告げた背中を、僕は生涯忘れられないだろう。
歳の頃なら同じくらい。
にも関わらず、彼女は僕の前にいた。
圧倒的な才能で。
圧倒的な経験で。
一足では追いつけないほど前に、彼女は居た。
闘いを楽しむことはせず。
粛々と相手を打ちのめしていく。
ゲームではないのだと、周囲の空気が語っていた。
彼女を纏う血臭が、次第に濃くなる。
ほんの数分後にはそこは血の海。
比喩表現などではなく、そのまま字の通り、血の海が広がっていた。
血染めの真っ赤な衣服が徐々に黒みを帯びていく。
ただの、酸化現象。
そのはずだ。
「大丈夫でしたか?ヒバリさん」
彼女が、ようやく表情を和らげた。
被った血など気にも止めず、ふわり、笑った。
噎せ返るような血臭の中、笑った。
これが、10年という歳月の結論なのか。
僕の知り得ない10年間に起きた某かの結果が、彼女をこうさせたのか。
だとしたら──
(何を・・・・・・していたんだ・・・・・・)
止めることも。
正すことも。
成り代わることも。
何だってできたはずだ。
なのに、何故。
「・・・・・・ヒバリ、さん?」
彼女は物を言わぬ僕の顔を覗き込む。
「もしかして・・・・・・どこか怪我でも・・・・・・」
血を纏っても一切変わらなかった顔色が、サッ、と青くなる。
慌てて駆け寄ってきた彼女に「いや」と小さく返した。
「何も、無いよ」
怪我一つ。
傷一つ。
負ってはいない。
「本当に・・・・・・何もない・・・・・・」
力も。
経験も。
何もかも。
どうしてこうも違うのか。
彼女と僕の、何が違うのか。
「ヒバリさ・・・・・・」
「これが・・・・・・10年の差だって言うの・・・・・・?」
「・・・・・・私は」
縋るように抱いた身体が、抱き返す。
「ヒバリさんに、追いつきたかった」
「・・・・・・」
「貴方の隣に立てるくらい、貴方に守ってもらわなくてもいいくらい」
強くなりたかった。
「・・・・・・貴方を追い越すのに、10年も掛かってしまったけれど」
「僕は、置いていかれた気分だ」
「私に10年があったように、貴方にも10年という歳月があるんですよ?それこそ、私がたどり着けないような場所に常にいて、私は貴方を追いかけるだけで精一杯なんです」
届かない手を懸命に伸ばし。
少しでも近づきたいと、そう思う。
想いが、成長させる。
身体も。
力も。
経験も。
何もかも。
「追いかけているのは、私の方です」
歳の差
ヒバリは大人イーピンを追いかけて成長し。
そうして成長した10年後のヒバリを大人イーピンが追いかける。
追いかけた分だけヒバリが追いかける、と。
そんな風に続いていく成長と葛藤の無限ループ。
2011/07/20
お題はヒバピンお題配布サイトよりお借りしています。
※こちらの背景は
RAINBOW/椿 春吉 様
よりお借りしています。