姿を現すや否や、彼女は不機嫌な顔を隠そうともせずに詰め寄ってきた。
平素、笑っていることの多い彼女にしては珍しいことだ。

「・・・・・・何?」

ずずいと距離を詰めた結果、今彼女の顔はまさしく目の前にあった。
いつもの彼女であれば、これだけ接近すれば顔を真っ赤にさせて後ずさりするところなのだが・・・・・・。
あろうことか、彼女は更にもう一歩間合いを詰めてきた。
鼻が触れ合いそうな程の至近距離。
彼女からの熱烈なアプローチ・・・・・・というわけではなさそうである。
スゥ、と細められた瞳の奥に煮えたぎらせた感情が見え隠れしている。
そしておもむろに僕の胸ぐらを掴み上げ。

「結局、ヒバリさんは私のことどう思ってるんですかっ!?」

開口一番にコレである。

「私のこといつまでもいつまでもいつまでもいつまでも子供扱いしてっ!私だってもう15になったんです!! 今のヒバリさんと同じ年じゃないですか!?それともなんですか?ヒバリさんは自分のことガキだと認識してたんですか!?」

凄まじい勢いでまくし立てられる。
前後にガクガク揺らされて脳味噌が揺さぶられたかのような錯覚に陥った。
彼女の言葉はまだまだ止まらない。

「大体!ヒバリさんは勝手すぎるんですよ!貴方が世界の法律だとでも思ってるんですか?勘違いも甚だしい!! どう足掻いたって世界を構成するコマでしかないんですよ!自分のこと特別な存在だとでも思ってるんですか!?ヴェルダースオリジナルですか!?」
「それ絶対関係ないでしょ」
「うるさいうるさいうるさいうるさーいっ!もうね、今日という今日は私も堪忍袋の尾が切れました。 貴方みたいな社会不適合者のやることだからとこれまで目を瞑っていてあげてましたけどもう限界です!」

締めあげていた襟首をぺい、と放り出し、代わりに人差し指をビシリ!と突きつける。

「ヒバリさん!貴方、わがまますぎです!」
「・・・・・・」
「私は貴方のメイドでも、便利な道具でも、ましてやお母さんじゃないんです!!!」
「・・・・・・」

言いたいことを言い切ったのか、彼女はようやく言葉を切った。
ほんの僅か、訪れる静寂。
訪れた静寂を、自分の溜息で打ち切った。

「・・・・・・ねぇ、それって」
「・・・・・・」
「僕に言うことなの?」

言うべき相手を間違えてない?
うぐっ、と彼女が息を詰まらせたのを見逃しはしなかった。

「いい加減やめてくれない?それは君と未来の僕の話であって今の僕には関係ないことだよ」

人の痴話喧嘩に巻き込むのはやめて欲しいんだけど。
なんて愚痴れば。

「で・・・・・・でも結局はヒバリさんのことじゃないですか!?」

上擦りながらも反論された。

「知らないよ。君が相手の仕方を間違えたんだろ?」
「きぃぃぃっ!!言うに事欠いて貴方がそういうこと言いますか!?私がどれだけ心労を抱えて生きているのか、貴方は知りもしないで・・・・・・っ!」
「だから、今の僕には関係ないよ。ほら、さっさと帰った帰った」

しっしっ、と手で払う。

「早く僕のを返してよ。あの子が帰ってこれないじゃないか」
「わ・・・・・・!私だって来たくて此処に来たわけじゃないですっ!!」
「あの子だって行きたくも無い未来に送られて辟易としていることだろうよ。全く持って迷惑な」
「そんなこと無いもん!絶対絶対私のヒバリさんの方がいい人だもん!」
「へぇ?さっき散々ぱら罵っていた口がよく言うね?」
「貴方みたいな性格ひねくれた人と比べたら私のヒバリさんはよっぽど出来た人だって気づいたのっ!!」
「言ってくれるね・・・・・・。そんなひねくれた奴が好きだったのはどこの誰だい?あぁ、そうか。 未来の僕は君の育て方を間違えたらしいね。安心してよ。僕はそんな間抜けなことはしないから、僕が辿る未来ではきっと君は現れないから!」
「あぁ!こんな人が好きだったなんてホント信じられない!!目が悪かったからキチンと見えてなかったとしか思えな・・・・・・っ!!」

ボフン。
低い破裂音と共に、彼女の周囲が煙に包まれた。
ようやく長い長い5分が経過してくれたらしい。
愛しいあの子が帰ってきた。
煙が晴れると、彼女は一目散に僕の元に駆け寄ってきた。
よっぽどあちらの世界が嫌だったのだろう。
小さな体を抱き上げてあげればツルンとした額を胸に押し当ててきた。
その仕草がたまらなく愛しくて頭を優しく撫でてあげた。

「ね?君はあんな奴みたくなったらダメだからね?」

イーピンは良く聞き取れない言葉で(多分広東語か何かなのだろう)元気良く返事をし、腕の中で大きく頷いた。




10年後




ちょっと珍しいヒバピンを。

それぞれの時代のパートナーが最高と思ってて、

別の時代のパートナーとは最悪に仲が悪いヒバピン。

10年バズーカで時間移動する度に現ヒバと大人イーピンは口げんかしているのです。

でも嫌っているのは未来の自分のパートナーなのにね。

ちなみにこの後大人イーピンは10年後の世界に戻り

憤っていたことも忘れて現ヒバへの愚痴を10ヒバに語り

いつの間にか仲直り→今まで以上にラブラブちゅっちゅな関係になるという裏話。

そーゆー話。

2011/08/25


お題はヒバピンお題配布サイトよりお借りしています。





※こちらの背景は RAINBOW/椿 春吉 様 よりお借りしています。




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