屋上から見る並盛の町並みが、好きだった。
地上からでは見渡せない遠くの遠くまで見えることが、好きだった。
人よりも少しだけ高い位置から覗けることが、好きだった。
屋上に張り巡らされたフェンスに指を掛ければ、ギシリと鳴った。
指先にいくつもの錆の跡がこびり付いた。
大分老朽化が進んでいるらしい。
どうにかして張り替えをしておかないと危ないかもしれない。
いや。
(危ない、なんてことはないか)
ここは立ち入り禁止区画。
元より人が来ることを前提にしてはいない場所だ。
それでも自分がここにいるのは、そういった人の目をかいくぐっているからに過ぎない。
「貴方なら、人の目を忍んだりしないんでしょうけど」
呟いた方向とは180度別のところから。
───つまりは、背後から。
退屈そうな欠伸が一つこぼれた。
「どうして僕のテリトリーで行動するのを誰かに咎められなくちゃいけないのさ」
尊大な物言いは、昔から変わらない。
「あら?今は、ここは私のテリトリーですよ?」
笑って答えると、貴方は少しだけむっとした。
「譲ったつもりはないよ」
「でも、私のテリトリーです」
以前は確かに、貴方の場所だったけれど。
あれからいくつもの季節を跨ぎ。
いくつもの出会いと別れを繰り返し。
貴方はここを去り。
私はここに残った。
貴方が掲げた腕章は、あの日のままこの並盛に残っているけれど。
貴方は、いなくなった。
だから私が、掲げた。
貴方の代わりに。
私の代わりに、舞い戻った貴方のために。
この場所を、守ろうと思った。
「皮肉な話ですね」
「・・・・・・何が?」
わかっていて、貴方は気づいていない体を装う。
「私は・・・・・・貴方にそんな道を歩かせたかった訳じゃないのに」
貴方の側にいたくって。
だから頑張って勉強もして。
当たり前の女の子になりたくて。
殺し屋である自分がたまらなく嫌で。
私は、足を洗った。
これで貴方の側にいられると、私は疑いもしなかった。
けれど現実は・・・・・・
「貴方をあちらに引き込むだけだった」
「・・・・・・馬鹿らしい」
吐き捨てるように、貴方が横たわらせていた体を起こす。
「僕が、誰かの為に動くような人間じゃ無いことくらい君がよくわかっているだろう?」
「えぇ。貴方が素直じゃないことも、よく知っています」
「・・・・・・ふん」
決まりが悪そうな貴方。
「それでも、ここを譲った覚えはないよ」
給水タンクの脇から飛び降りる。
「これまでも、これからも」
ここは、僕のテリトリーだ。
貴方が言う。
10年前と同じ、凛とした顔で。
並盛の町を見下ろした。
風紀委員長と殺し屋
何で私はこう常に奇をてらったものを書こうとするのか・・・・・・・・・
なんか、10年後世界で雲雀の代わりに風紀委員長やってるイーピンと
殺し屋やめたイーピンの代わりに殺し屋家業を始めた雲雀のお話。
そんなお話。
2011/07/18
お題はヒバピンお題配布サイトよりお借りしています。
※こちらの背景は
RAINBOW/椿 春吉 様
よりお借りしています。