三月も下旬に入ったというのにまだそこに鎮座したままのものを見つけて、呆れるやら驚くやら、彼女らしいと納得するやらで、なんと声を掛けたらいいか迷ってしまう。
「・・・・・まだ飾ってたの?」
「あ、ヒバリさん」
「ひな祭りはもう二十日も前のことのはずだけど?それともまだカレンダーも読めないんだっけ?」
わざと揶揄した口調で教えて上げた。
子ども扱いしたことが気に入らなかったのか、むすっと頬を膨らませる。
「読めます!バカにしないでください」
「そう、それは悪かったね」
「・・・・・そういう小ばかにした言い方されるの好きじゃないです・・・・」
「だから謝ってるじゃない」
「ヒバリさんいつも口ばっかり。ホントは悪いなんて欠片も思ってないくせに」
「君もそういうところばかり大人びて、可愛くないね」
「可愛くなくて結構です」
いい加減怒ってそっぽを向かれてしまった。
僕のことなんて初めから居なかったかのように無視して、再び豪華に飾られた五段雛飾りを一心に見入っている。
「・・・・・ほら、可愛くない」
機嫌を損ねたお姫様に肩をすくめて小言を漏らすが今度は取り合ってもくれなかった。
本格的に無視を決め込もうとしているのかもしれない。
僕がこんなに近くに居るのだから、そんな人形なんて相手にしてないで僕のことだけ見ていればいいのに。
まったく持って気に入らない。
「そんな動きもしないものを見てて楽しい?」
「・・・・・」
「僕が遊んであげるからさ」
「・・・・・・」
「君はじっとしているよりも動いている方が落ち着く種類の人間だろう?」
「・・・・・・」
「また『殺し合いごっこ』しようよ」
「・・・・・・」
「ねぇ」
「・・・・・・」
「イーピン」
「・・・・・・」
「こっち向いてよ」
「・・・・・・」
「人形なんかじゃなくてさ」
「・・・・・・」
「僕のこと見てよ」
「・・・・・・ヒバリさんて、寂しがり屋ですよね」
ようやくイーピンが振り返る。
仕方ないなぁといった様子で自分のすぐ傍に手招きして座らせ、自分は小さな体を足の間にすっぽりと納めた。
結局二人して雛壇に向かいあっているわけだ。
なんだこの状況?
別に僕は雛飾りが見たいわけじゃないんだが。
対照的にニコニコとした表情で雛飾りを見つめるイーピンは楽しそうに説明する。
「このお雛様、ママさんが飾ってくれたんです。折角女の子がうちに居るんだからって」
「綱吉は一人っ子だろう?」
なのに雛飾りがあるのか?
通常雛飾りは女児のための飾りであり、一人息子しか持たない沢田家には無用のものに思えた。
「ママさんのなんですって。飾るのも20年ぶりくらいって言ってました」
「あぁ、どうりで・・・・・」
一目見たときからどうにもイーピンにしては懐古趣味だと思っていたんだ。
近年に見られるような華やかさがあまり無く、どちらかといえば古き良き時代を思い起こさせるような色合い。
それが沢田の母親、奈々のものだというのならば納得できる。
「私すごく嬉しくて」
「ふぅん」
僕には良くわからない。
「だって、この素敵な飾りが私のためだけにココにあるんですよ!」
「そうだね」
いくら綺麗だろうと、こんなもの人形にしか過ぎないのに。
「ずっと飾って置けたらいいのに。そうすれば・・・・・・」
「・・・・・・・」
あぁ、そういうことか。
そんなことか。
どっちが寂しがりやなんだか。
「私はずっとこの家の子で居られるのに」
「・・・・・バカな子・・・・」
「だって・・・・・・私は、居候ですから」
この飾りは、自分がココに居ても良いという証と同じ。
ただの居候だからいつかは出て行かなきゃいけない。
でもこれが飾ってあるうちは、私のための飾りがあるうちは、まだ居てもいいのだと思いたい。
子供心にそんなことを考えていたのだろう。
「ホント、こんなところばっかり大人びて」
足の間の小さな体を優しく抱きしめる。
「こんなもの無くたって、君はこの家の子だよ」
「・・・・・・・・」
「まったく、奈々の方がよっぽど子供かもしれないね」
「・・・・ママさんが・・・?」
「雛飾りはね、ひな祭りを過ぎてからも飾ったままにしておくと結婚が遅れるって言われてるんだ」
「結婚・・・?」
「嫁に行くってこと」
そうまでして奈々は君を嫁に行かせたくなかったのだろうか。
それとも昔懐かしい思い出の品をすぐに仕舞うのが名残惜しかっただけだろうか。
どっちにしたって、この子は遅かれ早かれ僕と結婚するんだからそんな迷信関係ないんだけど。
しかし、子供にとってはただの迷信と捨て置けるものではなかったらしい。
「っ!?じゃ、じゃぁすぐに片付けないとっ!!」
急に立ち上がって、雛飾りの足下から人形を納める箱を引っ張り出して下段の仕丁を少々乱雑に突っ込む。
先ほど「ずっと飾っておけたら」なんて言っていた者とは思えない様子だ。
「ヒバリさんも手伝ってください!!」
「何なの急に」
「だってっ・・・・・・」
真剣な表情で少女が叫ぶ。
「ヒバリさんのお嫁さんになるのが遅くなっちゃう!!」
・・・・まったく可愛いことを言ってくれる。
どんなに大人びてみたって、この子はまだ8歳の女の子でしかないんだ。
理屈じゃなくて、感情で動くぐらいがよっぽどそれらしい。
「そうだね。遅くなったりしたらいい加減待ちくたびれてしまう」
心の中でほくそ笑んで僕も手伝うべく腰を上げた。
いつかは貴女も晴れ姿
今更ひな祭りネタでサーセン!
カレンダー読めないのはきっとさかきの方です。
この話はちょっと変則でイーピンが8歳児くらいでちょっと大きくなってます。
5歳児でもいいんだけど、5歳にしてはシビアな思考をしすぎているかな・・・と思って8歳に。
それ以上もそれ以下も理由もありません!
それよりも雲雀さんがナチュラルに奈々って呼んでることの方が問題!?
2010/03/22
※こちらの背景は
MAPPY/miu 様"
よりお借りしています。