竹笹に願いを書いた短冊を吊り下げるとその願いが叶うという。
そんなのは子供だましかもしれない。
現実離れした願いが叶うわけもない。
第一そんな他力本願な行為が許されてなるものか。
そうでなければ俺は喜んで「ボンゴレ10代目なんかにならない」って書くところだ。
(もちろんそんなものが無意味であると知っている)
だからココに記すべきは夢物語ではなく、己への決意表明で在るべきなのではないだろうか。
やらなくてはならないことは紙に書き出しておきなさい、というアレである。
(つまり、俺には今ココで改まって書き記すような事項はないということだ)
短冊を手に取ったものの、そこに記すべき内容はトンと思い浮かばずペンを持った手は紙上5pのところに鎮座している。
やらなくてはいけない事柄がないわけではなく、それに対する努力を(本心に関わらず)既にしているからだ。
やっているのなら書く必要もないだろう。
「思い道理になってほしい人たちはいるけど、それは現実化する自信がなさ過ぎる・・・・・」
例えば先輩H氏だったり
例えば外校生R氏だったり
例えばクラスメートG氏だったり
その他エトセトラエトセトラ。
「後はこれといって思い浮かばないし、返してこようかな・・・・・」
ていうか、そもそもこれどこでもらったんだっけ?
気付いたら手元にあった気もするし、誰かから手渡された気もするし・・・・
・・・・・この年でぼけるのとかは勘弁したいなぁ・・・・・うぅん・・・・
返却場所がわからないからといってこのままごみばこに捨てるのはためらわれた。
なんといってもこの短冊、なぜだかわからないけれども高級そうな透かし絵とともに『沢田綱吉』ときっちり名前が刻まれているのだ。
このため誰かに譲渡するわけにもいかないし、捨てるのも忍びない。
だからといってこれといって書き記す内容も思いつかない。
「困ったなぁ・・・・」
「ツナ君?まだ残ってたの?」
「あっ!?京子ちゃん」
「あ〜短冊書いてたんだ。もうすぐ七夕だもんね」
ガラリ音を立てて教室の戸が引いて現れた彼女は目ざとく俺の手にある短冊を見つけた。
一つ前の席の椅子に腰を下ろすと逆さまに手元を覗き込む。
「まだ書いていないんだ。ツナ君は何をお願いするの?」
興味深深といった風でこちらに視線を投げかける彼女に、先ほど想い描いた決意表明であるべきという考えを話した。
「―――そんなわけで書きたいことが見つからなくて」
「そっか」
「京子ちゃんなら何をお願いするの?」
「私?・・・・・・・・私なら・・・・・・」
ほんの少し考える。
それは本当に今考えているためなのか、それとももとよりの願いが俺の発言によって言い難いだけなのかはわからないが。
ほんの少し間をおいて、彼女は口を開いた。
「・・・・・私なら、『好きな人の気持ちが知りたい』かな?」
「好きな・・・・人・・・・・?」
あ、ちょっとショックだ。
表情に出さないように気をつけたけど、上手く平静を装えただろうか?
あぁそうなんだ、と気のない返事を返したが彼女はそれを特に気に留める様子もなく続ける。
「その人ね、すごくすごく鈍感なの」
あぁやだな
「それがその人のいいところでもあるんだけど、私はたまに不安になるの」
聞きたくないな
「誰にでも優しい人だから」
こんな形で終わるなんて
「彼も私を好きでいてくれる、なんてただの思い上がり何じゃないかって」
どうか思い違いであって欲しいよ
「だから私は彼の気持ちがわからない」
わからないままなら、この恋は終わらずに済むのに
「こんなに近くにいるのに」
「・・・・・・・・・・え?」
いつの間にかうつむいてしまっていた俺は勢いよく顔を振り上げた。
困ったような笑顔で。
彼女は俺を見て言った。
「私なりに努力してきたつもりなんだよ?ツナ君」
「・・・・あの・・・・・京子・・・・ちゃん・・・・・?」
それってどういう・・・・
伸ばしかけた手をかわして彼女は席を立つ。
「私帰るね。あんまり遅くなるとおにいちゃんが心配するし」
「あ、ちょっ!!」
逃げるように教室を出て行く彼女を引き止めることも出来ずに。
ぽつんと、一人取り残される。
行き場を失った手を虚しく眺めて、思う。
これは
もしかして
いや
もしかしなくても
「・・・・・・・俺、男として最低なことさせた・・・・・?」
告白まがいのこと(というよりも告白そのもの?)をさせておいて、結局俺からは何も言っていない。
『彼も私を好きでいてくれる』と彼女は言った。
彼“も”と。
・・・・・・バレバレでしたか。
あぁそうじゃない。
俺は一度彼女に告白したじゃないか。
初めて彼女と話したあの日に。
でも結局返事も聞かず、聞こうともせず、一方的に想うばかりで何もしようとしなかった。
「・・・・・・・・・・どっちにしても最低じゃないか・・・・・・・」
あまりの己の不甲斐無さに机に突っ伏した。
ダメツナここに極まれり、である。
深々とため息を一つ漏らすと、不要の産物になった短冊が床に落ちた。
「結局書くことは見つからないし、京子ちゃんに恥かかせるし、踏んだり蹴ったりだよ」
何故あの時すぐに言葉を返せなかったんだろう。
いや、俺のこととは思わなかったからなんだけど。
せめて今からでも、いやいや一体どの面下げて返事しに行くつもりなんだよ俺?
「好きです」って言うのか?
それだけでは到底面目躍如とはならない。
ならばどうするか・・・・
「・・・・・そだ!」
そうだ。これを書けばいい。
決意表明としてこれ以上にふさわしい言葉はないに違いない。
大慌てでペンを紙に走らせる。
へたくそな、汚い字だ。
けれど重要なのは俺の気持ちだと言い聞かせて納得させる。
書き終えると彼女を追って大慌てで走り出した。
下駄箱を抜けて、校門を通り向け、彼女の家の方角へ駆ける。
早く、早く彼女のところに
「っ!京子ちゃんっ!!」
「・・・・ツナ君・・・・?」
驚いて振り返る彼女。
それはそうだ。
俺の家はこことは逆方向、いるはずのない人間がいたら誰でも驚くだろう。
特に先ほどのようなことがあったばかりならなおさら。
しかし俺はそんなことに注意を払っている余裕などなく、握り締めた短冊を彼女の手の中に押し付けた。
「・・・・あの・・・・・これ、俺の気持ちですっ!!」
「ツナ君の・・・気持ち・・・?」
ぱちくりと瞬きをしてから、彼女は紙面に目を落とす。
「ツナ君これじゃまるで―――」
言いかけて口を閉ざした。
ううん、と首を振りその場にしゃがみこみ、鞄からペンを取り出すと手渡した短冊に何かを書き足した。
「もう願いが叶っちゃったのに二つ目なんて欲張りすぎるかな?」
「・・・・・・何を書いたの?」
「私の名前」
ほら、といって俺の目の高さに掲げる。
そこにはおれ自身が書いたへたくそな字の一言と、初めから書かれていた俺の名前、それからその横に笹川京子の名前。
「ね、ツナ君。これ竹笹に下げにいこ?」
「・・・・・・!うん!!」
二人並んで歩き出す。
まだ恥ずかしくて口に出してはいえないけれど、この言葉に偽りなんてないから。
いつか二人で現実のものにするために。
だからこれは俺の決意表明ではなく、二人の決意表明。
君と願う
俺は君を
君は俺を
『―――幸せにします―――』
2009七夕企画第1弾としてツナ京でした。
気付いたら大層恥ずかしい代物に・・・・・。
勢い余ってプロポーズまがいとか、若いね!
二人が直接的に好きとか言ってないのは仕様です。
そーゆー言葉が恥ずかしくっていえないのが中学生。
若いって素敵!!
2009/07/01
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。