「ちょっと、これなんなの?」
「・・・・・・・・・」

そういって差し出したのは間違いなく自分が書いたものだった。
ただそれは、既にあるべきところに掛けたはずで、今ココにあるはずのないものでもあった。
つまり早い話がわざわざ外して持ってきたのだ。
人が恥を忍んで書いた願い事を。
しかし付け加えるならば私は己の名前など書いていない。
なのに彼は私のものだと見抜いて持ってきたのだ。

「・・・・・・なんで私のだと・・・・・」
「質問しているのは僕なんだけど?」
「いや、だから・・・・・・」

なんなのか知られたくないから名前を書かなかったのではないか。
乙女心を全く察してくれない人だ。
そもそも答えを強要される言われなんてない。
これは純然たる私のための願いなのだから。

「こ、答える必要は無いと思いますっ!」
「僕に歯向かうつもり?」
「大体、一度吊り下げた人の願い事を勝手に外すなんてプライバシーの侵害です!!」
「生意気なことを言うのはこの口かい?」
「やへへくらはひぃ〜〜っ!!!」

ほっぺたをぎゅーっと摘まんで、これでもかって位に伸ばされた。
年頃の女の子にこんなことをするなんて信じられない!

「へはいほほふふぁひ、はひをひはっへいいひゃはいへふは!」

きっと何を言ったかは伝わらなかっただろうけど、勢いで押し切って彼の手から短冊を奪い取り、逃げるように駆け出した。
瞬発力は私の方が上。
持久力ならヒバリさんの方が上。
長引けば必ず捕まる・・・・!
一刻も早く撒かなければ。
それに、明日はもう7月7日。
どうにかもう一度短冊を下げに行かなくちゃ!
元の場所じゃまたヒバリさんに外されかねないし、かといってココから一番近いところでは目に付きやすいかもしれない。
なら、木を隠すなら森の中。短冊を隠すなら短冊の中!!
頭の中でソコまでの道のりを描き、なおかつあえて最短にはならないように回り道を挟んで経路を組み立てる。
細い小道をいくつかすり抜け、5回ほど角を曲がったところでようやくヒバリさんの気配はなくなった。
それでも気を抜くことはせず、当初の予定通りの経路で目的地まで急いだ。

20分ほど走ってたどり着くと、周囲に人影がないことを確認する。
いくら短冊がいっぱいあるからって、現場を見られたら元も子もないもの・・・・!
きょろりキョロリ視線を巡らせ、そそくさと笹に手を伸ばす。
一本の枝には二枚の短冊が寄り添うように掛けられており、悪いと思いながらも紙面に目を走らせてしまう。

(・・・・・なんか、他のとは少し違うみたい・・・・・)

『〜出来ますように』とか『〜が欲しい』とかではなく書かれた文字は明らかに別の世界だった。

(掬いなん・・・・・とか、天上に・・・・・とか、・・・・・あ、これもしかして俳句?・・・ん?短歌?)

どっちがどっちだったか忘れたけれど、よくよく見れば五七五で書かれている。
もしかしたらこれは願い事じゃなくて、そういう教室の作品なのかもしれない。
でも、こういった詩には恋をテーマに詠んだものも多いと学校で習った。
私には詩の意味はよく分からないけれど、そんな想いが込められているのかと思うと何故だか恥ずかしくなってしまった。
直接的な表現でないからこそ、より一層想いの深さを垣間見る。

(私が神様だったら、きっとこんな奥ゆかしいものを選ぶわ)

それに引き換え、私のこの願いといったら・・・・。
恥ずかしくて目も当てられない。
しかし万に一つの可能性もある。
神様はきっと心が広いから、こんな私のちっぽけな願いも叶えてくれるかもしれない・・・・・そう思い込むことにする。
なけなしの羞恥心のため、目立つところには掛けたくない。
周囲からは見えにくいように少しだけ掻き分け、まだ短冊の掛かっていない枝を見繕った

「本当に君って単純だよね」
「!?亜qw背drftgyふじkぉp;@!?!?!?!??」

ところで背後から声を掛けられた。
相手はもちろん

「・・・・・・・・ひ・・・・・ヒバリさん・・・・・・」
「何してるの?」
「・・・・・え〜〜〜〜〜っ・・・・・・・・と・・・・・・・」
「な、に、を、し、て、い、る、の?」

これ以上ないってくらい明瞭な発音で、ご丁寧に一音一音奇麗に区切って、聞き間違いの余地なんてどこにもなかった。

「だから・・・・その・・・・短冊を下げに・・・・・・」
「それにしたってもう少し頭使ったらどうなの?」

頭使った結果がココだとは口が裂けても言えない・・・・。
だって、ココは彼が嫌いなボンゴレ・並盛地下基地。
彼の基地も隣接されているがまずこちらに立ち入ってくることはない。
それに加えてココに用意された竹笹は沢田さんの意向で、並盛地区の住民から集められた大規模なもの。
そん所そこらの笹飾りとはスケールが違っていた。
だから私はここを選んだのに・・・・・・。

「大方君は『この地下基地が嫌いだから入ってこないだろうし、来たところで木を隠すなら森の中だから大丈夫』とか考えたんだろうけど」

図星過ぎてぐうの音も出ません。

「僕自身がその考えに至らないとでも思ったの?」

私がその考えに至りませんでした。

「大体、君のその願い事。なんなの?バストが大き「きゃぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!?!?!?」

私の恥を声に出さなくてもいいじゃない!!
思わず、叫んだうえに飛びついてヒバリさんの口を塞いだ。
体幹に突進する勢いではあったけれど、流石に成人男性の身体、無様に体勢を崩すようなことはなかった。

「口に出さないでくださいぃぃぃ!!!私だって恥ずかしいんですからっっ!!」

きっと私の顔はゆでたこのように真っ赤になっているに違いない。
だから知られたくなかったのに!
よりにもよって一番知られたくない人に知られるなんて・・・・・!
こんなことを神様に願った罰なの?
それにしたってこんな羞恥プレイひどすぎるわ!

「願うにしたって、もう少し現実的なことを願うべきじゃない?」

嘆息交じりに彼は言う。
それは私には無理っていうこと?(そんなことわかってるから神頼みなんじゃない!)
考えたらちょっと泣きそうになってしまった。
だってしょうがないじゃない。
私と貴方じゃ10歳近く年が離れてて、やっと追いついたと思っても貴方はそれと同じだけ先に進んでしまっていて。
でもこの年の差を縮めることなんてそれこそ無理で。
なら、せめて見た目だけでも・・・・・・そう思うことは当たり前でしょう?
なのに願うことすら許してもらえないの?
じゃあ、私はどうしたらいいの?
少しでも貴方に近づきたいのに・・・・・。

考えれば考えただけ感情がこみ上げてきてしまい、私の瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。

「・・・・・・・本当にどうしようもない子だね・・・・・」
「・・・だって・・・・・だって・・・・・・」

ヒバリさんは私を抱き寄せて、まるで子供でもあやすかのようにポンポンと頭を撫でる。

「そんな君が好きな僕もどうしようもない男だけどね」
「・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・そのままでいいって言ってんの。察しなよ、それくらい・・・・・///」

ヒバリさんの顔が赤く染まっていたような気がしたけど、ぎゅって抱きしめられたせいでよく分からなかった。



その後、例の短冊はヒバリさんの手によって粉微塵に(語弊なく)切り裂かれた。
その上新たな願い事を書くように強制された(何故だろう?)

「現実的で、直接的で、俗物的な内容でね」

と、条件を上乗せして。
こんなわかりにくい表現で書いたらかみ殺すからね、なんて言って指し示したのは私が先ほど見た2枚の短歌(いや、俳句?)だった。
私はこんな表現の方がいい気がしたけど、

「解釈の仕方に困るじゃない。もし間違った風に捉えたら願い事を叶えられないでしょ」

なんて、わかるような良くわからないような答えを返された。
ともかく私は頭を捻って、ふと思いついた。
つまりこれは、そういうことなのではないだろうかって。
そんなわけで、私は現実的で直接的で俗物的な願い事をさらさらと短冊に書き込んだ。

「これでいいですか?」


この願いを、貴方は叶えてくれる?




君の願い





決してこのような答えを望んでいたわけではないのだが

「じゃぁ明日行くからそのつもりでね」
「はい!」

彼女が望むのなら、それでもいいような気がした。

『―――遊園地に行きたいな―――』









そんなこんなの2009七夕企画第6弾でございます。

なんかいつになくピンがはっちゃけてしまった気がします。

うちのピンはこんなおばかな子じゃなかったはずなのに・・・・!

それから、ヒバリさんが書いて欲しかった言葉は実は考えてません(爆)

皆様の脳内で好き勝手言わせてやってください。

むしろなんて言わせたいか教えてください。

きっとそれが次のネタになる・・・・・(おまっ!

2009/07/06





※こちらの背景は 空に咲く花/なつる 様
よりお借りしています。




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