こちらのお話は『あうのしゅ』の続きのお話となっております。
『あうのしゅ』を読んでいないと若干、というか大分解りにくい話です。

以上を踏まえた上で OK! という方はスクロールしてどうぞ!!

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1DKの部屋は相変わらず本やらなにやらで埋め尽くされていた。
わずかな隙間を縫って部屋の奥に。
彼の定位置と思われる部分だけがかろうじて床を覗かせていた。

「その辺に座ってくれ。あぁ、邪魔ならこの辺は適当にずらしてもらっても構わない。何か飲むか?ビールくらいなら有るが」
「お気になさらずに」

彼なりに気を使っていたのかもしれないが、それにしたって勧めるのがいきなりビールというのはどうなのだろう。
最近は私のことを酒豪扱いしているような気がしてならない。
・・・・・・まぁ・・・・・・他の人よりちょっと位お酒に強いという自負はあるけど・・・・・・

「それよりも、着替えをなさるんでしょう?わたし、やっぱり外出てましょうか?」
「気にするな。ついでにシャワーを浴びてくる」

そこで気にするなと言うのは・・・・・・果たして男性サイドの台詞として適切なのかどうか私は判断に迷った。
思わず目を伏せてしまう。
タタルは気にする様子も無く、タオルと着替えを手に風呂場へとさっさと姿を消してしまった。
程なく聞こえる水音。
一人部屋に残された私。
嫌がおうでも、意識させられる。

(・・・・・・って!私何考えてるのよ!?)

頭をよぎったあらぬ考えをブンブンと振り払う。

(別に、私たちはそんな関係じゃないし・・・・・・確かに、タタルさんも私のことが?って思ったことが無い訳じゃないけど実際確認したわけじゃないし、 私の勝手な想像かもしれないじゃない・・・・・・っ!)

どうにも、待つだけというのは手持ちぶたさで落ち着かない。
いらない想像までしてしまう。
人様の家で勝手に片づけるのはいかがなものかとも思ったが、私がくつろぐスペースを確保するためという大義名分をかざして周囲に散乱している本を一冊一冊積み上げることにした。
冗談抜きで座れるスペースが限られているのだ。
タタルと二人そろえば膝を付き合わせてもぎりぎり、といった程度でしかない。
流石に。
流石に、それはまずい。
部屋中に溢れているとはいっても、整然と並べさえすればもう少しスペースを確保できるだろう。
はじめに座った場所から少しずつ少しずつ床を露わにしていく。
積み上げては端に寄せ、積み上げては端に寄せ。
そんな行為を何度か繰り返せば、人二人がゆったり座れる程度の空間が何とか出来上がった。

「こんな、ものかしら?」

我ながらよくやったと思う。
足の踏み場もない部屋にこれだけのスペースを確保できるなんて。

「・・・・・・なんだ、わざわざ片づけまでしてくれたのか?悪いことをしたな・・・・・・」

背後で声がした。

「あ、タタルさん勝手にすみま・・・・・・っ、な!な!何で服着てないんですかっ!?」
「あらぬ誤解を招きそうだからそういう言い方は感心しないぞ?奈々君。台詞だけを聞けばまるで俺が全裸でいるかのようじゃないか」
「だ、だって・・・・・・っ!!」

今この場において、半裸も全裸も大した違いではないだろう。
思わず目を背けながらその辺りに転がっていたTシャツを突き出した。

「汗が引いたら着るよ」

本人は飄々と、気にしたそぶりも見せずに冷蔵庫からグラスと瓶ビールを取り出した。

「奈々君も飲むだろ?」
「あ・・・・・・はい。じゃぁ、ちょっとだけ・・・・・・」

ここでグラスを取ってしまうからダメなのよ。
完全にタタルさんにペースを奪われているわ。
しかし火照った体に、冷蔵庫でキンと冷やされたグラスが気持ちいい。
トクトク注がれるきめ細かい泡が、暑さを少しだけ和らげてくれた。

「ひとまず、誕生日おめでとう奈々君」

グラスをチンっと打ち鳴らし、軽やかな音を響かせた。
が、私は意味が分からず疑問符を浮かべる。

「え?」
「え、って。誕生日だろう?今日は君の。7月7日。七夕で」
「あ・・・・・・そう、です」

だから、私はここにいる。
誕生日だから。
七夕だから。
だから、私は逢いに来た。

「暑さにやられたのかい?まぁ、この気温じゃ無理もないだろうけど」
「いえ、そういうわけじゃぁ・・・・・・」

しっくりこなかった。
それが私がここにいる本当の理由なんだろうか?
自問自答する。

(そうじゃない)

誕生日だとか。
七夕だとか。
沙織に炊きつけられたとか。
そんなのは全部、全部後付けの理由だ。
私がここにいるのは。
もっと単純に。
極めてシンプルに。

ただ

「タタルさんに・・・・・・逢いたかったんです・・・・・・」
「奈々・・・くん?」
「逢いたかったから、逢いに来たんです。それが理由じゃ・・・・・・いけませんか?」

私は『逢えない』という呪を掛けられた織姫と牽牛じゃない。
年に一度の逢瀬しか認められない訳じゃない。
好きなときに逢ってはいけない?
逢いたかったは、理由にならない?

「職場に連絡しても休みだと言われて、家に電話しても通じなくて・・・・・・それでも、逢いたかったから」

だから、ここに来た。
だから、ここにいる。

「・・・・・・ご迷惑、でしたか・・・・・・?」
「・・・・・・いや」

そうだな・・・・・・、とタタルは少し思案するかのように視線を落とした。
ぶつぶつと、なにやら小さな声で呟いているが何と言っているかまでは聞き取れない。
時間にしたら30秒ほどだろうか。
つ、と顔をこちらに向けた。

「俺も、君に逢いたかった」

「・・・・・・っ!」
「君を探していたのは、たぶんそういうことだ。君が誕生日だから、なんて後付けの理由だな。 現に俺は未だかつて熊の誕生日に走り回った記憶なんて無い。・・・・・・何の理由もなく呼び出すのは悪いと思っていたが、嫌なら君は断るだろうし、まぁそれだけのことだ」
「タタルさん・・・・・・」
「人間の感情というものはひどくシンプルだと言うことを忘れていた。下手に理性やら知恵やらを身につけるから単純なことがわからなくなる。 余計なことばかり考えて、一番大切なところが見えなくなる。君は・・・・・・凄いな。俺が見落としていたところを当たり前のように拾い上げる」
「いえ・・・・・・そんな・・・・・・私は・・・・・・」

ただ、自分がしたいようにしただけ。
それだけだ。

それでも。

貴方が、同じ気持ちでいてくれたことが。

嬉しいと思わずにはいられなかった。




呆れるほどに単純な







奈々ちゃんおたおめ話「あうのしゅ」の続き。

よくよく考えたらこの話タタルがずっと半裸なんだがwww

文字ならわからないからいいよね!?

実はもう少しだけ続きます。

たぶん次で簡潔です。

てゆーか何これ?もしかして両思いになっちゃった系?

そうなの?どうなの?

書いてる本人ですらよくわかってないよ!(それもどうなんだろうな!)

もう少しおつき合いいただけたら幸いです。

2011/07/14





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




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