「おねぇちゃん!今日真っ直ぐ帰ってきたら許さないからね!?」

と、宣告されたのが今朝のこと。
理由は・・・・・・聞かなくてもわかっていたけれど、一応確認。

「・・・・・・どうして?」
「今日は!おねぇちゃんの誕生日でっす!甲斐性なしのタタルさんからお誘いが入っていないのは重々承知ですが、 だったらおねぇちゃんから誘いに行けばいいだけの話でしょ?折角の七夕なんだし、織姫様と彦星さま然り、ちゃーんとデートしてきなさい!!」

やっぱり・・・・・・と心の中で溜息をついたのはもはや一度や二度では無い。
何度こんなやりとりを繰り返すのだろう。
ちょっと辟易する。

「こんな突然で・・・・・・タタルさんが捕まるかもわからないし・・・・・・」

自分の趣味に没頭している人だ。
何か調べものをしてでもいたら、例え自宅にいたとしても電話すら繋がらない相手をどうやって捕まえればいいのか。

「もうね、この際向こうから誘ってこないことは大目に見ても、おねぇちゃんの誕生日を忘れて別の用事を入れている唐変木なら さっさと別の男を見つけるべきよ!タタルさん相手に受け身でいたってダメだってことはおねぇちゃんもわかってるんでしょ?」
「それは・・・・・・まぁ・・・・・・」
「ならいっそ、そろそろちゃ〜んと見定める時期なんじゃないの?いつまでも待つだけだとおねぇちゃん、おばぁちゃんになっちゃうよ!それでもいいの?」
「それは、流石に・・・・・・」

誇張しすぎ、と反論するつもりでいたのに、どうしてか言葉が後に付いてこなかった。
心のどこかで「確かに・・・・・・」と思ってしまう部分が有ったのかもしれない。


そんなやりとりがあったからだろうか。
午後一番の患者の波が過ぎて、ほんの一時息をつける時間。
後30分もせずに夕方の患者ラッシュが始まる。
最近は閉店ぎりぎりまで飛び込みの患者さんが多いから、連絡をつけるなら今の方がいいだろう。
一言断って休憩室に下がる。
タタルは携帯電話という現代社会の必須アイテムを持たない。
なので連絡先はタタルの勤め先、萬治漢方薬局だ。
頻繁にとはいえないものの、それなりに連絡をとったことはある場所。
店頭の電話を使わせてもらっても差し支えなかったかもしれないが(むしろ外嶋は率先して店頭の電話を使わせたがる) 何かと詮索されることは目に見えていたので自分の携帯からコールする。

Plulululu Pulululu───

数回のコールで繋がった。

『はい。萬治漢方薬局でございます』
「恐れ入ります。ホワイト薬局の棚旗と申しますが、タ・・・・・・いえ、桑原さんに繋いで頂けますか?」
『桑原は今日、公休ですよ』
「あっ・・・・・・そう、でしたか・・・・・・」
『何か急用でも?』
「いえ、少し伺いたいことがあっただけですから。お忙しいところ申し訳有りませんでした」

ふぅ、と。
通話を切ると同時に小さな吐息のような、溜息のような呼気を漏らした。
薬局で繋がらないなら自宅に居ることに賭けるしかない。
意を決してタタルの自宅電話の短縮ダイアルを呼び起こした。

だが、呼び出し音が延々と続くだけで一向に繋がる様子はなかった。

「・・・・・・どこかに出掛けているのかしら・・・・・・?」

自分の興味にはどこまでもアクティブなタタルのことだ。
調べものをしにどこかに出ている可能性は高い。
でも、もしかしたら・・・・・・

「電話に出るのを面倒くさがっているだけかも・・・・・・」

その可能性は大いにある。
どうせ、仕事終わりに何の予定も無い。
真っ直ぐ帰ったところで沙織に追い出されるのだし、ならば、時間つぶしがてらタタルの家まで行ってみようか?

なんだか年々思考が大胆になっている気がする。
周りが炊きつけるのにいろいろと影響を受けているのかもしれない。

そんなことを思いながら、携帯をバックに放り込みもうじき忙しくなるであろう店先に戻った。


□■□


夕方になっても7月の空は明るい。
まだ梅雨が明け切らぬ湿気をはらんだ空気に汗を滲ませながら、記憶の中の道を辿った。
数度訪れたことのあるタタルのマンション。
以前立ち寄ったのがいつだったかも思い出せないが、何とか道に迷うこともなく記憶の中の建物にたどり着いた。
時間はまだ18時半を回ったところだ。

(タタルさん・・・・・・いるかしら・・・・・・?)

ここにきて急に怖じ気付いたのか、不安になる。
エントランスを通り抜ける前にもう一度タタルの自宅にコールしてみた。
優に2分は鳴らしたが、繋がる様子はなかった。

(・・・・・・例え居たとしても、ここまで電話に出ないのだったらやっぱりお邪魔なんじゃないかしら・・・・・・)

(自宅にいる保証だってないんだし・・・・・・)

(・・・・・・やめて・・・・・・おこうかしら・・・・・・)

あの人相手に期待をするのが間違っていると知っている。
非難するわけではないが、そういう人なのだ。
大体、自分の誕生日に押し掛けるなんて普通に考えて非常識よ。
「お祝いして」と強請っているみたいじゃない。

(私たちは、ただの大学の先輩後輩で。たまたま、同じ地区で薬局をしているだけで。それ以上の関係なんて無いのに・・・・・・)

沙織の言葉を真に受けてこんなところまで来てしまったけれど、やっぱり私の行動は常識的に考えて逸脱しているわ。
逢うなら、今日じゃなくてもいいじゃない。
ちゃんと約束を取り付けて、それからでもいいじゃない。
今日が七夕だとか。
今日が誕生日だとか。
そんなこじつけの理由で逢わなくても、いいのよ。

むしろ、今の私は後ろめたい気持ちでいっぱいだった。
世間一般では「恋人たちの日」などと言われているが、私は以前にタタルさんから聞いてしまった。
七夕に隠された歴史の騙りを。
織姫と彦星に何重にも架せられた『逢えない』という呪を。
知ってしまって、どうして逢えるだろうか?

(帰ろう。このまま横浜まで帰って、駅ビルでウインドショッピングでもして、ちょっと贅沢にディナー取って、そして帰ろう。・・・・・・そうしよう)

踵を返す。

「──っ、奈々、くん!」
「・・・・・・え?・・・・・・タ、タルさん・・・・・・?」

背中に向き直ったその先。
視界に飛び込んだのはひょろりとした長身で、ボサボサ頭の男。
桑原崇、その人だった。
ぜぃぜぃと息を切らし、額には大粒の汗を滲ませていた。

「良かった・・・・・・入れ違いにならないで・・・・・・」
「入れ違い、って・・・・・・私のこと、探していたんですか?」
「あぁ。今日は君の誕生日だろう?君には何かと世話になっているからな。こんな日くらいはきちんとしておかないと」
「・・・・・・覚えて、いたんですか・・・・・・?」
「君のその名前で、忘れろという方が無茶な話だ」

あぁ、こんなやりとりを以前にもした気がする。

「とりあえず部屋に入るか?俺も着替えたいし」

流れる汗をよれたTシャツで拭った。
この人がこれだけ汗をかいているなんて、どれほど急いでいたのだろう?

「待ってもらうにもこれだけ湿気が高くては脾胃が侵犯されてしまう」
「お邪魔してもいいんですか?」
「いいも悪いも、そのために君は来たんじゃないのか?」

そうだ、と答えるのは何となくはばかられたがそれ以外に適当な理由も思い浮かばず、私は曖昧な笑みで「それじゃぁちょっとだけ」といって、 さっさと歩きだしたタタルの背中を追った。




あうのしゅ







奈々ちゃんはぴば!
タタル出番すくなっ!

時間内のでとりあえず歯切れ悪いけどここまで。

もう少し続きます。

そのうち書きます。

おまちください。

とりあえず二人は早く結婚したらいいと思う。

高田先生マジ頼みます!

2011/07/07





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




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