夏と言ったらお好み焼きだろjk A



こちらのお話は『夏と言ったらお好み焼きだろjk@』 の続きとなっております。 そちらを読んでいないと分かりにくいと思いますので、先に読まれることをお勧めします。 OKの方はスクロールでゴー! ↓↓↓










































なんで。
どうして。

疑問ばかりが頭を巡る。

此処は間違いなく俺の実家で。
あそこに立っているのは俺の母親・とも代だ。

「ほら、狡噛さん。早く中に入りましょう!」
「あ、あぁ・・・・・・」
「あらー。お兄さんもコウガミっていうの?奇遇ねぇ。おばさんも狡噛っていうのよ。この辺では珍しくないんだけど、お兄さんもこの辺の生まれなのかしら?」

クルリと背を向け、店の奥に入ってしまった。
多分あの人には逆光で俺の顔まで見えていなかっただろうから、俺だとは気づかなかったのだろう。
というよりも、それ以前の問題か。

(今更、息子がこんなところに現れるとは思ってもいないよな、普通・・・・・・)

最後に連絡を取ったのはいつだっただろう。
監視官の役職を取り上げられたその少し前だったか。
潜在犯として身柄を拘束されたことは知らされているはずだが、監視官に身を落としたことは果たして知っているのだろうか。
わからない。
考えたこともなかった。
潜在犯になった時点で外部との通信手段は隔絶されるから俺にはどうすることも出来なかった。
何より、当時俺は佐々山を殺った犯人を追及することだけに捕らわれていた。
正直母親のことを思い出すことすらなかった。

なんと親不孝なことか。

俺がまだ幼い頃に死んだ父親に代わって、女手一つで俺を育て上げた母親を思い返すこともしなかっただなんて。

(というか、一体どういうつもりなんだ常守は・・・・・・っ!)

まさかたまたま偶然行きつけになったのが俺の実家と言う訳ではあるまい。
確信犯だ。
絶対にそうだ。
こいつは、また要らぬお節介を焼いているんだ。
はぁ。
溜息が出た。

(潜在犯をその家族に引き合わせるなんて、上から叩かれても俺は知らないからな・・・・・・)

無理矢理に引っ張って帰ったって、常守は引くことをしないだろう。
もう、なるようになれだ。
俺は知らん!
腹を括って、以前よりも低くなったように感じる暖簾をチョイと持ち上げ店の中に足を踏み入れる。

(・・・・・・・・・変わらないな・・・・・・・・・)

グルリ店内を見回す。
最後の記憶にある姿と、それほど大きくは変わらなかったことに俺は少し安心した。
所々に飾ってある置物は変わっているようだが、その変化は微々たるもの。
まるであの頃のまま時間が止まってしまっているような錯覚を覚えた。

あぁ、あの柱の傷。
まだ残っていたのか。
父親が生きてた頃からの慣習で毎年刻んだ身長記録。
俺が家を出るまで続けていたが、公安局入りをしてからは流石にやらなくなったんだったな・・・・・・。

「狡噛さんは何食べます?」

懐かしい思い出に浸っていると、それを仕掛けた張本人はさっさと座敷に上がってメニューを見ていた。

「私は、ミックス玉と・・・・・・うーん、今日はトマト玉にしておこうかな?」
「あんた・・・・・・随分奇特なのを頼むんだな・・・・・・」

トマト玉は近所にあるトマト農家と提携して出している変わり種だったはず。
酸味の強いトマトを焼くことで甘さが引き立ち、ケチャッップベースで作る特製のソースに良く合うのだとか何とか、過去に語られたことがあったような。
残念ながら俺の食指をそそることはなく未だかつて食べたことはない。

「これが結構イケるんですって。狡噛さんも試してみません?」
「いや。俺は・・・・・・」
「何にするか決まったかーい?」

奥の厨房から響く声。
座敷にまで聞きに来ないのも昔のままかよ。
一人で切り盛りするには手が足りず、昔からこうやって叫んで注文のやりとりをするスタイルだった。
出来たボウルも近くの客から順繰りバトン方式で注文者に届けるという、考えてみたらあり得ない方法で。
客観的になって見てみたら、今まで潰れなかったことが不思議でならない。

「おばさーん!私、ミックス玉とトマト玉ぁ!」
「はいよー。お兄さんは何にするんだい」
「俺は、豚玉と・・・・・・卵玉で」
「あら・・・・・・お兄さん昔うちに来てくれたことある人かい?ごめんねぇ。今はもう卵玉やってないんだよ。懇意にしてた養鶏場のおっちゃんが潜在犯でしょっぴかれちゃってねぇ。あそこ以外の卵じゃ美味しくないってんでメニューから消したんだよ。悪いけど他のに・・・・・・・・・」

厨房から顔を出す。
困ったように笑う顔は、記憶にあるよりも皺が増えたように見えた。
そうだねぇ、この時期ならお勧めは・・・・・・と続けようとした言葉が途切れる。
ハッ、と一瞬見開かれた目が、確かに俺を映した。

数年ぶりに見る子供の顔を、親というのはいくつになっても認識できるものなのだろうか?
俺にはわからない。
わからないが、母親の視線は間違いなく俺に向いていて。
そこには多くの感情が入り乱れていた。

・・・・・・さて、俺はこれからどんな反応を返すべきなんだ?
赤の他人のフリをするべきか?
それとも素知らぬ顔してこの場をやり過ごすべきか?
はたまた自分から名乗り出てしまうべきなのか?
わからん。
常守は一体俺にどうさせたいんだ?
指針を求めて俺は常守に視線を送った。
視線に気付き、常守は思い出したように俺を母親に紹介する。
当事者的には、第三者を介して自分の母親に自分を紹介されるというのはこの上なく反応に困る状況だったと付け加えておく。

「あ、紹介しそびれてましたね。こちらは私の同僚、狡噛慎也さんです」
「狡噛、しん・・・・・・や・・・・・・?」
「はい」
「同僚って・・・・・・朱ちゃんは・・・・・・確か公安局に勤めているって・・・・・・」
「えぇ。きちんとご挨拶したことはなかったですね。では改めて。私は公安局刑事課所属、常守朱監視官です。狡噛執行官の、一応上司ってことになってます」
「執行、官・・・・・・。慎也・・・・・・執行官・・・・・・まさか・・・・・・っ!」

執行官がどういう身分であるかは、今更説明するまでもなく周知の事実。
潜在犯であるとされ、身柄を拘束された者たちの唯一許された社会活動。
ソレが執行官だ。

皆まで言わないまでも、流石にこれで解っただろう。
目の前の自分が誰なのか。

「あ、・・・・・・あの、そんな・・・・・・まさか・・・・・・」

解っても、眼前に突きつけられた事実を受け入れられるかは別問題の話。

「あの、ちょっと、ごめんなさい・・・・・・私ったらちょっと頭が混乱しちゃってるみたいで・・・・・・。本当、ごめんなさいね・・・・・・?」
「・・・・・・いえ」
「えっと、そうしたら朱ちゃんがミックスとトマト。そちらの・・・・・・慎也さんは豚と・・・・・・」
「餅チーズで」
「はい・・・・・・豚と餅チーズね。ハイ、確かに。じゃぁちょっと・・・・・・待っててね」

そそくさと去っていく背中を見送った。
完全にその姿が見えなくなったのを確認して、俺は二度目の溜息を吐く。

「あんた・・・・・・どういうつもりなんだ?」
「え?」
「知ってんだろ?此処が俺の実家だって。知ってて俺を連れてきた」
「えぇ。まぁ」
「それで?あんたは俺に何をさせたくってこんなところに連れてきたんだ?執行官には多少の自由は与えられていても、潜在犯で捕らわれの身であることには変わりない。家族に逢わせるのはほとんど御法度だって、あんただって知らない訳じゃないだろう?」

俺が処罰を受けるならソレは構わない。
だが、今回の場合対象となるのは執行官の家族と知りながら引き合わせた監視官の方だ。
俺なんかの為に常守が罰せられるのは割に合わない。

「・・・・・・狡噛さんは、逢いたくなかったんですか?」
「正直、思い出しもしなかったよ・・・・・・」

思い出したところでどうこうできる状態でもなかったしな。
人間、下手な希望は持たない方がいい。
余計に自分を、相手を苦しめるだけだ。

「俺のことも、忘れてくれていればいいと思っていた。そう思って俺も忘れていた」
「でも、とも代さんは狡噛さんのことを忘れたりなんかしてませんよ」
「・・・・・・だろうな・・・・・・」

此処には思い出が残り過ぎている。
俺という人間がいた痕跡が、至る所に刻まれている。
忘れるなんて無理だろう。
むしろ、忘れまいとして残しているのではないかと思うものまである。

「バカだな・・・・・・。こんな親不孝者、さっさと見限っちまえばいいものを」
「ソレが出来ないのが、きっと母親なんですよ」

物音だけが聞こえてくる厨房に目を向ける常守。

「前に宜野座さんから人事課のファイルを見せてもらって此処の住所を知りました。狡噛さんを理解する取っかかりにでもなればいいなって思って試しに来てみたんです。まさかお店をやってるなんて思いませんでしたけど」
「・・・・・・俺もまだ続いてるなんて思いもしなかったよこんな店」
「入るべきかどうか迷っていたら、とも代さんから声を掛けてくれました。そんなところにいないでこっちにおいで、冷やかしでもいいから入っていきな、って・・・・・・半ば強引に引っ張り込まれたんです。それで理解しましたよ。あ、この人狡噛さんの血縁者だって」
「どういう理解の仕方だ。どういう」
「だって、本当にそっくりだったんですよ。一直線で、周りが見えてないんじゃないかって思ってたら誰よりも周りが見えてて。人を見る洞察力も似ている気がします。あ、喋り出したら話が止まらないのも似てますよね」
「俺はそんなに喋っているか・・・・・・?」
「そうそう、そうやって自覚がないところも似てます。やっぱり親子なんですね。狡噛さんととも代さんは」

常守の言葉を素直に受け止められなかったのは、俺が潜在犯だからだ。
自分の母親を潜在犯と似ているなんて言われても反応に困る。

「・・・・・・ここに狡噛さんを連れて来たのは、私のお節介です」
「お節介だと思うならすんじゃねぇよ、バカ」
「馬鹿でもいいです」
「開き直るな」
「・・・・・・私、どうするべきかすごく悩みました。それで、両親に相談しました」
「潜在犯を母親に逢わせるべきかって?」
「狡噛さん、私そこまでバカじゃないですよ。そうじゃなくてですね?」

常守は顔を俯けた。

「私が潜在犯になっても逢ってくれるか、聞いたんです」

寂しそうに笑ったように見えたのは、果たして気のせいだろうか。

「それで?あんたの両親はなんて?」
「何も答えずに、電話切られちゃいました」

たしか、常守の両親は元々公安局入りに反対していた。
そんな場所で大切な一人娘が潜在犯になるだなんて、冗談でも聞きたくないだろう。
常守には悪いが、ソレが普通の反応だ。

「でも、それからちょっとしておばあちゃんから電話がありました」
「・・・・・・」
「両親から話を聞いたんでしょうね。何の前置きもなく
『おばぁちゃんが朱のことちゃーんと怒ってあげるから、きっと逢いに来るんだよ。待ってるからね』
って。それだけ言って、私の声なんか一言も聞かずにおばあちゃん電話切っちゃったんです」

俯けた顔が、少し綻んだ。
勝手なおばあちゃんでしょう?
そういう常守の顔は、何故だか嬉しそうで。

「私、とも代さんに初めてあった時、すごくおばあちゃんのことを思い出しました。考え方とか、接し方とか、そういうのがすごく似ているなって。そんなおばあちゃんが『待ってる』って言ってくれたから、きっととも代さんも狡噛さんのこと待っていると思ったんです」
「論理が飛躍しすぎだな」
「いいんです。私がそうしたかったんです。お節介だって解ってますもん」

でも───、と常守。
もぞりもぞり、足を掻き寄せ体をコンパクトにまとめる。

「どうせだったら・・・・・・喜んでもらえたら、嬉しいな・・・・・・って」

頬を赤く染めた常守は、どういうわけかいつもより少女じみていて。
あぁクソっ。
そんな顔見せるんじゃねぇって。

「バーカ。勝手なことしといて勝手な期待してんじゃねぇよ」

俺は赤くなった顔を隠すように俯けて、常守の頭をコツンと叩いた。



□■□



「っっなんばしよっとかぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

狡噛さんの拳が、優しく私の頭を叩いたかどうかと言うタイミングで銀色の何かが飛んでくる。
そして、狡噛さんの顔面にクリーンヒット。

「───っブホッ!?!?!?!?」
「こっ!狡噛さんっっ!?!?」
「アンタって子はっ!!嫁入り前の娘さんに手を挙げるなんて・・・・・・・・・ホント、アンタって子はっ!!」

声のする方に視線をやれば、そこに立っていたのはとも代さんで。
大きなお盆に乗せられた3つのボールと、狡噛さんの顔面にめり込んでいる物体が同じ物だと確認するまでもなく、とも代さんが投げた物に違いない。

「こ・・・・・・こうがみ、さん・・・・・・?」

ズルリと滑り落ちたボール。
顔面にべっとりと付着した、多分お好み焼きのタネ。
あぁ。
なんか。

すごく、嫌な予感。

「・・・・・・・・・っ!!!何しやがんだこのクソババァっっ!!!!」

店内に響く、罵倒。

「っ!?親に向かってなんて口の聞き方だいこのバカ息子っ!!」

罵倒に対しては、罵倒が返る。

「ウッセェよ!今時流行んねぇ店なんか続けてやがって!とっとと店畳めって言っただろうが!」
「店やめてどうやって生活してけってんだぃ!」
「テメェが仕送りしてやったのを送り直すのがワりぃんだろうが!」
「誰がアンタの安月給にすがって生活するってんだ。母親なめんじゃないよ!?」
「息子のスネかじって生きてろやクソババァっ!!!!」
「誰がクソババァだいアホ息子っっ!!潜在犯なんかになり腐ってからにっ!!」
「───っ!」
「───っっ!!」


私が仲裁の言葉を挟む間もなく、二人の言い争いは続いていく。

まるで私なんかいないように。
2人だけの世界が、そこには確かにあって。
そこには4年のブランクなんてどこにもなくて。

親子ってすごいなぁ、なんて、他人事のように思う。

異物のような私は、席を外すべきだろう。
私はゆっくりと席を立ち、店の外へと足を向ける。
音を立てぬよう、静かに静かに引き戸を閉める。

戸が閉まりきる、ほんの一瞬。

「───お父さんに、手ェ合わせてきなさい。・・・・・・・・・久しぶりなんだから」
「わぁってるよっ!」

そんな会話が聞こえてきた。
二人は本当に似たもの同士だ。
私なんかがお節介を焼かなくても、きっと二人はどうにかなったんだろうなって。
思ったら、嬉しいような、ちょっと切ないような気持ちになった。

私は車のドアを開ける。
座席に腰掛け、青く抜ける空を見上げた。
太陽が南中するまで、あと30分くらいだろうか。
私が居なくなったことに気づくまでどれくらいの時間が掛かるかな?

(長いといいな・・・・・・)

1時間でも、2時間でも。
何時間でも待っていたい気分だった。
長ければ長いほど、嬉しい気がした。

私は携帯端末を取り出す。
短縮番号から呼び出す、見慣れた数字の羅列。
10数回のコール音の後には優しく響くあの声が聞こえる。

「うん、おばぁちゃん。私。朱。お盆に帰れなくてごめんね。今日、どうしても外せない用事があって・・・・・・うん、うん。大丈夫。元気でやってるよ。来月の連休、休み代わって貰えそうなんだ。その時、そっち帰るから。・・・・・・うん。じゃぁ、元気でね。楽しみにしてる」


通信、終了。

8月16日。

本日も、晴天なり。









朱ちゃんと狡噛さんが狡噛さん実家・お好み焼き『とも代』(捏造)に行く話Aです。

頭の中がとも代一色すぎてヤバい。

そんなこんなで、どうして夏の話なのかといえば

慎也さんのお誕生日にとも代に逢わせてあげたかったからです。

夏までネタを温めていると、本編放送終わっちゃうから思いついた今書き殴ってみたって理由です。

お粗末様でした。

とも代愛してる。

2013/01/11






※こちらの背景は Sweety/Honey 様 よりお借りしています。




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