スパイシー・ピロートーク






目が覚める。
視界に飛び込んだ天井は見慣れないもので。
あぁ、そうだ。此処は我が家ではないのだ、と再認識。
体を起きあがらせようとすれば倦怠感が全身を襲った。
あらがう気力もなく、私は早々に降参した。

何とか動く手を持ち上げ、額に添える。
光量の少ない薄暗い部屋だが、それでも私には眩しかった。
額に添えた腕を瞼の上に移動させる。
視界から光が閉め出された。
同時に、外界の情報が遮断され意識が自分の中に向けられる。
思い出したくはないが、思い出す。
自分が何をしたのか。
此処で何が行われたのか。
ひとしきり思い出して、私は重い重い溜息と共に言葉を零ぼす。

「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・やっちゃった・・・・・・」
「セックスを、か?」
「・・・・・・狡噛さん、デリカシー無さ過ぎ・・・・・・」

いやまぁ、確かにそれはその通りなんだけどね?
独り言だったはずの言葉に返事を受け、私は瞼の上に置いた腕をずらす。
先ほどと視線の向きは僅かも変えていないが、今視界には狡噛さんの顔が映り込んでいた。
ベッド代わりのソファで横になっている私を狡噛さんが覗き込んでいるようだ。
その証拠に、狡噛さんの濡れた髪から私の顔へと滴がポトポト落ちてきている。

「冷たいです」
「あぁ、悪い。シャワー浴びて来た所でね」

ようやっと私の上から頭をどかし、肩に引っかけたタオルで無造作に髪を拭った。
私は腕をまた元の位置に戻して光を閉め出す。
ソファがギシ、と軋んだのは多分狡噛さんが寄りかかったせいだろう。

「お前はどうする?」

何を、とはわざわざ聞かない。
シャワーなのか食事なのか、はたまたそれ以外の何かなのかはわからないが、どうせ返答は全部同じなら聞くだけ無駄と言うもの。

「体がだるくて動けません」
「そうか。悪いな」
「悪いと思っていないなら、それ以上に無意味な言葉はありませんよ狡噛さん」
「お前が体力無さ過ぎんのが悪いんだよ」
「筋トレ変態の狡噛さんと同レベルを求められたって困ります」
「誰が変態だ、誰が」
「狡噛さん以外の誰が居るって言うんですか」
「お前なぁ・・・・・・」

もうちょっと何か言い返してくるかな、と少しだけ構えていたけれど、狡噛さんの反論はそれ以上続かなかった。
天井で回る換気扇の静かな音だけが響く。

10分か、15分か。
多分、それくらいの時間が経った頃。
体の気だるさは相変わらずだが、何とか体を動かせる位にまで回復した。
のそりのそりと緩慢な動作で、私はようやく体を起きあがらせた。

「・・・・・・・・・で?」

予想外に近くで聞こえた声に、私はこっそり驚いた。
黙っていた間、狡噛さんはずっとそこに居たらしい。
出来るだけ驚いたことを悟られないよう、私は努めて平静を装って問い返す。

「で、とは?」
「溜息つくほど後悔してるのか?」
「・・・・・・あぁ・・・・・・」

そのことか。
ソファの背もたれに背中を預け、天井を見上げる。
視界の端っこに狡噛さんが映った。
何とも言いがたい表情で私のことを見下ろしていた。

「まぁ・・・・・・後悔といいますか、自己嫌悪といいますか・・・・・・」

思い出したくはないが、思い出す。
自分が何をしたのか。
此処で何が行われたのか。
ひとしきり思い出して、私は再確認してしまった。

何も覚えてないくらい、記憶を飛ばしてしまっていることを。

「溺れ過ぎかなって、反省してるんですよ」

誰に、なんて答えてあげないけれど。



□■□



「シャワー、借りますね」

気だるさを堪えてバスルームへ。
途中であることに気づいて上半身だけ振り向かせる。

「狡噛さんとのことを後悔しているとでも思いましたか?」
「・・・・・・うるせぇよ」

視線を逸らされる。
後悔するくらいなら、初めから関係を持ったりしない。
行きずりで衝動的に、なんて展開だったわけでもなし。
まして、こうするのが初めてだったわけでもなし。
考えずとも、それくらいわかりそうなものだけれど。

「あ、図星なんですね」

指摘され、狡噛さんが苦虫を噛み潰したような表情をする。

「さっさと行け。襲うぞ」

狡噛さんは首に掛けていたタオルを投げつける。

「嘘。萎えてるくせに」
「・・・・・・お前、それ確信犯か・・・・・・」
「さぁ?」
「潜在犯を手玉に取るなんて、とんだメンタル美人だな?監視官殿」
「学習能力と言って下さい」
「そういうことは学ばなくていいんだよ。いつまでも恥ずかしがっとけ」

そう言うと、狡噛さんは下着一枚しか身につけていない私に自分のTシャツを投げて寄越した。



本日の教訓
『開き直られると、なんか、萎える』











事後な狡朱。

しかし甘くないどころかむしろ辛いくらいの二人。

事後ってだけでR指定な表現はありません。期待した人スミマセン。

2013/01/08






※こちらの背景は November Queen/槇冬虫 様 よりお借りしています。




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