ツナとお芋と太子と何か






いつもと同じように仕事部屋で書簡に囲まれながら作業をこなしている時のことだった。

「妹子!!大変だ妹子っ!!」

どたばたと五月蝿い足音を立ててこの部屋に走りこんできた青いジャージ姿の人間。
頭に載った紫色の冠が無ければそこらにいるただのおっさんと変わらない。
しかしてその人こそこの朝廷で絶大な力を持つ(はずの)男、聖徳太子その人である。

「何ですか太子。とうとうかけらしか残っていなかった脳みそが目玉から溶け出しましたか?」

どうせいつものサボり癖で遊んでいたんだろうと当たりがついたので僕は振り返ることも無く返事だけを返した。

「溶け出すかよ!ていうか、何で唐突にそんなグロいこと思いつくわけ!?」
「いや。太子ならあるいは・・・・と」
「こぉんの冠位五位の紅あずまの分際で・・・・私を誰だと思ってるんだよ!!」
「おっさん臭いおっさんでしょ」
「誰がおっさんだーっ!!私はヤングすぎるヤンヤングじゃぼけぇ〜い」
「じゃぁおっさんみたいなおっさんでいいですよ」
「結局おっさんじゃねーかこのヤロー」
「・・・もう何でもいいですよ。僕仕事してるんですから邪魔しないでください」

背後でわめきたてる太子に構うことなく筆を動かし続ける。
今日中に片付けなくてはならない仕事が山のように溜まっているのだ。
それもこれも太子が仕事をしないから。
その分のつけがこちらに回って手が離せないのだから自業自得といえるだろう。

「くっそ〜・・・・この芋やろーどんどんふてぶてしくなってやがる・・・・・」
「太子がちゃんと仕事してくれれば見分相応に敬って差し上げます」
「ちぇっ!仕事を頑張っている妹子に折角差し入れを持ってきたやったのに」
「僕に差し入れなんか持ってくる前に自分の仕事をしてください」

そうすればそんなことしなくても僕の方から逢いに行ってあげますから

とは口が裂けても絶対に言ってやらない。
僕のプライドの掛けて、そんなこと言うわけにいかない。
第一仕事をするのが当たり前なんだ。
当たり前のことをしただけで甘やかしていたら付け上がるじゃないか。

そんな僕の胸中の呟きを聞いていたかのようなタイミングで。

はぁ、と小さなため息が漏れ出るのを聞いた。

「・・・・・・・・妹子に喜んで欲しかったのに・・・・・」

消え入りそうな小さな小さな声。
振り返らずともわかる太子のしょんぼりとした表情。
がっくりと肩を落として泣きそうになっているのかも知れない。

(反則だろ・・・・・ここでそんな声出すのは・・・・)

まるで僕が悪者みたいじゃないか。

(あ〜〜〜〜っ!!!もうっ!!)

手にしていた筆と書簡を放り出し
頭をぐしゃぐしゃっと掻き回すと、気付かれないように小さくため息をつきながら初めて太子に振り返った。

(結局のところ、これが甘やかしてるってことなんだよな)

己の有言不実行っぷりに心折れそうになりながら、出来る限りそっけない態度で言葉をかける。
これが僕の精一杯の抵抗だった。

「・・・・・ま・・・・折角差し入れを持ってきてくれたんですし頂きますよ。
 ちょうどキリもいいですし、お茶にしましょうか」

僕の言葉にぱっ、と顔に花を咲かせた太子。
・・・・僕はこの笑顔にびっくりするくらいに弱いということを最近自覚した。

「っうむ!聖徳ナイスガイ太子がセレクトした差し入れがあるから出がらしなんて淹れるなよ」
「太子のは特別に10回ほど使用したティーパックで淹れて上げます。もちろん僕は新品を使いますけど」
「ひど男っ!!」
顔が綻ばないうちにそそくさと立ち上がり、お茶を淹れる為に一旦部屋を後にした。



数分後。

「はい。太子お茶ですよ」
「・・・・・・・」

どうやら先ほどの僕の言葉で疑っているようだ。

「ちゃんと普通に淹れてきましたよ」
「ほんとう?」
「本当です」

疑いの眼差しを向けながら、確かめるように一口口に含む。

「・・・・・いつものと違うね」
「太子が差し入れあるって言ってたから、最近もらった良い茶葉使ってみたんです」

まぁ太子のことだから品自体にはあんまり期待はしていないけど・・・。
何かのお菓子だったら御の字。
この人のことだ、おにぎりってこともありえる。
前例から言えば得体の知れない臭い食べ物の可能性もある。
例えばカニの食べられないところみたいな味のするなにか、とか。
そこまで食べ物に期待していないのにわざわざ良いお茶を淹れたのはつまりアレだ。
このお茶は太子が僕を喜ばせようとしてくれたお礼というわけだ。

「ふふふ・・・・・これを見たらきっと抱腹絶倒で『いもんぬ!!』とか叫びながら小躍りすること間違いないぞ」
「誰がそんな変な叫び声あげるか!」
「ほれ」
「・・・・・・・・?」

嬉々とした表情で太子が差し出してきたのは缶詰。

「缶・・・詰・・・・・ですか?」
「バカ芋め。よく見ろ。それはただの缶詰ではない」

言われて改めて手中の缶に視線を落とす。
・・・・・見まごうことなくシーチキンの缶詰だ。
いや。
それだけじゃない。
シーチキンと一緒に他の具材も入っているシリーズのようだ。
でも・・・・・・コレに入っているのって・・・・・

「すごいだろ!!ツナとお芋のコラボだぞ。
 妹子の大好物がいつでも楽しめる魅惑の一品だろ?」
「ツナも芋もそんなに好きじゃないって言ってんだろこの鳥頭がっっ!!」
「いもんぬ!?!?」

その後太子に出してやったお茶は没収してやった。
30回使ったティーパックで淹れた白湯同然のお茶を改めて出してやった。




余談だが

その日の夜。
一人になってからこっそり太子の持ってきてくれた缶詰を食べてみた。

「・・・・・・・・美味しいし・・・・・・」

次の日僕は太子のご機嫌取りのためにカレーを作って持っていくことになる。
もちろん
カレーの具材に例の缶詰を使って。









とあるCMで見たツナポテトの缶詰からの妄想。

日記で書いたものをサルベージしました。



妹子はどこまでも太子に甘ければいい。

そして甘くしすぎて後で自己嫌悪に陥るんだぜきっと。



ところでどうしてさかきが書くと妹太って言うより

妹→←太、なのになんとなく通じてない感じになるんだろう?

なんか一方的というかなんというか・・・。

むしろ妹→→→→→←太なのかも知れませんね(知るか)

男前妹子が書ける様になりたいです。

2009/06/03






※こちらの背景は 空に咲く花/なつる 様
よりお借りしています。




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