「とりっく おあ とりーと!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
見なかったことにしたいものが視界に飛び込んできたので少しばかり僕の思考回路は停止した。
ワンコに悪戯
「何だよその無反応はっ!」
「あ・・・・・・いえ・・・・・とうとうアホさ加減もココまで極まったか、と思ったら・・・・」
「アホってなんだアホって!泣く子も黙るかもしれない摂政だぞっ!」
「その摂政サマがなんて格好しているんですか」
「ん?可愛いだろ?ワンちゃん」
ちなみに。
太子の今の格好は犬だ。
犬耳をつけてこそいるのもも、色気もへったくれも何ひとつないもこもこの着ぐるみだった。
ただぶら下がっているだけの尻尾は愛らしく動くこともなく、首輪を着けている訳でもなく、パンチラヘソチラなどが期待できるデザインでもなく、その点に置いて(つまるところ太子の格好総てなのだが)僕の憤りはこれ以上ないと言うほどであった。
「折角のハロウィンなのでワンちゃんに化けてみたのだ☆」
「いろいろな意味で危ないので脱ぎなさい!」
何かのきっかけがあれば無理矢理にでもその着ぐるみを引き裂いてしまうかもしれない。
正直そうなってしまえば僕の理性がどこまで持つのか・・・・・・
そうなる前に自分から脱がせておく方がお互いのためだろう。
「脱ぎなさいって・・・・・お前は私の母ちゃんか・・・・?まぁいいや。これ暑かったし」
素直に僕の言葉に従いおもむろに着ぐるみを脱いだ。
着ぐるみの下はいつものジャージ。
なんて色気のない・・・・・・。
ジャージの上から着ぐるみなんて着ていたらそりゃ暑いだろうよ。
下はともかく(脱いだらノーパンだしな)、上はTシャツぐらいに留めて置くべきだろう。
どれだけの時間着ていたのかはわからないが熱中症で倒れなくてよかった・・・・・。
「あ、ねぇ妹子」
「なんですか?」
「ジャージもある意味コスプレかな?」
「なんのです?」
「ニート」
「謝りなさい!!全国のニートの方たちに今すぐ謝りなさい!!」
人が心配してやっているよそで何を考えてやがる!
ふざけんなよこの野郎!!
「くっそー・・・・・次から次に注文の多いイモコ店め・・・・・」
「日本名作文学まで汚すつもりか!いい加減にしろ!」
「ひぎゃんっっ!殴ることないだろっ!」
「あんたがつっこませる様な事言うからでしょう!」
僕だって別に好きでこんな風に過剰つっこみしているわけじゃぁない。
なんて胸中でつっこんでいると太子がずいっと手を差し出してくる。
この期に及んで何のつもりだこんちくしょう。
「なんですか」
「なんですもアンデスもあるか。とりっくおあとりーと。お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ☆バチコン」
補足までに付け足しておけば、最後のバチコンはどうやらウインクを表現したかったようだが、片方だけ目をつぶるなんて高等テクを太子ができるわけもなくただの瞬きにしかなっていなかった。
「こんなにも人の精神をすり減らさせておいてなおかつ物を貰おうとかどんな根性してんだよあんた!」
「うるさーいっ!摂政の私がウインクまでしてやってんだからなんか出さんかい!」
「ウインクなんて欠片もできてないじゃないですか」
「な!・・・なんだと!摂政のセクシーウインクが・・・・」
「あんたのはただの気合の入った瞬きですよ!」
「そんなわけあるかー!!バチコンって音しただろ!?」
「口で言っただけだろうが!あーもーうるさいな・・・・・・なんかあったかな・・・・」
持ち合わせがあったとは思えなかったが、とりあえず手荷物の中身を漁る。
お菓子なんて買ってないよ。
いもけんぴ作ろうと思って買っておいたサツマイモと、煮っ転がしにしようと思った里芋と、山掛けにしようと思った山芋と、カレーを作ろうと思って買っておいたジャガイモ・・・・うわ!なんだこれ。
何で僕の買い物芋ばっかりなんだよ!
僕いつからこんなに芋好きになったの!?
なんか策略に近いものを感じるよ。
えっと・・・・・ほかには・・・・・・
あ、これとか太子喜びそうかも。
「これならありました」
そういって太子の目の前に差し出す。
「ひゃっほーい!板チョコだいすきっ!!」
最初に言っておく。
僕は一言だってお菓子だなんて、ましてや板チョコだなんて言っていない。
『なんか出せ』といわれたから太子の喜びそうなものを出しただけだ。
なので僕にはこれっぽっちも非はないはずだ。
何にも確認もせずに頬張った太子が悪い。
「!?!?!?!??っう!?!?いもっ!こ、こ、こ、これっっっ!!!」
「カレールーですけど?」
「なんで今ココでこのタイミングでカレー出しちゃうんだよお前!」
「だって何でもいいから出せって言ったじゃないですか」
「言ったけど!私が欲しいのはお菓子だよ!」
「え〜だって太子カレー好きじゃないですか」
「好きだけど・・・・・・だからって・・・・・・」
「好きならお菓子じゃなくても有りかなって・・・・・逆に」
「逆にか・・・・」
「えぇ。それに僕チョコだなんて一言も言ってないですからね。かぶりついたときは流石に僕もぞっとしました」
「ぞっとする前に止めてよ・・・・・」
止める前にかぶりついたのはあんただろう、とつっこもうかと思ってやめた。
今日はもうつっこみすぎだ。
疲れた。
というかそろそろ僕もハロウィンを楽しもうかと思うんですけど、いいですよね?
「というわけで太子。Trick or treat!」
「え?」
「え?じゃないですよ。自分だけしておいてそれで終わりのつもりだったんですか?」
「・・・・だって私お菓子なんて・・・・・・あ、や・ん・ぐ・こ・ぉ・ん!なら・・・・」
「却下」
「三日前の食べかけのうぉんちゅー・・・・・・じゃなかった、饅頭」
「カビてんじゃねぇかふざけんな!」
「・・・・あとは・・・・・」
「ないならイタズラですね」
ニタリ
「・・・・・な・・・・・何するつもり・・・・?」
僕が笑うと、とたんに太子の顔がこわばった。
この後に何が起こるのか、足りない頭なりに察したのかもしれない。
でももう遅い。
「イタズラです」
「・・・・具体的には・・・・?」
「主に性的なイタズラです」
「性的なの!?」
「性的です」
「毒妹子!?」
じりじりとさりげなく僕との間に距離を取ろうとしていたみたいだけど、そんなもの関係ない。
力任せに引き寄せて噛み付くように唇を奪う。
「妹・・・・・や・・・・ぁ・・・・・・いもこっ・・・!!」
「ダメですよ太子?だって太子は僕にお菓子くれなかったじゃないですか」
「でも・・・・」
もう一度、口付けを落す。
「『お菓子くれなきゃイタズラするぞ』ですよね?ならば甘んじて受けてくださいね?」
これ以上ない笑顔で言う。
つられて太子も笑ったけれど、その笑顔が引きつっていたように見えたのは気のせいということにしておこう。
思いっきり胸に抱きしめてやれば「え?あ!?」と漏らす太子。
それを無視して、耳元に唇を寄せてそっと呟く。
「さぁ・・・・・イタズラの時間ですよ、太子?」
あぁ、最後に一言忠告しておきます。
これから僕たちは『お取り込み中』になるので皆さん邪魔しないでくださいね?
もし邪魔しようとしたら・・・・・・
後は言わなくても分かりますよね?
それでは、皆さん良い聖夜を・・・・・・・。
そんなこんなで妹太ハロウィンでした。
正直妹子に「性的な」って言わせたかっただけとか・・・・・まさか・・・・そんな・・・・・
ちょっと押せ押せ気味の妹子が書けたので当方としては大変満足です。
2009/10/31
※こちらの背景は
iz/iku 様
よりお借りしています。