家の玄関を開けたら、目の前に太子がいた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
問答無用で僕は今日と言うこの日を厄日だと決め込む。
朝からカレー臭いおっさんと顔を合わせないといけないなんて、厄日以外の何物でもない。
それは向こうも同じなようで、あからさまに顔をしかめてきやがった。
押しかけられたのはこっちなんだ。
なんで僕がそんな目で見られないといけないんだ。
「朝から気分悪いんで死んでください太子」
「朝一発目の挨拶がそれかよ!?」
「おはようございますそしてさようなら」
「部下が辛辣っ!!」
両手で顔を覆って泣いてしまう。
泣きたいのはこっちだ。バカ野郎。
「なんでこんな時間に太子が家の前にいるんですか」
「居ちゃ悪いのかよ!」
「悪いです」
「即答っ!?」
「大体今日は朝議がある日でしょう?それなのにこんなところに居るなんて、まさかサボるつもりで・・・」
「ぎぎぎぎぎくぅぅぅぅぅっっっ!?!?!?まさかそんなわけあるわけ無いだろう!」
あからさまな動揺の声。
どうやら指摘通りなのは火を見るよりも明らか。
この人もサボるならサボるでもう少し上手くさっぼってくれやしないだろうか?
中途半端にサボるから連れ戻されるわけで。
中途半端に目に付くところに居るから、その役が僕に回ってくるわけで。
徹底的にサボってくれれば馬子様も諦めるかもしれないのに。
徹底的に逃げてくれれば僕が探しに行かなくても済むのに。
徹底的に逃げてくれれば、諦めもつくのに。
なんて不器用なおっさんだろう。
結局のところこの人は誰かに構って欲しいだけなんだろう。
だから逃げ切れない。
だからサボりきれない。
そして僕も―――
「天下の聖徳太子ともあろう私が仕事をサボるとでも言うのかこの芋野郎!」
「サボってばっかりじゃないですか。その度にあんたを探すはめになる僕のことも考えてください」
「サボってない!これは・・・・・そう、無くした少年時代を探す旅なんだ!」
「カレー臭いだけのおっさんが何愁傷なセリフ吐いてるんですか。似合いもしない」
「おま・・・・どんだけ私をバカにすれば気が済むんだよ!?」
「太子が死んでくれるまで言い続けたいですね」
「ひどおっ!!」
ひとしきり詰ってから玄関を閉めて鍵を掛け、歩き出す。
太子の脇をすり抜け、数歩分進んでも後ろをついてくる気配が感じられないので仕方なく振り返った。
「ほら、置いていきますよ。どうせ朝廷に行ったらあんたを探すように言われるんですから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・仕事終わってからカレー作ってあげますから」
「・・・・・・・ほんとか・・・・・?」
「多分」
「多分てなんだ多分て!絶対だからなっ!?」
「あ〜・・・はいはい」
また貧乏くじを引くことを自ら選んでしまうのは、多分、惚れた弱みというやつ。
そんな自分を情けないとも思えないから症状は思った以上に深刻化しているのかもしれない。
こんなおっさんに惚れた段階で僕の大切な部分の何かはぶっ飛んでいるのだ。
何もかも、今更過ぎる。
「気が向いたら、おにぎりもつけてあげます」
「カレーおにぎり!!」
「それは自分で勝手にしてください」
カレーを握りこむ技術なんて持ち合わせていない。
カレーライスのおにぎり添えで勘弁してくれ。
「あぁ〜ぁ。帰ったら馬子さんに怒られるんだろうなぁ」
「なら朝議くらいまじめに顔出したらいいでしょう」
「かたっくるしいのは嫌いなの!」
「そうですか。でも結局こうして出る事になるんだからはじめっから諦めといてくれると僕が楽なんですけど?」
「・・・・・妹子に説教されるなんて朝から最悪な一日だ」
「それはこっちのセリフです。朝一で太子のお守りだなんて。今日一日ろくでもないに決まってる」
どうせ朝廷内では僕があんたの相手役なんだ。
朝一で玄関前まで来てもらわなくたって、僕は逃げないし、避けもしない。
黙って僕が行くまで待っていやがれ。
それでもって僕に対して想いを募らせていればいいんだ。
逢いにきてくれなくたって。
僕が逢いに行ってやるから。
むしろ、それまでどうにか待っていて欲しい。
僕にだって準備くらい必要で。
それはほんの一瞬で整うものじゃないんだから。
あんたは自由人で、自分の感情に素直に生きてるだけだからそんな必要が無いのかもしれないけれど。
逢うのだって、心の準備くらい要るってことをあんたは思い知った方がいい。
だからほら。
「もういっそこのこと死んでくれませんか、太子?」
この口から零れるのは辛辣な言葉ばかり。
本音なんて、そう簡単には口をついてはくれないんだから。
嗚呼嘘吐きよ何処へ行く
嘘吐き妹子と嘘吐き太子の妹→←太話。
お互い好きなんだけど素直になれないうだうだ期。
特に妹子はいろいろ自制する為に心の準備をしてからじゃないと太子に逢えないの。
準備が出来ていないと、自分を誤魔化すために辛辣度が50%増仕様になります。
2010/04/01
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。