「・・・・・すっごいねぇ・・・・・・」
「・・・・そうですね・・・・」

思わず声を潜めてしまうくらいに、燦然と輝く天の川は雄大だった。

「松尾はこれを見越してわざと道に迷ったフリをしたんだよ!松尾エライでしょ?エラ松尾?」
「ただ単に先に進みたくないと地団駄踏んで転がりまわってたら崖から落ちただけでしょう」
「そそそそそんなことないもん!!松尾はあの崖の下がココへの近道だって知ってたんだもん!」
「いい加減になさい!!」
「ひこぼしっっ!!」
「こんな素晴らしい星空の下で騒ぐものじゃありません」

殺意すら感じられる強さのチョップを見事にみぞおちに決めると、曽良は川べりに身を横たえた。
芭蕉がココの存在を見越していたかは別にして(そんな可能性は万に一つもないだろうが)、確かにこのような素晴らしい光景を見ずに通り去るにはもったいないほどの場所だった。
川のせせらぎ、木々のささやき、星の瞬き。
それら全てが互いを引き立てる絶妙のバランスを織り成している。
人の手がまったく加わっていない自然は、本能が自ずと最もよい方向に向かっていく。
奇跡だと、人はいう。
けれどそれは決して正しくはない。
自然はあるべき姿を知っているだけだ。
僕は知っている。
本当の奇跡とはどんなものかを。
人工物でありながら自然で、十七音でありながら全てで、断片でありながら世界を表現する、松尾芭蕉の俳句だ。
この世の美を集約させた世界こそ、奇跡。
しかし―――

「野宿でなければもっとよっかたんですけどね」
「グサーーーっ!ま、松尾だって野宿嫌だよ!!」
「芭蕉さんを見捨てていれば今頃は宿で美味しい御飯でも食べていたはずなんですが・・・」
「ひど男っ!師匠を見捨てないでよ!」
「まぁ、今回はこの星空に免じて許してやりますよ」
「うえぇぇぇぇ弟子男のくせに上から目線とか・・・・・」
「なんですか?」
「ひひぃん!なんでもないドゥ・・・・・・・?あれなんだろ・・・?」

情けない声をあげたかと思うと、芭蕉は水面に浮かぶ何かを目ざとく見つけた。
川べりから手を伸ばすとかろうじて指先が届く。
チョイ、チョイ、と手繰り寄せるとようやく掬い上げることが出来たようだ。

「あ、これ短冊だよ。曽良君」

上流から流れてきた紙片を手に曽良の隣に腰を下ろすと、ほらといって曽良にも見えるように顔の前に差し出す。
ちょうど俳句を書き留める紙と同じくらいの大きさで、控えめな文字で「これからも貴方の側にいたい」と書かれていた。

「らぶらぶだねぇ。松尾うらやましー」
「別にこれが両思いであるという保障はないでしょう」
「え〜そんなことないよ〜」
「“片思いでも”側に居続けたい、かも知れませんよ」

・・・・・・・例えば、僕がそうであるように。

「松尾にはわかるもん。この二人は付き合ってるよん」
「どこからそんな確信が・・・・・」
「“貴方の”ってなってるでしょ。これは直接本人に手渡したんじゃないかな。もし一方的なものなら“あの人の”になるはずだもの」
「・・・・・・・・・・」
「無意識に出てくる言葉って、割と的を射ているものだよ」
「・・・・・・・・・・」
「えへへ。今の松尾ちょっとかっこよかったでしょ?はんさ夫でしょ?」
「図に乗るなっ!!」
「おりひめっ!!」

本日二度目のチョップがみぞおちに決まった。

「・・・いくら松尾のボディーがマッスルでも立て続けに二回も食らったら心が折れそうだよ・・・・・」
「すみません。ちょっとイラっとしたもので」
「イラっとしたからって師匠に手を上げるなよぅ!」
「芭蕉さんはどうなんです?」
「ん?」
「何か願ったりしないんですか?」
「わたし?・・・・・・・そうだなぁ私なら・・・・・・」


この時間がいつまでも続けばいいと思う。
君との終わらない旅が。
君は優しくないし、怖いことばっかりしてくるけれど。
同じくらい楽しい時間を私にくれた。
それは一瞬で過ぎ去ってしまう夢のような時間だからいとおしいのだと知っていてもなお。
それは決して叶うわけもないと知りながら
それでも
許されるならば、この想いを言葉にしよう。

『―――掬いなん 落つる星屑 吾が想い――-』




君に願う




その言葉は無意識ですか?
それとも、意図的ですか?
まぁなんだっていい。
貴方の言葉が俳句として世界に放たれた瞬間、僕の世界は貴方で彩られることに変わりないのだから。
次は僕の言葉で貴方を彩ろう。

『―――天上に 紙さえおらず 催涙雨――-』









2009七夕企画第5弾は細道組でございます。

願いの代わりの一句呼んで終わっちゃったのは誤算だったかもしれない。

芭蕉「好きだよ」→曽良「知ってますけど?」って流れにしたかっただけなんだ(爆)

ちょっと独りよがりな句なので解説入れときます。

必要のない方は読み飛ばしてください。



『掬いなん〜』は芭蕉さんのイメージで。

自作なので言い回しとか雰囲気で選語したので『ありえねぇし!』とかのツッコミはなしの方向で。

「空から沢山降ってくる星屑を掬うことが出来たなら、私の願いは叶うだろうか」的な意味と

「この気持ちをどうか救ってほしい。星のようにとめどなく落ちているのは私の涙なんだよ」的な意味があります。

・・・・・とか書いたら間違いなく曽良君にDA☆N★ZA☆Iされると思うので書きません。



『天上に〜』は曽良君イメージ。

もちろんこれも自作。この時代に催涙雨の言葉はあったのだろうか?(知らん)

「織姫と彦星に、誰も願いごとを(短冊を用意)しなければそれでも二人は泣くのでしょうね」的な意味と

「天上にいる神は今逢瀬中で居ないはずなのに、この雨はどこから降っているのでしょう。ああココでしたか」的な意味。

・・・・・実は返歌かよ!!

センス無くてサーセン!

2009/07/05





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。




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