すっかり冬の様相を呈した帰り道。
歩道に敷き詰められた街路樹の葉っぱを踏みしめながら、晩ご飯は温かいのが食べたいなぁ、なんて考えていた時のこと。
「千鳥」
隣を歩くわんこ、ことソースケがいつものむっすりとしたヘの字口を開いて私を呼ぶ。
「何よ」
答えたらマフラーの隙間から白い息が空気中に舞った。
やっぱり寒い。
こんな日はこたつでお鍋が良い。
ぬくぬくに上からも下からも温まるのだ。
返事はしたものの、半分くらい相手にされていないことを悟ったのか、ソースケは「むぅ」と唸りそのまま一時黙り込む。
そして我慢が出来なくなったのか、唐突に切り出す。
「千鳥、『イイフウフノヒ』とは何のことだ?」
「はぁ!?なんであんたがいきなりそんなこと言い出すのよ」
日本の風習をろくすぽ理解していない戦争ボケ男の口から聞くとは思いもよらなかった単語に声が張りあがる。
こいつがそんな知識を知っているはずがない。
誰かの入れ知恵に決まっている。
「常盤に聞いた。何でも今日は世間一般では『イイフウフノヒ』だそうだ。詳しい内容については千鳥に聞いてくれと言われた」
「キョーコのやつぅぅっ!ソースケにいらん知識を与えるなっつーのっ!!」
予想通りというか、何というか。
というか、なんでそんな言葉を教えるのだ?
ソースケなんて絶対に言葉の意味すら解ってねーわよ?
「俺としてはこれは何かの暗号だと踏んでいるのだがいかんせん情報が少なすぎる。君が情報を有しているのであれば、情報の開示を要求する」
「・・・・・・・・・」
ほら、ね?
「・・・・・・言えないのか?・・・・・・っ!まさか誰かに脅迫をされているのか!?情報を売ったらその場で身体のどこかに仕込まれた超超小型プラスチック爆薬が起爆するのか!?もしくは家族知人の誰かを人質に取られ・・・・・・・・・、そうか、常盤が言っていたのはSOS信号だったんだな?そうとも気づかず俺は・・・・・・っ!」
「あーはいはい。全然そんなんじゃないから」
ソースケの思考があっちに行きかけていたので現実に引き戻す。
まったく、この男はすぐ爆弾だー!とか暗殺だー!とかに思考が走るんだから。
いい加減平和な日本に慣れろっての。
「まさか集団テロの俗称・・・・・・」
「ちげーわよ」
「新種のドラッグ名か何か・・・・・・」
「んなわけないでしょう」
むしろなんでそんな情報をあたしが持ってるのよ?
ごくごく一般庶民・・・・・・というにはちょっと無理があるけど、基本的に平和に日々を暮らしているうら若き十八歳なのよ?あたしは。
「良い夫婦の日っていうのはね・・・・・・」
普通に説明しようとして。
はた、と思考を止める。
何で私がそんなことをソースケに説明せにゃならんのか。
キョーコが「あたしに聞け」と言ったその意図は何か。
総合したら、まともに答えるのがバカバカしくなった。
なので適当なことを宣う。
「お鍋をふうふうしながら食べるのに良い時期になりましたね、っていうことの語呂合わせよ。それで十一月二十二日、いい・ふうふう。転じて今日はお鍋を食べなさいということ!」
「なるほど」
口から出任せの説明にソースケは手をポンと叩いて頷いた。
「解ったら買い出し付き合いなさい。今日は湯豆腐にするんだから!」
「うむ。了解した」
いいふうふうのひ
同じおこたで二人でふうふうしてたらもうお前らふうふでよくねぇ?っていうお話。
ふうふうするふうふ。
渾身のギャグのつもりである。なんと言うわかりにくさ。
2010/11/22
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。